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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

こぉうひぃぶれいくっ!

作者: 芳香サクト

 息抜きにみてもらってください。

 ここは、僕の師匠の早瀬 胡桃(はやせ くるみ)の探偵事務所もとい僕がアルバイト兼助手をしているところ。

 師匠は今日も珈琲を飲みながらぶつぶつとつぶやいているそのさまを見ると、どうやら事件を解決したらしい。僕にとっても誇れる師匠であり、上司と言ったところだろう。


 師匠の功績は警察も折り紙付きらしく、その謎を解く姿はまるで安楽椅子探偵のようだといわれているほどだ。師匠の名前が世に出回らないのは、警察がその情報を一切遮断して捜査協力をしているからだ。

いつか、僕も事件を解決できるような人になりたいものだ。そう願って、今日も僕はせっせと事件ファイルにまとめる。


「師匠、今回の事件のファイルをまとめました。」

「ああ、ありがとう、一真(かずま)くん。しかし、君は私と違って良く働くじゃないか。これからもよろしくお願いしたいよ。」

「ありがとうございます師匠。師匠の足が動かないことは知っています。ですので、それくらいはやらせてくださいよ。住み込みで働いているわけですし。」


 僕がそういうと師匠は珈琲を飲みながら車いすを動かし、僕のほうへと近づく。


「ははは、それはありがたいね。私の両足は幼いころに事故で機能を失ってしまった。今は車いすを押して動くこともおっくうな生活になってしまった。そこで求人募集をしたのだが、いかんせんここがボロボロなのが原因なのか私にはわからないが、入ることは勿論の事近づくことも嫌になるだろう。」


 師匠はそういうとパイプを咥え、整理したばかりのファイルを見つめた。

 彼女のそんな行動は今回の推理で間違いはなかったのか…。

 それか別の犯人がいてしまったのか…。などを確認する作業だ。

 僕はそんな師匠を見て気になる事があった。


「そういえば、師匠。僕、ずっと師匠に聞いてみたいことがあったのですけれど…。」


 僕の言葉に師匠は珈琲から咥えていたパイプを手に持ち替えて聞き直した。


「うん?それは私に答えられることなのか?」

「逆に、師匠じゃないと聞けない質問です。」

「ふむ…なら聞こうじゃないか。一体何が気になったのかい?今回の事件のことかい?」


 師匠の言葉に安心したのか僕は二杯目の珈琲を淹れながら聞き始めた。


「今回の事件もそうなのですけど、師匠は…僕が来る前から、それこそ、早瀬探偵事務所という場所に来てから、ずっと探偵として過ごしてきたのですよね?」

「もちろん、そうだとも。ここは私の大事なお家であり、大事な探偵オフィスでもあるのだから。でも、一体それがどうかしたのか?何か不自然な点でもあったか?」

「い、いえ、そういうのではなく、ただ単純に、師匠が今までに推理した事件で一番大変だった。と思う事件は何ですか?という僕の勝手な興味本意なのですけどね。」


 僕の質問に師匠は少し考えたがパイプを咥えなおして答えた。


「ふむ…。私が今まで推理した事件は基本的に、警察では手に負えない事件ばかりだ。だから何が大変だったかは決められないけど印象が強い事件なら答えたれるよ。」

「ぜひ、お願いします。それはどんな事件なんなのですか?」

「それは…。そうだな、小説らしくタイトルをつけるとするならば、『三月(さんがつ)ウサギ殺人事件』と言ったところか。」

「『三月ウサギ殺人事件』…それは、どういう事件だったのですか?」


 僕の言葉に師匠はパイプから珈琲に移って、にやっと笑った。


「聞きたいかい?私の話は長くなるが先に親に連絡を付けた方がいいと思うが、どうだろうか?」

「大丈夫です。今日はそのつもりで来ていますから。それに、今日はもともと住み込む話もついていますので。」


 僕の言葉にあきれ返ったのか師匠はため息をつきながら言った。


「はぁ…全く君という人は…まあいい、それでは長くなるのを覚悟して、始めようか『三月ウサギ殺人事件』を。」


 あれは、私がまだ、探偵という職業について二年しかたっていない時だ。

 その日は大雪が降って私の事務所まで雪が積もっていた。

 当時の私は今のキミのような助手もいなくてひとりぽつんとコーヒーを飲んでいた。

 その時に依頼人は突然訪れた。


「あの…ここが『早瀬探偵事務所はやせたんていじむしょ』ですか?」


 久しぶりの来客なので私は少しうれしくなり元気に返答してしまった。


「はい、ここは『早瀬探偵事務所』ですよ。ようこそいらっしゃいました。寒いでしょうから、上がってください。私は車いすでの生活なので、散らかっておりますが、どうぞご自由におかけください。」


 その客は律儀なのか履いてきた靴をきちんとそろえながら私の前に座った。


「それで、どのような要件なのでしょうか?」


 私は静かに話を切りだす、客はハッとしながら言う。


「私は、花丸(はなまる)というものです。実は私の友人が先日、何者かに殺されました。」


 私は、殺人事件の依頼が大好きな人なのでその言葉に心が躍った。そこは今も変わっておらんが。


「ふむ…警察には相談したのですか?」

「はい、ですが警察は『自殺』と断定してしまったのです。私はそこに納得がいかなかったのでこちらにお伺いしました。」

「なるほど、経緯は分かりました。では、貴方が第一発見者ということで話を進めてもよろしいでしょうか?」

「はい、私が第一発見者です。では、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、では、さっそく事件にかからせていただきます。あなたが友人の死体を発見したのは何時頃でしょうか?」


 私は、せっかちな性格なので事件について花丸さんに取り調べを行った。その結果、色々なことを聞き取ることができた。


『1、花丸さんは友人の家に行くとその日約束をしていた。

2、第一発見者の花丸さんが友人の死体を発見したのは夜の十一時。

3、花丸さんが警察に連絡したのはそれから十分後の十一時十分ちょうど。

4、花丸さんが来た時、友人はすべての扉に鍵をかけて首を吊ったような状態で死んでいた。

5、花丸さんはマスターキーをあらかじめ友人から受け取っていたため入ることができた。

6、友人の死体のそばには遺書のようなものが発見され指紋は友人の者と警察は断定している。』


「どうか…犯人の捜索をお願いしたいです。友人の為にもそして私の為にも…。」


 花丸さんは泣きじゃくりながら私にお願いしてきたのだ。そこまでされたのだ。

 この事件を引き受けなくてはいけないと私は心の中で思った。


「顔を上げてください、花丸さん。とりあえずは警察に話を聞いてみます。何か進展がありましたら遠慮なく私のところに尋ねてください。連絡先はこちらです。」

「よろしくお願いします。」


 のちに、この依頼人が私にとって大きな飛躍を遂げることになることはその時の私は知らなかった。


 それから数日たった時に私のもとに依頼人の花丸さんから一通の電話があった。


「はい、早瀬です。ああ、花丸さん。どうかしましたか?えっ…事件の調査を取りやめたい?いったいどういうことですか?」


 それは、事件の調査を取りやめたいという電話だった。


「私も、考えたのですよ。それで、友人の事は残念ですけど自殺という死因以外ありえないのですよ。それに警察もそれで納得しているし、もういいじゃないですか?」

「あっ、ちょっと、花丸さん。」


 その言葉を最後に私の前から花丸という依頼人はいなくなった。

 だが、私は納得がいかなかった。探偵というのはこういう仕事だと重視はしていた。それに私のモットーは『引き受けた事件は最後まで解く』なのだから自分の力で解こうとしていた。まずは、あてにしたのが警察の力だ。


「あの…私は、早瀬というものですけども…板東(ばんどう)刑事…いえ、坂東藤志郎(とうしろう)はいますか?」


 私が電話をかけたとき、二回目のコールで受付の人らしき人物の声が聞こえた。


「はい、板東は現在、勤務しております。お繋ぎしましょうか?」

「お願いします。早瀬からの電話だと言ってください。」

「かしこまりました。それでは、お繋ぎしますね。」


 私はここでいったん電話を置いた。

 この事件を調べてもらって万が一私が真犯人を当ててしまっては警察の面目をつぶしてしまうのかもしれない。と思っていた。


「もしもし、板東です。早瀬さん。聞こえていますか?」

「ああ、板東さん、ご無沙汰しております。」

「ご無沙汰しております。それで、どのような要件でしょうか?」


 板東さんの声に私は気分が落ち着いた。やるしかない。この事件を解決できるのは私だけだと。


「それが、ですね…。私のところにある依頼人が訪ねてきましてね…。」


 それから私は、板東さんに今まであった事を話し始めた。話を聞いた板東さんはなるほどと一つ、言葉を述べて続きを言う。


「分かりました。それではもう一度事件を洗っておきますね。」

「はい、お願いします。後、私も独自で考えてみたいので一度こちらに来ていただいてもよろしいでしょうか?」

「大丈夫ですが、この時期は少し忙しい時期でもありますので空き次第連絡を付けてお伺いしますよ。」

「ありがとうございます。その時に被害者の遺書があるはずなのでコピーをとってきてもよろしいでしょうか?」

「分かりました。それでは私はこれで…。」

「はい、ありがとうございました。」

 こうして、板東さんと私の二人三脚の事件捜査が始まった。


 ここまでの話を聞いた僕は少しびっくりしたように目の前にいる師匠に聞いた。


「師匠と叔父さんって知り合いだったのですか?」

「ああ、そうだとも。というか知らなかったのかい?私と板東さんは高校時代のクラスメイトでよく私の面倒を見てくれた人なのだよ。だから、君が私のところに来ると言ったとき、一番心配したのも彼だけど。」

「そうだったのですか…。道理であの人だけは僕に優しいわけだ…。」


 僕は後半部分をそこまで強調せずに静かに言った。


「うん?後半が聞き取れなかったのだが…。重要なことだったかい?」

「いえ、気にしないでください。それよりも続きを教えてください。」

「うむ…なんだか腑に落ちないがまあいいだろう。あ、珈琲をお代わりしてもらえるかな。話しているとのどが渇いて仕方ないのだ。」

「いいですよ」


 僕はそう頷くと水を入れたやかんに火をかけた。


 板東さんが今日うちに来るという連絡を先日、受けてから私は再度資料を眺めていた。


「ふむ…これはあとで板東さんに調べてもらうとして、そろそろ板東さんが来る時間だな。」


 その時に、事務所のベルが鳴った。


「早瀬さん、板東です。開けてください。」

「はーい。」


 私は、噂をすれば何とやらと思いながら私は自分の車いすを押してドアを開けた。


「こんにちは、早瀬さん。」

「こんにちは、板東さん。今回はわざわざありがとうございます。」

「いえいえ、私にできることがあるなら何なりとお願いしてください。できる限りの捜査は手伝いますから。」

「分かりました。寒いでしょうから上がってください。今、お茶を淹れますから。」

「分かりました、ではお邪魔します。」


 テキパキとお茶を用意している私を見て板東さんは聞いてきた。


「そういえば、ここに来たのも久しぶりだなぁ。あの時は高校生のころだったか…。」

「そうですねぇ…あの時の貧弱な少年がここまで成長するとは…。あはは、人間って恐ろしいですね。あ、お茶出来ましたよ。」

「いただきます。このお茶も久しぶりだなぁ…。今度からは珈琲にしません?探偵らしくていいと思いますよ。」

「あはは、そうですかね。それで板東さん。早速、要件について話したいのですが…」

「分かっていますよ。この前、発生した自殺についての事ですよね?当然、色々調べてきましたよ。」

「そうです。さて、電話で伝えた通り警察に預かっている遺書をコピーしてもらいましたか?」

「ええ、少しお待ちください。」


 そう言った板東さんはバッグの中から遺書のコピーを取り出した。


「こちらがコピーです。一応、このことは内緒にしてくださいよ。それでは、何かわかったら教えてください。では、私はこの辺で。」


 お茶をグーと飲み、帰ろうと板東さんが立ちあがった時に私は遺書を眺めながら気になったことを聞いた。


「板東さん、帰る前に一つ思ったことを言ってもいいですか?」

「ええ、いいですよ。」


 私は板東さんに思ったことを告げた。


「板東さん、この事件ただの自殺として片づけるには警察としてはもったいないと思いますよ。そして、いつか私はあなたにこういうと思います。」


 私はそういうと、英語で言った。


「『You will cooperate with me(あなたは私に協力をするでしょう)』」


 私の言葉を聞いた坂東さんは不思議そうに私を見た。


「どうして、そう言い切れるのですか?」


 板東さんは私の次の言葉を待っているかのように見えた。そこで私は少し意地悪してすべてを言わないでおこうと思い、あえてこうつぶやく。


「さぁ?なんとなくそう思っただけですよ。それでは。」


 板東さんは最後までこの言葉の本当の意味を知ることはなかったらしい。


「さて…とりあえず、もらった遺書のコピーを詳しく見てみようか。」


~遺書~

『この度は私の勝手な行動をお許しください。本当のことを申し上げますと、私はもっと生きたかったんです。でも、仕事はリストラ、さらには妻や子供にも逃げられ、もう耐えられなくなり今回、自殺という形で私の人生を終わらせます。後悔はしていません。最後に友人の花丸に会ってからこの人生を終わらせます。』


 遺書を読んだ私はこの遺書の違和感に気づいた。


「何で、この人は花丸さんに会うって知っている?ああ、そうか花丸さんがこの人を呼んだと思っていたが、実際はこの人が花丸さんを呼んだのか。うーん、でもこの違和感をこれで納得するのは嫌だな。もう少し考えてみるか…。」


 その時、電話が鳴った。私は誰だろうと思いながら受話器を取った。


「早瀬さん、板東です。事件に急展開を迎えました。」


 電話の主は先ほどまで私の事務所にいた板東さんからだった。


「板東さん、どうしましたか?事件に急展開って…。」

「早瀬さん、ついさっき、この事件の第一発見者の花丸という男が何者かに殺されました。」

「な…何ですって。」


 私は、板東さんの言葉を受け、受話器を落としてしまった。


「早瀬さん、大丈夫ですか?」


 私は板東さんの言葉に我を取り戻し、深呼吸をして板東さんの話を聞いた。


「はい、大丈夫です。それで、どういう状態で花丸さんは殺されたのですか?できるだけ詳しくお願いします。」

「はい、花丸は、公園の遊具のトンネルにうずくまった状態で死んでいました。胸から血が流れていたので殺されたとそこで遊んでいた子供たちが発見しました。」


 板東さんの話を聞いて、私は抱いていた違和感の正体に気づいた。

 ああそうか。そういうことだったのか。ということはまだアレがあるはずだ。


「板東さん、私も現場に行ってもよろしいでしょうか?」

「えっ、でも早瀬さんはめったに現場に行くことなんてないのに…」

「気が変わりました。私も行って確認しておきたいことがあるのです。お願いします。」


 私の申し出に少し考えた板東さんはため息をつくと承諾の返事をする。


「はぁ…分かりましたよ。でも、現場を荒らさないでくださいね。」

「了解です、それと現場にいた子供たちにも少し話をしたいのですが、子供たちは今どこに?」

「発見した子供たちは警察の方で親の帰りを待っていますが…少し遅らせますか?」

「お願いします。すぐにそちらに伺いますので…。」


 私はそれだけ板東さんに告げると車いすを器用に使い、事件現場の公園へと急いだ。

 私が、公園へ来た時にはすでにたくさんの警察の方々がいた。『keepout(関係者以外立ち入り禁止)』と書かれたテープを平然と超えて板東刑事を探した。

 でも、こんなに多いと板東刑事を見つける前に私が警察に何か聞かれそうだなと思った。


「すみません、ここからは関係者以外立ち入り禁止ですよ。」


 案の定、聞かれた。

 私は、車いすを翻して目の前の警察官を見た。


「いえ、私は関係者なのでここを通らせてもらいました。」


 私の素直な回答に戸惑ったのか警察官は目をそらしながら少し戸惑って言う。


「ええっと、関係者という証明はありますか?」


 私は、この言葉を待っていたかのようにニヤッと笑って言う。


「板東刑事はいますか?彼に『早瀬胡桃が到着しました。』と言ってください。」


 警察官は私の言葉を素直に受け取ってくれたらしく坂東刑事と確認を取ることができ、ОKをもらった。


「分かりました。では、あなたをこれから関係者と認めます。」

「はい、お願いします。」


 私は、こうして関係者と認められた。物わかりの言い警察官で助かったとその時は思った。


「さて…事件の現場よりまずは子供たちに話を聞きにいかないといけないな。」


 私は子供たちを探すために公園を一周してみた。勿論、板東さんを探しながら…。


「うーん、特に目立ったものはないな、もっと何か特徴的なものがあると思ったのだけれど。というかアレが未だに見当たらないということはすでに持ちさらされた可能性もあるなぁ。」


 そんなことを言いながら私は板東さんを探していた時にとある遊具で私の足は止まった。


「あれ…おかしい、この遊具はこの公園では使用禁止になっているはずなのに…どうして足跡がついている?それに、ほこりがここだけなくなっている。ということは誰かが使った後だということになる。だが、だれが使ったのだ?」


 そこで私は意識を推理の頭脳に切り替えた。


 その遊具は前に遊んでいた子供が転落したため、今はテープが張ってあったのを数日前に自分がここにきて確認をしている。しかし、本来ついているはずのほこりが一切ついてない、ということはここ数日の間にここに誰かが来たということだろう…では、誰がここに来たのだろう…そこで私の意識は現実に戻された。


「あ、こんなところにいた。早瀬さん、事件現場はそっちじゃなくてこっちですよ。」


 私は、その声に振り向き声の主を探した。


「ここですよ、早瀬さん。私です、板東ですよ。」

「ああ、板東さん。こんなところにいたのですか、それで子供たちは?」


 私は、板東さんに事件の内容を見ていた子供たちから話を聞こうとしていた。


「子供たちなら全員、こちらにいますよ、ついてきてください。」


 そういって板東さんは何かを納得したように私を見た。


「久しぶりに…早瀬さんの車いすを押してもよろしいでしょうか?」


 私は、高校生の頃にはもう車いす生活を送っていたため板東さんに押してもらっていたのだが、さすがに大人になってその機会は減っていった。それを思い出したのか板東さんは私の後ろに周り車いすを押してくれた。


「あはは、こうしているとなんだか高校生の時を思い出しますね。」


 私は押されている中、そんなことを板東さんに言った。


「そうですね…。あ、あそこですよ。」


 そういった板東さんは指をさし、子供たちの方へと案内してくれた。


「初めまして、私は探偵の早瀬胡桃といいます。ここで起きた出来事を調査しています。早速で悪いのだけれどここで起きた出来事の事をよく知っている人はいますか?」


 私はそういって子供たちに話しかけた。子供たちは誰も手を上げようとせずに押し合っている。さて、どうしたものかと思っていると一人の男の子が手を上げていった。


「早瀬さん、でいいですか?僕が一番初めにここにいた男の人を見つけた人です。男の人は僕に水を求めていました。とても低い声で『み、水を…』と言っていました。そして僕が水道で水を汲んできて男の人の方へと行きました。ですが、男の人は僕が水を運んでくる前に息絶えていました。この光景が見た男の人の最期です。」


 その男の子はとてもはっきりした声で私に話してくれた。

 その話を聞いた後、私は自分の推理と合わせた。そして一つの結論と私は導いた。


「そうか…そういうことだったのか…なら、この事件は…とても悲しい嘘が原因でそうなってしまったのか…。ふふ、なるほどね。」


 私の独り言に不思議そうに眺めていた板東さんは私の顔を見て何かを感じ取った。


「早瀬さん、もしかして…事件の犯人が分かったのですか?」


 板東さんの言葉にびっくりしたのはさっきの男の子だ。


「早瀬さん、まさか本当に僕の言葉で事件を真相へとたどり着いたのですか?すごい…なんでそんなことをサラッとやり遂げてしまうのか。僕にはわからないですよ。」


 男の子の言葉に私は車いすを翻した。そして、私は自信にあふれたような言葉で言った。


「ああ、これで全部分かった。やはりこの事件、すべての真相のカギを握っている人物を私は見ていたのだ。その人物を連れてきてくれませんか?板東刑事。」


 私は板東刑事に耳打ちをしてその人物の名を告げた。その人物の名を聞いたときに板東さんはありえないような表情をしていた。


「まさか…そんなことがあるなんて、分かりました。すぐにその人物を連れてきます。」


 板東刑事はすぐに自分の車に乗り込んで発進させた。その光景を見た後に私は男の子に向かって言った。


「君はよくこの出来事を見ていたね。正直、君の観察力には驚いたよ。よかったら今度私の事務所に遊びに来るといい。君の才能を開花させることができるかもしれない。」


 私は、この少年の観察力に賭けた。この人材はこれからも必要になってくるだろうと。そして、男の子は凛とした格好でこう言った。


「分かりました。今回のあなたの事件の活躍を見て僕も勉強をしたいと思いました。なので、これからちょくちょく遊びに行きますのでよろしくお願いします。」


 少年の言葉に私は少しうれしくなった。これから飽きない事務所になるだろう…とね。



 ここまでの話を聞いていた僕はふと、疑問を感じた。


「師匠、その男の子はその後、どうなったのですか?ここへは来たのですか?」


 僕の質問に少し笑いながら師匠は答えた。


「ふふ、その少年は今でも私の前に現れているよ。中学生にはなってあんまり遊びには来てくれなくなったけど来てくれたら私のお世話をしてもらっている、とてもいい子だよ。」

「そういうこともあるのですか…もしかして、その子は僕も知っている人ですか?」


 僕の質問に師匠はなぜか、少し考え込んではっきりした声でこう言った。


「ああ、勿論、君も知っているさ、それに私以上に君の方が知っているのではないのかな?」


 師匠の言葉の意味は分からなかった。

 僕は話をもとに戻そうと師匠に向かっておかわりを要求した珈琲を渡して、言った。


「師匠、とりあえずその少年の話は置いといて事件の方はどうなったのですか?」

「ふむ、そうだな…では、続きを話そうか。あちち…。」


 私が板東刑事に事件の真犯人を伝えてから二日後、警視庁に勤めている板東刑事から連絡があった。


「真犯人を発見しました。早瀬さんの言っていることがすべて正しければ奴が犯人です。」

「分かりました、ではその人を確保次第、私にモニターを映してください。後はこちらの方で何とかしますから…。」


 私はそれだけ板東刑事に告げると準備を始めた。


「長かったな…この事件もいよいよ終盤だ。そうだな、題名は『三月ウサギ殺人事件』と言っておくか…。別に三月の出来事ではないが、まあいいだろう。」


 私はそんなことを言いながら車いすを押して、ファイルを取り出し、モニターにあるソファーに座った。 その時、板東刑事からの着信があった。


「早瀬さん、お待たせしました。犯人を捕まえましたのでモニターにつなぎます。」

「はい、お願いします。」


 板東刑事にそう伝えた私は、映ったモニターに向かってこう言った。


「さて…事件を解決していこうか…。」


 その時にモニター越しに映った犯人の驚いた顔を私は一生忘れることはないだろう。


「な、どうしてあなたが…そんな…。」


 犯人は驚きを隠せなかった。私はそれを見てこう言った。


「ふふ、あれで、うまく私をまいたと思ったか?残念ながら私は執着心の強い方なのだよ。さて…それではまずは二つ目の事件から解いていこう。1番最初の事件から私が車いすだということは君もよく知っているはずだった。だから私が現場に来ることはないだろうと思って油断をしていたようだね。君が被害者を殺そうとしていた時に被害者はどこにいたと思う?この回答権は坂東刑事、あなたに渡そう。」

「はい、あのほこりのあるあの場所ですよね。」

「そう…普段は使用禁止になっているあのジャングルジムだよ。あのほこりの付き加減に私は疑問を持っていた。そして、君は近くにいた目撃者とは違う子供を脅し、大方『この子を傷つけたくなかったら降りて来い。』とでも言ったのだろう。君の子供を脅して…ね。そして、あとあとまずくなった君は口封じのために被害者を殺した。つまり一番、最初の事件の犯人を被害者は目撃していたために殺されてしまった。ということになる。では、それをなぜ早く警察に言わなかったのか…。ふむ、ここに私も見落としていたポイントがある。つまり、あなたは言えなかったんだよ。なぁ…そうじゃないのか?花丸さん、いいや正確には『第二の被害者花丸』の弟さんよ。」


 一連の犯人、及び花丸さんの弟は私に名前を言われて目を驚愕させた。


「早瀬さん、どうして私だと疑ったのですか?確かにそれだと辻褄は合う、しかしそれは想像の世界の話だ。証拠がないと私を犯人にするのは不可能ですよ。」


 花丸さんの言葉に共感したのは意外にも板東刑事だ。


「確かに、物的証拠がないと犯人と断定するには気が早い気がしますが…」


 板東刑事の言葉に私は少し呆れかえった。


「やれやれ、それでも君は警視庁の刑事か、それに物的証拠ならここにあるじゃないか」

「えっ?」


 私の言葉に花丸さんと板東刑事は驚いた。


「早瀬さん、どういうことですか?」

「そうだ!私が犯人だという証拠が何処にあるというのか。名誉棄損で訴えられることもできるぞ。」


 私はファイルから坂東刑事を得て入手した一番初めの被害者の遺言を見せた。


「こいつだ、すべてはこいつが物語っている。この悲しい事件のすべてが。」


 私は遺言の中の一文を抜きよるようにして言った。


「ここをよく見てほしい『最後に友人の花丸に会ってからこの人生を終わらせます。』と書いてある。しかし、この被害者は勘違いをした。それは、花丸という人物が二人いるということ。どちらかにあうということを記述していなかったから招いた悲劇でもある。おそらく、ここに書いていることはほとんど、君が書いたことだろう。さすがに被害者の字をまねるのはよほどの訓練が必要だからね。だから、君はワープロを利用して、文書を作った。そこに私は不自然を抱いた。どうして、この人は手書きではないのだろうか。普通、遺書と書かれたものにはワープロではなく、手書きによって、作られる。君は、友人を脅し、そして、殺すと不自然だとバレないように手の込んだことをやってのけた。まずは、この殺人をどうにか自殺に認めないといけない。そのために、君が行ったことは、大きくわけて三つ。」


 私は指を三にして、一つ一つ、折り曲げながら言う。


「まずは一つ目、これは誰でもできる。遺体を首にかけることだ。それも、死因を縊死にする必要があるからね。一般的には首吊り死ともいわれているが、基本的な成り立ちとしては、頸部を斜めに圧迫すると、頸部大動脈(頸動脈と椎骨動脈)、気管などが強く圧迫され、窒息状態となる。これらにより、血液が脳に供給されなくなり、中枢の機能が停止し絶命に至る。と医学ですでに出ている。つまり、首をカクリと落とし、宙ぶらりんにすることで死ぬ。ということだ。二つ目は、ドアの隙間から一酸化炭素を流し込むこと。三つ目は、鍵が被害者の手の中にあること。たったそれだけだよ。」

「それで、あなたは何が言いたいのですか!私を犯人にすることで、何のメリットがあるというのです!」


 モニターから、花丸さんの怒涛が響く。私は一つ、息を入れなおすと珈琲を飲み、はっきりという。


「ここまで回りくどいことをやりながら犯人にとってのメリットは何なのか。これは簡単、遺産をすべて奪い、裕福に暮らすためだろう。だが、犯人は知らなかったのだろうな。自殺では金は降りないということを。殺人にしておけば、降りたかもしれない金を。ここで、犯人はターゲットを変えた。一番手っ取り早く、そして、犯人に直結して、なおかつ誰も不自然になることはない。だから、二つ目の事件が起きた。朝方に呼び出し、殺すと、トンネルの中へ入れた。もちろん、指紋がでて、簡単に解決されてしまっては困る。だから、他殺ということで、金をもらう計画だった。そういうことじゃないのか?」

「く…だが、だが、どうやって一つ目の事件が被害者の手の中にあることが必要なのですか。他殺なら他殺でよかったのではないか。」

「自分が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ?」


 私は淡々と告げる。事の顛末を。


「犯人は、ここまで計画通りだったが、一つ、ミスを犯した。それは、遺体のそばに椅子を用意してしまったことだ。自分が、遺体を首にかけるときに使用した椅子。それを片付けるのを忘れてしまった。そこで不自然な自殺が出来上がってしまった。一人目は確か、妻子持ちだったそうだね。おそらく、指輪に糸か何かを通して、鍵をかけた後、通したのだろう。だが、そのあとに、火を着火して一酸化炭素を出そうとしたが、あいにく、火がなかった。これでは一酸化炭素中毒は作れない。考えた犯人は部屋の中に酸素充満しているのを確認、そこから、部屋を密閉にして、酸素だけを流し込む。酸素は空気の中に含まれているものだが、単体では毒にもなる。これで、トリックが完成したと思った犯人は、急いで、逃げた。これで、ある程度トリックは完成。一般的には自殺にしか見えないだろうけどね。私の推理はここまで。何か言いたいことでも?」


 私の言葉に花丸さんは特別何も言わなかった。きっと、すべて事実だろう。


「…私はね。兄が許せなかった。」

「ほう…聞こうじゃないか。」

「私の子供を脅した。あいつが私は到底許されることじゃない。あいつは一度目の殺人を終えると、私に言った。『金は全部長男である俺がもらう。お前はその一割にも満たないことしかしていないのだから。』と。ふざけるな。と何もしていないのは兄のほうだった。すべての計画が済んで、兄が捕まるのなら、私はそれでもよかった。だが、あの日、子供を脅しながら兄は言った。『お前が通報するなら、事件はすべてお前のせいにする。』と。ここで私は何かが切れた。今まで、ため込んでいた堪忍袋の緒が切れるかのように。だから、私は兄をあの公園で殺した。子供は幸い意識を失っていたのか、気づいてくれなかったが、これでよいと思った。これで、私は平穏に暮らせると思った。あなたが出てこなければ!兄があなたを紹介しなければ!こんなことにはならなかった。」


「…花丸さん、お兄さんは言っていました。『友人の為にもそして私の為にも…』と。あの言葉はすべて、謎が解けたら罪を償うと思っていたそうですよ。私にはそう捉えることが精一杯でした。お兄さんはあなたを助けたかったのですよ。救いたかったのは友人と、あなた、この二人を救う。そのために人を殺した。お兄さんの選択肢はもっと他にあったかもしれません。当然、殺人は許されないことです。でも、お兄さんをあなたは許したのではありませんか?」

「……早瀬…さん。私は…とんでもないことをやったのですか?」

「ええ、ですが、しっかりと償ってください。それが今あなたのできる最善策ですよ。」

「……。はい。」

「もう行きましょう。詳しくは署で聞きます。」


 坂東刑事が花丸さんに手錠をかけ、連れて行った。


「ふぅ……。」


 私はブレイクタイムの珈琲を一杯飲むと、誰もいないはずのモニターに呼び掛けた。


「花丸さん、私はあなたをこういう形でしか救えません。それを願ったから事務所に来たのでしょう?」


『ええ、本当にありがとうございます。約束、果たしていただいて。』


「とんでもないですよ。さあ、私との会話はここまでにしましょう。あなたは行くべき場所があるのですから。」


『はい。』


 ここでモニターを私は切った。

 数日後、新聞には容疑者の名前と、被害者の名前が小さく書かれてあった。


「以上が、私の一番苦労した事件簿だね。って、聞いているのかい?一真くん。」

「え、ええ。ですが…何とも言えませんね。その事件については。」

「そうかい?私にとっては現場に行くだけで難事件だと思っているけど。」

「…何とも言えませんよ。探偵という仕事は。」


 僕は静かに、そして吐き捨てるようにして言った。それを師匠は車いすに乗り、言う。


「まあ、確かに何とも言えないな。だが、私はこの短い人生を探偵という仕事に費やしたことはとても大きいと思うよ。」


 そういった師匠はとても大きく、壮大に見えた。


 それから数十年後、僕は今日も珈琲を淹れる。長年、淹れてきたこの味を変えることはない。探偵としての仕事は珈琲を淹れることから始まるのだから。


 師匠は去年、五十八歳でこの世を去った。最期まで謎を解いていたその姿を僕はもう見ることはできない。残されたのは僕と、この一つの車いすだけだ。

 そして、今日も扉をたたく音が聞こえる。


「おい!一真!事件だ。」

「おじさん、今回はどんな事件ですか?」


 僕は車いすを用意して、あっ、と思うと、写真立てから写真を一つ取り出し、車いすに座る。


「お前はいつもそこだな。」


 叔父さんが聞いてくる。当然、ここは僕と師匠の特等席なのだから。


「叔父さん、僕は動きませんよ。さあ、珈琲ブレイクです。」


 そういって、僕の探偵としての仕事が始まろうとしているのだった。

(終わり)

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