第十世界 《 伝説の誕生 》
彼にはすでに光はなくなり、絶望だけしか存在しなかった。もう何時間経ったのだろう。何場面切り替わり、見たのだろう? いくら人を殺したのだろう? いくら人が死んだのだろう? 数えることさえ不可能であり、一場面一場面の詳細すら記憶するのをやめていた。
すべてにおいて、残虐非道なことであり、すべてにおいて精神的なものになる。何が助けであるかなんて彼にはわからなかった。
気が付けば無双竜を手に持ち、場面が切り替わる毎に、人が死ぬ前に、問題が発生する前に人を殺し場面を無理やりにでも変えている姿があった。
人の性格は簡単には変わらないと言うが、これほどまでに残虐非道な場面が流れ続けていれば、誰しもが変わってしまう。
そして新たなる問題が発生する。どこからともなく鎖がやってきて、彼の手首、首、足首、腹部至る所に巻き付き、身動きの取れないような状態になる。
それでも場面は切り替わる。そこに映し出されたのは藍原すずの場面であった。
今までで一番最悪なシーンがこれから始まってしまうのであった。
そんなことを知らず、軽くあがいたが、何もなく終わるだろう。そう思っていた彼は次第に汗を流す。
流れたのは、藍原すずが目の前で悲鳴をあげながら、知らない男に犯されるシーンであった。
暴力をされてもなお、抵抗する彼女。それでも三人ほどの男に無理やり押さえつけられ迫られる。
奥の扉からまた五人がやってくる。ボロボロに使われたあとの彼女の目には光はなく、ただその場で屍のような状態で横たわっていた。
それからまた場面が切り替わり、次は十人に増え倉庫のような場所で髪を引っ張られながらもされる。
またまた場面が切り替わり、次は犯すことではなく、ある程度半殺しほどまでにされ倒れる彼女の姿が映される。
それらを見ていた霧火は口をふさがれて、体を拘束されていたにもかかわらず、無理やりにでも解いてやろうと、あがきまくっていた。次第に縛っていた箇所、自分の首までも紫に変色し、しまいには血がにじみ出ているような状態にまでなっていた。
声にもならない声があたり一面に響き渡る。涙が枯れるのではないのか? そう思うくらいにまで出し続ける。
藍原すずのことが十二場面くらい終わり、次に来たのが水戸アヤトや仲間たちのボロボロになる姿であった。自分が映し出される光景は何もなく、仲間が殺され使われ倒れていく。
茫然自失、今の彼には適する言葉であり、救いなど何もなかった。現実ではそんなことはないのだが、今見ている光景はある。本当でないのは誰もがわかることだが、何回も映像が流れれば、本当のように感じ取ってしまうのが人というものである。
束縛が取れ自由に動けるようになったときにはすでに、力をなくしそのまま地面にうつぶせの状態で倒れていた。瞳孔が散大しており、死に近い状態であった、それでも脳内には直接映像が流れていく。目が見えなくても、そのようなことが起こっていた。
状況がわからない。そんな考えはすでにしておらず、思考回路すら0の状態であった。身体的損傷もひどいもので、無理やり動いた結果至る所に生々しい傷がある。
怒りで我を忘れていたこともあり、痛みなど一つもない。しまいには指が折れており、血が流れている個所も存在する。
もうすべてにおいて終わっていた。春風霧火をそれでも攻めてくる場面の数々。何がそこまでさせるのか?
そんな状態の中一つのものすごいスピードで彼の元にたどり着き抱える姿が現れた。久遠湊、公園であった青年である。まずいとつぶやき春風霧火に向かって叫ぶ。
「まずい……ルミナス、彼に僕の力を受け渡す。あとはわかるね?」
「大丈夫です。無力の力やはり、この子を器にしようとしてたのですね」
「この力は僕の時以上に力を増している。彼には突破してもらわないといけない。ダークマター彼を守ってやってくれ!!」
黒く禍々しい球体は春風霧火の中に入っていく。久遠湊はダークマターと呼んでいたもの。意識を取り戻したのかゆっくりと座りこむ春風霧火、それに声をかける久遠湊はあることをしだす。
「申し訳ない、しかしこれしか方法がないんだ。『最後の楽園』」
両者は光に包まれ、やがてそれが消える。魔術なのかはわからない、しかし、その力は無力の力の爆発に包まれていた霧火を無理やりにでも引きずり出し、我に戻させていた。
下を向き久遠湊に一言話す。
「俺は……何を……」
「ひとまずは安心だ。だが、霧火君、君はいつかは無力の力と対決しなければならない。僕が使っていたころより相当力を増している。僕の力の作用は君の時間で言う一か月ほどしかない。それまでに何か手段を講じなければならない。僕も考えるし、ルミナスも考える。そして、君にはまた新しい仲間が増える。今君ができることは、それを考え、現実に戻り、問題を解決すること。いいね? もう時間がない。またどこかで会える。じゃあね」
そういうとあたり一面は光に包まれた。
目を開き、気が付けば森の中にいた。大きな爆発音がし、そちらの方を見ると煙が上がっている。どうやらアクエリアス・ブルーの戦争の中に彼はいたのだ。
何も言葉を発することはせず、頭の中の整理をし始めた。するとどこからともなく黒騎士があった。そちらの方に歩いていくとそこには、ボロボロで倒れている黒芝悠雅の姿があった。
黒騎士は禍々しい剣を目の前に突き刺しとどめの一撃をするところであった。そこにすぐさま駆け寄り春風霧火は相手を吹き飛ばす。
「お前……春風か……なんでこんなところに……」
「お前を今から救ってやる。仲間だからな」
「何やつだ? 貴様」
「春風霧火、お前を倒すためにここまでやってきた」
「名を名乗るか、それでは致し方あるまい。我は……カハァッ……おぬし」
「お前の名前には興味ない。死んでくれ」
そのまま倒れる黒騎士のリーダーのような者。霧火は無双竜を前方に横一振りすると、黒い衝撃波が放たれる。一斉に兵士は倒れる。
黒芝悠雅は、何が起こっていたのかわからなく彼に対して一言話すが、それを無視し、右手を背中に触れた途端、傷がすべて癒え、その後に仲間を救ってくれ。 と残し去っていった。
一言かっけーと黒芝悠雅はつぶやき、言われたように進んでいった。
ある程度進むと、何かに気付いたのかすぐさま立ち止まり、後ろに向けて何か用? と話す。ばれたことを素直にうけとめ、後ろの茂みから現れてくる。
そこにいたのは、ピエロの仮面をした黒ベースに白いレース、両側三つ編みをし、後ろで結んでいる。あとは垂れ下がっている髪型をしていた少女の姿が現れた。
その子は春風霧火に話しかけてきた。
「マスター私は、ダークマター使用者の使い魔として思っていただければよろしいです」
「そうか、マターをもってるのか。俺は……なら今ここで話してくれないか?」
「いいですよ。マイマスター」
突然マターの話になったが、春風霧火はそれを素直に受け入れ、聞いた。それぞれの属性の頂点に君臨するマターと呼ばれる力の集合体。魔法が使えなくてもマターは使えることが可能であり、それは絶対である。
使用者には使い魔が存在し、その見た目はさまざまである。少女はアリスと名乗り、サポートを担当するとした。何も驚くことをせず、彼はそのまま頷き進んだ。
ある程度進んだところで、また立ち止まり霧火はブラッド解放 とつぶやくと周りが赤いオーラが出現する。足に力を溜め、ジャンプしだす、とてつもない跳躍力とスピードで森を駆け抜けた。
もはやそれは、前の春風霧火とは真逆のスタイルに変化していた。彼自身は何も考えず、国の方へと進んでいく。
商店街付近につき黒騎士の兵に追い込まれている神代弥生を発見する。彼女が囲まれている数十メートル先のところに勢いよく着地する。一帯の兵士は吹き飛び衝撃波を与える。
何事かと思った黒騎士はそちらを向き、そこに霧火がいることを知り、襲い掛かる。足を高く挙げ再度地面に落とす。その衝撃により、地面は割れる。それを見ていた黒騎士は固まるが、そこを突っ込む。
簡単にやられていく黒騎士兵を見て驚く神代弥生、たちまち彼女の目の前に現れ一言近くにあった地図を手に取り、ここに来て、話はそれからだ。と言い、無双竜を召喚し、迫ってくる黒騎士をばったばったと切っていく。その姿を見てかっこいいとつぶやく神代弥生。
はやく! と怒り混じりの口調で話す彼を見て、ハイ! と返事をし去っていく。
黒騎士兵も春風霧火を見て、手も足も出ない状態に驚いてしまう。彼の攻撃は止まることを知らず、たちまちその場にいた黒騎士兵をみな倒すことに成功する。
山のようになった死体は一気に霧へと変わり空に上がっていく、それを見てこの世界の死体処理は楽そうだな。 とつぶやき城の方へと走っていく。
城一階にたどり着くと、柱の方に何やら光っているものを発見する。それを見つけると気づく。水戸アヤトの所持している竜刀であった。どうしてこのような場所に無造作に置いているのかは、わからなかったが、もしかすると、死んでいる? と考え始め、城が妙に破壊されていることに関しても不思議であった。
そうこうしているうちに、周りに死霊が大量に現れる。そんなの見向きもせず城をあとにしようと歩き出すと、彼らは襲ってくる。歩きながら片手で払いながら進む。
考え事をしているかのようだった。そんなことをしているから、彼らも怒り後ろから五人で突っ込んでくる。しかし、それは失敗に終わる。
腰の位置から触手のような赤く黒いものが飛び出す。それに死霊は突き刺さり、吹き飛ばされる。その後霧火を中心に魔法陣が展開される。そこからは鎖が出現し、迫ってくる死霊を叩き潰していく。
城から出たころには、死霊も黒騎士兵と同じように霧に変わり空に消えていった。そんなことをしているからか、その噂はすぐさま広がり、第四の勢力として知れ渡った。
骸の力を持つもの、黒騎士軍、赤き竜、助けに来たグランエリアスから配属されたギルドたち、ここから始まるのは、神の遺産争奪戦になる。どちらが倒れてもおかしくない状況であった。
いまだに七聖剣 大魔剣以外に神の遺産は発見すらされていない。残り四つを求め戦いは更なる局面へと変化する。




