第十八世界 《 自分と同じ 》
「ここは他とは違って平和なところ……」
「お姉ちゃんが特殊結界を使って私だけを守ってくれてるんだ~」
「強い人なんだね……」
「天才魔法使いの名を持ってるからね」
「君も同じ血を引いているのなら、少なからずこのような結界を作れることはできるんじゃないのか?」
「私は……お姉ちゃんとは違うから……魔法も使えないただの一般人。だからこうして守られてるんだよね……」
「……なんか、ごめん」
「気にしないよ。逆に珍しく人が訪れたことに感謝しているからね?」
春風霧火はどうやら、柊凛のお姉さんに助けられこの場所にいるららしい。
どうして助けたのかは理由はわからないのだが、こちらからこの結界の外にでることは、ほぼ不可能なくらいにまで頑丈な作りをしていた。
無力の力や破壊王の力を使っての脱出を試みたが、なぜだか、目の前にいる少女が気になってそれ以上のことはしなくなっていた。
自分には力のないことに絶望をしているのか? 守られているのが嫌なことなのか? 様々なことが春風霧火の心に響いてくる。昔の自分も似たような感じだったこともあり余計に強く……
しかし、少女の笑顔はそれらの不の感情がどうでもよいかに思えるくらいにまで明るく、楽しそうにしていたのだった。とても一人で生活しているようではないような。そんな感じがした。
次第に彼は藍原すずと柊凛を重ね合わせてしまっていた。この異世界に来た途端に自分のすべてが変わってしまった。それは自分だけではなく、他のメンバーもこの子も。
平和であった世界から突然の争いのある世界。魔法のあるファンタジーな世界。少女を見ているとおのずと彼は安心感さえ得られるような気分を抱くようになっていた。
もういっそのことこのままでいいのかさえ思い始めていた。自分が今までいた世界に戻ったとしてもそこは醜く残酷な世界であり、また辛い日々がやってくる。だとするのなら、この世界で自由に生きていく方が何分良いのかもしれない。
すると気が付けば、リンゴを剥いている柊凛の顔を見つめており、それに気づいた彼女はこちらを向いて何かを話してくる。
「何かな?……!!」
目があった瞬間に何かが起こった。それは、過去にあったブラッディーメアリーと起こした共鳴と呼ばれるもの。
彼女の記憶のようなものが春風霧火に流れ出てくる。
そこに映し出されたのは、またむごたらしいものであった。学生服を着ており楽しそうにしている少女の姿、周りからはその才能から一目置かれていた存在。見た目も美しいというよりかは、かわいらしい感じ。そこに嫉妬していた同級生や上級生が彼女を呼び出し、襲う姿があった。
誰も来ないようなところで、後ろにいた呼び出した女子学生は三人で携帯のカメラモードで撮っている。襲っているのは五人の男子学生。無理やり抵抗する少女は悲鳴を上げる。そこにやってきたのは少女のお姉さんのような人であった。その人はすぐさま彼らをなぎ倒し、少女を連れて去っていく。
後を追いかけるようにして彼らは走ってくるが、最終的にまく。
次の日から悪い噂が広まり、机には死ねや自殺の文字が大きく書かれており、机の中には虫や大量のわけのわからないものが積まれていた。それでも少女は笑顔でその日を乗り切る。
一週間ほどして異変に気付き転校をするが、新しい学校に一度も行かずして引きこもってしまう。それでも少女がしていたことは霧火同様、楽しそうにしているアニメやドラマを見ることだった。
自分とほとんど同じような光景が目の前に広がる。様々なことが重なり次第に彼は吐きそうなほど気持ち悪くなってくる。急に現実に戻り少女がこちらを見るなりして、一粒の涙を流していると思いきや、それは大粒に変わり一言霧火に
「大変だったね。私も同じ……だがら……」
共鳴は自分の過去も相手に映すことであるため、どこまで見たのかはわからないが、大体のことは柊凛も見えたのだろう。同じような過去を持つ者同士、霧火は右手を相手の頬につけ涙をぬぐうようなしぐさをしていた。
この時点で、もう自分が何をしてきたのかがわからなくなっていた。一度壊された精神をもとに戻されたが、また壊れたら次はない。しかし、いつかはまた壊すような相手と戦わなくてはならない。どうして自分がそのようなことをしなくてはいけないのだろうか? どうして自分ばかりそのような体験をしなくてはいけないのだろうか? 他にもっといるだろ? 彼は次第に人生や能力、生き方を恨み始めていた。
それを察したのか柊凛は彼を強く抱き寄せる。それは彼を懐かしませるような、そんな気分にさせた。
「君は絶対頑張れる。絶対に何とかできる。初めて会ったのに初めて会ったような感じがしないのは不思議だけどね」
「俺はこれからどうすればいいのかまったくわからない。この先戦って実世界に戻ったとしても幸せになれるかどうか……」
「君の過去を見てわかったことがある。君は頑張りすぎてるんだよ。少し休みなさいな?力の制御もままならないんでは、またいつ無力の力とやらがやってきてもおかしくないよ?少しの間だけでもうちにいたら?君は平気でしょ!」
男女二人屋根の下。何もないはずもないのだが、今の霧火にはそれをする欲自体が失われており、久遠湊のしたスキルは、無理やりにでも自我を形成させるだけのものであり、細かな感情といったものがないに等しかった。
春風霧火は、その後柊凛の家で少しの間居候することになった。仲間を助ける感情さえ今彼には持ち合わせていない。考えなければならないことが多すぎたのだ。
彼女の家は木造で一階建てのシンプルなものだった。外を出れば大きな山が見え、一定の距離で森におおわれたところだった。家をでて数百メートル進めば池のような場所が存在していた。
森を抜けるとすぐに街が見え、何ら不自由ない暮らしができるような環境ではあった。結界はとてつもなく大きいものだが、張った人は上級魔法使いレベルじゃないと無理なくらいにまでな力であった。
詳しいことは柊凛のお姉さんが帰ってくることで話そうと考えたが、そこに泊まってから早一か月のことだった。
次第に霧火にも笑顔がやってくる場面がちらほら流れており柊凛も楽しそうな日々が続いていた。
このまま幸せに暮らせれば苦労はしない。そう考えており、感情の戻りも徐々にではあるが、戻ってきていた。
いつしか冗談を言い合える仲にまでなっており、ぼーっとしている霧火にちょっかいを出す柊凛の姿も時にはあった。なかなか帰ってこないお姉さんだったが、いつものことと彼女も言うもので、納得していた。
「霧火様!霧火様!!」
「アリスか……どうした?」
「力の方ももう大丈夫ですよ。ここまで休めばあとは霧火様次第です」
そういえば自分が今黒騎士たちと対峙している。そのようなことが起こっていることをアリスの声により思い出した。それから何日かして、次第に仲間の安否を知りたいと思い始める。
いつものように察していたが、柊凛は今回ばかり反応が違っていた。
辛いことや悲しいことを表に出さす、笑顔を振りまいていた少女が、この時ばかりは悲しそうにしており、霧火に 行かないで欲しい。 と話す。
贅沢なことやわがままを言わない少女から発せられた一言。
霧火は柊凛の方を見て大きく息をし、額の髪を分けそこに口づけをする。今までしたことないからなのか、恥ずかしすぎて火照る自分に驚く。
遠くで見ていたアリスもはぉーとつぶやき、顔を隠しているマスクを隠そうと手を使う。
藍原すずに恋をし、ペンダントももらっていた自分だが、他の人を好きになってしまうことに対して、罪悪感を抱いてしまうが、弱い自分を許してくれの一言を心でつぶやき、今度は絶対に失わせないと決める。
された張本人も真っ赤になり口をパクパクさせ言葉が出せないようであった。突然のことなために、驚くのも無理ないことだ。
両者しばらく顔を合わせず時間だけが過ぎていった。初々しいとはこのことだろうか? と二人して考えていた。
さすがに元の場所に戻りみなを助けることを考え始める春風霧火、彼の表情は前とは違く、頼もしくなっていた。柊凛との出会いで変わったらしい。
これから来る強大な敵に対してどのようにやろうとするのかは、わからない。しかし、できることは最後までやり続けるとし出発をする。
後ろから見守りどこかでまた会えるといいかなー とつぶやいていた少女は額を右手で触れ笑顔になっていた。
気が付けばダークマターの力もある程度使えるようになっており、大結界の外にでることが容易に可能となっていた。気が付けば、そこは前にアレクロアス一世と戦った場所であった。
驚くことに何一つ代わり映えしてなかったのだ。まるで先ほどの空間とは時間が切り離されている感覚に落とされるが、もしかすると! そう思いグランエリアスに向かって走り出す。
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「遠き未来はすぐそこへ……まったくどいつもこいつも……」
現状の黒騎士はなぜかしら余裕があったのだ。それは無理やりなのか? それともまた別の何かなのか?詳しいことは何一つわからない。しかし、彼らは余裕があった。それに、早く自分たちも死に絶えたい! そのように考えさせられる行動をとっていた。
黒騎士の目的は刻一刻と近づいている。それぞれのギルドは総力を使って叩き潰す作戦を立案する。それはグランエリアス以外の各大型連合でも話されていた。
同時にアヤトたちも同じように力をより強力にするために日々努力を惜しまずにいた。手伝うものも多く、やがてはギルド外での仲間も増えていく。
いつ誰がどこで死ぬかはわからない。いつどこで決着がつくかはわからない。突然攻め入ってくる可能性すらありえる。
骸の力の大道寺翔も勝負がついていない。これからすべての決着がつくときがやってくる。
それぞれは己のすべてを用いて黒騎士またはギルドを討伐することを決意し、いよいよ始まる。




