第一世界 《 死者を操り師者 》
「ギリギリだったか?」
「あのままだと、まずかったかな……」
「私はいけましたけどね?」
二人の表情を見て安心した直哉であった。アヤトはあのまま黒騎士が動き出したら、それこそまずいことになるだろうと読んでいた。救出されなかったらもしかしたらあの世の可能性すらあった。
いくら白火という力をもっていようが自分が扱えてなければ意味がないのだ。
メアリーはいけるとはいったが、どう考えてもやせ我慢である。
直哉たちは屋敷から随分と遠くの場所まで来ていた。国から相当遠く離れた場所らしく、どうやら幻魔法の力を使って移動したとのこと、アヤトとメアリーの救出もそれを使ってのことだという。
幻魔法をここまで使いこなす人を初めて見るものであったがため、驚くどころか引いているサトルがいた。
「これからどうするんだよ?」
「どうするも何も、もう決まっちまってるんだよな……はぁ……」
彼らは直哉の指さすところを見たが、そこには無数の黒騎士の集団がこちらに迫ってきていた。中心には「アレクロアス一世」の姿があった。本当の黒騎士の集団である。
空には鳥のようなものがいるが、真っ黒く染まっている。アレクロアス一世が直哉たちの目の前に立ち一言発した。
「さあ~終焉を始めよう……」
「悪いな……お前たち、お別れみたいだ……《異次元転移》」
「直哉!待て!!直哉ああああああ!!」
アヤトの声虚しく彼の力により、みなは次元に吸い込まれた。最後の直哉の顔は笑顔であった。
その後に目を覚ましたところは国の中だと思われる商店街だった。周りを見渡せば、シロイとクロイしかおらず、無作為転移だとそこで知る。
「まずいな……このままだと、みな死ぬ……」
「アヤトさん……」
「く……直哉も厳しい状況だったってことか……」
周りには無数の黒騎士たちが囲んでおり、国の住民は誰一人として見当たらなかった。
空は暗くよどみ、彼ら専用のフィールドと思わせるような作りになっていた。とてもじゃないが分がわるすぎる状況だ。しかし、クロイやシロイが迫ってくる黒騎士を軽く倒していると、そこまで強いものじゃないと察する。サトルたちを探すために、三人は走り出した。
次第に三人はおかしなことに気づく、味方の兵士と誰一人として会わないのだ。あんなに大量にいた兵士と一人も会わないのはおかしな話である。クロイもアヤトに対して死霊がいないと話す。
もしかすれば、このフィールドは黒騎士専用の結界のようなものなのかと考えるアヤト。
後方からは黒騎士の軍がやってくる。悠長に考えている暇は彼らにはなかった。いくら倒してもやってくる黒騎士を相手にしていれば、いずれ彼らは体力が底を尽きる。そうなれば助けることはできない。
辛くはあったが、そのまま走っていき、追われるようにして走った後についた場所は城の中であった。
すると、目の前からコツコツと歩いてくるものがいた。長い黒髪をしており長身の全身が黒い服の男性。
「まさか……ここで会うとは思いませんでした。水戸新様の子孫ですね。私は死霊術師《骸の力》所持者、大道寺翔と申します。」
「あなたを知らないけど、まさかここで会うとは思ってもみなかった。」
「アヤト!こいつも特殊技能の力を持つものじゃぞ!気を付けろ!」
突然現れたのは今回のターゲットでもある《骸の力》の持ち主であった。
まさかの遭遇に驚くところもあったが、探す手間が省けたとして話す。
どうやら今外では死霊と黒騎士、その他の兵士たちの戦いが行われているとのことである。大道寺翔はアレクロアス一世の力により黒騎士の世界に入れられてしまったと語る。
王室に行き力を解放し二つの結界を一つにするのをこれからやろうとしているらしく、それに関してはアヤトたちも賛成と言う。現状は分が悪い、相手の思い通りのところに少ない人数でいても意味がないからの作戦である。一時的に仲間として活動することになった。
王室に何もなくつくと、すぐさま彼は術を発動する。
空からガラスが割れる音が聞こえ始めるとともに兵士の声も聞こえ、たちまち炎が燃え上がるようになった。黒騎士の力を超えるほどなのかとアヤトは思った瞬間何者かに腕をつかまれ、その後大量の人によって束縛されてしまう。まさかとは思ったがそのまさかであった。
クロイ曰く死霊術師の力である。今つかんでいる人は、すでに死んでいるものである。三人は不意をつかれたのだ。大量の死者に囚われてしまう。
中央にいた大道寺翔は冷めた目でこちらを見る。
「何もないことは良いことです……しかし、すでに何かある状態は何もない状態とは違うのです。0にはならないのですね?」
「どういうことだ……」
「あなたたちをそのまま私のコレクションにします。それではさようなら。」
パリーーン!!
「乗り遅れた。先客がいたか星次ぐ人々所属、神の遺産《太陽の大剣》(プロミネンス)所持者、グラン様だ!」
「同じく星次ぐ人々所属、神の遺産《氷淵の槍》(アイシクルスピア)所持者、マリアス」
「はえーなやっぱり!!イグニアシス所属、神の遺産《業火の魔獣》(フレイム・ボルケーノ)所持者、サンタスだ。よろしくよ。」
一人はガラスを割り入ってくるもの、その他二人は扉から入ってきた。加勢がやってきてくれたのだ。
状況を読み取ったのか、すぐさまアヤトたちを助け出す。今は仲間であり、目的は死霊術師の王の討伐だと語る。グラン、マリアス、サンタスの三人とも見るからに強そうに見える。
グランは、赤い鎧を着ており、茶色い髪をオールバックにしている。
マリアスは、動きやすそうな服にしており、ショートカットで水色にしている。
サンタスは、黒いTシャツの中央に炎と書かれているものを着ており、頭には黒いタオルを巻いていた。ラーメン屋の店主みたいである。
「水戸アヤト君の力も見てみたいものだな。いくぞ!」
「ハイ。」
サンタスがそういうと一斉に六人で大道寺翔に迫っていく。
最初に攻撃を繰り出すのはシロイの遠距離魔法、次に来るのはマリアスの氷の遠距離魔法、グランとサンタス、クロイの近接が一気に大道寺翔を襲い、一斉に放った攻撃は勢いが強く地面を貫いた。
しかしそんな簡単にはいかないのはわかっていた。三人は吹き飛ばされ、闇属性魔法のようなものでおいうちをかけられそうになるが、アヤトの札による魔法で防ぐ。
札という奇妙な技を使うもので、面白がっていたグラン、マリアス、サンタスの三人。
負けじと突っ込む、六人の総攻撃は厳しいのか、大道寺翔は違った死者による攻撃を開始する。たちまち人数は逆転され、相手は死者だろうが、罪のない人たち、手を止める彼ら。
それをチャンスだといわんばかりに攻撃を開始してくる大道寺翔、さすがにまずいと思ったのかクロイが死者に対して攻撃をする。悔やまれることではあるが、現時点で唯一の打開策ではある。
「そんなものですか、とても残念な気持ちになりました。骸の力を使い終わらせます。《死霊共鳴》(アンデッド・レゾナンス)」
周りにいた死霊は声にならない声を上げ、赤く光爆発しだした。なんとも恐ろしい攻撃をする大道寺翔という存在に恐怖さえ抱く六人たち。
恐ろしいのはこれだけではなく、爆発した死霊は再生し復活する。無限と言われるほどの魔力に兵士、時間が経てば必ずこちらが戦況不利に陥ることは明白であった。
囲まれ身動きができなくなる六人は、じりじりと迫ってくる死霊たちを薙ぎ払って遠くに飛ばすしかできなかった。考えに考えた結果アヤトがとあることを思いつく。
「いい案があります。これが成功しなければ、死に至る可能性がありますが……」
「なんでもいい乗ってやる!サンタスさまは寛容であるぞ!!」
「やりましょう。時間なら稼いであげますよ。」
サンタスとマリアスがともに案にのり続けて他の三人ものった。非常に簡単だが、非常に時間のかかる詠唱と話し、彼らは時間を稼ぐようことを考え始めた。
アヤトは白火に切り替わり、呪文を唱え始め、周りからやってくる死霊は他のメンバーが倒す。
それを見ていた大道寺翔は、怪しいと踏んでか骸の力《死霊共鳴》を再度かける。
「そうはさせねーぞ!サンタス秘技!!《灼熱の大爆発》(バースト・フレイム)」
「《紅炎の爆風》(プロミネンス・ブラスト)」
サンタスの神の遺産は人体強化であり《ナノ・バースト》と呼ばれるものである。見た目を獣のように変化し、地面に向かって腕に渦巻いている炎を叩きつけると、たちまち前方が爆発する。
グランは両手で剣を持ち思いきり振り払っての攻撃だった。大きな風を追いかけるようにして火がやってきた。その二つの攻撃により、死霊たちは吹き飛び共鳴の爆発は防げるが、それでも復活するものを完全に止めることは不可能であった。
徐々に呼吸が荒くなる五人、一か八かの賭けに出ているため確実にアヤトを守ることだけを考えていた。それが例え失敗しようが、なんだろうがこの状況を打破する方法があるのならよかったのだ。
大道寺翔が、いよいよ行動にでる。
「すべては終わりを意味します。何をしているのかわかりませんが、さようならです。《絶望の序曲》(フェアツヴァイフルング)」
どこからともなく音が聞こえ始め、次第にそれは大きくなり頭上に禍々しい球体のようなものが出現しだす。それは、大きくなりやがて落下しだす。まずいと思った彼らだったが直撃し大爆発を起こし床事破壊した。声をあげながら落ちていく彼ら。
地面に叩きつけられるようにして城一階に落ちた。ゆっくりと下降してくる大道寺翔、その姿は王のようであり、神のようである。人の死体を操ることができる能力は強大であった。
生きていることを確認したのか、もう一度同じことをしだす。さすがにこれ以上は受け止められないと思った矢先……ついに動き出す。
「すべての魔力を一点に集結し、光へと変換する!!穿て!!光の矢!!ホーリー・レイ)!!」
「まさか!!ぐあああああ!!」
アヤトから一階のフロアをすべて覆うようにして、白い大きな魔法陣が出現し、そこから上に向かって光の矢が無数に発射しだした。それにあたった死霊たちは成仏するかのようにして召されていく。
強大な光の魔法により大道寺翔も直撃し、大ダメージを受ける。
その輝く綺麗な力、大きな力にサンタスたちは驚いていた。なぜ?ここまでの強力な力を持っていたのかも謎であり、ただの人とはとても思えないような光景が広がっている。
体制を崩し地面に激突する大道寺翔は、ゆっくりと立ち上がりながらもふらついてる状態だ。相当ダメージが効いたみたいである。
あの一撃でも耐え、生き残っていることに驚いた彼らだったが、アヤトは次なる戦闘に備えて竜刀を握り始める。
大道寺翔は、一瞬笑顔になってから怒りの顔に切り替わり一言。
「憤りを感じます。面白くはないですね。ここから本番と参りましょう。《死霊の鎮魂歌》(アンデッド・レクィエム)!!」
またどこからか音楽がなり次第に大きくなっていく、今回の動きは前とは違い、ゾロゾロと死霊がやってくると同時に肉体と肉体とが徐々に合わさっていく。まるで粘土のような作りに見えたが、人であるのは間違いない。大きくなっていくそれはゴーレムのような巨人へと姿を変えた。
その数は一体ではなく何十体もの数に膨れ上がっており、気が付けば四方を囲まれていたのだった。