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勇者な私の愛しい旦那は元奴隷  作者: サンダース
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盲目の男







 盲目の男






 ・・・ああ・・・・寒い・・・・とても寒い・・・・・どうしてだろう。


 ・・・この・・・・血の気が引いていく感じ・・・・・俺は死んだのか。


 こんな・・・・くそみたいな人生ならそっちの方がよっぽどましか。


 だったらそれも悪くな・・・・・いや・・・いや、いやだいやだいやだ死にたくない死にたくない死にたくない!


「はっ!・・・・・・」


 夢か。


 このざらざらとした手触り、冷酷なまでにひんやりとした冷たさ。


 身に付けていてもいなくとも変わらないほどの薄い布切れのせいで、鉄の壁の無慈悲さを嫌というほど感じる。


「今日も・・・()・・・か・・・」


 俺はいつからここにいるのだろう。夢から覚めれば、いつもこの壁が隣にいる。


 この冷たさはいつになっても慣れることはない。けれど、壁と寄り添いあうことで今もまだ生きているということを感じ安堵する。


 そして今日もまたいつものように(まぶた)を開く。


 けれども、目を見開いてもそこには何もない。


 どんなに強く力を入れても変化はしない。


 俺に見えるのはたった一つ。




 ()の世界。




 色という色はなく、広がるのは闇だけ。


 どうしてなのか、いつからなのか、初めはそんなことを考えていた気がするが、もうなにも思うことはなくなった。気にしたところでどうにかなるわけでもないし、むしろ考えることで疲れるだけだから。


 それにこんなところにいたら、未来なんて想像するだけで辛くなるだけだ。


 ドンッ・・・トン・・・ドンッ・・・トン・・・ドンッ・・・トン・・。


 ああ、この音は。あいつがきたのか。


 だんだんと音が大きくなり、近づいてくるのがわかる。音は止み、首を上に向けた。


「ほらよ、今日の飯だ」


 野太い声。おそらく男、歩き方からしても腹も頬もぷっくと膨れ上がった太った男だ。目にしたことはないから確証は持てない。


「はあ〜あガキだから高く売れると思って買ったがよ、てめぇみてえな目が見えないやつなんて買うべきじゃなかったぜ。いいか?もしてめぇを買った以上の値段で売れなかったら・・・売る前に殺してやるからな」


 男はそう言い放ち、頭を拳で殴りつけた。


「金にならないくせに一丁前に首からぶら下げやがって、いい加減そのペンダントを寄越せっ・・・・!」

「ぐへっ・・・・」


 首に掛かったペンダントのチェーンを乱暴にひっぱり奪い取ろうとする。


「たっくなんで取れねえんだよ!どんな作りしてやがる!」


 以前にも、チェーンを叩き切ろうとしたり、焼き切ろうとしたりと、手段を尽くしたが切れるどころか傷一つ付ける事すらできなかった。


「ああムカつく、あの野郎。この街一番の奴隷商人である俺様にこんなできそこないを売りつけるとは今度あったらただじゃおかねぇ・・・」


 男は俺を売ったであろう者に愚痴を吐きながら帰っていく。


「痛い・・・な・・・・・・でも・・・まあいいか」


 もう乱暴されたことすらもどうでもいいと思ってしまっている俺は、すでに、人として終わっているだろうか。


 どうやら俺は鉄格子の中にいるらしい、俺の部屋だけ鍵は掛かっていない、他の収容者の扉に鍵をかける音がしたからたぶんそうだ。それに扉すらも常に開いている始末。いつにでも自らの手で囚われの身である奴隷から解放することが可能であるにもかかわらず、全くもってそうしようとすら思わないのはもはや人間としても末期なのだろう。


 あれ?そういえばいつから奴隷になったんだ・・・


 ぐぅー・・・


 ・・・・・そんなことより飯だ。


 ここで出される食事は残飯ばかりで、体感だが3回に1回はとても食べられるもんじゃないものが入っている。さて、今回はどうだか。


 くんくん・・・匂いは平気そうだな。


 少年はよれよれの手で皿に乗ったものを取り口に運んだ。


「・・・・・・なんか酸っぱいな・・・パンのトマト漬け?トマトのパン漬けか?もぐもぐっまぁ食べれなくはないな」


 空腹には勝てず、おでこにしわを作りながらも食した。


 それからほどなくして、何もない世界を目に、ただただぼっーとしていると再び奴隷商人の男が現れた。


 普段は食事の時の一回しかここには来ないのになにかあったのか?


「おい、レオルグ。おめぇこのクソガキの面倒をみろ。飯を食わせてんだから少しは役に立て」


 そう言い、男は俺の手に収まるサイズの子供を押しつけてきた。


「絶対に傷をつけるなよ、そいつはな、お前みたいなやつじゃ一生お目にかかれない人の一時的な預かり物だ。もしかすり傷一つでもつけたら・・・死ぬより怖い目に合わせてやる」


 男はそう言い残し去っていく。


 今度は殴られなかった。というか何故俺?他のやつもいるのに。

 というか自分で面倒を見れば良いのに、この街一番の奴隷商人と豪語していもそれすらも面倒なのかあの男は。


 まあいいか、何もやることはないんだからこいつのことを世話して時間でも潰そう。


 にしてもこいつ幾つなんだ?俺が抱けるくらいだからそこまで大きくはなさそうだが。


「お前今何歳だ?」

「・・・・・・」

「名前は?」

「・・・・・・」

「聞いてるのか?」

「・・・・・・」

「んんっ・・・・・」

「・・・ぅぅぅあう!」


 顔を近づけた瞬間もちっとしたやわっこい手のひらで叩かれる。


「いたっ・・・・何すんだよこの野郎」

「ぎゃひゃ・・・・うっひゃへっへっ」

「何が面白いんだよお前は・・・」

「うっひ・・・ひひひっひゃぅ」


 笑い方気持ち悪いし、はぁこの感じはまだ言葉もろくに話せない赤ん坊か。


「君は男の子かな・・・それとも女の子かな・・・」


 性別を確認しようと赤子を包む布を外し、手を下の方にまさぐる。


「んっしょ・・・ここらへんか・・・・」

「うーう・・・」

「えっ?なに?」

「うーうぅ」

「嫌なのか?」


 まだ確信が持てず、さらに手を突っ込もうとすると、


「うぅうぅぅぅ!」

「ああわかったわかったよ、もうしないから」


 言葉を発せない。鳴き声だけで理解するのがこんなにも難しいとはね、こんなとき君の顔でも見れたら少しは楽になったりするのかな。


「あぁう」


 赤ん坊はその手でぺちぺちと俺の頬に触れる。


「そうか・・・・お前には俺の顔が見えてるんだもんな・・・・いいよなお前は色付きだから」


 俺は今どんな表情をしているのだろう、自分の顔の表情の想像さえつかないなんて・・・・ほんと。


「お前の手は冷たいのに気持ちいいな」

「あぶっぅ」


 いちいち言葉にならない声で反応してくれるのが可愛く思え、その手を掴む。


「これは左の手だな・・・・もう片方は・・・・・・お前、もしかして」


 俺は自分の手を使い布の上から赤ん坊の身体に触れる。


 ・・・・・・そうか・・・・・。


「お前も苦労しているんだな・・・・ふっ」


 右手右足なしの奇形児。それがこの赤ん坊の身の上・・・。


 それを感じ取ったとき、なぜか嬉しかった。自分と同じような身の上に置かれた赤ん坊にどうしようもなく愛おしさを感じ、完全な人間でないその姿に俺は救われたような気持ちになった。


「ごめん不謹慎だよな、そんなことを思ってしまうだなんて」

「あぁうう」


 どうせ理解できるわけないからと口にだしたのに、この赤ん坊は俺に許しを与えるように俺の指をぎゅっとした。


「ありがとな・・・・・そうだ、お前に名前をつけよう。このまま『お前』と呼び続けるのもなんだか嫌だしな」


 とは言っても男か女かもわからないしな。この赤ん坊はガードが硬いしそれを知ることはできないよな。


「うーん・・・・」


 男とも女ともとれるような名前は・・・・・・・決めた。


「お前は俺と境遇も似ているし、俺の『レオルグ』という名前からとって『レグ』にしよう。どうだ、気に入ったか?」

「うぅ?」

「そうだ。レグだ」

「うう・・・・・うぅうぅ!」

「嬉しいのか・・・・そうなら俺も嬉しいよ」


 ああ・・・・レグ、レグは今どんな顔でいるんだ。


 レオルグの悩みを打ち消すようにレグは笑声を漏らす。


「きゃっきゃっ、うぅ!うぅ!」

「そうかよっぽどよかったか。そういえば俺の右腕には模様が彫られているんだが、どうやらレグの左腕にも俺と同じような模様がある、なんかレグと会ったのは運命のように感じるよ」


 レグの頬を指で摘む。ぷにぷにした手触りが心地よく、それだけで愛らしく思えてしまう。


 いつかレグとなら同じ景色を並んで見てもいい・・・・。


 それが叶うなら、俺はなんだって・・・・・・・・・・


 


 

 

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