ナオン・メディウム ②
フィールドは真昼の森。今いるのはかなり開けた場所で、真上から日光が俺たちを照りつけている。
手のひらサイズの蝙蝠なら基本的に夜行性だ。しかし、クローバは光を克服した。
なので、真昼間からその悍ましい体を見れてしまう。
両翼を広げきったクローバは、一度真上に軽く飛んだ。
そして、数メートル上昇したタイミングで、俺に向かって滑空をしてきた。
緩やかな滑空ではない。そのまま俺を捕食しようとしていることが伺える、驚異的なスピードだった。
俺はこいつにどう対処するか考えた。
ジャンプして避けることは可能なのだが、そうなれば後ろのナオンにターゲットが変更するだけだ。
ナオンとの契約は巨大蝙蝠を倒すことではなく、彼女を無事に救うことだ。
それができなければ、巨乳はお預けになってしまう。
守るというなら、まずは敵の動きを止めることとしよう。
脳内で作戦を考えると、チラッと横目で周囲の樹木を見た。
立派に聳え立つ大樹がここにはいくつもある。
よし、これを使うとしよう。
襲い掛かるクローバに萎縮することなく、俺は静かにことにあたった。
まずは右手に力を籠める。すると、手の内側から眩い光が現れる。
これは俺の体に宿っている魔力だ。自然エネルギーともいう。
そしてこれを使うことで、生物は超常的力を使用することができる。
輝き続ける手の平を、俺は足元の地面に接触させた。
今から魔力を消費した魔法を使用するが、その時に大事なのがイメージだ。
自分の魔力を消費して何がしたいのか。
それを具体的に想像する必要がある。
その時に手っ取り早いのが、声に出すことだ。
「トレイン発動! 樹木よ、敵を拘束せよ」
手の光はその輝きを失うことなく、地面に移動していき、伝達するように近くの樹木へと流れていった。
そして、魔力が木に到達すると光は木の中に取り込まれていった。
すると、木の太長い幹の一部から、物凄い勢いで枝が伸びていった。
超スピードで成長した枝は、一直線にクローバに向かっいく。
そして、蝙蝠の巨大な胴体に巻き付いた。数秒しかたっていないが、枝はすでに立派に成長しており、拘束するには十分な太さになっていた。
「ギャア!?」
真横からの予想外の攻撃に、クローバは混乱していた。
枝に巻き付かれたクローバは、それをほどこうと体をバタバタ動かした。けれど、上手くはいかなかっ
人間のような腕があれば何とか抜け出すことは出きるだろう。
しかし、蝙蝠の腕は翼だ。飛ぶことに特化している。
さらにクローバの翼は巨大なために、枝をほどくには適していなかった、
「おとなしくしてろよ」
言葉は聞こえないだろうが、一応言ってみた。後ろにいるナオンがいるので、少しカッコつけたのかもしれない。
拘束されたクローバにゆっくりと近づいていく。
その途中で、ズボンのベルトにくっつけてある布袋に手をかけた。
「クローバソードをくれ」
この台詞はナオンに言った訳ではない。もちろんクローバにでもない。
袋に話しかけたのだ。
俺の声を認識した袋は、青く透明な光を輝かせた。この光の系統は、俺が先ほどやった魔法と一緒だ。
基本的に魔力を宿すのは生物のみで無機物は扱うことができなおと言われている。
けれど、この袋は「魔袋」と呼ばれる魔法で作られた代物。なので、魔力を宿すことが可能だった。
魔袋は人工的に作られるため言わば全て手作りだ。膨大な魔力が必要でコストがかなりかかる。正直、めちゃくちゃ高かった。
これが普通の袋なら手軽に買えるが、この袋にはある魔法がかけられている。
光輝いた袋から、飛び出すように光沢のある剣が出現した。
袋のサイズは手のひら程度で、明らかに剣が入る余地はない。
これこそが魔袋にかけられた、要領が無限になる魔法だ。オプションとして、音声操作で指定した者を瞬時に取り出せる。
使い勝手がよく希少価値の高い商品だ。これを売れば安い家なら建てることができるほどだ。
ま、俺にとっては家みたいなもんか。
「コトオさん、その剣は?」
取り出した剣にナオンが興味を抱いたようだ。
剣の刃には無数の小さな鉄の刺がついてる。これで攻撃されれば、斬られたというよりも刺されたと感じることだろう。
「クローバ専用の武器さ」
見せびらかすように剣を頭上に持ち上げた。
目の前に腹の空かせた獣がいるのに能天気だな、と自分でも思う。
俺は利き手の右手で柄を握りしめ、クローバに歩み寄っていく。
今のクローバの翼は無防備だ。俺は片翼めがけて、剣を勢いよく降り下ろす。
吸い込まれたかのように翼にヒットする。ま、動かない敵に攻撃しただけなんだけどな
クローバの翼はゴム製品のようによく伸びる。さらに切断しにくかった。何度か戦ったことがあるからよくわかる。
なので、この無数に刺のついたクローバソードが面白いように効く。
「グギャャャャ」
翼にたくさんの神経が通っているらしく、こっちが痛くなるぐらいの切ない声を出した。
クローバの翼には小さな穴がいくつも出来ており、少量ながら血が流れ出していた。俺と同じ赤い血だ。
激しい痛みを感じたクローバは、完全に怒りだした。口を大きく開け、鋭利な牙を剥き出しにしている。
拘束中なのでその牙が届くことは普通ならないが、今は俺とクローバの距離はゼロだ。
剣を振りかざした状態の肩を狙って首を動かした。
クローバの牙は十分な武器だ。あんなのを食らったらひとたまりもない。
俺はすぐさま避けようと剣を翼から離そうとしたが、思ったよりも棘が深く刺さっており、引き抜くののに時間がかかってしまった。
襲い掛かる牙を避けるため、腰をひねって肩の位置をずらした。
クローバは標的を失い、空にかみつく形となった。
しかし、上手く避けたつもりだったが、軽く肩に牙が掠ってしまった。
服が俺の血で滲んでいく。血が広がって大傷のようだが、大したことはない。
剣を引き抜いた俺は、肩をかばうことなく、真っ先にクローバとの距離をとった。
そしてこのタイミングで、拘束していたトレインの魔法が解けた。
巻きついていた枝はみるみる短くなり、生えていた木に向かって収縮していった。
「だ、大丈夫ですか!?」
ナオンが俺の血を見て、青ざめた顔で心配してくれた。
「大したことないさ」
心配させぬように、軽く俺はほほ笑んだ。
本当に大したことがないからだ。決してかっこつけたわけではない。
「グ、ギャァァァ」
俺よりもあいつの方が重症なようだ。片翼からいまだに血が流れ続けている。人間のような手がないため、止血できないのだろう。
距離をとった俺に襲い掛かってくるかと思ったが、クローバは動かなかった。すでに拘束は解かれているのにだ。
俺は血の付いたソードに目を向ける。武器屋に売っていたのは試しに買ってみたが、想像以上に効くようだ。クローバという名前がついているだけはある。
「グゥゥゥゥウゥ」
怒っているクローバは威嚇してきたが、もう攻撃してくる気はないようだ。
このまま戦っても傷が増えるだけと判断したのか、翼を広げた予備立つ姿勢をとった。
バサッと翼を動かすと、その風圧で周りの草が揺れて土埃が巻き起こった。
「じゃあな、蝙蝠ちゃん」
最後まで怒りの表情を変えないまま、クローバは飛び立った。しかし、片翼が傷ついているので、あまりスピードは出ていなかった。
ふぅ、これで一件落着だな。