ゴブリンと初遭遇③
春乃と刀華は二人並んでゴブリンの前に立つ。
「先生、これを使って下さい。」とゴブリンを見ながら話す春乃。
「ん、いいのか?」とこちらもゴブリンから目を離さず答える刀華。
「はい、大丈夫です。私、家では格闘術も習っているので、無手でもそれなりに戦えます。」
「そうか、なら遠慮なく使わせてもらう。」
「まずは二人で挟みその後、注意が向かれて無い方から仕掛けて、二人で奴を倒す。」
「はい!」
春乃と刀華は、ゴブリンを見ながらお互いで挟むような形をとるため、円を書くようにすり足で動き、春乃、ゴブリン、刀華がちょうど一直線になるような形ができる。
ゴブリンは無手の春乃より武器もつ刀華をしきり気にしているようで、春乃に対し注意が薄れている。
春乃は刀華に仕掛けるという意味を込め、軽く手を上げる。その意図を汲んだ刀華はゴブリンの注意をさらに引くため、若干近づく。
ゴブリンはその行動に対しておもわず後ろに下がるが。後ろから春乃がゴブリン近づき、股間目掛けて全力で足を蹴り上げる。
春乃の攻撃をもろに食らったゴブリンは、その一撃で泡を吹いて気絶してしまう。
「人型だから弱点も一緒かと思ったけど、どうやら同じだったみたいね。」と一撃で倒れてくれたソレを見て安堵する春乃。
「私の出番が無かったな。」
「すみません、先生の活躍の場を奪っちゃって。」
「問題ない。結果的にケガ一つ無く勝利できた事を考えれば、最善の結果だ。ただ、色々気になる事もあるが……」
刀華はそう言ってゴブリンに近づき、何度も木の棒を
振り下ろし、ゴブリン命を奪う。
すべてのゴブリンを倒す事に成功した刀華と生徒たちは、緊張の糸が切れ、地面に座り休憩を始めるが、目の前にあるゴブリンの死体を見て具合が悪くなったり、吐く者が多数出始めた。
テレビでも動物等の死骸を流す番組はあるが自分たちには、非現実の事と思いテレビをみながら具合が悪くなるものはほとんどいない。
また地球の国の中でも、一番安全とされる日本に暮らしていた普通の学生にとっては、普段食べる食肉でさえも屠殺される現場を見る事がほとんど無く、目の前にあるものを見て具合が悪くなるのはしかたのない事なのだ。
ただこの先も、こういった事が続くと考えると無理をしてでも、乗り越えて行かなければならないのだ。
「お~い緒方、桐生、悪いがこの死体運ぶの手伝ってくれ。」
「え」「俺かよ」
「お前たち二人は具合悪そうに見えないからな、それにこんな所にいつまでも死体を置いといたら、熊みたいのが近づいて来るかもしれないだろ。」
「あ、はい。」「へいへい、わかりました。」
二人はしぶしぶ手伝いをするために体を起こす。
空手やケンカなどをしている二人は、普段から血を見る機会は普通の人よりは全然多いが、やはり死体というモノはそれらとは違い、実際には二人とも具合が悪いのだがやせ我慢をしている。
「先生、もう一体は俺が運びましょうか?」
「ん、佐藤か?お前は、具合は悪くないのか?」
「はい、大丈夫ですよ。それに俺は(目の前のゴブリンには)何もしていないので、これぐらいはやらせて下さい。」
「そうか、じゃあ頼む。」
侑人達はゴブリンを引っ張り森の奥へ投げてくるのだった。
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