10.魅惑の味
フェイロン皇子達と別れて、アレクシス殿下の執務室に入る。
扉が閉まった途端、アレクシス殿下が吠えた…。
「を“い!俺の寿命縮めるつもりか!!」
チッ…、小心者が。
「いやいや、心の声聞こえてるからね」
「それは失礼しました。もう少し、どっしり構えて頂いた方がいいですよ」
「言い直さなくいいから!」
「私のあの態度にも順応するとは…。フェイロン皇子は中々に王者の風格ですね」
「俺は、他国の皇子にあんな態度をとるお前が信じられないよ…」
アレクシス殿下が肩を落とす。
「15歳で自分の父親に退位を求める殿下には言われたくありませんね」
「その黒歴史は掘り返さないでくれ」
そんな話をしていると、籠を持ったユリアとイスターク達がやって来る。
「お疲れ様です、殿下。フェイロン皇子はどうでしたか?」
クリストフが聞く。
殿下はユリアに視線を送ったため、ユリアが答える。
「フェイロン皇子は転生者ではありませんね。ロイド様との会話にもおかしな点はありませんでした」
「連れてきたお供の中にいる、という事は無いのか?」
イスタークが質問を投げかける。それは俺も思った。
「それも無いですね。実は、部屋に用意したお菓子の中に、前世の記憶を基に作ったお菓子を混ぜておいたんです。彼等は物珍しそうにしているだけで、懐かしそうにしている人はいませんでした」
「そんなお菓子如きでわかるの?」
ヨハンが聞く。
「わかると思うぞ。あの魅惑の菓子は…。俺も食べたい」
そう言って、殿下が遠い目をする。
「そう仰ると思いまして、こちらにご用意させて頂きました」
ユリアは、手に持っていた籠をテーブルに置き、掛けられていたナフキンを取る。
中から出てきたのは、黄色くて薄い何かだった。
「これは?」
俺は気になってユリア聞く。
「コレは『ポテチ』です!しかもコンソメ味!」
「なっ!コンソメ味だと…。悪魔の食べ物じゃないか!」
殿下が驚愕している。
「コンソメって、スープのコンソメだよね?何で悪魔?」
ヨハンが不思議そうにしている。
俺も理解が追いつかない。
「まずは食べてみてください」
みんなが一斉に手を伸ばす。
パリッと小気味いい食感と、口の中に広がる塩気と旨味。
初めての味わいに、手が止まらない…。
なんだコレは!美味すぎる!
…ただ、そう思っていたのは俺だけでは無かった。
イスタークは無言で黙々と、クリストフは「うまい〜」と言いながら食べている。
ヨハンは…、アレは商用化について考えているな…。
放っておこう。
殿下は、「懐かしい」と言いながら噛みしめている。
みんな、この『ポテチ』と言うものに夢中だ。
「異世界でも通じるとは…。ポテチのコンソメ味、恐るべし」
とユリアが呟いている。
「ユリア。これの原材料は何なんだ?」
「じゃが芋ですよ、ロイド様。それを薄くスライスして油で揚げて、コンソメ味を付けただけです」
「えっ?でもこの世界に顆粒のコンソメって無いよね?」
殿下が聞く。
「はい。なので自作しました」
「えっ!ユリアは料理が得意なの?」
「いえ、得意というか…。私、転生前は農学部の学生だったんです。そこで食品化学…、いわゆる調味料類などですね、それを研究していました」
「なるほど」
「なので材料さえあれば、だいたい自作できますよ」
「じゃあ、味噌とか醤油とかも!?」
「出来なくは無いと思いますが、問題は材料です。それにそれらは、シュブラン皇国に既に有りそうですよ」
「…知らなかった」
「まぁ、殿下は伝統的なミストラル料理しか出されませんから。恐らく、王宮料理人も味噌・醤油の使用方法はわからないでしょう。あっ!でも…」
「でも?」
「王太后様のお付きの方なら作れるのかも…」
「確かに…。今度、聞いてみるしかないか。めっちゃ味噌汁飲みたい」
殿下とユリアがぶつぶつと何かを相談している。
「殿下?」
「あぁ、すまん。前世の祖国の料理話で盛り上がってしまった」
「そうですか」
「殿下の前世には、こんなに画期的なものがたくさんあるんですか!!」
ヨハンがキラキラした顔をしている。が、瞳の中に金が見える…。どうやら商人スイッチがONになっているようだ。
この先どうなるかが予想されるため、殿下も若干引いている。
「俺はそんなに詳しくないから、ユリアに聞くといいよ」
あっ、逃げたな…。
ユリアを見ると青い顔をしている。
これは、ヨハンが満足するまで情報を絞り取られるな…。
何日で解放されることやら…。
ヨハンは金になる事に関しては、容赦が無い。
ヨハンが満足するまで何日間も拘束される。
それこそ、騎士団の尋問のようだと聞く。
つかまった人間には、ご愁傷さまと言うしかない。
「ヨハン。ユリアは王家の影の仕事や、侍女としてフェイロン皇子のお世話があるから、ホドホドにしてやってくれ」
「わかりました。ホドホドですね」
わかったのか、わかってないのか微妙な返事をする。
この件は、ヨハンの自制心に頑張ってもらおう。
「そうだ、イスターク。ミレン辺境伯を早めにこちらに呼ぶ事はできるか?」
「元々、即位式に出席予定だから可能だと思うが…。どうかしたのか?」
「フェイロン皇子は辺境伯の大ファンなんだそうだ」
「そうなのか?では、恩を売るために…」
「あぁ、そうだ。話が早くて助かる」
「では、すぐにこちらには来るように知らせを送ろう」
「すまないな、助かるよ。いつ来るかわかったら教えてくれ」
「了解した。しかし、会って何をするつもりだ?サインでもやるのか?」
そう言って、イスタークはハハハと笑う。
「いや、スカーレット嬢と手合わせしたいらしいんだ。その立ち会いをミレン辺境伯にやってもらいたい」
「えっ?ロイドはそれでいいのか?」
「これも国益のためだ、仕方ない。それにレティは絶対に負けないだろう?」
俺は自信満々に答える。
「まぁ、そうだが…」
イスタークは不満気だが、相手の要求に求められている以上で応える。これは対人接客での基本だ。
これで我が国がシュブラン皇国より有利になるならば、安いモノである。
コンソメ味、美味しいですよね〜
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