8:いざ王都へ
8話目です。
「このお肉美味しいわ!」
王都の人間に野宿の飯はイマイチだと思ったが、
エルマには好評のようだ。
「そうですか?喜んでもらえて良かったです」
ヘレナも料理を褒められて嬉しそうだ。
といっても木の実をを擦り潰し肉にかけただけのものだが……
「ヘレナちゃん料理上手ね」
「そ、そんな事ないですよ」
すっかりヘレナとエルマは仲良くなっている。
俺より仲良くなるの早くない?
ヘレナにとって同性のおねえちゃんだからかな?
少し嫉妬してしまう。
「それにしても美味しいわ。このお肉一体なんなの?」
「さっきのイナト二デールですよ?」
ヘレナが答える。
「……えっ?」
エルマが固まる。
「「?」」
俺とアントンは顔を見合わせる。
「イ…イナト二デールのお肉なの?」
「それが何か?さっき解体してただろ」
「そうだけど、そんな高価な肉をこんなに調理したの?」
目の前の空の器にはさっきまで大量の肉があった。
「早く食べないと傷んじゃうじゃないですか」
ヘレナがさも当然というように答える。
「まだまだあるんだよ」
アントンが答える。
「ま、まだまだあるの?」
「あるよ。1頭分あるからな。腐らない内に食べなきゃいけないだろ」
「そ、そうなのね」
「なんなんだ……別に普通じゃないのか?」
「だってイナト二デールの肉よ?高級食材よ?」
「へぇ~~そうなんだ。」
アントンがその高級食材の最後の1枚を平らげた。
「そうなんだって……高級食材なのよ?売ったら結構なお金になるのに!」
あぁ~そういうことか。
「でも高級食材といえども、傷んでしまったら売り物にならんだろ?」
「私のコプシータがあれば傷めないで王都へ持って行けるのに…」
「あっなるほどね。だからこんなに1度にたくさん食べたら勿体無いって言ってんのか」
そういうことね。
「だけど、コプシータなんて今日初めて知ったからな」
生ものを長期保存する方法があるなんて思ってもなかったからな。
「まぁあなた達のものだからどう扱おうと勝手だけど…」
エルマは溜息を吐く。
「私としてはやっぱり拳石がなかったのは厳しいわね…」
そういえばそんな約束してたな。
「拳石あげるって言ってたけど、どんなものか分かんないからなぁ」
「どんなもの分からないであげると言ったの?あなたは?」
呆れられてしまった。
「いいじゃねぇか。あげるって言ってんだから」
「その拳石が無かったんだけどね…」
うっ……それを言われると厳しいな。
「悪かったって…」
「まぁなかなか手に入る物でもないし、しょうがないわよ」
そう簡単に手に入るとは思ってないし。
本気で期待してた訳じゃないわと呟く。
「そろそろ休みましょうか。明日は王都へ向かうんでしょう?」
「そうだな。そろそろ寝るか」
ヘレナとアントンは既に奥の部屋で寝る準備をしている。
「私は外で寝るわ」
家の外に出ようとする。
「なんで?ここで寝ればいいじゃないか?」
さも当然のように一緒に寝ようと言う。
「何を言っているの?あなたは…それとも私と一緒に寝たいのかしら?」
「2人がいるだろう?」
ヘレナとアントンの事だ。
「それに外で寝たら風邪引くぞ」
「………わかった。そうさせてもらうわ」
「奥の部屋で2人と寝てくれ。俺はここで寝る」
「……部屋に来ないでよ」
行かねぇよ。危ないだろ。……俺が!
………………………
………………
………
翌朝
「さて、そろそろ行きましょうか」
準備を終えたエルマが俺たちに声をかける。
必需品は全てエルマのコプシータにしまっている。
使うか際どい物はおいて行くことにした。
「「はーーい」」
子供2人は元気に返事する。
すっかり懐かれている。
「うぃ~~す…」
なんかいつの間にかこいつがリーダーみたいになってる……
「覇気がないわね……しっかりしてちょうだい」
怒られちまった。ごめんて。
「悪い悪い。とりあえず早く行こうぜ」
エルマは呆れたように溜息を漏らす。
俺たち4人は意気揚々と歩き出す。
後ろを振り返る。
段々と村が小さくなっていく。
いつの間にか1ヶ月以上もあの村に住んでいたな。
「………………お世話になりました」
小さく呟いた俺の声は誰にも届かなかった。
「王都へ着くのは何時頃になるんだ?」
歩きながらエルマに尋ねる。
「このペースなら昼過ぎには到着するかしら」
「そうか案外早く到着するな」
それなら街を見て回る余裕もあるな。
「じゃあ今日の内で魔物の素材とか売れるかな?」
他にも宿の手配、ギルドへの登録もある。
「そうね、その時間はあるはずよ。でもその前にギルドに寄るの忘れないでね?
イナト二デールの件があるんだから」
「わかってるよ。………………おっ?」
「どうしたの?」
「あれ……………」
俺は前方を指をさす。
そこにはサッカーボール位の大きなゼリー状の塊が1つある。なんだあれ?
「あぁ…スライムね。別に珍しいものではないわよ?」
無視していいわとエルマが言う。
「あれがスライムか…初めて見たな…」
「スライムなんてどこにでもいるわよ?あなた色々旅をしていたのでしょ?」
「あ~…まぁ…」
しまったそんな設定だったな。
「私もスライムは見たことありますよ?」
え?マジで?
「僕もあるよー」
アントンまで……
そういえばこいつら王都を目指して旅してたんだもんな…
そりゃ見たこと位あるか……
「スライムって危ないやつなの?」
俺はスライムに近づいて行く。
「まぁ基本無害だけど、危険を察知したら攻撃くらいはするわ。
それに自分から攻撃を仕掛けてくるような魔物じゃないわ。」
なるほどね……
俺はスライムの近くにしゃがむ。スライムはプルプルと震えている。
何か可愛い生き物だな。
するとスライムが俺に飛びかかって来た。
クァーニの時と一緒だ。俺はそのまま右手だけでスライムを掴む。
そして…
「ふん!!」
そのままスライムを地面に叩きつける。
スライムは弾けた水風船の水の様に地面に消えていった。
「初めてスライムに会ったと言うくせにあっさり倒すのね」
エルマがまた呆れている。
「………さぁ先を急ごう」
俺は呆れているエルマを無視して先を歩く。
「あっ!まってよーーー」
アントンが追いかける。
「私たちも行きましょう」
ヘレナがエルマの手を繋ぐ。
「えぇそうね」
2人も後を追いかけていく。
………………
……
「あっ見えてきた。」
ヘレナが声を上げる。
「おっホントだ。」
太陽が真上を超えたくらいでとうとう王都が見えてきた。
丘の上からは遠くに小さく街らしいのが見える。
「とうとう王都に着いたか」
「そうよ。あれが我がジグリンド王国の王都、クンドールよ」
小高い丘の上からは見える街はかなり大きく、全体を見ることはできない。
「でけぇな……あっあれが城か」
1件だけかなり大きな建造物がある。
あれ?あの城の周りを囲うあの大きな壁なんだ?
「なぁ、あの大きな壁ってなんだ?城壁にしちゃでか過ぎるんじゃないか?」
城壁の中にも街がある……
「あら?気がついた?あの壁の中の街が王都なのよ」
は?
「じゃああの外壁の外の街は王都じゃないのか?」
「いえ、ちゃんと王都よ。正確には王都外街という街よ」
おうとがいがい?
「なにそれ?」
「王都の周りにある街の事よ」
「どうゆうことだよ?」
「見ての通り王都には街の周りを囲うように高い外壁があるでしょ?。
そしてその外壁の外にできた街が王都外街よ。ちなみに外壁の中の街は中街と言われているわ」
「なるほどね。……もしかして壁の外と中で何か違うのか?」
「察しがいいわね」
エルマは関心したように俺を見る
「一番の違いは税金ね。高い外壁に守られた街は王族はもちろん貴族に富豪、
いわゆるお金か権力を持っている人間が多く住む、つまりその分税金も高くなるわ…」
なるほどね……
東京で例えると家賃が高い山手線圏内って考えればいいか……
「それに有力者が多く住んでいるから治安もいい。まぁ高い税金が払えるなら誰でも住めるわ」
うん…考えておこう
「そして、あなた達みたいに王都にチャンスを求めてきた人間が溢れて壁の外に街を作った……」
「それが王都外街か…」
エルマは頷く。
「あなたも感づいていると思うけど、外街の治安は中に比べると良くないわ。
治安もいい所はあるけれど中と比べるとやっぱりね………」
「ん~……なるほどなぁ……」
色々考えないといけないな。
「他にも聞きたいことはあるけど………そうだな…壁の外の人間が中に入る事って出来るのか?」
「えぇ。入場料を払えば可能よ。宿も高級な宿しかないからは今のあなた達では厳しいわね」
「そうか……ギルドは何処にあるんだ?中の街にあったりしないよな?」
「大丈夫よ。ギルドは外街にあるわ。中にあるとハンターが大変だからね」
「そりゃそうだよな。」
街がさっきより近づいてきた。
「おぉなんかいい感じだなぁ」
いかにも中世のヨーロッパの街って感じだな。
なんでファンタジーっていつもヨーロッパ風なんだろう?
…………
「「おおおぉぉ………」」
ちびっ子2人は大きな街に感激している。
俺も心の中で感動している。
遂に異世界の街にやって来た。
ずっと長い間、森の中で生活してたからこんなに人がいる事に感動している。
「とりあえず素材売ってお金作るところからだな」
「ギルドへの討伐報告からよ」
エルマが後ろから睨んでくる。
…遂にジト目ですらなくなった。
「そ……そうで…すね。」
「はぁ……ギルドはこっちよ。着いて来なさい」
「「は~~い」」
「は~………い」
まじで尻に敷かれ始めてるな、俺…
出会って1日しかたっていないというのに…
俺もトボトボと後について行く。
「しかし、思っていたより賑わってるな」
辺りをキョロキョロ見渡す。
「当たり前よ。外とはいえ王都よ。
それよりあまりキョロキョロしないでもらえる?田舎者みたいよ?」
「実際、田舎者だしな」
「何?拗ねてるの?」
「拗ねてねぇよ…」
「落ち着いてるように見えて子供っぽいところあるのね」
エルマがクスクス笑う。
テツヤはそっぽを向く。
「ほら、いつまでもいじけてないで、着いたわよ。ここがギルドよ」
「でけぇな…豪邸かよ……」
エルマの視線の先には周りの建物と比べて1回り大きな建物がある。
「そんなに驚く程の大きさでもないわよ。ついてきて。さっさと報告しましょ」
「それもそうだな」
俺達4人は建物に入っていく。
中は思ったより広い。
入口側に受付らしきカウンターのようなもの、その奥に広いスペースがある。
フードコートみたいだな。
「思ったより広いな」
中にいる人は皆ガタイのいい男や鎧を身に纏った人が沢山いて賑わっている。
「ほらこっちよ。早く来て」
エルマに呼ばれ、エルマの元に向かうと女の人がいた。
「紹介するわ。この娘はマルティナ。ギルドの受付嬢をしているわ」
紹介されたのは金髪のセミロングの女性だ。恐らく年上だろうか。
「はじめましてマルティナです。よろしくね」
「よろしくお願いします」
俺は軽く会釈する。
「あら?ロビンの報告と違って結構おりこうさんなのね」
ロビン?誰だっけ?
「もしかして忘れてる?昨日あなたを泥棒呼ばわりした男よ」
「あぁ…あの馬鹿か、あいつそんな名前なんだな」
心底どうでもいいよ。
「馬鹿って……」
マルティナは引き気味にエルマを見る。
エルマも色々あったのよと肩を竦める。
「と、とりあえず依頼達成という事でいいんですよね?」
マルティナが話題を変える。
「えぇ、手紙で伝えた通り討伐したのは彼よ。私が保証するわ」
「わかりました。それで報告させて頂きます。
それでは報奨金を持ってきますからカウンター近くのベンチでお待ちください」
マルティナは一礼して奥へ受付の奥に引っ込む。
俺達4人はベンチに座る。
「こういうの結構時間かかるのか?」
「そんなことないわ。すぐ終わるわ」
「そうか。だったらいいや」
ヘレナとアントンは興味深げに辺りを見渡している。
勝手にウロチョロしないあたり賢い子達だ。
「あーーーーー!!!」
ん?なんだ?
大声がした方へ振り返る。
そこには金髪の男がこちらを指差し固まっている。
…誰だこいつ?エルマの知り合いか?
「このイナト二デール泥棒!!何故ここにいる!!」
金髪の男は声を荒げ俺を指差す。
「ロビンやめなさい。イナト二デールはちゃんと彼が討伐してるの!!」
横にいたエルマが反論する。
こいつ確か……
「昨日の馬鹿か……」
うっとおしい奴に会っちまった。
「だ、誰が馬鹿だ!!僕にはちゃんとロビンという名前があるんだ!!」
「何時までも人を泥棒呼ばわりする奴を馬鹿と呼んで何が悪い」
それに俺にもテツヤって名前があるんだ。名乗らないけどな。
「落ち着きなさいロビン。テツヤも!!」
エルマが2人を嗜める。
「エルマが名前で呼んでいるだと?貴様!エルマに何をした!?」
いつの間にか周りの視線が集まっている。
はぁなんか目立っちまってる。
「はぁ……公共の場所で喚くな。周りの迷惑だろうが」
「どうかしましたか?」
ギルドの職員だろうか?知らない男性が間に入ってきた。
40代くらいかな。
「いえ、チンピラが急に絡んできたんで困ってたところです」
面倒くさい、職員さんどうにかしてくれ。
「むっ、君はロビンか、昨日ギルドマスターに怒られたばかりだろう?
もう騒ぎを起こす気か?」
昨日も騒ぎを起こしたって……
マジでチンピラかよ。
「い、いや僕は……貴様!僕をハメるきか!?」
「絡んできたのは事実だ。ハメるもなにもないだろう…」
「貴様!言わせておけば!!」
「ロビン!!」
職員さんが怒鳴る。
「うっ…………くそっ!」
分が悪いと感じたのか馬鹿は去っていった。
「ふぅ…悪は去ったな」
俺は大きな溜息を着いた。
「済まないね君。彼は昨日ここのマスターに怒られて気が立っていたんだろう。
許してやってくれ」
許すからもう絡んでこないようにして欲しい……
………いや…また揉めそうだな。
「ん?君はエルマ嬢か!という事はなるほど君がイナト二デールを討伐した子か?」
知ってんのか?
「お久しぶりです。オーウェン殿」
エルマがお辞儀をする。
もしかして偉い人なんだろうか?
……挨拶しとくか。
「はじめましてテツヤと言います。
先程は助かりました。ありがとうございます」
頭を下げ俺を言う。
「うむ、昨日のロビンの報告と違いなかなか礼儀正しい若者じゃないか」
またあの馬鹿か………あいつ何て報告したんだ。
「またロビンが勝手な事を言ったのね…」
エルマが頭を抱える。
「エルマや…ロビンに関して苦情が増えてきている。いい加減どうにかしないと、
我々では庇いきれなくなるぞ…」
「えぇ……わかってるわよ……」
そんなに酷いのかよ。
どんな風に育てばあんな性格になるんだ……
「もしかして、あの馬鹿ってどっかの坊ちゃんなのか?」
どっかのボンボンならありうる。
「そうね……あなたには話しても大丈夫そうだけど、ロビンは子爵の息子なのよ…」
「子爵……貴族なのか?…」
あれで?というか典型的な馬鹿だった。
メンドくさいのに目を付けられた……
ってか貴族もハンターなんて危ない仕事するのか?
エルマから聞いた話ではハンターは危険が伴う仕事って…
「お待たせしました。エルマさん」
小さな布袋を持ったマルティナが現れた。
「ここまでね。ありがとうマルティナ」
エルマはマルティナから袋を受けとる。それをそのまま俺に渡す。
「これは?」
「イナト二デールの報奨金よ。あなたに受け取る権利があるわ」
「そうか……」
俺は袋の中を覗く。中には銀貨と銅貨が結構入っている。
はっきり言うと価値がわからない。これが多いのか少ないのかもわからない。
エルマに聞いてもいいが、今ここで聞くといらない詮索をされそうだからやめておく。
俺はとりあえず確認をした体で袋をズボンのポケットにしまう。
後で聞こう…
「ふむ、テツヤといったか、君はこれからどうするんだ?」
「そうですね。とりあえずまずはギルドに登録をしようかと……」
今俺が出来る唯一の稼ぐ方法だからな。
危ないけどやるしかない。
「そうか、では私も仕事に戻るとするか。
イナト二デールを単独で討伐できる人材が我がギルドに来たんだ。
テツヤ君、困ったら事があったら私の所に来なさい」
「えっ?あ、ありがとうございます」
握手をしてオーウェンさんと別れる。
「あなたすっかりオーウェンさんに気に入られたのね」
「なんかしたか?俺?」
「さぁ?」
もしかして例の馬鹿のおかげで何かハードル的なものが下がってたのか?
「というかあの人何者なんだ?」
「そうか知らなかったわね。あの人はオーウェン・マックダフィン。ここの副ギルドマスターよ」
「偉い人じゃん。何でそんな人がここに……」
「さぁ?…とりあえず早く登録してしまいましょう」
「そうだな。どうしたらいい?」
「マルティナ?いいかしら?」
「はい。登録ですね」
近くに控えていたマルティナさんが返事する。
「ではカウンターの方に」
マルティナさんの案内でカウンターに向かう。
「にいちゃん!僕もハンターになる!」
「わ、私もテツヤさんのお仕事手伝います!」
今まで静かにしていた子供2人が声を張り上げた。
「エルマ………」
エルマに視線を向けると首を横に振られた。
「ギルドへの登録は12才からよ……」
10才にもならないこの子達には無理な話だった。
「だとよ。残念だったな。」
2人はいじけた様にむくれる。
そんな顔しても駄目だ。後数年は我慢だ。
俺は2人の頭を撫でる。
「ではこちらの紙に書いてある通りにお書きください」
マルティナさんから紙を受け取る。
こ、これは………
「どうしたの?」
エルマが怪訝そうに俺の顔を覗き込む。
「エルマさん……」
「え、なに?どうしたの?」
俺の余りの緊張した表情にエルマも緊張した面持ちになる。
「……字が読めません」
「…………………フンッ!!」
エルマの強烈なフックが俺の腹に突き刺さる。
「ゲフッ!!」
俺は地面に手をつき項垂れる。
「紛らわしい真似しないで」
す、すみませんでした……
「はぁ……まぁいいわ。しょうがなから代筆してあげる」
…ありがとうございます
俺は立ち上がりエルマの元に寄る。
打たれた腹がまだ痛い。
「じゃあまず名前から」
「尾長哲哉……いや、テツヤ・オナガだ」
確か海外は名前が先だったよな?
「あなた姓があったの?もしかして貴族なのかしら?」
「は?なんで?」
「姓を持っているのは貴族か国から称された優秀な人間くらいよ?」
まじか……え~…
「いや、じいちゃんの姓がオナガだったから……それに貴族だとか俺はそんな話聞いたことないし…」
「なるほど、だとしたら没落した貴族や過去に称された人間の可能性もあるわね……
とりあえず迂闊に姓を名乗ると面倒事に巻き込まれる可能性もあるわ。
名乗るときは名前だけにしときなさい」
「わかった」
「じゃあ次。歳は?」
「17才」
「あら?1つ年下だったのね?」
1つ?じゃあエルマ18なの?嘘でしょ?もっと年上かと……
「何よ?その顔は?」
エルマさんに睨まれてしまった。
顔に出てたか……
「いえ、何でもないです。」
「出身地は………」
「分からん……けどそうだな。とりあえずニホンと書いてくれ」
「ニホン?」
「そ。住んでた所の名前。
実際の名前は知らないが俺とじいちゃんはそう呼んでた」
という設定。
「ま、詮索はしないわ」
助かります。
エルマは他にも記入していく。何を書いているんだ。
「後は性別と推薦理由よ。あなた男でしょ?」
そうですね。
あれ?
「もしかして、推薦理由ってことは誰かの推薦がなきゃハンターになれないの?」
「そんなことないわ。ただ、それがあるとないとで仕事の依頼量が変わってきたりするのよ」
そんなもんか?
「変わるわよ。誰々の推薦なら大丈夫だろうってね」
なるほどわかるわ。
医者とかも誰かの紹介とかが安心出来るもんな。
誰々が薦めたからって…
「はい。マルティナ。これでいい?」
エルマはマルティナに書き終わった紙を渡した。
エルマが俺をなんと言って推薦したか気になるが、生憎字が読めない。
時間が出来たら勉強しよう。
「では、カードを発行しますので、またしばらくお待ちください」
また待つのか……
あっそうだ。
「その待ち時間の間に魔物の素材を売りたいんだけど…」
「それでは一度外に出て頂いて、左に行けば買取所があるのでそちらでお願いします」
「わかりました。ありがとうございます」
「ではカードは買取所にお持ちしますね」
「お願いします」
よし、行くか。
「じゃあ皆、行くぞ」
4人でその買取所に向かう。
ギルド入口から左に向かう。
「ここが買取所?」
エルマに尋ねる。
「そうよ」
「なんか買取所っていうより……」
工場って感じだな……
「買取所っていうより……なに?」
「いや……何でもない。さっさと入ろう」
工場…いや買取所の中は………工場だな。
中は本当にただの町工場にしか見えなかった。
「え~~と、どうしたらいい?」
エルマに尋ねる。
「そうね…」
エルマは辺りを見渡す。誰か探しているのか…?
「あっいた!お~~い」
エルマは手を振り誰かを呼ぶ。
やって来たのは、
「なんだい?エルマじゃないか!」
恰幅の良いおばさんだった。
「魔物の素材の買取をお願いしたいんだけど今大丈夫?」
「あぁいいよ!……ところで隣にいる子は……それに子供も…」
おばさんは手を打ち
「あんたいつの間に子「違うからね」……冗談よ…」
この遣り取りだけで察した。
この手のおばさんは、メンドくさい。
「彼が買取所に用があるから案内しただけよ」
「すいません。今日付でハンターになります。テツヤといいます。
素材の買取をお願いしたいんですけど、お時間大丈夫ですか?」
この人には下手に出よう。勘がそう言っている。
「あら?礼儀正しい子だね。私はミランダ。素材の買取の担当をしているわ。
さぁ、見てあげるから素材を出してもらえる?」
ふぅ何とか好印象だ…
「じゃあエルマお願いできるか?」
エルマは、はいはいといった感じでコプシータを出した。
『ディミビラ』
現れた魔法陣と共に素材が現れた。
さてどれほどの値打ちがつくのか………