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7話 策略

「葛西!」


「分かった」


 翡翠の呼びかけに応じて俺が目の前に現れた人型の魔物を鑑定する。


 ===================

 種族名:ゴブリンメイジ

 レベル:20

 スキル:『魔法強化Ⅰ』、『魔法防御Ⅰ』

 ===================


「レベルが20もある。さっきのゴブリンよりちょっと強いかも」


「んなこたぁ、分かるんだよッと!」


 俺が言い終わる前に鷺山が自身の持つ剣でゴブリンメイジを真っ二つにする。


「おい翡翠! いくらこいつに仕事させたいからってわざわざ鑑定させる必要ねえだろ!」


「今目の前に居る魔物がどれだけの強さかを把握できるというのは強みだよ亮太。鑑定する意味はある」


「とはいえ翡翠様達には必要ないと思いますけれどね」


 おいおい散々な言われようだな。確かに俺の『鑑定』じゃ種族名とレベル、それにスキルくらいしか分からないし今のところ戦闘に役立っていないけど。さっき分かったことだが、同じ魔物を倒すごとに鑑定で見える情報量は増えていく。ダンジョンの入り口付近で試しに兵士の剣を借りてただのゴブリンを一体狩ったところ、弱点の欄も追加されたのだ。


 しかし、俺が自分で手を下した相手しか反映されないらしくこれまた鷺山からゴミスキルと揶揄されるきっかけになったのだが。


「リズ。葛西は俺達の掛け替えのない仲間だ。あまり悪く言わないでくれ」


「あら? 私と葛西さんのどちらが大切なのでしょう?」


「それは……意地悪な質問だな」


 最近、リズワール王女は翡翠に対してガンガンにアプローチをかけている。白鳥さんが本命である翡翠も美女からの求愛に断りきることが出来ずあんな感じになることが多い。


「大丈夫。葛西君のスキルだっていつか強くなるよ」


「ありがとう、白鳥さん」


 だがこの能力がどれだけ使えないかということは使っている俺が一番身に染みて分かっている。弱点なんか知れたところで肝心の俺が弱いようじゃ意味がないからな。


 今のところスキルやアルムで何の恩恵も受けていない俺はただの男子高校生のスペックしかないからな。


「さっさと行こうぜ。他の部隊に追いつかれちまう」


「分かったよ」


 そう言って焦るように鷺山がダンジョンの奥へと奥へと進んでいく。しかし、気のせいだろうか? リズワール王女と鷺山の視線が一瞬あった時、二人の口角が上がったように見えたのは。もしかしてリズワール王女は翡翠がだめなら鷺山に乗り換えるつもりなのかもしれないな。そんなことを考えながら俺は鷺山達の後を追うのであった。



 ♢



「へへっ、中級ダンジョンにしちゃあ物足りねえなぁ。もう最下層かよ」


 20階層に足を踏み入れた時、鷺山がそう言う。俺からすれば過酷そのものだったこれまでの道のりも彼にとっては大したことのないお散歩だったらしい。まあ、周りの反応を見ればもしかすると鷺山がおかしいのではなくて俺がおかしいのかもしれないが。


「本当ですね。計画が……いえ何でもないです」


 一瞬何かを言いかけて辞めるリズワール王女。計画がって言ってなかったか? 翡翠たちを育てる計画という事だろうか?


「ボス部屋を探しましょう。ダンジョンボスを倒して入口へと無事転移できれば今日の訓練はクリアとなります」


「分かったよ、リズ」


「へへっ、俺らって最強だよなぁ。こんなお荷物抱えてんのに圧倒的独走だぜ? 他の部隊なんかまだ5階にいた魔物に苦戦してんじゃねえか?」


 鷺山がいきなり俺の肩をそう言ってくる。お荷物とはもちろんの事ながら俺の事であろう。


「鷺山。強いのは君じゃなくて翡翠だ。勘違いするな」


「チッ、いちいち癪に障る奴だぜ」


 黒木に言われ不機嫌になった鷺山は乱雑に俺から手を放し、ズンズンと前へ進んでいく。一度、黒木が舐めた口を利きすぎて鷺山がキレて喧嘩になったのだが、その時、鷺山は黒木に敗北した。それからというもの鷺山は黒木に対して少し大人しくなっていた。その分、俺に対する鬱憤晴らしは増幅したわけだが。


「ん? なんだあの黒い奴」


 鷺山の言葉に前方の方を見ると、そこには巨大な黒い狼の魔物がいた。


「おかしいですね。あのような魔物はこのダンジョンには居ないはずですが」


「葛西、頼んだ」


「分かった」


 翡翠に言われるがままその黒い狼に対して鑑定を用いる。そして俺はその表示された情報に目を見開く。


 ===================

 種族名:?

 レベル:1500

 スキル:?

 ===================


 種族名とスキルが?なのもそうだが、それよりもレベルの欄がおかしいことが分かる。今まではどれだけ高くても2桁のうちに収まっていた。しかし、こいつのレベルはそれを遥かに上回る1500だ。


「不味い! レベルが1500だ!」


「1500!? 亮太! すぐそこから離れろ!」


「お、おう。分かったぜ」


 流石に1500レベルと聞いて鷺山も怖気づいたのだろう。翡翠の言う事を大人しく聞いて鷺山がその狼から離れようとしたその瞬間、先程まで遠くに見えていたはずの狼の姿が鷺山の目の前にまで急接近していた。


「危ない!」


「ひ、ヒィッ」


 勢いよく薙ぎ払われた黒い狼の爪は間一髪鷺山のすぐ横の地面をえぐり取る。どうやら剣聖のスキルで何とか避けられたようだ。しかし、完全に腰を抜かしてしまっている鷺山はその場から動くことが出来ない。


「白鳥さん。僕が何とか奴の気を散らす。その内に亮太に回復魔法をかけてくれ」


「わ、分かった」


「葛西君は白鳥さんを援助してくれ。他の皆は僕と一緒に奴の気を逸らすんだ!」


 突如緊迫した状況に翡翠の冷静沈着な指示が飛ぶ。普段、人の命令に従うのを嫌がる黒木もこの時ばかりは文句も言わずに翡翠の指示に従う。


 俺も翡翠の指示に従って白鳥さんとともに鷺山の元へと走り寄る。


「白鳥さんは聖魔法で鷺山の疲れを取ってやってくれ俺は鷺山を背負う」


「分かった」


 未だに動けなくなっている鷺山を背負おうとすると、鷺山の手が俺を払う。


「てめえみてえなゴミの助けなんざ要らねえ」


 そう言うと剣を持って立ち上がり、俺の身体を蹴り飛ばしてくる。


「何するの鷺山君!」


「無能の分際でおこがましいことをしようとしたからだ」


「……サイテー。葛西君」


 鷺山に蹴り飛ばされた俺の下へ白鳥さんが駆け寄ってきて聖魔法を使ってくれる。内側から温められるようなポカポカとした感触とともに鷺山にけられた痛みが消え失せていく。


「ありがとう、白鳥さん」


「大丈夫だよ」


 まさかこんな窮地になっても俺に助けられるのが嫌とは。今に始まったことではないが、鷺山は余程俺のことが嫌いらしい。


「ブレイブソード!」


 金色に光る翡翠の剣が強大な一撃を黒い狼の魔物へと食らわせる。今までならばどんな魔物であろうと消し飛ばしてきたその一撃が直撃したその魔物は……無傷のままであった。


「くそっ、こいつ全然攻撃が効かない!」


「僕のアルムでも傷一つつかない! 翡翠! これは退くしかない」


 黒い狼の魔物が一度(ひとたび)その強靭な腕を振るえば、大地が削りとられる。あれが直撃すれば簡単に死ねるな。


「翡翠様こちらです! こちらから私の転移石で入り口に戻れます」


「分かった! みんな! リズのところへ走るんだ!」


「葛西君、私たちも行こ!」


「分かった!」


 翡翠の声を聴き、助かる見込みがあると俺と白鳥さんもリズの下へと走る。白鳥さんが俺に合わせて走ってくれているせいで皆よりも少し遅れてしまっている。こんなところでも俺は使えないのか、そんなことを思っていると前から翡翠の必死な声が聞こえてくる。


「危ない! 後ろだ!」


 見ると、先程の黒い狼がダンジョンの天井すれすれまで飛び上がり、こちらへと攻撃を繰り出そうとしている姿があった。不味い、この距離だと間に合わな、い?


 ガキンッと何かが俺の足を掴むような感触がする。石に躓いたとかそんなレベルではない。がっしりと掴まれたその何かを振り払うことはできずそのまま地面に倒れ伏す。


「葛西君!」


「美羽、止まるな。そいつはもう終わりだ」


 俺が躓いた瞬間、いつの間にかすぐ横に居た鷺山が止まりかけた白鳥さんを担いで走り出す。その瞬間に浮かべていたいやらしい笑みで俺はすべてを悟った。ああ、あいつはどこまでいっても屑なんだと。


「離して! 葛西君がまだ!」


 くそ、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ。鷺山の魔法で作られた土の枷を必死で取り除こうとするが、よほど俺に死んでほしいらしく中々外せない。そうこうする中で黒い狼の魔物の攻撃が天から降ってくる。それは俺のすぐ近くで地面と激突し直撃は免れる。しかし、その衝撃でダンジョンの床が崩れ始める。


「もう行きましょう」


「待って! まだ葛西君が!」


「ま、待ってくれ」


 攻撃の影響で足の枷が外れた俺は崩壊が始まっているダンジョンから必死にみんなの下へと走る。よし、これなら間に合う。そう思って必死に走っていくも、ふと違和感に気が付く。皆の姿が青白く光り輝いていたのだ。それはつまり俺がまだ近くに居ない状態で転移石を使ったという事。それが何を意味するか。


「なんで! 葛西君がまだ来てないのに!」


「あの方を待てば私達も巻き込まれてしまいます。仕方ありません」


 そう言ってこちらを嘲るように笑みを向けるリズワール王女の姿が見えたと思った次の瞬間にはみんなの姿がその場から消えていた。


「置いて、いかれた?」


 そう呟いた瞬間、俺の身体は床の崩壊に巻き込まれ、深い闇の中へと放り出されるのであった。

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