ジェイド・ヴェルンの幸福3
まだ続きます。
いやいやいや…。
何を言っているんだ、コイツら。
年の差、12歳だぞ?
アナスタシア王女殿下には、同じ年頃の高位令息がうじゃうじゃいるからな。
俺は悟られないようにジト目で彼らを見てしまった。
アイツらの兄達は優秀なのに…。
スペアとしての役割を早々に見限られたからこそ、この騎士科に在席しているんだろうな。
そんな思いを抱いてしまった。
俺たちはお互いに緊張をほぐす為、少し雑談を行い、いざアナスタシア王女殿下に拝謁する心構えが各々出来た所で先程の騎士が戻って来た。
「では、あの扉から奥に向かうように」
そう言って指し示したのは、精緻な細工が施されてる例の扉だった。確かによく見ると、王国と王族の紋章が彫られている。
こんなヒントにも気づかなかったとは、やはり俺も浮足立っていたようだ。
奥の間に通された俺たちは、一段高い位置に据えられた立派な椅子の前に整列させられた。
息を殺してじっと待つ。
すると、俺たちの入って来た扉とは反対の位置にある扉から、近衛騎士と侍女と一緒にアナスタシア王女殿下が現れた。
俺たちは、起立の姿勢からしゃがんで片膝立ちの体勢になり、頭を垂れて声がかかるのを待つ。
アナスタシア・ドリッテ・ミストラル王女殿下。
サラサラストレートの金髪が少し見えたが、この国の王族はもれなく美形のため、きっと美少女なのだろうな。
まだ公に姿を見せていない王女様を、いち早く見ることが出来るなんてラッキーくらいに思っていると、少女ながら威厳のある涼やかな声が聞こえた。
「みなさん。顔を上げてください」
指示に従い、顔を上げる。
そこには、金色の髪で澄んだ青い目をした美少女が居た。
その瞳は陛下ととてもよく似ている。
5歳とは思えぬ威厳を放ちながら、アナスタシア王女殿下は俺たちを見回し、微笑まれた。
さながら天使の微笑みに、17歳の俺たちは揃いも揃って心臓を撃ち抜かれた。
……はっ!
いやいやいや、相手5歳だから!
正気を取り戻した俺は、何とか精神を立て直した。
おそらくコレは、幼子に対する父性だろうと自分の気持ちを鎮める。
あんな美少女に微笑まれたら、誰だって庇護欲をそそられる。
いわば、反射だ。
だからこの煩い心臓の動きは正常な動きであって、決してトキメキなどではない!
俺が己の心と戦っていると、アナスタシア王女殿下が再び話し出す。
「ゆうしゅうな騎士科のみなさまにお会いできて、わたくしは幸せです。きょうは、おにい様たちがいらっしゃらないため、わたくしが代わりとなりました。」
たどたどしくも、立派な挨拶をしようとしている姿が大変可愛らしい。王族にこのような気持ちを抱くのは不敬だが、かわいいものはかわいいので仕方ない。
今この場にいる誰もが、「頑張れ!」と応援する目を殿下に向けていた。
アナスタシア王女殿下は、決められた挨拶を終えると、なんと俺たち一人一人と対話を始められた。
あまりにも気安い態度に一瞬戸惑ったが、こちらを気遣い、話を聞こうとする姿勢を見せる殿下に、好感しか抱かなかった。
そんな穏やかな雰囲気の中、残念ながら至福の時間は終わりを迎える。第一師団長が「殿下、そろそろ…」と、声をかけたのだ。
あぁ、もう少しお話していたかった…。
名残惜しいが仕方ない。
今回は実習で王城に来ているのだ。気を引き締めなければ。
そう思い、気持ちも新たに前を向くと、そこには先程とは打って変わり、厳しい目をした殿下がいらっしゃった。
えっ?別人?!!
誰もがそう思っただろう。
呆気にとられていると、鋭い声が俺たちを突き刺す。
「マーカス公爵子息!ヘイス侯爵子息!」
「は、はい!」
「はいっ!!」
いきなり名前を呼ばれ、2人は慌てて返事をする。
だが、名前を呼ばれた事が嬉しかったのか、その顔にはたっぷりと優越感が浮かんでいる。
「おふたりはこのまま帰っていただいてけっこうです。ご苦労さまでした」
アナスタシア殿下の発言に、マーカス公爵子息の先程の優越感は霧散し、一気に顔色が悪くなる。ヘイス侯爵子息に至っては、何を言われたのかわからないという顔をしていた。
「な、何故です!アナスタシア殿下!!なぜ我々に帰れなどと!!」
マーカス公爵子息が必死に訴える。が、その訴えは殿下の言葉に容易く退けられた。
「わたくし、真面目に仕事に取り組まない人にまもってもらいたくないもの。だってそうでしょう?命のキケンをいつも感じていなければならないなんて…、ねぇ?」
「そんな!まだ、働きぶりすら見せていないのに!」
マーカス公爵子息は叫ぶ。
しかし、殿下は怯まない。
「先程の対話からでも、ごうまんな態度が見え隠れしてましたよ?」
その目線はマーカス公爵子息を射抜く。
まぁ確かに、不真面目な人間が最後まで自分を守ってくれる可能性は低い。彼は次男だが、公爵子息という高位貴族だ。
いつもは守られている立場の為、殿下の言葉は痛い程理解したのだろう。何も反論出来ないまま、俯いていた。ヘイス侯爵子息も同様だった。
しかし、5歳でも流石は王族。
この短時間でここまで把握されるとは…。
「あなたもです、ジェイド・ヴェルン」
えっ!??
俺は大きく目を見開く。
「わたくし、しんの無い方は好みませんの」
ちなみにまだ、マナさんはINしてません。
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