2.テンプレ主人公
「それとイスターク、クリストフ、ヨハンに、各家から伝言も預かっているぞ」
『えっ?』
心当たりがないという顔で三人が顔を見合わせる。
「『抱き潰すな!いい加減にしろ!!』との事だ。昔ほど純潔が尊ばれなくなったからといって、お前達は度が過ぎている。父親達の気持ちも少しは考えてみろ!ちなみにイスタークへの苦言はミレン辺境伯家の執事長からだからな。ガブリエラ嬢が午前中、使い物にならないから困っているとの事だ」
父が三人に雷を落とす。
『すみません。若さを持て余しているので』
しかし、三人はいけしゃあしゃあとそんなことを言ってのけた。父が呆れている。
「ロイドまでとは言わないが、せめて殿下くらいの節度は持ってくれ」
「そうだぞ。ロイドまでとは言わないが、俺の鋼の理性を見習ってほしい!」
父と殿下が口々にイスターク達を諌める。
…何故だろう。すごく馬鹿にされているような気がする。
「殿下は本当に気を付けてください!王家は昔と変わらず純潔を尊びますからね!!」
「はいはい、分かってますよ。でも宰相、ロイドには何か言伝無いの?」
俺?俺は節度を守った交際をしているから大丈夫だろ。
しかし、父が言いにくそうにこちらを見る。
えっ?何かあるの?
「あ~、ロイド…。ミレン辺境伯夫妻からの言伝だ。『もっとアグレッシブに行け!レティは箱入りだが、向上心と体力はある!』との事だ。まぁ、頑張れ…」
俺は恥ずかしさで顔を両手で覆ってしまった…。
そんなこと、婚約者の両親から言われたくなかった…。
しかも実の父経由で…。
「まぁ、辺境伯領はいつ戦火に巻き込まれるかわからないから、子孫を残すことには寛容なんッスよね~」
と、クリストフがフォローしてくれても俺の羞恥心は消えなかった。
「あぁそれと、殿下の即位式の為に同盟国から数名、こちらに滞在する事になった。歓待を頼むぞ」
急に重要案件ぶち込んできたな…。
俺は羞恥心を無理矢理押しこめ、仕事の話をする。
「どちらの誰がいらっしゃるんですか?」
「滞在する賓客は5名だ。まずはティーダ国のレオ王子だな。こちらはアビゲイル嬢の里帰りも兼ねているから、キマリエ公爵家が対応する。彼はノータッチで良さそうだ。次にシュブラン皇国のフェイロン皇子、オルフェル連邦国からはルドルフ王子とエイダ王女、ダイス王国からはショウ王子が来る。エイダ王女はクロエ達が対応する事になるから、殿下とロイド達には残りの3名をお願いしたい」
「わかりました」
「ロイド、昨日までの動向がわかる資料はいるかね?」
「頂いておきます。こちらの資料と突き合わせてみますので」
「えっ!?宰相とロイド、他国の王族の情報も握ってるの!」
「もちろんですが」
「側近として当然ですよ。彼等が昨日の夜に何を食べたかまで分かります」
殿下達が驚いた顔をしている。
近隣国について徹底的に調べるのは常識だと思っていたが…。
父と俺は不思議そうな顔をした。
「これだからウィラー公爵家、怖い…」
と言われてしまった。…解せぬ。
父が執務室を出た後、殿下は王家の影の一人である、ユリアを呼び出した。
「でユリア、この来賓の中のどいつがギャルゲー主人公なんだ?」
殿下がユリアに訊く。
このユリアという女も殿下と同様に前世の記憶があるそうだ。
二人の話を聞く限り、この世界は乙女ゲームというものらしく、ユリアはそのヒロインだったらしい。
エストワール第二王子たちを誑かしていたが、アレクシス殿下に断罪され、その知識を有効利用するために新しい役割を与えられている。
「殺されるより、『推し』にこき使われる方がマシ!」と言って、馬車馬のように働いている変わり者だ。
瞳の色は変えられないが、髪色をピンクブロンドからピンクブラウンに変え、名前も変えている。
化粧の仕方も以前と違うため、ほとんど別人のようだ。
女の化粧のスゴさを知った出来事である。
「ダイス王国のショウ王子です。フェイロン皇子とルドルフ王子は親友ポジションでした。確か、今回の滞在で仲良くなってましたね。でも私がプレイしたのは体験版でしたから、正規版とどこまで違いがあるかわかりませんよ?」
「不確定要素が多い中で、それだけでも分かればいいか…。ユリア、イベントやシナリオを書き出してロイドに渡しておいてくれ」
「はい!…はぁ〜、推しの顔が良い…」
「何か言ったか?」
「いえ、何でもありません!!失礼します」
そう言って彼女は執務室から出て行った。
「ダイス王国のショウ王子か…。どんなヤツなんだ?」
「特に目立った功績はないようです。能力はダイス王室でも平凡中の平凡。第三王子という事もあり、将来は臣籍降下する予定みたいです。ただ、何故か人を惹きつける魅力があるようで、彼の家族は彼を溺愛しています。ちなみに、その事に本人は気付いていませんが…。今回の滞在も、兄弟達のように目立った功績を残したいから立候補したようです。我がミストラルとの同盟が深まれば、ダイス王国にとってもプラスになりますからね」
殿下以下、みんなが唖然としている。
「どうしました?」
「えっ?見てたのか?」
「ロイドさん、何者なんですか?」
「ロイドに知らない事なんてないんじゃないッスか?」
「俺の側近が優秀すぎる…」
何を言ってるのか…。俺は溜め息を一つ吐いた。
「俺が優秀なのは認めますが、全て公爵家の諜報部隊からの情報ですよ。見てきたわけではないです。…あぁ、父上からの資料にショウ王子の姿絵がありますね。さすが宰相…、国の諜報機関も使えますからね」
「ホントに怖いよ…ウィラー公爵家…」
俺は、肩を落としている殿下に姿絵を渡す。
それを一斉にみんなが覗き込んだ。
「これはまた…」
「本当に王子ですか?」
「嘘でしょ…」
みんな思い思いに感想を述べる。
そんな中、アレクシス殿下だけが姿絵を見たまま固まっていた。
「…どうしました?殿下」
問いかけた所、殿下が徐ろに口を開く。
「コレは間違いなく要注意人物だ…」
「どういう事ですか?」
「この…前髪で目が隠れてよくわからない容姿、猫背、もっさりした雰囲気、覇気の無い様子……間違い無い。ギャルゲー主人公のテンプレだ!!」
「は?」
「言われてみれば、ロイドの報告内容もよくある話じゃないか!」
「殿下!テンプレって何スか?」
「ありきたり、雛形という意味だよ。ギャルゲーにおいて、大抵の主人公はこの容姿に報告通りの性格をしている事が多いんだ!クソっ…。四季恋3が始まってしまう…」
俺達が注意を払わなければならない人物が確定した。
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