沼に沈む
「正式なヌマップメンバーにならないか?」横山は池袋の中華料理屋で僕に決断を迫った。彼は中肉中背のギラついた中年男でニコ生界を一人で引っ張っている生きた伝説と言われている。
その場に居合わせた野田、サダも横山の発言に虚をつかれたように箸をとめる。野田はインテリ風だが巨漢で個性的な男である。サダは身長2mの大男であり奇怪な風体をしている。僕の背中にピリッとした緊張が走る。何故ならヌマップに入るという事は生主として毒饅頭を喰らう事を意味する。良くも悪くも今まで積み上げてきたものが崩れてしまうのだ。僕は刹那、逡巡する。そして時間稼ぎの一手。「それは僕が決める事ではなく、リスナーさんが決める事じゃないんですか?」即座に横山が反論。「いや、君の意志が大切なんだ」横山の目には覚悟があった。野田とサダもそれを察知したのか、我々も賛成ですと言わんばかりの笑顔で僕を見据える。ここが僕の居場所なのか?彼らが僕の仲間なのか?
思えばこれまでの人生、僕に仲間と言えるような存在はいなかった。友達のようなものはいたが、どこか上辺だけ仲良くして、そして時が経つにつれ疎遠になる。今回もきっとそうだ。
だが、僕の心に閉じ込められた熱い何かがこう叫ぶ「その手を握れ!」そして気が付いたら口走っていた。「僕、ヌマップに入ります!」
そしてポンが遅れて入ってきた。ポンとは以前すれ違った程度で、きちんと会うのは今回が初めてだ。僕はポンから目が離せなかった。とても小柄な男で、スラップスティックコメディから抜け出したような軽妙な男で、いきなり飯にがっつき、何より自由だった。彼らとならどこまでも沼に沈み込めるかもしれない。沈んで沈んで突き抜ける。僕は口の端で笑った。