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32話 救国の英雄たち

 これはまだライトたちがダンジョンを攻略するより前の話だ。ルーランド王国の王都にて盛大なセレモニーが開かれていた。つい最近、この国へ来た『神の使い』と呼ばれるアストゥール王国の召喚された異世界人たちがルーランド王国の近くにあった魔族が治めていた一つの地方を攻め落としたからであった。


「キャー!! 勇者様~!!」


「おいおい、勇者様の横に居るあの方、何て名前なんだ! 滅茶苦茶綺麗だぞ!」


「なんでも聖女様らしい。ああ見えて神の使い様の中では一、二を争うほどの実力の持ち主らしいぞ」


「ほえ~、実力にあの美貌。恵まれていらっしゃるな~」


 国民から賛辞を受けながら神の使い達が王城へと入場していく。ある者はその賛辞に浮かれ羽目を外し、ある者はこれが宿命だと言わんばかりに余裕の笑みを浮かべて声援に応え、そしてある者は……。


「はあ、ここに来た時も思ったけどいつまでたっても慣れないね」


「美羽もそう思う?」


 王城に入り、早々にため息を吐くのは白鳥美羽(しらとりみう)花園凛(はなぞのりん)。アストゥール王国ではある程度尊敬の念を抱かれながらもやはり他の世界の人間として疎外感があったが、ひとたび国を出れば賛辞の嵐が止まない事やまないこと。


 美羽はなぜなのかと一度リズワール王女に聞いたところ、それまで魔王に対抗できる勢力が存在していなかったのが神の使いを召喚することによって対抗できるようになった。だから異世界から召喚されたということだけで魔王討伐の(かなめ)として期待されるのだという。


 翡翠や鷺山たちなど男子の多くはそれを素直に受け取っており、それどころか徐々に態度が尊大になりつつあるが対する美羽と凛からすればその期待がすべて重圧となってのしかかっているように思え、重荷になっているのだ。


「けど魔王を倒すまでの辛抱よ。魔王を倒せば帰ってくるかもしれないんでしょ? 愛しのラ・イ・ト君が♡」


「もう! すぐ変な言い方して」


「ごめんごめん、冗談だってば」


 魔王を倒せばライトが帰ってくる。これはリズワールに言われた言葉であった。伝説では魔王を倒せば倒したものが一人一つずつ願い事が叶うらしく、それでお願いをすればライトが帰ってくるかもしれないと言われた。


 所詮はリズワールが体よく美羽を動かすための嘘である可能性は高い。しかし、この世界に来て分からないことだらけの美羽からすればその本当かどうかわからないものにすら縋り付きたくなるのだ。


「おいおい美羽! ま~だ葛西の事なんて気にしてんのかぁ!? いい加減忘れて俺の女になっちまえよ」


 そう言って美羽のもとへと来るのはライトが奈落の底へと墜落した原因の一人である鷺山亮太(さぎやまりょうた)だ。いつも子分を二、三人連れ歩き、事あるごとに美羽へと絡んでくる。そして最悪なことに能力の強さも相まってその尊大さは日に日に増しているのだ。


「なに? 鷺山君には関係ないでしょ」


 そう言って冷たくあしらう美羽。以前まではただのクラスメートとして接していたが、今となっては鷺山に対して悪感情しかもっていない。こうしてあしらうのもこれが何度目か分からない。


「まあいいぜぇ。このあとの俺様の活躍でその気にさせてやっからよぉ。そん時には俺様の事を亮太、って呼んでもいいんだぜ」


 そう言って鷺山が離れていく。


「何よあいつ。日に日に気持ち悪くなってきたじゃん」


「うん」


 凛の強めの口調を美羽は敢えて否定しない。前までならそんなこと言っちゃダメだよと言っていた美羽でも擁護できない程に鷺山は傲慢になっていた。


 いや、鷺山だけではない。


「僕の使命は魔王を倒すことだ。民衆の期待に応えなくちゃいけないからね」


「流石は翡翠様です」


 遠くの方で翡翠とリズワールが話しているのが聞こえる。翡翠も最初は渋々、仕方なくといった様子で受けていた勇者の仕事もすっかり救世主として励むようになってしまっていた。


 そんな翡翠達の活躍を見ていつからか、非戦闘を志望していた者たちの中から続々と戦闘志望者が生まれていき、結局、クラスメート全員が戦闘員となっていた。


「ふんっ、鷺山め。前の戦いの結果が僕よりもちょっと良かったからって調子に乗りやがって」


 そうぶつぶつと言いながら王城の中に入ってくるのは美羽達と同じく第一部隊に属している黒木和夫だ。最初は鷺山よりも実力が上だったのが最近では徐々に負けるようになっていき、元の鞘に収まっている感じがある少年で、いつ見ても一人で過ごしている。


 黒木の中では実力のある一匹狼として振舞っているつもりだが、結局美羽達から見ればいつも戦略を無視して勝手な行動をとることが多いはみ出し者だ。


 美羽達の周りには前みたいに朗らかとした世間話をする者はいない。殺伐とした戦闘の話題を寧ろ喜んで武勇伝として語っている。そんなクラスメートたちの変貌に美羽はより一層寂しい思いが募っていく。


「葛西君、待っててね。私が絶対助けるんだから」


 そう呟いて美羽は立ち止まっていた足を動かし、凛と一緒にクラスメートたちの流れに入るのであった。

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