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眠れる星の少女  作者: 今井まい
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5 忘れられない約束

私は夢を見ていた。時空波が起こる前の夢。

高校1年の私は、彼氏の高橋ショウと一緒に放課後の教室で笑いながら勉強している。


「泉といると楽しすぎて勉強出来んわ。大学落ちたら泉のせいな〜」


「何それ〜言いがかりすぎだよ」


「泉、いつか海の見える家でシェアハウスしようよ。ねぇお願い」


「えーいいじゃん、考えとくよ」


「忘れないでね、約束。」






辺りが段々と騒がしくなってきた。


どうやら時空波が終わり、商店街が営業再開したらしい。遠くでシャッターが上がる音が聞こえる。

もう少し夢の続きが見たかったが、まずい。お面を持ってきたバックの中に入れた。

走って例の手当をした店員さんの元へ行く。どうやら目は覚めているようだ。意識があるようで良かった。

「あの!!!大丈夫ですか!!」

「あ……大丈夫……です。営業……再開……しますね……」

言葉の間隔が少しおかしい。立ち上がれますか?と聞き肩を貸したが足元がふらついている。これはまずいと思い、携帯で救急車を呼んだ。

「申し訳ありません……ありがとうございます……でも今は他に店員いなくて……」

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!!」

少しして救急車が来た。事情を説明していると奥から店長らしき人が出てきた。お店を留守にしてはまずいとの事で、私が病院まで付き添うことになった。


初めての救急車。店員さんは不安になっているようで、「ごめんなさい、手、貸してもらっていいですか」と言い私の手を握った。私も握り返した。


近くの病院に着くと私だけ待合室に待機となり、30分ほどすると店員さんが車椅子で出てきた。頭部の表面を少し出血していたがMRIは問題なく、脳震盪だけで済んだようだ。凄くほっとした。


「あの……後でお礼したいのでお名前とお電話教えて頂けますか。私は松井瑠衣と申します。手当までして頂いて本当にありがとうございました。」

「私は泉みらいです。いえいえ、大事に至らず本当によかったです。」


電話番号を交換をした後、お互い別のタクシーに乗り解散ということになった。(タクシー代は瑠衣さんが出してくれた)

瑠衣さんは私より3つ上だった。現在はフリーターで就職活動をしているらしい。私も今ちょうど大学4年で会社を探しているので参考になるかもしれない。次に会う時は色々聞いてみようと思った。




自分のアパートに帰ると玄関の鍵が開けっ放しだった。慌てて出たので鍵をかけるのをすっかり忘れてしまったらしい。マズイと思ったが家の中は無事だった。

時刻はもう19時。先程まで明るかった外もすっかり暗くなってしまった。

曽根君、どこに行っただろうか。

もう会えないかな……と思ったが最初に会った場所に行けば待っているのではないかと思った。




海の見える高台に来た。

曽根君が、居た。

原付バイクに寄りかかり、コンビニで買ったであろう肉まんを頬張っている。

「あ!!!いずみさん!!良かったぁ、ここに来れば来てくれると思ったんだよね。良かったぁ。」

曽根君は本日最高の笑顔で私を見た。あぁ、この人モテるだろうな。


曽根君が肉まんを食べ終えたあと、私たちは時空波が初めて来た日の話をした。

曽根君は当時小学6年生で、校庭でサッカーをしていた時に遭遇したらしい。当時の私との共通点は、学校に居たということだけで他になかった。何か発見があると思ったが……残念だ。

話していて分かったことは曽根君は17歳で群馬の高校には可愛い彼女がいるらしい。17歳というのは私が初めて時空波にあった時の年齢と同じだ。いいな……高校生。楽しいよね。


「いずみさん彼氏居ないんですか。可愛いのに」

「いや可愛くは……今はいないね。でも昔は居たの。初めての時空波で行方不明になって。あいつ、あの日学校サボって海行っててさ、連絡取れなくなっちゃって。でもいつかひょっこり帰ってくるんじゃないかって。」

曽根君は申し訳なさそうな顔をした。すみません、嫌な記憶思い出させてしまって。そう言うので私は全く気にしていないよと伝えた。もういいのだ、あいつのことは。


「彼氏さんの名前ってなんて言うんすか。いや、これから日本中回るつもりだから手伝えるかなと」

「曽根君は優しいね。高橋ってやつだよ。」

スマホを出して当時の文化祭で撮った写真を見せる。

「下の名前も」

「ショウ、だよ。」

「ふーん、高橋ショウ……ね」

曽根君は一瞬神妙な顔つきをした。何か思い当たる節があったんだろうか。いや、住んでる場所全く違うし無いよな。今日初めて会った人なのに真剣に考えてくれて本当に良い人だと思った。



曽根君は時計を見てそろそろホテルチェックインしないとな……と言った。どうやら私達は3時間も話し込んでしまったようだ。


「いずみさん、俺、これからも狐面で全国回るんですがどうですか。一緒に来てくれませんか。時空波で動ける俺たちは救世主になれますよ。」

真面目に言ってます。曽根君はそう付け加えた。

「いや……私は……」





断ってしまった。就職活動があるから、と。


曽根君は、そうですか……残念ですと言って少し悲しい顔をしたが、困ったことがあったらいつでも呼んでくださいね!助けに来ますから!!と言って去っていった。


私はテールライトが見えなくなるまで手を振り、原付バイクの救世主を見送った。


本当は曽根君と行きたかった。でも海の見えるアパートに居れば、あいつがひょっこり会いに来てくれる気がしてならないのだ。海が大好きなあいつが。だからまだ、離れたくないんだ。


ふと我に返ると思った以上に引きずっているな、と苦笑いした。



後に私はこの選択を重く後悔する事になる。




設定補足:

この世界では時空波によって道端に眠る事態が起きても対処できるように、国によって緊急用カプセルホテル・緊急用毛布があちこちに配置されている。

曽根が配っている毛布はこの「緊急用毛布」なので、万が一怪しまれても「寝ぼけて自分でかけたんじゃねーの?」が通用する。

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