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ジュー

「ああ、そうそう。お前さんに伝えておかんとな」


 戻ってきた肩ロースは、背広の胸ポケットからスキットルを取り出すと、まず一息いれた。


「レッドキャップの退治なんだが、出来れば頭を一撃で仕留めてほしい」

「理由があるのか?」

「ああ。まずは、その理由を見せた方が早いな」


 肩ロースが頷くのを事前の打ち合わせとしていたわけではないだろうが、ドアの外から頭を著しく損傷し、帽子の取れたレッドキャップが入ってきた。


「ああ。構える必要はない。頭に注目してくれ」


 肩ロースは、殺し損ねたと思っているピースに対し、手をヒラヒラと振ることで攻撃を中止させ、ついでに指をさし、頭を示した。

 元からヒドかったゴブリンの顔がジューの衝撃でグチャグチャになっているが、新しい別の顔と目が合った。

 土気色の干からびたニンジンに老婆の顔という組み合わせで、ニンジンの、しなびてはいるがよく伸びた茎が上手いこと白髪頭を彷彿とさせた。


「ニンジンの部分は、知り合いからもらったマンドレイクの種をゴブリンの頭に植えてみたら良い感じに成長してな。マンドレイクというのだが、知っているか?」


 ピースは街で人殺ししかしていないので、モンスターの知識はほとんど無い。


「マンドレイクは、根をはった部分を引っこ抜くとこの世のモノとは思えない絶望の声で相手を死に追いやるおっかない植物だ。だが、このマズそうなニンジンは、魔法使いにとっては喉から手が出るほどに魅力的な魔力を持っていてな。結構、人気者なんだ」

「では、その魔法使いに抜かせるために、頭を狙うのかのぅ」

「魔法使いが俺なら、手下のレッドキャップに引っこ抜かせて、声が出ているあいだは耳栓でもしておくぜ」


 それもそうじゃのぅ、とピースは納得する。しかし、その一方で、そのマンドレイクの存在理由がよく分からぬ……と、ピースの表情は訴えていた。

 肩ロースは、その反応が楽しいのだろう。口角を広げると、説明が続いた。


「コイツの名は、ダミーマンドレイク。頭を引っこ抜いたら耳の聞こえる相手を殺すのは普通のマンドレイクと一緒だが、威力が違う。そうだな、普通のヤツがせいぜい2~3体程度なら、コイツは10体ぐらいは巻き添えにする。耳栓して対策を立てても、しばらくはまともに動けないほどには衰弱させる。そして、苦労して引き抜いたというのに、薬効成分が全くない。まさに、相手への嫌がらせに特化した魔界の植物だな」

「ふむ。それでは、わしらも危ないのではないかのぅ」

「ところがどっこい。コイツは友人が作った『賢い』ダミーマンドレイク。敵味方の識別が出来る知能を持つ上に、依り代にした身体を媒体に魔法まで使える。しかし、魔法を使わせるには脳ミソは吹き飛んでも良いから寄生する側の口が残っていないとダメだ。だから、頭を狙ってほしいんだ」


 な? と肩ロースがダミーマンドレイクに声をかけると、老婆の顔が笑顔になった。

 といっても、ピースには何となくそう見えただけだが。


「ーーーーーーーー」


 賢いというフレーズに気をよくしたのか、ダミーマンドレイクがゴブリンの口を動かして語りかけてきた。

 突然の出来事に戸惑う肩ロースをよそに、ジェノが前に進むと、老婆の声を拾い始めた。


「ピースさんの欠けた足のことを聞いていますが」

「幼い頃に住んでいた村を滅ぼされてのぅ。燃えさかる我が家から逃げ延びる際に負った怪我が元で切断したんじゃ。ああ、目も失ったのぅ」


 ピースの返事を聞いた老婆は、言葉の通じるジェノと会話を始めた。

 老婆の答えに驚くジェノ。

 ジェノは、すぐさま肩ロースに老婆の意見を伝える。


「おいおい、婆さん。残りの種も全部使って、同胞を戦力に加えろ! と。簡単に言うね。いや、出来んことはねぇ」


 肩ロースがそのまま会話を垂れ流すので、ピースだけ仲間外れと云うこともなく、今後の方針が決まっていった。


 ◇◆◇◆


「気になることがあるのニャ!」


 いよいよこれから! という話の流れを、ミーコの大声が遮断した。


「いきなり何なのですか、ミーコさん!」


 握りこぶしで構える姿をとってまで、ピースの言葉を、冒険譚を聞き入る子供のように待っていたアイカが、思わず猫獣人に対して声を荒げた。


「お前、足、どういう状態だったのニャ。気になって仕方がないのニャ」

「どう、とは?」

「お前、今は松葉杖を足代わりにしているけど、当時はどうだったんだニャ」

「片足でバランスを取って、移動はケンケンじゃのぅ」

「アタシはレッドキャップと交戦した経験があるけど、旦那は、よくその足で戦えたな」


 ピースは納得した。思えば、ミーコやリャーリャーノにジューの本当の威力を見せていないことを。


「アニス、付近におあつらえ向きの悪党がいないか?」


 副ギルドマスターは早速、得意の魔法を用い、老人の願いに沿うような状況を探し始めた。


「ありました。ちょうど向かい側の建物の裏路地でカツアゲが行われています」


 エルフの指さす方角へと移動したピースは、ジューを取り出した。

 まず、現場を視察した。

 実力の差に屈して崩れ落ちる新人冒険者に対して、チンピラのような冒険者崩れの中年が、彼等が苦労して入手したと思われる戦利品を漁っているところを目撃した。


「新人狩りかい。イヤなモンを見ちまったね」


 嫌悪するリャーリャーノの隣で、ピースはジューを構えた。

 その銃身は最初見せられたときよりは少し長く、ミーコを捕まえたときよりはだいぶ短かった。

 そして、昔話をしていたときのように竹炭のようなモノがジューから発生し、貴族がかけているモノクルのようなガラスがチラリと見えた。確かに、中央に赤い点があった。


「あの当時のジューでアイツを撃とう。アニス、新人のケアは任せた」

「任されました。ご安心を」


 竹炭から間抜けな音がして、ほんの僅かなあいだに、中年冒険者崩れの頭が吹き飛んだ。と、同時にピースも体勢を崩して倒れ、リャーリャーノが支えるようにすくい上げた。


「ミーコの疑問はこれ、か。確かに、片足ではジューの反動を受け止めきれんのぅ。ハテ、わしはどうやってヤツらと相対したのかのぅ」

「アンタがこんな調子じゃ、その肩ロースって人が片付けたんじゃないのかい」

「いや、わしはたくさんのレッドキャップに囲まれたからのぅ。そうじゃ、アイツらはわしがあの中では一番の足手まといだと分かると、数の暴力でわしを囲むと威嚇しながらじわじわとその囲いを狭めてきた」


 ゴクリ、とアイカが固唾をのむ音が聞こえた。誰もがピースの言葉を待っていた。


「当時は、リャーリャーノがおらんじゃったから、わしは地面に倒れておった……」


 ピースは立ち上がる時間をレッドキャップが与えるほどの間抜けとも思えず、倒れたまま反撃を試みた。

 肩ロースの真似をするように片手撃ちを行い、撃つたびの反動は地面に接した方の片手でバランスを取った。両手撃ちのときのような当たりやすさこそないものの、ジューの威力は健在だった。

 ピースはそれまで、立った状態のままで撃つものだと思っていたジューが、倒れた状態でも反撃が可能と知るや、攻勢に出た。

 実戦に勝る経験はなし。

 ピースはいつしか暗殺ギルドに所属していた頃の感覚を取り戻し、ときどき、相手の油断を誘う演技を織り交ぜながら、ジューで毒のナイフで死体を量産していった。

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