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老ギルド職員、ピース

【 この文を目にした者は、一切の希望を捨てよ 】


○ 毎日更新はしない。むしろ、超鈍亀更新である。

○ 文章の内容は面白くない。最底辺ランカーを舐めるな!

○ 読み進めた天邪鬼の、否定的意見は断固取り入れない。クソなら読むな!

○ 但し、反面教師にはなるだろう。

○ ブラウザバックを超推奨する。時間の無駄だからな。

 スナギモ冒険者ギルドという珍妙なネーミングを持つギルドがある。

 初代ギルドマスターが大の砂肝好きで好きすぎたあまり、幾多の反対を押し切ってでも名付けた……という謂われがあり、このギルドで働く者なら誰でも知っている。というのも、最後まで反対の立場であった副ギルドマスターが、スナギモというネーミングを認める代わりに代々に渡って、その由来を伝えることで合意したからである。故に、新人のギルド職員は始めにこの珍妙不可思議なネーミングの由来を知り、成長した彼らは次の後輩へと記憶を風化させることなく、今に至る。


「……なのですよ。って、ピースさん、聞いてましたか!」


 若い女性ギルド職員が、やや口調を荒げながらその男を睨みつけた。

 ピースという名の暗色のローブをまとった男が、気怠そうな顔つきで彼女に対して視線を合わせた。とはいえ、男は左目に眼帯をはめており、視線を合わせるのに時間がかかった。


「よく火の通った砂肝は酒が進む。初代の気持ちも分からんでもない」

「酒飲みの意見は聞いていません。返事を聞いているのです」

「ああ、よく聞こえる声じゃったよ、お嬢ちゃん」

「私の名はアイカです。貴方からすれば子供扱いされる年齢かもしれませんが、これから先、同じ職員として働くのならば、私は貴方の先輩なのです。立場をわきまえてください」

「いや、こりゃあ、すまんかったのぅ。おおぅ、実力行使でわしのフードを外すのは……


 正しいギルド職員の身だしなみにこだわる先輩の行動力により、男の頭を包んでいたフードが下ろされ、暗色のローブまでも脱がされた。

 まず最初にボサボサの白髪があらわになり、ピッタリと左目を覆う眼帯、それなりの歳を重ねたしわが、比較的若い男女ばかりのギルド職員の中では異質に見えた。そこから更に右太ももから下の部分を失った片足という状態が所在なさげで、心苦しさをもたらした。


(おい、今の片足隻眼、暗殺者ギルドのジジイじゃなかったか?)

(そうだそうだ。『すれ違いの凶刃』だ、間違いない)

(マジかよ。あのジジイ二つ名持ちかよ)

(聞いた話だがよ、人混みの多い通路限定で標的を確実に仕留めるプロらしい)

(らしい? 本当の話なのか、それ)

(狙われた連中がことごとく死んでるからな。確認のしようが無い)

(それにジジイの実力に因縁つけたヤツも数日後に死体になっているからな)

(マジかよ。あっぶねー。俺、今やるとこだったぜ)

(うーん、お前は一度死んだ方が良いかもね)

「なんだと、コノヤロウ。表に出ろ!」


 それなりの経験を積んだ冒険者を中心にした生々しい新情報が、人生経験の浅いギルド職員の身体を大いに震わせた。


「まぁ、あの与太話も現役の頃の話じゃ。流石のわしも寄る年波には勝てんかった。引退してしばらくブラブラしておったら、ここのギルドマスターとちょっとした縁が出来てのぅ。再就職先を斡旋してもらったんじゃ」


 ピースは未だに震えるギルド職員に対し、ぼやくように説明した。


「そそそれなら現在はそそそこまでおお怯える必要も無い……ということですか?」


 朴訥な印象の漂う青年ギルド職員が、ピースに対して、上目遣いでおそるおそるといった感じで質問してきた。


「そうじゃのぅ。現役の頃は苦しまずに仕留めておったが、今、同じことをやると激しく苦しんで、足掻いた末に死ぬじゃろうな。まぁ、変なことは考えん方が身のためじゃぞ」


 ヒィ! と青年は顔色を悪くして逃げるように職場を離れた。

 と、不意に唐竹割りがピースの頭を直撃した。

 殴ってきたのは、先輩職員のアイカだった。


「ギルド職員心得その一! 職員内に不要な緊張感を立てないこと」


 アイカはビシッと指を立てると、キッと老人を凝視する。


「とはいえ、わしの情報を流したのは向こう側の冒険者ども……


 アイカの凝視は未だに続いていた。

 ピースは目の前の少女が、この老人を恐れていないのか、チラリと確認してみた。

 耳を澄まし、身体の一挙一動を分析すると、脈拍は早く、身体全体が僅かながら震えていた。


(うむ。見事なやせ我慢じゃ。これも先輩職員の意地かのぅ)


 そう判断したピースは、すくっと立ち上がるや、窓口以外の奥で働く他の職員に対して、


「わしの昔話で色々と怖い思いをさせて済まないのぅ。向こう側の冒険者が言っていたように、わしはケンカを売られない限り、手を出さない主義じゃ。その事を留意してもらえれば、この通り、片足の、杖無しではろくな移動も出来ぬ役立たずじゃ。じゃから色々と教えてもらうと助かるのぅ。先輩諸君」


 と謝罪の意を示し、頭を下げた。

 シーンと場が静まりかえった。

 とパチパチパチと拍手が響いた。

 先輩職員のアイカが、率先して謝罪を拍手という祝福に変えた。

 老人が恥をさらすことを厭わず、この場で働く若手職員に対し、非を認めたのだ。

 これに対して、若手職員の取る行動は何であろうか。

 溜飲を下げることでも、安堵することでもない。

 相手を許し、老人の謝罪を受け入れることではないだろうか?

 アイカの意図が他のギルド職員にも伝わり、拍手の連鎖が起こった。

 向こう側からも拍手が起こった。

 噂を流したベテラン冒険者たちを中心に勢いのうねりが起き、入ってきたばかりで右も左も分からない新米冒険者までもが勢いに飲まれて思わず拍手するほどだった。


「ようこそ、ピースさん。スナギモ冒険者ギルド一同は貴方を正式なスタッフとして認めます。先輩方の職場で培われたノウハウを吸収し、優れた冒険者の発掘と育成、その他諸々、頑張ってくださいね」


 ピースが下げ続けた頭を優しく上げる者がいた。

 耳先がピンと尖った妙齢の金髪美女が、ピースに対して柔らかく微笑んだ。


「誰じゃ、アンタは?」


 二度目の唐竹割りが炸裂したあと、アイカが震える声で相手を紹介する。


「この方はスナギモの副ギルドマスターを初代の頃から務めているアニスさんなのよっ!」

「なるほど。アンタがあの最後まで反対した……」

「ええ、そうです」

「なるほど。末代まで記録がよく風化しないなと思えば、エルフが関わっていたのか。ああ、それはそうと、アンタ、砂肝は嫌いなのかね?」

「食べるのは大好きですよ。ギルド名にすることには反対しただけですから」

「それなら良かった。まぁ、これからよろしく頼むわぃ」


 先輩職員の唐竹割りを何度も浴びながらも、ピースは握手を求めた。

 気の良いエルフ美人が握手に応じ、老ギルド職員は固く握手を交わした。


「ようし、異色の経歴を持つジジイの職場復帰を記念して、俺らが酒場を貸し切ってくるぜ!」

「おおっ、今晩は宴会だ!」

「ジジイ、鶏肉のフルコースを食わしてやっから覚悟しとけよ!」


 気の早い冒険者連中が駆けるように外へと飛び出して行った。

 ピースも後に続けとばかりに、壁に寄せていた松葉杖を手に取ると立ち上がろうとして、アイカにシャツの首根っこを捕まえられた。


「なに、どさくさに紛れて職場放棄しているんですか」

「わし、覚悟はすでに完了しとるからのぅ」

「だったらそのやる気を仕事に回しましょう。今日は定時で上がれるんですから」

「えー。わし、今、飲みたい気分……

「酒飲みの意見は聞いていません。仕事仕事!」

「堪忍や、堪忍してくれ、おっかさん」


 本日、何度目になるかの唐竹割りが、遂にジャストミート!

 老人相手でも情け容赦のない一撃に、敢えて受け身で浴び続けていたピースは思わず呻いた。

 また、先輩職員の仕事への揺るぎない情熱に根負けしたピースは、大人しく従うことにした。それでもチラチラと柱時計の針を何度も確認するのだけはやめなかった。

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