6.父からの課題
レティが俺に選んでくれたのは、カフスボタンとタイピンのセットだった。
しかも嬉しい事に、レティの瞳の色であるルビーがあしらわれている。だから恥ずかしそうにしていたんだな…。
この国では、自身の瞳の色のモノを送ることは最上の独占欲を意味する。レティも俺を独占したいと思っていてくれたという事か…。
自然と顔がニヤついてしまう。
プレゼントを見ながら自宅サロンにて晩酌を楽しんでいると、父がやって来た。
「おっ?ロイド。良いものを持っているじゃないか」
父はニヤニヤしながらプレゼントに手を伸ばそうとする。
「触らないでください。レティからのプレゼントなので」
そう言って俺は箱を隠すように手元に引き寄せた。
「ツれないなぁ〜」
「父上も母上からのプレゼントを勝手に触られたら怒るでしょう?」
「当たり前だろ」
凄まれた…。我が父ながらこの人は…。
「そういうことですよ。で、用件は?」
「ニクラスから受け取ったものについてだ」
「これですね。やはり王弟派が動き出したようですよ」
俺はニクラスから受け取った報告書を父に渡す。
父はペラペラと何枚かめくり、その顔に底意地悪そうな笑みを宿す。
「懲りない連中だ。まぁ、王太子の任命だけならまだしも、陛下の退位予定も発表されているからな」
「『アレクシス殿下ではまだ若すぎて経験が足りない!』との事みたいですよ」
「アレクシス殿下が成熟するまでは王弟が、という事か。その時がきたとしても、その地位を譲る気はないクセに…」
「まったくです」
「連中、陛下に退位を迫ったのが15歳のアレクシス殿下だと知ったら驚くだろうな」
「それこそ批難必至ですよ。面倒くさい」
「ハッハッハ!だろうな。私もお前も仕事に殺される」
「笑い事ではありませんよ、まったく…。王弟殿下も王位継承権をさっさと返上してほしい所ですね」
「まぁ、そう言うなロイド。王政を布いているこの国では、王族のスペアは重要だぞ?たとえ本人に王位を継ぐ気はなくてもだ」
父の言葉に引っかかりを覚える。
「父上の話だと、王弟殿下自身は王位を狙っていないのですか?」
「うん?そうだが。知らなかったのか?」
「はい。調査で上がってくる報告には、どれも虎視眈々と王位を狙うという話しか無かったので」
「お前…、それは調査不足だ。一度、王弟殿下と話をしてみろ。わかることもある筈だ」
「そうします。では、アレクシス殿下経由で面会を申し入れてみますよ」
「それは止めておけ。頼るならエストワール殿下だな」
「何故です?」
「アレクシス殿下は、王弟殿下のサミュエル様が苦手で逃げ回ってるからな。向こうは仲良くしたいようだが…」
「えっ!?そういえば、確かに殿下から王弟殿下の話はあまり聞かないかもしれません…。例の平民との結婚への小言しか言ってないような…」
俺は考え込んでしまう。
何故、今まで気にしなかったのだろう?と。
一応の政敵なのに…。
「まぁ、アレクシス殿下が意図的に話を挙げなかったのだろう。確かに、私もあの方は苦手だからな」
「父上もですか!いったい、どんな方なんですか?」
「うん、まぁ…良くも悪くもドラマチックな人だよ。会えば分かる。エストワール殿下はあのノリについていけるようだが」
「本当にどんな方なんだ…」
俺は大急ぎで王弟殿下の情報を集め、エストワール殿下に面会の申し入れをした。
万が一にもアレクシス殿下の弱点になってはいけないからだ。
「ロイドが私に用があるなんて珍しいな」
「アレクシス殿下が苦手とされる案件でしたので」
俺は端的に伝える。
「……叔父上の話か?」
「おや?エストワール殿下、察しがいいですね」
「お前は私を何だと思ってるんだ…。いや、あんな事をしでかした後だからそう思われても仕方がないか…」
エストワール殿下が言いよどむ。
最近まで平民あがりの男爵令嬢に骨抜きになり、婚約者でも無い女性にでっち上げの断罪をした人とは思えないな。
まぁ、こちらが本来の姿なんだろうが…。
「できれば面会を申し入れたいのですが」
「ロイドがか!?」
エストワール殿下に驚かれる。
そんなに驚くような事だろうか?
「はい。何か不都合でも?」
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、叔父上は少し変わった人で…」
「そういえば父も苦手だと言っていましたね」
「やっぱりな…。正直、お前達のような効率重視で合理的な人間が、叔父上とまともに話をできるとは思えないんだ」
「だからアレクシス殿下も…」
「あぁ。兄上はあの通り、素晴らしく頭がキレるだろう?」
いや、そこでうっとりしないでください。
エストワール殿下、ブラコンが発覚してから拍車がかかってるな…。
「まぁ、叔父上に会えないか聞いてみるよ。もしかしたら面会に条件を出されるかもしれないけど」
「条件ですか?」
「腐っても王弟だよ?ギブアンドテイクが成立しなければ、本来会う事すら出来ないからね」
「なるほど…。さすがに帝王学は履修されているという事ですね。わかりました、お願いします」
「ただ、その条件が難題なんだよなぁ…。変人だから」
「?」
というより、腐ってるとか変人とか、エストワール殿下も散々な言いようだな。
暫くしてエストワール殿下から連絡があった。
「黄金色に輝く至宝を連れてくれば面会に応じる」
という事だそうだ。
なるほどな…。
よし!
俺は、縄を手に殿下の執務室ヘ向かった。
シリーズ当初からいる王弟様、やっと出てきます(笑)
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