フラグは言うなよ。
「あ、そうそう。」
文俊が、街に着いてからの展望を語っているなか、それを無視し侑人が話しだす。
「さっきから俺たちの事を見ている奴らがいるんだけど、まあ、襲って来ない所を見ると様子を伺っているって所かな。」
「「え!?」」
春乃と文俊は驚き、声をだす。
「見ている?様子を伺っている?、あんたは何でもっと早く言わないの!相手はなんなの犬、猪、それとも熊!」
「春乃落ち着けって、直ぐには襲って来ないって言っただろ。こっちを見ている奴らなんだけど、野生の獣って感じじゃないんだよな、人とも違う感じがするし。」
「その言い方だと、時間が経てば襲って来るって事でしょ。早く先生に知らせなきゃ!」
「だから落ち着けって、普段のお前ならもっと冷静でいるはずだぞ。とりあえず深呼吸でもして、落ち着け。」
普段冷静な春乃が慌てるのも無理がない、普通の人なら異世界に来たとわかれば、心を取り乱すのは当然の事であり、それに加え危害を加えて来るかも知れない者に見張らていると聞けばなおのことである。
そんな中で冷静にしている侑人が異常なのである。
春乃は侑人に促され、深呼吸をする。
「侑人氏、冗談ではないのですな?」
「さすがにこんな時に冗談を言えるほど、空気を読まない人間ではないよ。」
「それで、どうするの?」
「奴らが直ぐに襲って来ないって事は、現状の戦力では勝てないもしくは、勝っても被害が出るからだろうと考えられる。そう考えると奴らは増援を待っているって事だ。」
「だから、その増援を潰しに行って来るよ、見張っている奴らだけならここにいる人間でなんとかするだろ。」
「侑人氏、その言い方では、侑人氏がその増援を潰すと聞こえるのですが?」
「ああ、その通りだ。」
「侑人氏が、古武術を幼少の頃より習っている事は聞いておりましたが、それは無茶ですぞ!いくら異世界だからって都合よく超常の力があるなんて事はないのですぞ!それは侑人氏が一番よく解っているはず、1人で行くなど死にに行くようなものですぞ!」
侑人が余りにも無謀な事をしようとしてると思い、語気を強目て言う文俊。
それ対して侑人は……。
「文俊、心配してくれるのは有り難いが、今の状況を考えると俺が適任なんだよ、相手がどんな奴らなのかわからないが、俺がこの中では一番森の中で動けるはずだ。だから心配するな。」
文俊の方をしっかりと見て、そう答える侑人。
「春乃殿も何か言ってくだされ。」文俊は春乃に助けを求めるが。
「侑人がそう判断したのなら、それが最適なんでしょ、私はこっちに残って何かあれば対応するわ」と肯定する春乃。
これには文俊も驚きを隠せなかった。春乃であれば必ず侑人の事を心配して、止めると思ったからである。
「は、春乃殿、なぜ止めないのですか?自分の身内が、家族が、危険を冒そうとしているのですぞ。」
「私が侑人を信用しているからよ。それに、もし私達を見ている何かが敵だとして、それと戦闘になり侑人が負けるようならどのみち私達に明日はないわ。」
春乃はきっぱりと言いきる。それだけ侑人に対して、絶対の信頼をしているからだ。もちろん一切心配していないわけではない。
「まぁ、なんだ、そういう事で行ってくる、先生には適当に誤魔化しといてくれよ、あと『絶対生きて帰って来い』なんて、フラグは言うなよ。」
侑人はそう言うと、誰にも気づかれないように気配を消しながら、森の中に消えていく。
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