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短編のお部屋

スーパーマン

作者: スタジオ めぐみ

嫌になるくらい暑い日が続いている。

セミの声がそれを掻き立てて止まない。

そして、さらに嫌になることを最近知った。

嗚呼、全てが嫌になる。

私の命は、あと3ヶ月くらいだろう。


私は医者だ。よくわかっている。残された時間はあと少しなのだと。

セミと勝負ができるくらいの寿命なのかと考えてみた。セミは1ヶ月以上生きると聞いたことがある。そういえば稀に2ヶ月生きるセミもいると前に生物の本で読んだ気がする。3ヶ月生きたらセミに勝てるな。

医者なのに、命の愛おしさを今知るとは情けないような、悲しいような気持ちだ。


「マナブ、病室を看護師ちゃんから聞いた、ここか。具合は大丈夫か?」

病室に来るなり、点滴をぶら下げたアキラが勢いよくやって来た。

私は今、自分の病院のベットにいる。つまり入院中ってことになる。仕事中に倒れて今に至る。

「あぁ、大丈夫だ。」

本当は大丈夫じゃないが、大丈夫としか言いようがない。多分、看護師から私のことを聞いたのだろう。

アキラは小学校から高校まで一緒だった1番仲が良かった友達だった。偶然再会するとは思わなかった。まさか、医者と患者という関係で再会するとは。

1週間前にアキラは私の勤める病院で手術をした。私が手術を担当した。確か、アキラはあと少しで退院だったような気がする。


「久々に会えたのにあまり喋れなかったからよ。」

「毎日喋ってたじゃないか?」

「体温とか体の調子とかの話だろ?あれは仕事だろ、もっと昔みたいなバカ話でもしたいなって思ってよ。」

アキラといると懐かしい気分になる。


私は両親が教師だった。母が理科の先生、父が数学の先生。だからなのか理科と数学は大好きだった。

昔から人と喋るのは苦手で、得意なことといえば、プラモデルを作ることぐらいだった。

ある日、家に遊びにきたアキラが言ったのだ。

「マナブは頭いいから、器用だし、お医者さんになったらいいよ!俺はスーパーマンになるんだ!メグレンジャーの仲間になるだ。」

当時、新星ブラックジャックというブラックジャックのリメイク版アニメ放送やヒーロー戦隊が人気だったからその影響だろう。将来なりたいものをその時の流行りで決めたくはないな。

あの時のことはぼんやりしていて、思い出せない。私がお医者さん?と驚いたが、とくになりたいものがあるわけではないので、困った気がする。あの時、私はなんて答えたんだろうか…

アキラに聞いてみたが、そんな小学校のころの話は忘れてしまったらしい。

高校の進路に迷ったときにも、アキラがまた言ってきた。

「マナブは、お医者さんがいいと思う。頭いいからさ。」

その頃は、月9のドラマで救命士が人を救うのが放送されている時だった。今思えば、アキラはいつもテレビの影響を受けているようなやつだったな。


医者という職業に興味はなかったが、特になりたいものはなく、頭の良さだけが取り柄だったので、なんとなく医大を受験し合格、そのまま流れるようにして医者になった。


医者になってからは、仕事にのめり込んだ。家族もいない、恋人もいない、とくに趣味もない男だ。仕事中心の人生を送ってきた。

仕事では難しい手術ほど、普段味わえることのない達成感があった。命というものの愛おしさはあまり感じず、自己満足のために仕事をしていたと思う。

命には寿命があり、必ず運命があると思っていた。

失った命は帰ってこない。それはよくわかっていた。大学在学中に両親が事故で亡くなった。交通事故で一瞬のことだったという。あまりにも突然でショックだったからか、その時のことはあまり思い出せない。だからなのか、人の死については予め神様が期間を決められているものだとふわふわとした、よくわからない考えが私を埋め尽くしていた。命の時間はもう最初から決められている。そう考えていると精神がとても安定した。

みんないつかは死と向き合うことになる。早いか、遅いかの違いだけ。


懐かしい話は終わり、お喋りにも間が空いた。何を話していいのか、わからない間があり、アキラは言った。

「マナブはすごいよな。まさかお医者さんになってるなんて、再会した時はびっくりしたんだからな。」

アキラは言葉を選んで、気を使い喋っているように感じた。

「すごくもなんともない。何も残らない人生だったよ。」

なぜか涙が流れた。頬をひと撫でするように。

「俺は、マナブに手術してもらってこうして生きている。マナブはスーパーマンだよ。たくさんの人を救ってきただろ。」

「自己満足のスーパーマンだよ。本当のスーパーマンにはほど遠いよ。」

ふっと思い出した。小学生のあの時を。

「マナブは頭いいから、器用だし、お医者さんになったらいいよ!俺はスーパーマンになるんだ!メグレンジャーの仲間になるだ。」

「えー、僕もメグレンジャーの仲間がいいな、スーパーマンがいい。なれるかな?」

「きっとなれる。頑張れば。」


私は医者じゃなくメグレンジャーのような、どんなピンチでも打ち勝つ無敵なスーパーマンになりたかった。

アキラと一緒に。


あと少しの命、誰かのために何かすることが許されるのなら。

本当のスーパーマンになれたら。

最期にスーパーマンになれたなら、

誰かのために。今できることはないだろうか。



数日後。

誰かのためにとドナー登録をしようと決めた。

だけど、病気のためドナー登録はできなかった。こんなに長く医者をやっていて、そんなことも知らなかった自分が情けない。

その後は誰かに自分の臓器をあげることができなくても、いいかと思えてきた。自分のしようとしたことに意味がある気がしたから。


お金は全て、寄付をした。

誰かの食べ物、誰かの水になって、栄養不足で亡くなる人が少しでも減るように。




私は最期にスーパーマンになれた夢をみた。

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