第十六世界 《 英雄と呼ばれた者 》
意識がもうろうとする中少女のような声が語り掛けてくる。私を使ってください! 確かにそういった。霧火自身もわかっていたことだ。先ほどの魔法陣に囲まれた集中攻撃もその力によって助けられた。彼にはこれ以上力を増やせば制御できるかどうか? そういった疑問が頭にあったが、どう考えても今そのような状況ではないのは、誰が見てもそうだった。
次第に考えることはしなくなり、やがて……始まる。
「これ以上俺はどうなるんだろうな。いくぞ!アレクロアス一世!!ダークマター解放!!」
「こいつまだ……!!」
彼を黒いオーラが包み込むが、それは今までとは違ったスタイルになっていた。ブラッド解放してからのダークマターの解放その二つの強力な力によって、赤いオーラと黒いオーラの二つが入り乱れている感じになっていた。
無双竜を握りしめている霧火、目つきは変わりアレクロアス一世に向かって突き進んだ。何かが起こったことに関して驚き笑っており、銃をぶっ放す。
同じようにその弾道は異次元に飛び霧火の頭上から放たれる。しかし、今回ばかりはそうではなかった。
「マスター!上です!」
瞬時に横にずれる。少女が言ってた方から弾丸が放たれた。回避成功といったところだ。それを何発も回避する彼の姿を見て、今まで全く違ったことに喜びを感じるアレクロアス一世だった。
次に少女から言われた言葉は、敵の隙の情報であった。その通りに移動すると確実に当たるところまでいった。アリス、マター所持者には確実にサポートのようなのがいると話していたのを思いだす。
この少女を頼りにすれば道が開ける。そう確信する春風霧火。
たちまち形勢逆転に変化する。面白い!楽しいぞ! と喜ぶアレクロアス一世の姿が目の前に現れる。
しかし、突然としてその表情は豹変するものとなった。
「遊びは遊びとして終わりを付けなくてはいけない。私は楽しかった。感謝として!この力すべてを貴様にぶつけるとしよう!!破滅なる誓約をせし黒煙なる王の力を見るがいい!我が力絶望の一手!!『不滅殲滅:破壊の契り』(ナイトメア・オブ・デストラクション)」
アレクロアス一世の後ろに巨大魔法陣が展開する。中心には『XIV』右手を触れると、そこから、無数のレーザーのように弾丸が降り注ぎながら、徐々に大きな槍のようなものが出現しだす。
その大きさは全長一キロほどのものとなっておりゆっくりと霧火めがけて突っ込んでくる。無双竜一本だけでそれに抵抗するが、他の弾丸により徐々に怪我をしていく。
いくらサポートが有能なアリスであっても、こればかりは何も話すことができなかった。無理だと悟ったとき左手にダークマターの力、そしてブラッドの力を込め始める。思いっきりぶつけると大きな音とともに光を放った。その光の中を突っ込みアレクロアス一世をめがける。
「まさかこの爆発の中で突っ込んでくるとは、しかしこれでわかっただろう!私の不の力!それは不死の力であり、壊すことはできない!!」
「例え不死だろうが!!俺にはきかねええ!!無力の力よ俺に力をかせ!!すべてを受け入れてやる!だからこいつの持つものをゼロにしろ!!」
ピキーン……スゥー……
「まさか……こいつ!!」
「終わりだ!アレクロアス一世!!」
ズザザアア!!
それは一瞬であった。無双竜で切りアレクロアス一世を貫通し後ろに立つ霧火。
光の中彼はこちらを見るなりして、自分の傷を確認する。そして彼に向ってこういった。
「う……う……楽しかったぞ……ありがとう……」
その後光は消え今までのことがなかったようになっていた。最初に来た時と変わらない森の姿があり、春風霧火の状態だけ変わらずのままであった。
さすがに力を使い果たしたのか、そのまま倒れこんでしまう霧火は次第に瞼が落ちていくことにさえ抵抗できず。そのまま眠りについた。
エリザードに続きあの黒騎士の王であるアレクロアス一世も倒れるという非常事態はすぐさま黒騎士内部に知れ渡る。アブソリュートの再来なのかもしれないと話す者たちも現れた。
グランエリアスに存在する能力者たちを警戒し始める動きをとるのであった。
目を覚まし気が付くとそこはベットの上であった。周りを見渡すと木造の家の中だと知る。自分の体には包帯が巻かれており上半身は裸の状態で頭にも包帯が巻かれていた。
誰かが助けてくれたのだろうと思いベットからでていこうとしたが、痛みにより下手に動かせずにいた。するとドアが開き一人の少女がやってくる。
「まだだめですよ!動いてしまったら!」
そこにいたのは、短い髪をし後ろでまとめている少女の姿であった。目は赤く髪も赤い、ブラッドなのかもしれないと思う霧火だったが、珍しいことじゃないのだろうとし、考えないようにしていた。
少女は自らを柊凛と名乗った。場所は戦ったところよりも相当遠い場所であり、ある人に言われて一人で暮らしているとのこと。
異世界は物騒続きなため少女が一人で暮らすのは問題あるのではないのか? そう霧火は言うと、一度もそんなのにあったことがないのだとか? 運が良いのか結界が強力すぎるのかはわからなかったが、だが、一つだけ転移してきたことに関しては話していた。
転移前の記憶はほとんどなく、ここに一人でいるのが普通だと話す。ノヴァとはまったく関係のない飛ばされ方をしているらしく、姉ちゃん の一言ですべてが解決してしまっている。
そのお姉さんもどこにいるのかはわからないが、一週間に一度帰ってくると話す。この世界に来てからの日数としては霧火と同じくらいになっていた。
記憶の欠如が激しく、そもそも転移者なのかどうかさえは怪しいところだったが、少女は明るく元気なため今は考えないようにした。
黒騎士十八皇帝十四アレクロアス一世、黒騎士の王を倒したことや、自分の力、それらを思い出していたが、次第に頭が痛くなってくる。
そのまままた眠りにつく春風霧火。
気が付けば真っ暗な空間に存在していた。目の前には前に出会っていた久遠湊とルミナス。
また同じ世界に来てしまったことに驚いていたが、聞きたいことは山ほどあり別に良いとした。
「また……ここ……」
「また会えたね。ここにこうしているということは、生きているということかな。よかった」
「まああんなことがっても生きていることは素晴らしいですね」
「一体俺の体に何が起こってるんだ……?」
そのことについて久遠湊から話された。簡単にいってしまえば、無力による暴走を止めたとのこと。ダークマター、破壊王の力、ブラッド、この三つの特殊技能を使いようやく縛り付けることが可能となった無力の力。逆に言えば、それほどのものでなければ、ここまでのことができないと話す。
いつかは自分でコントロールしなくてはならないものなのではあるが、現時点ではそれぞれの力を解放したことによる副作用などが起こりえることがあるため、他の力を優先的にマスターしていくことが重要だという。
黒騎士十八皇帝十四アレクロアス一世の四方八方による攻撃はアリスがダークマターを使い無理やりにでも移動させたとのことであり、最後の一撃は無力の力を発動させたとのことである。
破壊王の力により技をなくし、そのままアレクロアス一世の力を無力化させる。とんでもない方法ではあったが、それが唯一勝てる秘策でもあった。
春風霧火が放心状態になり倒れているとき久遠湊は霧火の今までを捨て新しい存在を作ることをしたのだそうだ。完全に前は死んでおり、新たな自我を形成させてようやく人として存在させることに成功した。それは、別のことに置き換えるのなら「輪廻転生」と呼ばれる力でもある。
今の自分はもう昔とは違い別の存在、人間なのかどうなのかさえわからない状態ではあった。
「そんなの……ただの化け物じゃないか……」
春風霧火は力を欲して行動してきていた。しかし、現実はそれ以上のものを与えてしまう。ここまで強力なものを必要とはしなかった。逆にこの力のせいでどれだけ苦痛な目にあったのかはわからない。
次第に自身すらなくしていた霧火だったが、目の前にいた久遠湊、ルミナスの二人は表情を見て彼に語り掛けるように話す。
「私は霧火さんを選んだことを誇りに思います。勝手なことではあります。それは十分承知のうえです。しかし、あなたほどここまで強く生き、抗ったものもいません。私ももうすぐそちらに向かいます。その時は必ず味方として助けます」
「そうだね。辛いことの方が多いね。そのままだと道を外すかもしれない。自分を化け物として考えるかもしれない。でもね、その力があるからこそより大きく救える者たちもいるわけだ。もう君は昔のように弱く力ないことに怯えなくていいんだよ? 突然すぎることで無理なのはわかるし、逃げ出したい気分に苛まれるかもしれない。これからもっと悲惨なことや悲しいことが起こるかもしれない。それでも進まなくてはいけないんだ。一つ選択を間違っても誰も君を咎めたりはしない。生物である以上必ず間違いを起こす。無力の力であってもそれは不可能なことであり、化け物じゃない証なのかもしれない。生物の本質は何があっても変わらないのだからね。僕は君を応援している。それは、すべてを成功するというわけではなく、君らしい自分なりの生き方をしてね? ということ、困ったら誰かに頼ればいい。逃げたいときは素直に逃げたらいい。なんでもやっていいんだから、君はもう英雄だ」
「えい……ゆう……」
「これからは当分会えない。もしかすれば一生かもしれない。だから最後の言葉として話したんだ。僕は久遠湊、アブソリュートと呼ばれるギルドのマスターをしていて、その時は零と名乗っていたかな。遠い過去のお話だ。無力の力を最後に抑え何年もかけて封印し続けてきた。その力もゆっくりと弱まってきている。君の未来の戦士はこの力を使いこなしてほしい。僕にはできなかった三段階目の最後の力をね。それではじゃあね」
そう言うと視界は光へと消え、やがてベッドから飛び跳ねるようにして起きていた自分がいた。隣には林檎を剥いている柊凛の姿があり、驚いていた。
「どうしたの?」
「あ……」
「え……ちょっと!どうしたの? 怖い夢でも見たの!ええ……」
気が付けば涙があふれ出ていた春風霧火、それを止めることはできずついには震えだしていた。それを見ていた柊凛は驚いていたが、優しく抱擁をし慰めてくれていた。
「お姉ちゃんやお母さんに言われたんだ。怖い夢見たとき誰かに抱きしめてもらえると治るんだって!何があったのかはわからないけど、私ができることはそれだけだから!」
「ありがとう……見ず知らずの人なのに……ここまで……」
「平気だよ。君は平気。危なくない人なのは目を見てわかるから」




