神隠し②
生徒達が少しずつバスから降りて来ていた、その中にはバスの運転手の轟一郎もいた。
バスの運転手である轟が降りてくるや、刀華の方に向けて歩いていく。
轟本人も現状を把握できず、若干パニックになってはいたが、不足の事態が起きた場合のマニュアルを思い出しながら、まずは謝罪をしなければと動いたのだ。
「この度は弊社をご利用頂いたのに、このようなトラブルに合わせてしまい、誠に申し訳ございませんでした。先生始め生徒の皆さま方には安全に家に帰れるように、最大限の努力をさせていただく所存でございます。」
「ですが現在、携帯電話やGPSは一切使えなくなっている為、私が取れる対応が限らていますので、今はバスの中で待機をして助けが来るのを待つ以外方法がございません。」
「皆さまには多大なるご迷惑をおかけしている事に対して、あらためてお詫び申し上げます。誠に申し上げございません。」
「いえいえ、今回の件はそちらの過失という事ではないと思っていますので、それに運転手さん自身も意識を失っていたのですから、被害者と言ってもいいと思いますよ。」
「……そういう風に言っていただけると、こちらとしても大変ありがたい思いです。」
轟は正直な所、刀華に責められる事を覚悟していたが、責められる所かこちらに気づかいさえしてする刀華に対して感心するのである。
そもそもこちらに過失が無くても、何かしらのトラブルがあれば、必ずといっていいほど、乗客に責められるのが運転手という立場であり、過去何度もそういった事を経験しているのである。
「それでは皆さまバスの方にて、待機していただいてもよろしいですか?」
「いえ、バスに戻る前に運転手さんを含め全員と話し合わないといけないことありますので、少し待ってもらってもいいですか?」
「はい?」
刀華は生徒全員を集め話し始める、1人の生徒が居ない事を気づかずに。
「おーし、全員集まっているな?これから話す事は大真面目な話しだから真剣に聞くように、まず全員が気付いていると思うが携帯が一切使えなくなっているのはわかっているな。それと今の状態が普通ではないというのはなんとなくわかっていると思うが……」
「先ほど一部の者たちと話しはしたが、私は今回の件が神隠しではないかと思っている。」
「先生~神隠しって、なんですか?」1人の男子生徒から質問される。
「神隠しと言うのは、私たちが住んでいる世界から何の痕跡もなく突然姿を消す現象のこと言う。また古来から神隠しのあった者は、別の世界に飛ばされたのだ、という風に言われている。」
「今回の件が、もし神隠しによるものだとしたら、バスで待機していても私たちを助けに来る者はいないという事になるが……。」
「まだ神隠しと決まったわけではないが、もし本当に、ここが私たちの世界でないのならば、皆にはこの世界で生きて行く覚悟を持ってもらわなければならない。」
「先生~私たち家に帰ることができないの?」1人の女子生徒が不安な顔をしながら質問をしてくる。
「まだ決まったわけではないが、その可能性は高いと思う。」と言い終わる頃に1人の生徒が叫ぶ。
「先生!あちらから誰か来ます。」
「「「え!?」」」
叫びを聞いたほとんどの生徒はこの後、人が来ると思い込んでしまった。こんな非科学的な事が起こるはずがあるわけないと、テッテレーと定番の音がながれ、大成功の札を持った芸能人が出てくるのではないかと。
冷静に考えればこの森の中で人と合うような事は、限りなく低いのに、ついつい自分たちにとって都合のいい未来を想像してしまう、それは刀華も例外ではなかった。
刀華自身もさっき迄、助けは来ないだろうと諦めて真剣に生徒に語りかけてのに、このタイミングでと、若干恥ずかしい気持ちがでて苦笑いを浮かべるが、草むらを掻き分けて現れたそれを見て顔がひきつるのであった。
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