第八世界 《 自身の損失 》
どれくらい進んだのだろうか? どれくらいの街や国を見たのだろうか? それは数知れず、途方もない旅路を彼は進んでいく。求める場所は皆の待つ場所『グラン・エリアス』しかし、広大すぎるその世界にたった一つの国を見つけるのはサハラ砂漠で一つの宝石を見つけるほどにまで苦痛を要するものであった。
生きているかどうかすら怪しい国、希望を失った人々、売られていく生き物たち、春風霧火はそれらを見続けていくのであった。自分の住んでいる世界でも似たようなことが日ごろ行われ続けている。何を利益としなぜ? 戦うのか? それすら不明な戦争もそこら中で行われていた。
昔あったイーグル族の王にもあったが、その見た目は昔とは似て非なるものであり、死を求め彷徨い続けていたのではないのか? そう思うほどにまで衰えていた。そのように呼ぶのもやっとなくらいである。
春風霧火は力を持ち、それで救える命さえあったが、あえて何もせず見ては去っていくことをしていた。その理由は、彼自身の考えによるもの、このような戦いに終わりはない。十二支獣のときに起こっていた戦争と何も変わらない。かえって力を得てしまえば、参戦し、更なる憎しみを生むことになる。それは、根本的な解決にはならない。別世界にいっても何一つ変わらない『生き物と言う存在』自我があるからなのか? それとも知能が高すぎるゆえなのか? この世界は実世界以上に醜い争いが絶えず、人と獣人との戦いや、魔法と呼ばれる力を使ってのより高レベルの戦争が繰り広げられていた。
空はよどみ、大地は崩れ、炎と呼ばれる演劇があたり一面をその惨劇をあざ笑うかのようにして踊っていた。子どもの悲鳴、詠唱の声、様々なものや声を耳にする。
「どこも変わらないんだな……」
「マスターの実世界はどのような環境だったのですか?」
「変わらないよ……何もかもが同じ。ただ、この世界は魔法の力でより一層醜くなっている。学校に行ってないから詳しくはわからないけど、これが平和というなの夢に向かっているのなら、傍から見れば間違いしかないよ」
「助けて……たすけ……て……?」
街を見渡しているところに、一人の少女が霧火に向かって声をかけてきた。その見た目は悲惨なものであり、顔の半分が焼け左腕のない状態であった。少女は藁にも縋る思い出霧火に声をかけてきた。
少女は霧火の存在を知らない、それでも、誰でもいいから助けてほしい! そのように考えたのだろう。その子を見て春風霧火は……
「俺らのいるところって、素晴らしいところだったんだな……同時に俺は恵まれていたのかもしれない……悪いエリュシオンのみな……悪い……アリス……始めよう。目的は変わった」
「いいのですね? 本来とは違い、それよりか、返って更なる悲劇をもたらすとしても?」
「一人が犠牲になり、それですべてが救えるのなら進んでやろう……」
「では、解放をしてください。ある程度の力は抑えるよう尽力します」
「いいや。抑えなくていい。これは俺自身の問題だ……ただ一つだけ答えて欲しい。俺はどうだった?」
「誰が何と言おうと私ダークマターの妖精アリスは、春風霧火マスター様を誇りに思います。どんなになろうとも、ついていきますし、永遠と味方になります。ただ……一つだけ、本当に一つだけ反することを言うのなら、あなたは優しすぎます。他の歴代のダークマターのマスターの誰よりも優しすぎて、平和主義者です。自己犠牲野郎とはこのことを言うのですね?」
「ありがとう……エリュシオンのみなにはこの姿見て欲しかったな~でも、もう厳しいか~残念だな~本当に残念だわ……藍原すずが生きてたら守れたし、しかも、柊凛と言う子にも同じようなことしてしまったし、俺ダメ人間かもしれん」
「人にすがる気持ちは誰もが持っています。それで悲観することは決して悪とは言いません。この少女も春風霧火様だからこそ、すがったのかもしれません。最後の一つとして、希望としてです」
「そっか……なら答えなくてはいけないね? でもこの少女の思うような世界は実現できそうにないかな。それだけは申し訳ないと思う、ごめん」
そうこうしているうちに、少女を求めるようにして兵士がかけてくる。その見た目は禍々しいと感じるほどにまで憎悪に満ちていた。この少女が何をしたのか? どんなことをしたのかはわからないが、小さい子をそこまで殺したいほどにまで憎むものなのか? と疑問に思う霧火であった。
この世界は小さくても相当な力を持つものもいる。そのため違った利用をしようとして捕まえ監視し研究するといったことは日常茶飯事な話であり、この少女もこの街ももしくは、そのような実験施設なのかもしれない。
春風霧火は倒れて息を引き取っている少女の前に立ち、目の前からやってくる十数人の兵士を見つめる。その後一粒の涙をこぼし決意する。
「俺はきっと地獄に落ちるかもしれないな。発動せよ……《無力の力》!!これ!ここが!今が!俺の最後の俺だと考える。これ以後の俺は世界を創造し、破壊する覇者となろう!すべては自分のため!人のためではない!恨むならすべてを俺を恨め!!さあ!答えろ!!無力の力よ!!お前は俺のものだ!!」
―――――なら―――君の創造する物語を見せてくれ――――――
うちに眠る何かがそうささやいた気がした。しかし、それを確認するすべはない。春風霧火は様々な色の光に包まれると同時に、先ほどとは違いもう元には戻れないと確信すると同時に大粒の涙を流す。
「ごめん……こんなことしかできない……俺バカだから……ごめん……みんな……」
光は彼を回り、あたりに散った。その瞬間春風霧火の顔つきや見た目は変わっており、黒い髪にところどころ赤い髪が入り混じり、服装も似たような感じに変わっていた。
左目は死神の目という力を宿していたが、前とは違ったようになっており、白目が真っ黒であり、黒目が真っ赤に染めあがっていた。グー、パーと両手を動かし、自分の姿を、動きを確認した。これが今の自分であり、これからの自分である。
「なんだ? いきなり見た目が変わったぞ?」
「いい! 何かの魔法の力だろ? その少女を渡すな!!やれ!!」
そういうと変わった霧火に突っ込んでくる数十人の兵士、彼らは何も考えずただ目の前の敵をそこら辺の旅人だとして襲ってきた。
「手始めに使おうか……」
春風霧火は、無力の力が付与されているであろう右手を前方に向けたあと、すぐさま握り自分の方に持っていく動作をする。途端前方にいた数人の兵士は、何かを持っていかれたようにしてもだえ苦しみ始めた。
本来無力の力は、すべての事柄を意のままに操ることが可能とされる。よって、霧火の繰り出した攻撃は、与える対象の事柄をすべて無力化したという簡単なものであった。
しかし、その簡単な力でさえ驚異的なものなのは変わりない。前方にいた兵士は骨の構造さえもままならないまま崩れ去り、生きているのかどうかさえ怪しい状態にまで変貌していた。
やがて光となって消えていく数名の兵士、それを見た後ろの兵は彼を見るなり震えだす。後ろで見ていたアリスは驚いていた。
これが特異能力と呼ばれる本来の力であると同時に、まだ始まったばかりである。これ以上何が起こっても不思議でないのが特異能力と呼ばれるもの。
だが、それによって弊害も起こりえるのが特異能力。それは力によってさまざまで、春風霧火もそれだけはわからないでいる。おのずとそれは刻一刻とやってくるのであるが、今の彼には関係のない話。
後ろにた兵士は彼を見るなりして、その場を去ろうとして背を向けたと同時に、鎖が背中から心臓を突き刺すようにして貫通する。少女を捕まえるためにやってきた兵士は、すべて見るも無残な姿に変貌していた。春風霧火は、少女を見て、それから目を閉じさせた。その後両手を合わせ供養するような行動をとる。
その場にいた少女は光となって消えていく。生き物が死に息絶えてから光となって消える時間は数分~数十分と言ったところ、まちまちではあるが、光になるのは同じこと。
この光がどこへと行き、どのようなことになるのかはわからない。春風霧火はほぼ一生わからないことなのだと思っていた。なぜならば、彼はすでに一般的な生き物の本質からかけ離れているであろう存在であったからだ。自分が何なのかはもう考えることさえやめていた。
目の前にある燃えている研究所のような場所に進み始める。中に入ると同時に、サイレンなどがこだましており、先ほどの少女だけの問題でないと知る。
すぐさま前方には周りを黒いオーラが渦巻いている6歳ほどの少年が現れた。それは霧火を見るなり、攻撃を放っていく。その目は狂気に支配されているようであり、ひきつった笑い声をしていた。
迫ってくるその攻撃を軽く振り払い突っ込む。そのまま無双竜での一撃をしようとした途端腹部を突き刺される。少年はその姿を見て笑っていたその瞬間、首が転げ落ちる。心苦しいものではあったが、そんなの考えている暇はない。先ほどの戦闘では、ダークマターでの自分の幻影を作ってから、空間移動を使って裏側に回っていた。これも簡単なものである。
「マスターはついに空間移動できるようになったのですね?さすがです」
「状況だけ報告しろ……」
「ハイ!ただいまこの施設には数十名もの特異能力者がいます。中には、特異能力者以外のものまで確認されています。マスターところでこの世界の能力事情って知ってます?」
「知らん簡単に話せ」
「この世界は四つに分類されておりまして、一般的な魔法や力のことを『特殊技能』、それぞれが特別に有する能力を『特別異能力』、ブラッドや死神の目のように魔法や力などでは解明できてないものを『特技能力』、無力の力など、ほぼ絶対的な力とされる受け継がれるものを『特異能力』と言われています」
「で……この施設は何がメイン……」
「この場所のメインとなるものは『特異能力』と『特技能力』ですね。相当な数が収容されています。子どもからお年寄りまで、どうします? 全員救っちゃいます?」
「無差別に破壊し、逃がす。それだけ」
「わかりました!なら、中枢までご案内します」
それから春風霧火は、アリスに案内してもらい、中枢の大きな間に来た。そこには待っていたといわんばかりの人物が中心にある円錐の水槽を眺めて霧火に話しかけてくる。
「やぁ、初めましてですね? 私白神と申します」




