1.約束と違う!
お久しぶりです。続編、始めました。
よろしくお願いします!
「えっ?殿下、今なんと仰いました?」
俺は、ロイド・ウィラー、20歳。
この国、ミストラルの筆頭公爵家の嫡男である。
父は宰相、妹は我が国の王太子の婚約者、そして俺はその王太子、アレクシス様の側近として辣腕を振るっている。
そんな俺には、この世界で何よりも愛しい婚約者がいる。
が、しかし、そんな彼女との結婚秒読みの段階でこの王太子がおかしな事を言い出した。
「だから!お前達の結婚時期が延びる事になった、と言ったんだ!俺も含めてな!」
『は?』
絶対零度のハモりが聞こえた。
現在、この王太子の執務室には俺以外の側近もいる。
ミレン辺境伯嫡男のイスターク・ミレン(21)、その弟のクリストフ・ミレン(20)、ベイカー子爵嫡男のヨハン・ベイカー(19)の三人だ。
アレクシス殿下の発言に、皆が不穏な空気を醸し出す。
「殿下。事と次第によっては武装蜂起も…」
「イスターク!怖い事言わないで!辺境伯軍に武装蜂起されたら国が潰れる!俺だって延期されたんだから同類だよ!しかも結婚の順番も元々、一番最後なのに…」
「それはそうです。この国の王太子の結婚ですよ?そんな簡単に出来るワケないでしょう」
俺は、「お前、バカなのか?」と暗に伝える目線を送る。
「婚姻届だけでもパパッと出せないかな…」
「出来ません!」
アレクシス殿下は、前世の記憶というものがある。
話によると、その世界の文明はかなり高度であり、概念や生き方などもこの世界とは異なるらしい。
そのため、すぐに式典などを簡素化しようとする。
王家の威光を失墜させる気か!と何度、諫めた事か…。
そこの自覚はいい加減持って欲しい。
先日の立太子の儀の時も大変だった…。
「だってみんな、早く婚約者の全てを自分のモノにしたいでしょ?心も体も戸籍も…」
「殿下…。立太子して、取り繕わなくなりましたね」
ヨハンが苦笑いしながら尋ねる。
「いや〜、だってみんなには『前世の記憶あり』という特大の秘密を知られてるし、王太子になったから即位まで何の憂慮も無いし、もうイロイロ気にしなくていいかな〜、と思って。疲れるし…」
「殿下がフランクになってくれて、俺は嬉しいッスけどね」
「さすがクリストフ!わかってる〜」
そんな遣り取りをしているとノックが聞こえた。
「どうぞ」
俺は入室を促す。
「失礼します。…おや、これは皆さんお揃いで」
そう、にこやかに入ってきたのは、この国の宰相を務める俺の父だった。
「ウィラー宰相!」
……実はこの父、とても食えない男である。
俺達が揃っている事をわかってて来たんだろうな。
という事は、きっと面倒事を持ってきたに違いない…。
俺は、うんざりした顔で父を見た。
「ロイド…、そういう顔をするんじゃない。仮にも未来の宰相だろう?」
「態とですよ。お分かりでしょう?」
「お前も言うようになったじゃないか」
そう言って父はニヤリと笑う。
顔が整っている分、そんな笑みが似合ってて腹が立つ。
成人した子供が二人もいる40代とはとても思えない…。
「そう言えば殿下。結婚延期の話はされましたでしょうか?」
「あぁ、したさ。この雰囲気でわかるだろう?」
アレクシス殿下は俺達に目線を寄越した。
イスタークが静かな怒りを乗せた声音で父に訊く。
「宰相…。なぜ我々の結婚が延期されなければならないのですか?」
「それは、殿下が立太子と即位を一緒に行うと仰ったからだ。文句は殿下に言ってもらいたいな」
しれっと責任をアレクシス殿下に擦り付ける。
みんなの殺意が一人に向かった。
「えっ!俺のせい?宰相含め、大臣たちだって賛同したじゃないか!!」
「賛同したのは立太子と即位のみです。婚姻については何も言っていませんよ。…だいたい、立太子と即位を同じ年に行うのだって激務なんです。それに結婚式を加えたら文官たちが過労で確実に死にますね。殿下は後世に残る暴君になりたいんですか?」
「なりたくありません。スミマセンでした」
「という事で結婚式は延期になりました」
「えっ?でもそれはアレクシス殿下の事情であって、私達とは関係無いのでは?」
宰相の前だからか、クリストフが真面目ぶって聞く。
「公爵夫人教育、辺境伯夫人教育、伯爵教育、子爵夫人教育、そして王妃教育…。進んでいるのかい?」
その言葉にハッとする。
俺達の婚約は5年前に結ばれたが、国外情勢を鑑みて最近まで伏せられていた。そのため、そういった教育の始まりも遅かったのである。ちなみにクリストフは入り婿となるため、クリストフ自身に教育が施されている。
「いや、ガブリエラは辺境伯夫人教育は履修済みですよ」
イスタークが口を開く。
イスタークの婚約だけは5年よりもっと前に決まっていて、公表もされていた。
そのため、婚約者のガブリエラ嬢の辺境伯夫人教育は2年前から始まっており、イスターク達の母の現・辺境伯夫人からお墨付きも貰っているという。
「おや、そうだったか。では、結婚式をしても問題なさそうだな」
「よし!」
裏切り者め!今、みんなの心が一つになった。
「ただ、子供はまだ作るなよ。これから先、即位式や殿下の結婚式がある。国外からも賓客が多数来るから、殿下の側近としてパーティーで対応をしなくてはならない。もちろんそれぞれの婚約者も然りだ」
「ぐっ!」
「それに結婚時の蜜月期間も無しだぞ。文官がこんなに働いているのに、側近がサボるなんて有り得ないだろう?」
父よ…。めちゃくちゃいい顔してるな…。
イスタークが恨めしそうな顔で父を見る。
「…延期で、いいです」
イスタークが折れた。
さすがは我が国の宰相だ。
【容姿】
ロイド→ミルクティー色の髪、翠色の瞳、185cm
アレクシス→金髪、水色の瞳、177cm
イスターク→ブルネット、紅色の瞳、190cm
クリストフ→ブルネット、紅色の瞳、178cm
ヨハン→栗色、翡翠色の瞳、165cm
みんな乙女ゲームの攻略対象者のため、イケメンです。
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