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一寸法師


???

「…けて!」


「助けてくれー!!」





わたし

「…ん…」



誰かの叫び声で目を覚ました。



()()()()()()…?




…わたしは眠っていたの?



いつの間に?




体を起こすと、



わたし

「…う、痛い…。」



体中が痛んだ。




それもそのはず、


寝ていたのは


コンクリートの上だった。




しかも…



わたし

「…きゃあっ!」



驚いた事に、


寝ていたのは


どこかの建物の屋上の隅。



簡易な安全策のすぐ脇だった。




右を向くとすぐに


街の風景と、


高所から見下ろす


遠い地面が目に入った。





…なんで?


ここは?


一体なんで


こんな危ない所で眠ったの?




…あれ?



…どうして?




…記憶が…


何も…




???

「おい!」


「起きたのか!?」


「早く!早く助けろ!」





混乱していると、


急かす声がした。



声のする方へ振り向くと




わたし

「…!!!」



再び息を飲んだ。




わたしの足元のすぐ近くに、


屋上から空中へ向けて、


一本の鉄骨が


落ちないバランスで置かれていて、



その鉄骨の先端には、


一人の男性が逆さ吊りにされていた。





ロープで


頭部以外の体中を


ぐるぐる巻きにされているその人は


自らではどうすることも出来ず、


ただ吊られているしかないようだ。





その上


更に恐ろしい事に、



鉄骨には


小さな回転する歯車が取り付けられており


その歯車はゆっくりと


男性を吊るしているロープへと


近付いていっているのだった。






わたし

「…なに…!?」


「これ???」




???

「おい!しっかりしろ!」


「早く助けるんだ!」





わたしの方は、


縛られたりといった事は


何もされていない。




再び急かされ、


驚きで固まっていた体が


やっと動いた。



慌てて鉄骨へ寄った。




鉄骨の端には、


回転している歯車の


モーターらしい


小さな装置があった。




しかし


その装置には


電源のようなスイッチは無かった。



代わりに、


デジタル時計のような液晶パネルと、


0~9の数字のボタンと、


デリートのボタン、


エンターのボタンが付いていた。



それと、


一枚の薄いプラスチックの板が


脇に添えるように置かれていた。




その板にはこう書かれていた。



┌──────────────┐


3=90


6=180


9=270



では、


12=



*入力は一回きり可能ですよ*


└───────────────┘





わたし

「???」




???

「おい、なんだ!?」


「何かあるのか!?」




わたし

「あの~」


「その歯車のモーターらしきものと」


「変な装置があります!」




男性に聞こえるように


そう叫んだ。





???

「モーター!?」


「早く電源を切るんだ!」




わたし

「それが、電源は無いんです。」


「あるのは…」



目の前の装置と


プラカードについて説明した。






???

「!?」


「なんだそりゃ!」


「ナゾナゾかぁ!?」


「入力は一回きり!?」


「ふざけんな!」




わたし

「12= の答を」


「入力するのでしょうか!?」




???

「そうなんだろうな!」


「しかし、何だよ答は!」




わたし

「…3=90を基に考えると」



「6=180は、」


「3×2=6」


「90×2=180と、」


「どちらもそれぞれ2倍に。」




「9=270も同様に」


「どちらもそれぞれ」


「3倍になっているという」


「規則性はありますが…。」





???

「おぉ!」


「お前アッタマ良いな!」



「じゃあ答は!?」





わたし

「…3×4=12なので、」


「90×4=360ですが…」




???

「おぉ!すげぇ!」


「早く入力しろ!」





わたし

「でも、」


「それではあまりに」


「そのまますぎませんか!?」




???

「…はぁ!?」




わたし

「ただ計算しただけで解ける答なら、」


「わざわざこんな凝った仕掛けを」


「施す必要があるのでしょうか!?」





???

「…はぁ!?」


「知らねーよ!」


「わっかんねーよ!」


「こっちはこんな高所で」


「縛られた上に上下逆に吊られ」


「地面に落とされようとしてんだよ!」


「簡単な足し算引き算すら」


「できねー状態だっつーの!」




わたし

「そ、そうですよね…。」



そうだ。


わたしが冷静になって考えなくては…。





何故


自分がこんな所で寝ていたのか


この男性が誰なのか


全く思い出せないのに、



何故か


このナゾナゾらしき事に関しては


頭が冷静によく働く。






こんな緊迫した場面なのに


問題を解こうとすると、


ワクワクドキドキした感覚を


思い出した。




…そうだ!




わたしは、


ナゾナゾやパズルが大好きだったんだ…!






恐らく


記憶喪失というものに陥ってるのであろう


自分の事を、


そう1つだけ思い出した。






???

「おい!?」


「まだか!?」


「早くしろ!」


「時間がねーんだ!」




目をやると、歯車はもう


男性を吊るしているロープの


すぐそこまで迫っていた。




わたし

「…時間がない…」


「時間…!」


「そうだ!」



刹那、脳裏に電流が走った。




わたし

「答が分かったかもしれません!」



???

「何!?」


「早く!」



わたし

「でも、合ってるか…。」


「入力は一回きりだと…。」




???

「いいよ!」


「何でも良いから早くしてくれ!」


「お前頭良さそうだから大丈夫だろ!」


「タイムアップよりマシだ!」




わたし

「…分かりました!」


「入力します!」



歯車はついに、ロープと接触してしまった。


迷う暇はない。


震える手でボタンを押した。



わたし

「…エンター!」


カチッ




わたし

「止まって…!」




…祈りが通じたように、


それまで鳴り響いていた


歯車の動作音が止んだ。





わたし

「…や、」


「やったぁ!」




???

「…おい!?」


「大丈夫なのか!?」




わたし

「大丈夫です!」


「歯車は止まりました!」





???

「…はぁぁぁぁぁ!」


「取り敢えず助かったぁー!」




わたし

「次はどうしましょう!?」



まだ安心できる場面ではない。



一刻も早く


男性をこの状態から


解放した方が良いだろう。





???

「…この縛ってるロープさえ解ければ」


「自力でなんとか出来るかもしれない。」




鉄鋼に吊るしているロープと、


体を縛っているロープは


別のようだ。






???

「なぁ、お前、」


「こっちに来てロープを切れないか?」




わたし

「…えぇ!?」


「わたしが乗っても」


「大丈夫でしょうか!?」



「落ちないでしょうか!?」




???

「俺、だいぶ暴れて揺れてたけど」


「鉄骨はビクともしてなかったから」


「大丈夫なんじゃないか?」




わたし

「…でも、切るといっても、」


「道具が…。」




辺りを見回りしたが、


屋上は殺風景。



ハサミやカッター等は勿論、


それ以外の物も一切


何も落ちてもいない。





???

「その歯車、外れねーか!?」



わたし

「…あ!」






…という訳で、


わたしは恐る恐る、


鉄骨の上を四つん這いで進んだ。



その太さは30センチくらい。


2メートル程が、空中へ突き出ている。




見た目通り頑丈だったようで、


わたしの体重が加わっても、


落下は しなかった。





歯車まで辿り着くと、


歯車は


マイナス溝のあるネジで


固定されていた。




そのネジは、


この歯車の電源スイッチの役割を果たした


問題文のプラカードと


厚さが上手く合い、


弛めることが出来た。






鉄骨にうつ伏せになり


腕を伸ばすと、


なんとかギリギリ、


男性の体をぐるぐる巻きにしている


ロープの端に届いた。




外した歯車で、ロープを切る。





???

「ロープを手放すな!」




男性の指示通り、


切断したロープの端を持って屋上に戻り、


柵に結びつけた。





男性はもう片方の端をキャッチし、


命綱代わりに自分の体に結びつけた。




そのロープを上手く手繰るように使い、


体勢を起こし、


鉄鋼の上に座った。




そして、


歯車で


自分と鉄鋼を結びつけていたロープを


切った。








男性が無事に屋上に辿り着くと、



わたし&???

「…はあああぁぁぁぁぁぁ」



二人とも同時に


屋上の固いコンクリートの床に


へたりこんだ。






???

「…」



わたし

「…」





二人とも仰向けになり、


気持ちが落ち着くまで、


方針状態で寝転んでいた。











???

「…なぁ」




大分長らく


沈黙の時間が続いた後に、


男性が先に口を開いた。





???

「さっきのふざけたナゾナゾの答」


「何だったんだ?」




わたし

「…え?」


「あ、あぁ」




???

「あの時は全然考える余裕なくて」


「問題すらよく覚えてないけど。」




わたし

「…ええっとですね」


「あの問題が指していたのは、」


「時計の短針と長針の間の角度を」


「時計回りに計った時の値だったんです。」




???

「…はぁ!?」




わたし

「3=90」


「これは、3時の時は90度。」



「6=180」


「これは、6時の時は180度」



「9=270」


「9時の時は270度。」



「では12時の時は?」


「短針と長針は」


「ピッタリ重なっているので」


「0度。」




「つまり答は、0でした。」





???

「ヒュエ~、なんだよ!」


「めちゃひっかけじゃん!」


「作ったヤツ性格ワリーな!」




わたし

「そのまま解いていたら」


「危なかったです。」




???

「お前、頭いいな!」



わたし

「いえ、そんな。」


「ただ、こういうナゾナゾとかが好きで」


「昔からよく解いてたみたいなので」


「慣れてるだけです。」



「それに、」


「あなたの」


「時間がないって言葉が」


「ヒントになりました。」





???

「解いてた”みたい”…?」


「自分の事なのに何でそんな言い回し?」




わたし

「…それが…。」


「わたし、記憶喪失みたいです…。」



「自分の名前すら」


「分からないんです…。」




???

「…はぁ!?」





わたし

「でも、さっき問題を解いてたら」


「自分がナゾナゾ好きだったのを」


「思い出しました。」



「…すみません、不謹慎で…。」




???

「…いや、別に」


「助かったからそんなのはどーでも。」



「しかし、名前すら覚えてないのか?」




わたし

「…はい…。」



「あなたの事も…」


「覚えてなくてすみません。」




???

「え?」




わたし

「こんなよく分からない特殊な状況に」


「一緒に陥ってるということは、」



「お互いが」


「何か繋がりのある関係である方が」


「可能性が高いと思ってるんですが…。」




???

「…へえぇ」


「お前、本当に頭良いんだろうな。」




わたし

「…今までのあなたのお言葉からすると」


「あまり深い関係では無いようですが…」



「でも、もし、」


「わたしの事で」


「ご存知の事があれば」


「教えて下さい!」




「そして」


「わたしは何で」


「こんな所で寝ていたのでしょうか?」





???

「…俺もお前と似たようなもんさ。」




わたし

「…え?」


「あなたも記憶が…?」




???

「お前より少しマシみたいだけど。」



「お前の名前は、そら。」





わたし

「…そら…!」



その名前を口にしたとたん、


懐かしさと安堵感が沸き上がった。




そうだ。


わたしは、そら。






???

「名前だけは、覚えてるんだ。」


「どういう関係なのかは分からない。」




「そしてここには突然現れた。」





そら

「…え?!?」




???

「俺も、目が覚めたら既にあの状態。」



「目が覚めて数秒後に」


「あのクソ胸くそ悪い歯車が作動して、」



「続けて」


「何か音の無い爆発でも起こったように」


「そこがものすごい発光したんだ。」



男性は


わたしが目を覚ました場所を指差した。





???

「光は数秒で消え、」


「そしたらお前がいた。」






そら

「…そう…だったんですか…。」




これは夢なのだろうか。



色々と、


起きていることが


非現実的だ。








そら

「…あの、」


「…あなたは、」


「タレントさんなのでしょうか?」





???

「は?」




そら

「あ、いえ、すみません。」


「何故ならあなたの服装が…。」




…そう。



非現実的な要素が多過ぎて


もはや


大した違和感ではないように


感じるが。




しかし、


男性の服装も


紛れもなく、


ここの異質さの1つだ。






そら

「和服…というか、」


「着物…というか。」



「普通の男性は」


「あまりしない格好なので。」



「何か番組の撮影なのかなと。」






???

「あぁ、ははは。」



「ま、タレントと言われると」


「一種のソレかもなぁ?」




わたしの言葉に、


男性は意味ありげに笑っている。







???

「いいか?」



「俺はなぁ」


「一寸法師だ。」





そら

「…え???」




「いっすんぼうし…さん?」




…そんな芸能人、いたかなぁ?


全然ピンとこない名前だった。





一寸法師

「…オイオイ…。」


「まさか知らないのか?」



「お前、頭良さそうだけど、」


「モノはあんま知らないタイプ?」



「おっそろしー時代だなぁ」


「”ユトリ”…だっけ?」




そら

「…あの…。」


「本当にごめんなさい!」




一寸法師

「日本も末期だねぇ…。」



「幼稚園で先生に」


「読んでもらわなかったのか?」





そら

「…え!?」


「幼稚園で!?」


「先生に!?」



「…あの、あなた…!」


「一寸法師って…まさか…!」





一寸法師

「そうそう。」


「分かったぁ!?」


「絵本の一寸法師だよ!」



「まぁ、」


「打出の小槌で」


「大きくなった後の姿だったから」


「分かりにくかったのはあるよな。」





そら

「………えええええ!?」





まさかまだ、


これほど衝撃を受けるような事が


残っていたとは…!





そら

「ええと!?」


「ではここは絵本の中とか???」




一寸法師

「ではないぜ。」




そら

「…では」


「一寸法師さんが」


「わたし達の世界に」


「絵本から抜け出してきた??」





一寸法師

「ここが果たして」


「お前達のリアルかは分からない。」




そら

「…ううぅ…。」



なんだか、何が何やら…。




そら

「でも、一寸法師って、」


「とっても昔のお話ですよね?」



「でも、一寸法師さん、」


「話してて全然」


「現代の人と変わらないような…」





一寸法師

「あぁ。」


「俺は」


「この時代で印刷された(産み出された)からな。」



「知識とか話し方は」


「現代がベースなんだ。」






そら

「へ、へえぇ…。」


そんな感じなんだ…。





そら

「でもわたし」


「一寸法師さんと知り合いなのかぁ…。」




一寸法師

「知り合いっていっても」




「さっき言った通り、」


「お前の幼稚園に俺の本があったとか。」


「もしくはお前が俺の本を持ってたとか。」



「どーせそんなんだと思うけどな。」




そら

「…あぁ。」


「そういうことなんですね。」



「わたしも昔話の登場人物だったのかと」


「思っちゃいました。」





一寸法師

「まぁ可能性ゼロじゃないけど」


「服装現代だから違うんじゃないかな。」



「俺らは服装は変わんないからさ。」


「そういうシステムだってのも覚えてる。」





そら

「…システムって…?」


「…ここのシステム?」





一寸法師

「んー、詳しくは忘れた!」



「てかそれより。」





そら

「え?」




一寸法師

「お前をここに連れてきたのも」


「かぐや姫の仕業かは分からんけど」





そら

「…え!?」




一寸法師

「俺をあんな目に遭わせたのは」


「かぐや姫で間違いないんだ!」




そら

「…か」


「かぐや姫!?」




一寸法師

「あぁ。」




「証拠は何もないけど、」


「お前を拉致してきたのも」


「かぐや姫かもしれない。」




「俺はかぐや姫を許さないから」


「探しだして こらしめる!」




「お前はどうする?」





そら

「…え?」




一寸法師

「今後も」


「さっきみたいなナゾナゾが」


「またあるかもしれないから」


「お前が一緒だと心強いが…。」





そら

「…わたしは…。」



「ここが現実じゃないのなら、」


「元の世界に帰らなきゃ。」



「でも手がかりとかゼロ…。」



「一人で冒険するなんて…。」



「一寸法師さんが一緒だと」


「わたしも心強いです!」



「だから」


「一緒に行きます。」






一寸法師

「よしよし。」



「じゃ、頑張ろーぜ。」




そら

「はい!」

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