92.強さ
はぁ〜…、疲れたけどスッキリした。
さっきまでのモヤモヤが解消されたようだ。
訓練場は…、うん。見なかった事にしよう…。
イスタークとお互い肩を組みながら、観覧席の方へ上がっていく。
二人共ボロボロだったが、表情は晴れやかだ。
イスタークも、連日の書類仕事でストレスが溜まっていたんだろうな。
階段を登りきると、殿下達が出迎えてくれた。
レティは俺に抱きつき、無事で良かったと泣いていた。
抱きしめてくれるのは嬉しいが、あんまりキツくされるとさすがに痛い…。顔を顰めると、クロエがレティを注意してくれた。
「レティ…。私のお兄様にトドメを刺すつもりなの?」
その言葉にハッとして、謝りながら力を緩めてくれた。
でも離れる事なく、くっついたままでいてくれるので俺的にはとても嬉しい。
「イスト、ロイド!」
ミレン辺境伯がショウ王子を伴い、こちらに来る。
俺とイスタークは、一礼する。
「いや、今はそういうのはいい。それに、ショウ王子も今はただの俺の弟子だ」
そういう事ならと、俺とイスタークは礼を解く。
「ほらショウ!ロイドに言う事があるだろ?」
そう言ってミレン辺境伯がショウ王子の背中を叩く。
ショウ王子はそれに押し出される形で俺の前に立った。
俺は、ショウ王子の言葉をジッと待つ。
「こ、この度は試合に応じていただき、ありがとうございました…」
「いえ。ショウ王子にお怪我が無くて良かったです」
なんか、兄弟子に稽古をつけてもらった弟弟子みたいだな。
「でも!次は負けませんから!」
「……はい?」
悔しさいっぱいの顔をして、堂々と宣言してくる。
随分と熱い男に仕上がったな…。
母国に帰ったら驚かれるのではないか?
そんな事を思っていると、ミレン辺境伯がガハハと笑う。
「ロイド、懐かれたな!」
「ありがたくないです…」
俺はうんざりしたような顔をする。
「まぁ、そう言うな。婿殿」
そう言うとミレン辺境伯はショウ王子の方を向き、威儀を正す。
「ショウ王子。我が娘のスカーレットは強い者に嫁がせると決めています。今回の事で、貴方はここにいるロイドの足元にも及ばないとわかったでしょう」
「でも、もっと訓練をすれば…!!」
「無理です。スカーレットは諦めて下さい」
ミレン辺境伯が断言する。
これにはショウ王子も驚いている。
ミレン辺境伯なら、頑張れ!と言ってくれると思っていたのだろう。
「そんな…」
「それに、貴方は守りたいものが増えて、身動きがとれなくなる人だ。『好き』なものがたくさんあって、『愛』がない。本当に『愛』が欲しいのであれば、あの試合でもっと形振り構わず戦ったでしょう。ロイドの戦い方が良い例だ。そして、ロイドは強い。彼は肉体だけでなく、己の信念を曲げないという『強さ』も兼ね備えている。野次をとばされてもスタイルを変えませんでしたしね」
「……」
思い当たるふしがあるのか、ショウ王子は沈黙する。
「ロイドは己の守りたいものの為には、スカーレットさえも切り捨てると思いますよ」
「なっ!それは結婚相手として、相応しく無いのでは?家族や愛しい者を守るのが普通でしょう?」
まぁ、ショウ王子の言い分は最もだろう。
誤解が無いように補足しておくか…。
そう思い口を開こうとすると、レティが付け加える。
「ロイ様が切り捨てるのは、『私を守る事』です。お父様は言葉が足りませんわ!」
「あぁ!すまん、すまん」
俺は目を見開く。
まさか、レティがこんなにも正確に俺の考えを理解してくれていたとは…。
「それにショウ王子は私を甘く見過ぎです。私は守ってもらうより、己の足で隣に立ちたい!むしろ、背中を預けて欲しいです!愛しい人が守りたいと思うものを、私も一緒に守っていきたい。ショウ王子、自分の常識と他人の常識が同じだとは思わないでもらえますか?」
そう言ってレティが啖呵を切る。
あまりのカッコよさに、惚れ惚れしてしまった。
あぁ…、俺はなんて幸せなんだ。
自分の愛しい者が、誰よりも俺の事をわかってくれている…。
こんな事は、奇跡だと思う。
「だから、ショウ王子のご期待には添えませんわ。ショウ王子は、もっとショウ王子の事を理解してくれる方と一緒になった方が幸せだと思います」
レティがきっぱりとショウ王子に告げる。
その言葉を聞き、ショウ王子も失恋を自覚したようだった。
「レティは優しいから、ワンチャンスあると思ったんですが…。ロイド様、完敗です。試合も恋愛も!」
「元々、譲るつもりはありませんよ」
「そうでしたね…」
ショウ王子は、はにかんだように笑った。
考え方は人それぞれです。
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