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リッシュ・バガーチ ①

 俺は都にある、とあるホテルへとやってきた。

 もちろん一人ではない。

 

 ナオンも一緒にいる。

 彼女が約束を守って召喚してくれたので、さっそく俺たちはホテルに入ることにした。


 なんだか気まずくて、ほどんど会話をしないままここまで来てしまった。

 ホテルの料金は先払いで俺が払っておいた。

 

 「……」


 ナオンは部屋にあるツインベッドに腰かけている。うつむいて、こちらを見ようとはしなかった。

 

 仕事着の白いローブではなく、落ち着いた黄色のワンピースを着ていた。

 豊満なナオンの胸が、はち切れんばかりに前へと押し出されている。


 やっぱし、胸大きいな。


 いかん、いかん。

 

 カインの言葉を思い出せ。

 

 優しく、とにかく優しく接するんだ。


 料金の代わりとはいえ、俺が満足するためだけの行為ではないんだ。

 まずは、ナオンにリラックスしてもらわなければ。


 「隣、座っていいか?」


 俺はナオンから少し離れたところに、突っ立ていた。

 体の距離があれば、おのずと心の距離も開いてしまう。

 

 「……」


 否定するわけではなく、首を静かに下げて頷いてくれた。

 よし、まずは第一歩である。


 「ありがとう」

 

 俺は少し感覚を開けて、ナオンの隣に座った。

 

 やばい。

 隣に座ると余計緊張してきた。

 鼓動が言うことを聞かずに速くなる。


 「なぁ、ナオン。黙ったままで良いからな」

 「……」


 俺の言葉にナオンは無言で反応した。

 言葉はなかったが、表情はそれほどこわばってはない印象だ。


 「緊張してるんだろ?」

 「……」

 「俺もさ」

 「……」

 「無理に話そうとしなくていいからさ。このまま、何もしなくたって俺は良いんだ」


 正直、性欲が今にも俺の頭を支配しようとしている。けど、俺がこのまま初めてよくても、彼女は違うかもしれない。

 彼女が嫌なら、何もしなくていいってのは本音だ。


 「それよりも、ちゃんと俺のことをよんでくれて嬉しかった。ほら、今朝は変な空気で別れちゃったから」

 

 抜け殻探しの時も、どこかでそのことが引っ掛かっていた。

 何回も助けているせいか、ナオンはどこかで妹のように感じていたのかもしれない。

 だから、あれで疎遠になるのは嫌だったんだ。


 「……すいませんでした」


 ナオンがやった声を出してくれた。か細く可愛らしいその声が、愛おしく感じた。


 「謝るなって。今こうして会えてるんだからさ」

 「……でも」


 気にするなって言ってみるも、ナオンはまだ自負の念を感じている様子だ。

 俺は、ナオンの不安要素を取り除きたいと思った。


 「こういうの慣れてないんだろ。それで、パニックになるのは仕方ないことだ」

 「は、はい。けど、コトオさんとは自然体で話せていたと自分では思ってるんです。でも、いざこう……いう話になると、恥ずかしくなっちゃって」


 俺には心を許しててくれてた、ってことか。

 素直に嬉しいな。

 ナオンは契約者の中で一番年下なので、上手く関係を築き上げているか心配だった。

 

 「そういうことか。じゃあ、だんだんと慣れていこう」

 「え?」

 「ナオンがパニックになっても、話せない状態になったとしても、俺はただお前の傍にいるよ。俺はお前のことを嫌いになったしない。だから、思う存分恥ずかしがればいいさ」


 羞恥心がすぐに克服することはできないと思ってる。緊張してしまうときは緊張するし、恥ずかしいさというのは道徳を守るうえでは必要なことでもある。

 だから、俺はそのことを否定はしない。


 「……コトオさん。ありがとうございます」

 「いいってことよ」


 俺はあんまりしない満面の笑みで、ナオンをみつめた。

 ナオンがようやく顔をあげてくれたので、そこでふいに目線がばっちりあってしまった。


 頬を赤らめるナオンは、とにかく可愛いの一言に尽きる。

 目があったことで、もしかしたら顔も真っ赤に染めあがっているのかもしれない。


 「私、男の人と交差ししたこともなくて。だから、その……、ファーストキスもまだなんです」


 すぐに目線を反らしたナオン。

 男性経験がないとは思っていたが、そこまでとは。

 この美貌で、純潔をここまで守っているのはディップ族ならではだな。

 

 人間や多種多様な種族がいる環境で育てば、こうはならないだろう。

 ナオンが黙ってても、男はよってくる。

 必然とナオンのコミュニケーション能力も上がり、彼氏の一人や二人で来てて当たりまえだ。


 けど、確かナオンは一年ほど前に、都のほうに引っ越してきている。そのあたりで、俺とも契約した。

 この一年間でも、浮いた話はなかったようだ。


 「だから……、私の初めて、全部……貰ってあげますか?」


 泣き出しそうな弱弱しい声で、そうお願いをされた。

 座高が俺よりも低いので、見事な上目遣いで言われてしまった。

 断る気など毛頭なかったが、こんなことを言われればノーという選択肢は完全に消え失せる。


 「俺で、よければ」

 

 あくまでこれは契約上の行為だ。ナオンは気を許してくれているみたいだけど、それは恋愛感情とは違うだろう。

 俺もナオンに好意を抱いているかどうかと聞かれると、はっきりは答えることができない。

 

 形だけの行いと分かっているはずなのに、初めてを俺にささげてくれるということが、俺の胸をこれでもかと高揚させた。


 「……」


 ナオンは目を瞑った。

 ぷっくらと膨れたピンク色の唇を、少しだけ俺の方へと持ち出した。


 「いいんだな?」

 「……」


 そのままの態勢で、頷いてくれた。


 やっと、やっとだ。


 何度も何度もナオンを救出してきた。

 けど、色々な事情があって今日までお預けを食らっていた。


 夢にまだ見て、今日という日が今俺の前にあるんだ。


 召喚屋を始めて二年近くたっており、その間は忙しくてまともに自分の性欲と向き合うことはできなかった。


 その反動もあり、俺にとってこの時はかけがえのない一瞬だ。


 俺は決心をしてくれた彼女を待たせまいと、同じように目を瞑った。


 ナオンとの距離はほんの僅か。

 

 少しだけ顔を前に出せば、唇へと俺は到達する。


 もうすぐだ。


 ゆっくりと唇を近づけていく。


 そして、すぐに妙な感覚に襲われた。


 ん?


 違う。


 これは唇と唇がまじあったわけではない。唇には今でに何の感触もない。だから、キスをしてこれまで以上に心拍数があがったわけではないことは確かだ。


 これは…


 俺が一つ心当たりを思い出していると、それを裏付けるような出来語が次々と起こった。


 防音対策がしっかりと整備されたホテルとは思えない、騒々しさ。

 獣臭や鉄などの異臭。

 そして、何より室内では感じることのできない、風を肌で感じている。


 「コトオくん!」


 俺はその呼ばれた声で全て理解した。

 理解、したくはなかった。


 「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 俺は悲痛な雄たけびとともに、思いっきり目を開いた。


 そこにはナオンはいない。


 俺の目の前に広がるのは、だだっ広い草原。

 眩いばかりの太陽光が俺を照らす。

 見るからに昼の姿をしたここは、先ほどいたところとは全く違う場所。

 大陸が違うのだ。だから、急に夜から昼になってしまったのだ。およそ、12時間近い時差が一気に俺に襲い掛かったのだ


 そこな別大陸の草原に、武装した兵士一人と、濁った青色をした人型の兎野郎たちが数匹、あいまみえている。


 俺は、召喚させられてしまったのだ。

 

 あのタイミングで、絶対に呼ばれたくない時に、俺は召喚されてしまったのだ。


 くそ、くそ、くそ。


 これだから、この仕事は!


 今日は二件こなしたから、完全に油断をしていた。


 ナオンがせっかく、心を開いてくれたのに……

 もう少しで上手くいっていたのに。


 「急ですまんが、戦えるかい?」


 絶望している俺に、戦っている兵士が話しかけてくる。

 今すぐに怒り狂ってしまいそうだが、必死で食い止めた。

 何故ならこの人は悪くはない。

 召喚屋はどんな時でも呼ばれたら飛んでくるものだ。

 そもそも、この兵士が俺を呼んだわけではないしな。


 「……はい、フォーズさん」


 この人はヴィグル・フォーズさん。

 俺を呼んだ契約者の付き人と言ったところだ。


 「……はやく、忌々しい化け物を撃退してくれないかしら?」


 上から目線な態度が鼻につく声だ。この契約者は常にこうだ。

 アンリーは腐れ縁ということもあってまだ許せる。

 だが、この人は俺のことを道具としか見ていない。


 契約するんじゃなかったと後悔している相手、彼女の名はリッシュ・バガーチ

 馬車に乗っており、その小窓から横顔だけを覗かせている。

 彼女はベール付きの帽子をかぶっており、窓を覗き込まなければ姿を拝むことはできない。


 彼女とも一年以上契約しているが、素顔を拝見したのは数回。

 艶のある銀髪で鼻筋が長く美人は美人だった。ドレスの上からだが、胸が大きいことは確かだ。


 普通なら俺は喜ぶところだが、態度が最悪すぎて好きにはなれなかった。


 「何をしてる? はやく仕事をこなすのだ」

 「わっかりましたよ!」


 やりゃいいんだろ、やりゃ。


 「恩にきる」


 フォーグさんが主人の代わりに礼を言った。

 彼は30代半ばで、礼儀をしっかりとするタイプの人だった。

 

 「といかく、あいつらを倒せばいいんですね」


 俺は乗り気じゃないが、戦うために状況を確認することにした。


 俺が召喚されたのは馬車から少し離れた場所で、フォーグさんはすぐ隣にいる。

 

 そして敵である十匹ほどの獣たちは、二十メートル先ぐらいにひと固まりでいた。


 あいつらは「女攫い」の異名を持つ、セビットと呼ばれる二足歩行で歩く兎の一種だ。身長は一メートつほどもなく横幅もない。

 その代わりに動きが速く、腕に生やした刃物のように立派な爪で獲物を狩る。


 そして、最大の特徴が女性を率先して狙うこと。

 人型であれば種別は関係ない。人間だろうと、ディップ族だろうと関係なく襲ってくる。

 そして、殺すのではなく犯すのだ。

 その場でか、あるいは巣に運ぶか。

 それでついた異名が女攫いのセビットだ。


 こいつらの狙いは、馬車でくつろいでるリッシュだろう。

 まぁ、あの人も美人は美人だからな。


 「ジュジュジュジュ」


 ヨダレを吸い込む耳障りな音が聞こえてきた。

 どんだけ女に飢えるてるんだよ。

 気持ちはわかるけど。


 そんな性欲魔獣から主人を守るために、フォーグさんが一人で戦っていたというところか。

 フォーグさんはかなり強い。

 なんせ、腕が三つあるからな。


 全身を鎧で彼の胴体からは、左腕が一本と右腕が二本も生えている。

 彼は人間ではないのだ。

 ムノーガという種族だ。

 特徴は人によって違うのだが、共通点は何かが多いか強化されてることだ。

 

 足が人よりも一本多いムノーガがいれば、視力が抜群にいいムノーガもいる。

 そのぶん、人よりも他の身体機能が低いと言われている。

 けど、それは魔法でカバーしている人がほとんどだ。


 フォーグさんは一本腕が多いぶん、武器は三つだし魔法の容量も一本分増えている。

 だから、彼は一人でも十分に戦うことができる人だ。


 【ヴィグル・フォーグ】


 種族    ムノーガ(腕が三本)


 肩書き   ウェポマー


 魔法       熟練度

 

 フエルブ     9

 ウィクティブ   8

 ゲトゥルブ    7

 

 武器  

 盾        8

 槍        8

 剣        8

 

彼は左手に盾、そして上の右腕に槍を、下の右腕に剣を掴んでいる。

 ウェポマーという肩書きは、三種の武器をある程度扱えることのものをさす。

 そのため、ムノーガ限定の肩書きと言ってもいいだろう。


 「こやつら、リッシュ嬢ばかり狙って、こちらに見向きもしないのだ」

 

 よく見ると、魔獣セビットたちの体はところどころ傷がついていた。

 フォーグさんがつけたものだろう。

 あれだけ攻撃されているのに、依然としてリッシュを狙っているといううことか。


 「ジュルルルル」


 またヨダレを吸い込むセビットたち。

 疲れているのか今は大人しくしている。

 けど、動き出すのも時間の問題か。


 「まとめてやります」

 「え?」

 「すいません。あんまり、戦う気分じゃなくて」


 俺は地面に重いっきり、手のひらをぶつけた。

 今なら俺の魔法で、一気に殺せる。


 蛇たちを一瞬で平べったくつぶした時のように、今ならすぐに肩を付けられる。


 俺は草原に広がる雑草たちに目をやった。

 俺の周辺だけではなく、セビットたちの周りにも生い茂っている。

 これを利用するんだ。


 「トレイン、切断しろ!」


 俺は力いっぱい魔力を込めて発動した。

 その魔力が地面を伝って、セビットたちの足の下へと移動する。


 そして、そこの大量の草を一気に成長させる。

 成長させるだけではない、大きさを何倍にも膨れ上げさせた。


 一気に巨大化する雑草は、まるで刃のごとく天へと延びていく。

 その先には飢えたセビットたちの首があった。


 草の先っぽは尖っている。

 ものによっては触れただけで血が出てしまうほど鋭いものもある。

 それが、速度を得てさらに巨大になって襲ってくる。

 

 セビットたちの首根っこを切断するには、十分すぎる威力だ。


 断末魔をあげることなく、全てのセビットが絶命した。

 ボトっと、鈍い音と共に、首が地面に落下した。


 それと同じくして、雑草は元の形へと戻っていく。

 先ほどと違うのは、獣の血がべっとりと付着していることだ。


 「す、凄まじいな」


 数秒のできごとに、フォーグさんは驚いていた。

 

 「初見殺しですよ」


 今のはセビットがトレインを知らなかったからこそ成功したのだ。

 俺が魔法を唱えた時点で、知識があるならすぐに回避行動をとる。

 地形を扱う魔法なので、だいたいは地面を警戒してれば解けることなど造作もない。


 「ふん。まずまずね」


 後ろの馬車から、憎たらしい声が聞こえてくる。

 あんたを守るためにやったんだ!


 そんな怒りを俺はぶちまけはしなかった。


 それは俺が大人な対応を示したわけではない。

 リッシュに喧嘩を売ってはいけないことを俺はよく知ってるからだ。


 契約を破棄されるのが困るという理由もある。

 が、もう一つの理由の方が問題だった。


 フォーグさんだ。

 普段は落ち着いて、下僕のように使われていても怒ることのない人だ。

 しかし、リッシュを馬鹿にするような態度をとると、一瞬で豹変する。

 以前、変な絡み方をした山賊を半殺しにおいやったのを、俺は見てしまっていた。


 「どうかしたかい?」

 「な、なんでもないです」


 いつのまにか俺はフォーグさんをのほうを向いていたようだ。

 

 この人がいなかったら、いいところで召喚されたことを怒りに怒っていたことだろう。

 ある意味、いてくれてよかった。


 何故なら、リッシュ嬢との契約は俺が生きるうえで必須になってしまっているからだ。


 「ごくろうさまでした」


 そう声をかけたのは、フォーグさんではなくもう一人の使いの人だった。

 さっきまでは馬車に乗って、リッシュを護衛していたようだ。


 スルガさんというこの人は、俺と同じヤマト国の血が入った人で少し親近感がある。

 執事をやっているようで、黒スーツに身を纏っている。

 額には第三の目が綴じた状態でついている。

 この人もまた、ムノーガだ。


 「これが、今回の報酬でございます」


 スルガさんは胸ポケットから、厚みのある封筒を取り出した。

 

 「ありがとうございます」

 「いえ、お嬢様をお守りしていただきありがとうございました」


 紳士的に対応で深々とお辞儀をしてくれた。

 二人ともよくできた人なのに、なんで主人はあんなに横暴なのだろうか。


 心の中で文句をたれながら、俺はその封筒を受け取る。

 いつも値段はだいたい一緒だ。


 その値段が、破格なのだ。

 今の一瞬で、アンリーたちの蛇退治より三倍もの報酬を受け取ってしまった。

 

 家が相当な金持ちみたいで、羽振りもいい。

 護衛がいるので呼ばれる機会は少ないが、俺にとってはいわゆるお得意様ってことだ。


 なんでも世界一周の旅をしているらしく、それで傭兵を探していたらしい。

 けど、フォーグさんのような信頼した人物としか旅はしたくない。

 そのフォーグさん一人では、今みたいに手に負えない時もある。

 そこで、旅をする必要がなく、かつピンチの際に都合よくあらわれる俺の出番ていううわけだ。


 彼女がいなければ、あとの数人ほどと契約しなければ生計が立てられない。

 

 「フォーグ、スルガ、いくぞ」


 窓の奥から、リッシュは二人を呼び戻した。

 

 「それでは私は、これで」

 「コトオくん、助かったよ」


 二人は呼ばれるままに、馬車へと戻っていこうとした。

 スルガさんは綱を引くために、前方にいる馬の方に移動していった。


 「あ、あのフォーグさん」

 「ん?」

 「このあたりって、村とか町ってありますかね?」

 「うーん、私の知る限りだとかなり歩くことになるね」

 「そ、そうですか……」


 まあ、そうだよな。

 見渡す限り草原がずっと続いている。

 

 まずいな。

 太陽が昇っているために明るいが、俺の体内時計的には今は夜なのだ。

 仕事もしたし、そろそろ眠くなってきてもおかしくない。

 というか、今頃は事をすましてナオンと一緒に眠っていてもおかしくはないのだ。


 ああ、ナオン。嫌われちまったかもな。心開いた瞬間に、男が逃げ出したも同然なんだ。

 このまま、呼べれなくなることだって。


 っく。考えても仕方がないか。

 今は、休息が大事だ。


 俺は寝床を確保すべく、馬車へと駆け寄った。

 

 「あの、バガーチさん。よかったら、俺を馬車に乗せてくれませんか?」


 俺は窓の奥に見えるリッシュに話しかけた。

 唇の横にあるほくろがによって、彼女の色気が増しているような気がした。

 

 「いやよ。庶民となんか、一緒に過ごしたくないわ」


 すぐに断られた。

 

 「でも、まだ乗れますよね?」


 馬車は旅をしているだけあって、立派なものだった。

 おそらく四人は余裕をもって入ることができるだろう。


 「しつこい。いくぞ、フォーグ」

 「はい。」


 フォーグさんが馬車へと乗り込んでいく。

 そのさいに小さな声で「すまんな」と声をかけられた。


 あなたは悪くないんですよ。


 「ちょ、ちょっと。もうしんど、くて……」


 俺の話を最後まで聞かづに、リッシュは窓の扉を閉めてしまった。

 もう声は届かない。


 馬の準備ができると、そのままそそくさと草原を移動していってしまった。


 あーーーーもう。

 

 俺は仕方なく、魔袋からボートをとりだした。

 そして、半ば寝そうになりながら、今は確認できない寝床へと向かっていくのだった

 


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