7:王都の人
7話。
そこからはあっという間だった。
最初に感じたのは、あれほど恐怖していた猪に怖さを感じなくなったこと。
なんでこんなのにビビってたんだってくらいに冷静になっていた。
猪をひらりと躱す。
すぐさま反転し、猪に攻撃を仕掛ける。
躱された猪も急停止し、体を反転させまた突進しようと試みるが
振り返った先に猪の目に写ったのは、俺が目の前で剣を振りかぶっている姿だった。
猪の顔面に剣を振り下ろす。顔から血が吹き出た猪は大きなうねり声を上げるが、
俺は攻撃の手を緩める気はない。更に鉈を振るう。
それは猪の鼻先に当たりその鼻先は綺麗に切り落とされた。
たまらず猪は立ち上がった。
頬をやられた時とと同じような構図になった。
がさっきとは違う。油断もない。
迷うことないく斬りつける。
鉈で鼻を切り落としたんだ、剣で前足もいけるだろう。
案の定前足は弾き返す事も出来ず切り落とされた。
この時点で猪の負けは確定したようなもんだった。
先程よりも大きな唸り声を上げ猪は仰向けに倒れた。
立ち上がろうにも前足一本無い分立ち上がるのに苦戦している。
それでも立ち上がり戦う意思を引っ込めない猪には最早感服する。
だが戦っている以上トドメは刺さなきゃいけない。
俺は猪に近づく。
すると猪は急に悶え始めた。
思わず後ずさんでしまった。
「な…なんだ?」
猪は大量の血と共に何かを吐き出した。
先程より呼吸を荒くし、その何かを傷ついた顔で俺の方に転がしてきた。
よく見るとコブシ程の大きな丸い石のようなものだった。
「これを…俺に?」
猪はゴフッと一度鳴いた後、崩れ落ちるようにその場に倒れた。
「あっ」
俺は迂闊にも近づいてしまったが、猪は動かない。
呼吸もだいぶ弱くなり、ほっといてもやがて死ぬだろう。
…がこれはもう狩りじゃない。種族は違えど男と男の戦いだった。
ちゃんと俺がトドメを刺す。
俺は猪の切られていない足を引っ張り体を少し回転させる。
うつ伏せがの状態から横にもっていく。
俺のやろうとする事を察したのかもう抵抗もなくされるがままだ。
そして喉元に剣を当てる。猪は目を閉じた。
やっぱ分かるんだな。
「強かった。ありがとう」
そして剣を深く刺した。
せめて苦しまないよう、一瞬で終わるように。
剣を引き抜いた。猪は事切れていた。
「にいちゃーーーん!!大丈夫ーーー!!」
後ろを振り返るとアントンがこっちに走ってきていた。
「あぁ大丈夫だよ」
俺は屈んでアントンの頭を撫でる。
「大きな二デールだね!」
アントンは猪の周りをウロウロしながら言う。
そうか、猪は二デールというのか。
「しかし、どうやって運ぶか…」
猪もとい二デールが最後にくれた石を麻袋にしまいながら考える。
後ろ足を掴み引っ張るめちゃめちゃ力入れて10cm位動いた程度だ。
これは村まで運ぶのはめちゃめちゃしんどい。
村まで徒歩で10分位かかるだろうか。
行けなくはないが村に着く前に、日が暮れるかもしれないしな。
「アントン、麻袋幾つ持ってきた?」
アントンは麻袋を1つずつ数えながら、
「4つ!」
手を開き俺に言うが、アントンそれだと5つだし、麻袋は3つだぞ。
今度から簡単な計算も教えておこう。
「しょうがない。ここで解体して持っていこうか」
長くなるなぁ……
空を見ながら俺はぼやいた。
太陽が傾き始め、ようやく解体が終わった。
これから村に戻るのだが、
「3,4往復はするなぁ」
急がないと夕方に間に合わなさそうだ。
肉の入った麻袋を持つ。
重っ!!しんどいなこれ…
アントンは小さな麻袋を必死に持っている。なんだか初めてのおつかいみたいだ。
2人で重たい重たいとぼやきながら村へ帰っていく。
「どっどうしたんですか一体!」
村へ帰ってヘレナの第一声がそれだった。
俺の怪我や大量の肉を持ち帰ってきたこともまとめての疑問だった。
「まぁまぁ色々聞きたいことはあると思うけど、また肉取りに戻んなきゃいけないから、
後でな」
これ後は頼んだ。
麻袋に入った肉を外に出す。
「…………………」
あまりの肉の量にヘレナは呆然としている。
言っとくがまだまだあるからな。
それだけ言い残しまた肉を取りに戻る。
アントンはヘレナに捕まった。きっとヘレナの手伝いをさせられるんだろう。
数時間が経過してようやく肉を全て運び終えた。
疲れた。本当に4往復かかった。
今はヘレナが入れてくれた水を飲みながら休んでいる。
「大丈夫0.ですか?」
ヘレナが水に濡れた布を持ってきてくれた。
それを頬に当てくれた。
そういえば怪我してたな。
あっそうだ
「なぁヘレナ、二デールの牙とかって王都に持っていけば売れるかな?」
「そうですね。二デール意外にも魔物の素材というのは何にでも使われたりしますから、
売れると思いますよ」
動物じゃなくて魔物っていうのか……
まぁいいや、だったら…
「ちょっと取りに行ってくる」
「えっ」
俺は立ち上がって麻袋をいくつかと武器等を手にし、二デールのところに向かう。
「えっもう日が暮れますよ」
「すぐ戻る」
金になるなら必要だ、何しろ今は一文無しだからな。
王都で生活すると考えたら、金の宛になりそうなものはなるべく手に入れておきたい。
走っていったお陰か、5分位で到着した。
「よかった盗られていない」
二デールを確認する。
どうやら俺等が去った後、特に荒らされた形跡はない。
よかったよかった。
とりあえず先ず皮を剥がして、それから骨をバラして麻袋にしまおうか。
俺は持ってきたナイフで皮をゆっくり剥いでいく。
ぎこちないな。ヘレナに任せてたもんな。
「あぁ~…くそっメンドくせぇ」
こういう細かい作業は苦手だ。
まだ全然剥げていないのに、もう諦めモードだ。
誰か【皮を剥ぐ達人】いないかなぁ。
流石に思いつかない。諦めて剥ぐか。
ガサッ………
後ろの方の草むらから音がする。
「…………」
今更、クァニとか出てきたか?
肉は余る程ある。もうお前に用はない。
見逃してやるからどっか行け。
ガサッ…ガサ………ガサガサッ
違うな。別のやつだ。
まさかまた二デールか?
俺は剣を構えいつでも戦える姿勢にもっていく。
ガサッ
「ほら、本当にここに二デールの死骸があるんだよ」
出て来たのは武装した大人の男女2人だった。
「「えっ」」
男女は二デールの横にいる俺を見て、驚いている。
俺は俺で武装した人間に出会ったことに驚いている。
声には出さないが…
……
俺たち今呆気に取られている。
ギルドから依頼を受けて討伐に来たイナト二デールが
森の奥で死んでいるのが発見された。
本来なら調査だけだったのだが、
死んでいるなら素材を取ろうと相方のエルマを呼び2人で戻ってきたら
見たことない奴に横取りされていた。
いつの間にか肉はすべて剥がされているようだ。
「そいつは俺たちが先に見つけた死骸だ。渡してもらおうか」
まるで賊のような発言だがそうも言ってられない。
ハンターになって2年、ようやく掴んだ名声を得るチャンスなんだ。
どこの村の人間か分からんが、なんとしても手に入れたい。
「俺が自分で倒した獲物をなんでお前らに渡さないといけないんだ?
もしかしてお前ら盗賊か?」
こいつが仕留めた?このイナト二デールを?
「そんな馬鹿な?俺が見つけた時は誰もいなかったぞ!!
それに僕らは盗賊なんかじゃない。れっきとしたハンターだ!」
そうだ。僕はハンターとしてそれが必要なんだ。
「そのハンターとやらは人の獲物を奪うのが仕事なのか?」
急に男から殺気が漏れてくる。
男はこちらを睨んでいる。
何だ?やる気か?仕方ない。と僕も剣を抜こうとすると…
「ちょっちょっとまって頂戴」
僕の前にエルマが飛び出してきた。
そうだ。2人でなら、いくらイナト二デールを殺ったやつでも倒せるさ。
「私の名前はエルマ。まずは謝らせてもらうわ。ごめんなさい」
…………
俺はこの2人のコントに動揺していた。
盗賊かと思ったら、ハンターだと名乗り、
うっとおしくて睨んだら、勝手に向こうがやる気になり、
かと思ったら、今度は謝罪してきた。
なんなんだこいつら………
「なんの為の謝罪かわかんねぇよ」
心底うんざりだ。
「どちらもよ。あなたの獲物を奪おうとしたこと、それといきなり喧嘩を売ったこと」
こっちの女はまだ常識があるのか、自分たちの非を謝罪してきた。
後ろで男が何故だと言っているが、こいつ馬鹿なのか?
「エルマどうしていきなり謝ったりして、こいつは僕らの獲物を奪った盗人だぞ!!」
はぁ……この男は……
「ごめんなさい。すこし待ってもらっていいかしら?」
「どうぞ」
男の人から許しを得たので、私は腰につけているポーチから紙とペンとインクを取り出す。
私は地面に座り込み紙に討伐依頼が完了した事を書き出した。
文を書き終わり最後に私の家の印を押す。
そして手紙を丸め封をする。これでよし。
「ロビン。これをギルドの受付のマルティナに渡して来てくれるかしら」
「なんだと!?ダッダメだそいつと2人っきりにさせたらそいつが何をしでかすか…」
「ロビン。2度は言わないわ。行ってきなさい」
「わ……わかった」
私の言葉に押されたのか、ロビンは手紙を受け取ると来た道を戻っていった。
けして私に怯えてた訳じゃない。
「おい、そこの二デール泥棒、エルマに手を出すんじゃないぞ」
去り際にまた失礼なことを言い放って去っていった。
また怒らせるような事を…
あの人はもう何も言わなくなった。
これから話し合うのに何故神経を逆撫でするようなことを言うのか。
この人とちゃんと話合わなければいけない。
まずは謝罪から……
気合を入れ目の前の男の人と向かい合う。
少し待ってと言われたから待ってたら、急に手紙を書き始めた女の人。
と言うかやっぱりボールペンはおろか、鉛筆でもないんだな。羽のついたペンだった。
そして手紙を書き終わったと思ったら、あの盗賊(仮名)に手紙をどこかに届けさせた。
盗賊(仮名)は去り際に俺に何か言っていたようだが聞こえなかったので気にしないことにした。
あれ?あの手紙に俺の事なんか悪く書かれてたらヤバくない?
しまった!内容確認すべきだった。
「本当に重ね重ね申し訳ないわ」
いきなり謝罪された。
「確認なのだけどもあなたがその二デールを討伐したということでいいのよね?」
「さっきからそうだと言っているはずだけども」
「そう……ありがとうその確認ができただけ良かったわ」
「こちらも聞きたい事がある。さっきの馬鹿に渡した手紙はなんだ?」
「馬鹿?あぁロビンね、あれは討伐報告の手紙よ。」
この女は俺の聞きたい事を察したのか
「安心していいわ。決してあなたを咎めるような事は書いてないわ」
「それは分からんだろう。手紙を持っていった馬鹿が嘘の報告をしてるかもしれん」
「大丈夫よ。あなたも知ってのとおり、ロビンは少し思い込みが激しい部分があるの」
少しか………
ジト目で女を見る・。
「いいえ、少しじゃないわね。大分よ」
俺のジト目が聞いたか、訂正した。
「じゃあ確認したとは?」
「ギルドの依頼討伐があったの、イナト二デールがこの近くで発見されたから討伐してくれと」
「なるほど」
俺が討伐したという確認はとれたということか
「馬鹿が自分が討伐したと報告するかもよ」
そういう考えはあるだろう。
「それも大丈夫。手紙に書いたもの討伐した人を連れて行くと」
はぁ!?
「はぁ?勝手に決めてんじゃねぇよ」
何勝手に人の予定組んでんだ。
「報奨金出るわよ?」
「よし、行こう」
金は必要だからね。これ大事。
「だけど、どこに行けばいい?俺は王都に行きたいだけど」
寄り道はやだなぁ。
「あら、なら丁度いいわ。私たちは王都から来たの」
え、そうなの?
「王都はここから西へ半日ほど歩いたところにあるわ」
なんだそんな遠くないじゃん。
旅の準備とかそんなにいらなかったな。
それより解体再開したいんだけど。
あっ…………
「それでその……え~…」
急に言いづらそうにコホンと咳払いをする。
コイツに手伝わせるか。
「イナト二デールの拳石があったら譲って欲しいの!!」
「いいよ」
「ごめんなさい。ただでさえ失礼なことをしたのに、拳石を譲って欲しいなんて………え?」
「いいよ」
「え?」
「だから、いいよって」
そういえばこんなの前にもあったな。
「えっいいの?拳石よ?希少な石よ?」
正気?とでも言いたげに俺に問いかける。
「だからいいって言ってるだろう、欲しくないのか?」
拳石が何かはわからんがまぁ譲ってもいい。
女はブンブンと首を横に振る。
本当にデジャヴだな。
「いいの?貰って?」
「あんまりしつこいとあげないぞ?それより解体手伝ってくれ。日が暮れちまう」
日も大分傾いてきた。大体夏だと6時過ぎ位かな?
「確かに拙いわね。暗くなってからじゃ遅いから……【ネドライト】!」
ぐわっ眩しい。
思わず手で目元を隠す。
「あっごめんなさい」
すると小さな光の玉はふよふよと離れていった。
「こんだけ離れたら大丈夫ね………どうしたの?」
俺がずっと光の玉を見て呆然としてるのが不思議だったらしい。
「いやっだって光の玉が……えっ…なにあれ?」
まじでなにあれ?すごい!
「あれって…ただの白魔法じゃない何をそんなに……もしかしてあなた魔法使えないの?」
ま、まほう!?あれが?すげぇ…
「魔法…初めて見た…」
素直な感想を喋ってしまった。
あっやべ!怪しまれるか?結構ベタな存在なんだよな、魔法って。
「初めて見たって王都ならいくらでも……あ、そうかあなたこれから王都に向かうんだものね」
王都なら有り触れた存在らしい。すごいなぁ魔法、俺も使えないかなぁ…
「でもいくら田舎に住んでたって魔法を使える人間は1人位はいるはずよ?
あなた一体どこから来たの?」
来たこの質問。異世界から来ましたなんて通用するわけ無いと踏んで、数日前から
夜寝る前に考えてた出生の設定を使う時が来た。
「実は山奥に爺さんと2人で生活してて、魔法はおろか人里にも行ったことなくて…」
流石に厳しい言い訳か………
「そうなの……ではここへんに住んでるのかしら?」
通じてるーーー!!
こんなベタな設定、普通怪しむだろうに、以外の素直な娘なのか?
もしそうならこの設定を押し切った方がいいだろう。
ホントは嘘でーーす!て言いたいけど、ここは我慢。
「爺さんが死んじまって、1人になったからな。これを機に外の世界を見てまわろうと思って…」
「まぁ…それはご愁傷様ですわね。ところで何故王都へ?」
ですわね?なんか引っかかったが、まぁいいか…
「それは最近旅の連れができてね、
そいつらが王都へ行くというから俺もついて行ってみようと思ってね」
「そうなの?ではその連れは?」
えっ連れ?
あっ!!
ヤバイ!
あたりはすっかり暗くなってしまった。
森なんかは真っ暗でなんも見えない。
「やべっ帰んなきゃ!って森暗っ!!なんも見えない」
えべぇやべぇどうするか…
「帰るってあなたはここで野営しているんじゃないの?」
開けた所ではあるがこんなとこで野営はできんだろう。
「違う違う拠点にしている場所がちゃんとある」
ここには二デールの素材を取りに来ただけだから。
しかし、どうやって帰ろうか。森が暗すぎてもう帰るの怖い。
ふと光の玉を出したねえちゃんに目をやる。
「ねえちゃんこの後どうするつもりだった?」
「そうね、当初はイナト二デールを回収して戻るつもりだったけど…」
それから俺に視線を合わせる。
「あなたからイナト二デールの拳石を貰わないと帰れないし、こう暗くっちゃね…」
なるほど、お誘いですか。
…って違うな、
「じゃあ俺らの拠点に来てくれ」
ねえちゃんのその光が今必要なんです。
「あら、折角だから誘われちゃおうかしら」
何言ってんだ。最初からそのつもりだっただろ。
素直な娘だと思ったのは撤回します。
「よし、じゃあ帰る手段は手に入れたとして、これどうしようか?」
これとはイナト二デールの亡骸のことだ。
「帰る手段というのは納得できないとして、私に任せてもらえるかしら?」
そう言って亡骸に近づく。
ねえちゃんはまたポーチから四角い箱のような物を取り出した。
なんだあれ?指輪とかが入っているケース位の大きさの箱だ。
それをイナト二デールの亡骸の側に置いた。
そして数m下がる。
俺も何となく同じ位下がる。
ねえちゃんはにやっと笑う。
なんだ?
『ハパジャ』
するとあの箱を中心に青白い円が出来た。
「!!」
青白い円は二デールを余裕で覆いう大きな円になった。
不思議な光景だな……
にしても綺麗な模様だ。
魔法陣というやつとはこの時は知らなかった。
『ディミビラ』
青白い円が消えた。
一緒に二デールも消えた。
「はっ!?」
ねえちゃんは残った小さな箱取り上げた。
「えっ…どうなったの?」
なんだこれ?なんかの魔法か?
「私にはエルマという名前があるの。ねえちゃんというのは止めて」
あっすみません。
「そう言えば名乗ってなかったな。悪かった。俺の名前はテツヤよろしくな」
「そう、よろしくね。テツヤ」
先程までの硬い表情とは裏腹にエルマは柔く微笑んだ。
「うっ……」
思わずときめいてしまった。
「さっあなたの拠点に案内してもらえるかしら?」
いやそれよりその箱が気になるんでけど………
「そうだ!その前に…………」
エルマは俺に近づくと俺の頬に手を当てる。
「な、なんだ?」
【シェリム】
その言葉と同時に頬に当てられた手が淡く光りだした。
すると、頬にあった二デールに付けられた傷が消えた。
「えっえっ?なにこれ?」
「治癒魔法よ。どう?驚いた?」
「…すげぇ…」
「ふふふ…」
だからそんないい女感出して微笑まないでくれ…
うっかり勘違いするだろうが…
さっさと帰ろう。早くしないとヘレナに怒られる。
いや、どっちみちヘレナにすこぶる怒られそうな気がする。
すっかり暗くなった夜空を見上げ溜息を漏らす。
こんなに帰るのが億劫なのは初めてだ。
…………………
……………
………
…
「遅いです!!」
村に戻った俺に待ってたのは、案の定プリプリとご立腹のヘレナだった。
アントンは離れた場所で隠れていた。
「すぐに戻ってくるって言いましたよね!?」
「はい、言いました」
「だったら何でこんなに暗くなってるんですか!?」
「いや、それは………」
ちらっと横にいるエルマに目線をやる。
エルマは何も言わず、ただ微笑んでいるだけだ。
今日初めて会ったけどお前そんなキャラじゃないだろ!?
「だ・い・い・ち!!」
「この女の人は誰ですか!!」
ここでようやくエルマについて言及をする。
「始めまして、私の名前はエルマ。あなたのお兄さんの友人よ」
勝手に友人認定されている。
この女の強かさに呆れてしまう。女怖いわぁ……
「お友達だったんですか?それはすみませんでした……」
ヘレナはペコリと頭を下げた。
その隙にエルマはこちらに顔を向けペロっと舌をだした。
…この女マジでヤベェやつだ。
「そうだ!食事は食べましたか?たいしたものはありませんが、良かったらどうですか?」
「そうね。頂こうかしら?」
ヘレナはパタパタと食事の準備に取り掛かった。
「可愛らしい妹さんね」
「だろ?自慢の妹だ」
アントンがパタパタと近づいて来る。
「にいちゃんヘレナもう怒ってないかなぁ?」
「アントンも遅くなってごめんなぁ」
「それじゃヘレナちゃんがご飯準備している間に解体の続きしましょうか」
家の方から少し離れる。アントンも着いて来ている。
「ここら辺でいいかしら」
そう言ってさっきの箱を地面に置く。
【コプシータ】というらしい。
「ハパジャ」
またさっきの青白い円が地面に広がる。
するとイナト二デールが現れた。
相変わらず不思議で面白い道具だ。
王都に着いたら探してみようか?
するとエルマは腰からナイフを取り出し、そのままイナト二デールを捌きだした。
俺より当然上手いし、俺より遥かに上手いエレナよりもずっと上手い。
手伝いたいけど、かえって邪魔になりそうだ。
ていうか捌くの早いな。
あっという間に皮を剥ぎやがった。
「捌くの早いな」
ポツリと漏らす。
それでもエルマに届いていたらしくこちらを見て、にやりと笑う。
その笑顔はとても怖いです。エルマさん…
「どう?なかなかやるでしょ?」
1時間の経たない内にエルマはイナト二デールを捌ききった。
達人かよ?早すぎじゃないか?
「みなさーん!ご飯出来ましたよーー!!」
遠くでヘレナが俺たちを呼んでいる。
「あらっ?ご飯できたようね?行きましょうか」
エルマは上機嫌で食事に向かっていった。
「なんかすごいね。あのおねえちゃん」
「そうだな………」
残された俺とアントンは女の恐ろしさに少し震えた。