7.王弟殿下①
訪れていただき、ありがとうございます!
「ちょっと待て!ロイド…、何だこれは!!」
「殿下、ちょっと静かにしてもらえませんか?別に怖い所に連れて行くワケじゃないんで」
「にしても、オカシイだろ!縄でぐるぐる巻きの上に、目隠しなんて!お前、最近ちょっと不敬がすぎないか?」
「あぁ、着きましたよ」
「おい!話を聞け!!」
俺はドアをノックする。
中から「どうぞ」と入室を促す声が聞こえたため、室内に入る。
中には、金髪で紫の瞳の中性的な顔立ちの青年と、長い黒髪に青い瞳の美女がいた。
サミュエル殿下と奥方のエリン様であろう。
エリン様は平民から嫁がれたが、なるほど素晴らしい外見をしている。
「失礼します。ロイド・ウィラー、アレクシス殿下をお連れしました」
そう言って、殿下の目隠しを外す。
殿下が眩しそうにしながら目を開け、どこに来たかを悟った瞬間に逃げ出そうとする。俺は強く縄を引っ張った。
「ぐぇっ!」
「あらあらロイド・ウィラー、約束通りね」
「ご所望でしたので」
「うふふ…。あたし、仕事の出来る男は好きよ」
そう言って、王弟であるサミュエル様が俺の頬を指でなぞった。
そう…、何を隠そうこの目の前にいる美女こそ王弟のサミュエル殿下である。
エリン様をチラリと見ると、うずくまって笑いを噛み殺している。
「エリン…。もう少し我慢出来なかったの?」
「だ、だって!ブフフ…。あま、あまりにも…様になり過ぎて…」
そう言って、堪えきれずに笑いだした。
何だこの空間は…。
アレクシス殿下を見ると観念したのか、死んだ魚のような目をしていた。
暫くして、元の格好に戻ったお二人に改めて対面する。
サミュエル様は、長い黒髪に青い瞳の長身の美形である。奥方のエリン様は、ダークブラウンの長い髪に神秘的な薄紫の瞳の美女である。先程はカツラを被っていたようだ。
エリン様は気品があるためとても平民とは思えないが、間違いなく平民である。今は見る影もないが、昔は肌も浅黒かったらしい。
お二人は芝居見物が趣味で、劇場や芝居小屋でばったり出くわす事が重なり、意気投合したそうだ。
そして、観るのも好きだが演じるのも好きという事らしい。
アレクシス殿下とエストワール殿下は、サミュエル様の着せ替え遊びに散々付き合わされた結果、アレクシス殿下の方は早々に離脱したそうだ。
また、サミュエル様は言い回しも芝居がかっていてクドい…。
そして、ちょくちょくこちらをおちょくってくる。
エストワール殿下が、効率と合理性を重視する人達には苦手な人種と言ったのはこういう事か…。
俺もさっそく苦手意識が芽生えてきた…。
「それで君たちがこの私を訪ねてきたのは、どういう内容だい?」
「いや、俺は巻き込まれ…ぐむむ…」
「単刀直入に言って、サミュエル様は王位についてどう考えていらっしゃいますか?」
俺はアレクシス殿下の口を手で塞ぎながら問いかける。
するとサミュエル様が徐ろに立ち上がる。
「あぁ…、あぁ!まさか、君はこの私が王位を狙うとでも?」
「いえ、どうお考えなのかを知りたいだけです」
舞台俳優ばりだな…。
スポットライトでも当たりそうだ。
「私は自分の甥であるアレクシスを愛している!例えどんな困難が待ち受けようとも、黄金色に輝く我が至宝を曇らせやしない!君に涙は似合わない…。嵐が来ようと雷が轟こうとも、私が君を守る盾となり、君の心を守る聖域となろう!!」
「いや、わけ分かんねぇし!動きウザいし!!」
「おや?アレクシス…。暫く見ないうちに口が悪くなったね。悪魔にでも取り憑かれたのかな?」
「は?」
殿下、ちょっと焦って視線が泳いだな。
まぁ悪魔に取り憑かれたわけではなく、前世を思い出しただけなんだがな…。
「サミュエル様、どちらかというとアレクシス殿下の素はこちらです。今までが猫を被っていらしただけです」
「ロイド!お前…」
「そうなのかい?では、アレクシスは素を出してくれるほど、私の事を好いてくれているという事だね?これは嬉しい!!今日のこの素晴らしい出来事は盛大に祝わなければ!!」
「ブラボーですわ!サム!素晴らしい…素晴らしいです!」
「ちょっと待てい!!」
混沌だな…。
俺は溜め息を一つ吐くと、収集のつかない三人に言葉をかける。
「では、サミュエル様はアレクシス殿下の政敵になられるという事でよろしいですね?」
一気に場が静まる。
そして、サミュエル様が呆れたように口を開いた。
「……どうしてそうなる?」
「それはサミュエル様が先程仰ったからです。『私が君を守る盾となり、君の心を守る聖域となろう』とね?これはアレクシス殿下が成熟されるまで、自身が安全な場所となり守る、という決意の表れなのでは?」
俺は真っ直ぐにサミュエル様を見据えた。
アレクシス殿下も視線を向ける。
長い沈黙の後、溜め息と共に口を開いたのはエリン様だった。
「サム。やはりウィラー宰相のご子息は侮れませんよ。本当の事を全部話してしまいなさい。サムも本当は洗いざらいお話するつもりだったのでしょう?」
「しかし…」
「これから先、私は貴方と離れるつもりはございません。死が二人を分かつまで、ずっとお側に居ります。信じてください!」
「エリン…」
「それに私は元・平民です!どんな困難も乗り越えますし、なんなら働いてサム一人くらい養えますよ?」
そう言って、エリン様は可愛らしく笑う。
サミュエル様の伴侶を見る目は確かだったのだろう。
「わかった…。アレクシス!ロイド!先程はすまなかった。私の想いをお前達に告げよう!」
「叔父上…」
「アレクシス、また叔父上と言ってくれるのか…。これはとても嬉しいな!」
そう言ってサミュエル様はニカッと笑う。
アレクシス殿下は恥ずかしいのかそっぽを向いてしまったが、顔が少し赤い。
殿下とサミュエル様は年が5歳しか違わない為、芝居狂いになる前までは、恐らく兄のように慕っていたのだろう。
「それでサミュエル様の想いとは?」
俺は続きを促す。
「あぁ、私は王位なんてものは狙っていない。アレクシスが即位したら継承権を返上して隠居しようと思っている」
しっかりとした口調で、サミュエル王弟殿下はそう言った。
シリアス回です。
ロイドの恋愛が置いていかれてる…(´;ω;`)
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