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第五話

 あ、ありのままに今起こったことを話そう。

 ミリーちゃんのステータスを見ていたらシステムメッセージなるものが表示されて、それを確認してたところ突然空から真っ青な晴天なのにも関わらず雷が落ちてきて、それをレアちゃんが極太レーザーで消し飛ばした。

 レアちゃんが放ったレーザーは今までと違いすぐに消えるようなことはなく、天を貫いて伸びて行き、しばらくしてから消えた。

 ステータスもあのシステムメッセージとかいうものも、レアちゃんが俺の知識を元に網膜に投影したもので、全てレアちゃんの意思が関わっている。

 何か神々やら天使やら書かれてたけど、きっとこれはレアちゃんの妄想だろう。


「妄想ではないぞ、前世の我よ。これより十日後以内に我は神の尖兵たる天使を迎え撃つ」


「やだ。大魔王様格好いいです」


 いやいやいやレアちゃん大魔王でしょ!? 何で天使と戦うことになってるの!?

 勇者は!? 英雄たちは!? 大魔王の相手っていったらそっちじゃないの!?


「それは、我が過去に神を何柱か滅ぼし力を奪ったからだな。それ以来神々に我は目の仇にされている」


「大魔王様ったら強いですね」


 レアちゃん何やっちゃってるのおおおおおおおおおお!?

 初耳なんですけど!?


「悪戯に異世界から人間を呼び寄せ加護を与えて我に嗾ける目障りな奴だったのでな。それに貴様も我の記憶を共有しているのだから、探せば良かったであろう。怠慢は感心せんぞ」


「よく分かりませんが、大魔王様の行いなのですからそれが正しいのです」


 それってもろ異世界転移のテンプレじゃねーか!

 だってレアちゃんの記憶どれだけ多いと思ってるんだよ! 三十年近く生きた俺の記憶と比べても総量が十倍を楽に越えてるんだぞ!


「そうだな。お陰で貴様の記憶は覚えやすくて助かっている。当時はただ気に食わなかっただけだったが、貴様の知識を得た今では奴らがどれほど悪辣な神々だったのか分かるぞ」


「大魔王様の敵は、私の敵。天使であろうと殺すまで」


 気に食わないだけで殺しちゃったの!?

 そこまでする必要はあったの!?

 正直引くよ!?


「何せ、我を殺すことよりもいかに異世界人を絶望させるかに熱心な奴らだったからな。召喚された異世界人はただ一組を除いて大抵味方に裏切られて死ぬか、奴隷として利用され尽くすかのどちらかであった。全て神々が唆した結果よ。我は異世界人がどれほど強いのか、首を長くして楽しみに待っていたというのに」


「きゃっ、大魔王様素敵です♪」


 ……ところでさっきから聖水を飛散させながらサイコな発言を発し続けてるこの女の子は、一体何があったのかな。ステータス画面見る前は普通だったよね?

 ていうか、なんかステータス画面見ようとした時レアちゃん何か叫ばなかった?

 何で目を逸らすの?


「ん? ああ、気にするな。その娘の醜態は運悪く我と相対して精神の限界まで追い詰められた心弱き者が、発狂して服従した結果だ。稀に良くある」


 なんじゃそりゃあああああああああ!

 気にするなとか無理だろそんなの!

 ところで、レアちゃんはあの時何を言ったのかな? よく聞こえなかったから教えて?

 するとレアちゃんはがらりと態度を変えて高笑いを始めた。


「フハハ、掛かったな阿呆がと言ったのだ! 貴様を困らせる我の企みを見抜けぬとはやはり前世の我は馬鹿だな! ここは賢い私に今後の身体のしはいけ」


 俺は台詞をぶったぎる勢いでレアちゃんから身体を取り上げる。

 もう無理! 交代だ、交代! レアちゃんにこれ以上任せておけないよ!

 レアちゃんにはもう二度と身体貸してあげないからね!


『せめて最後で喋らせろ! ……だがお陰でよく分かったであろう? 我のような究極過ぎる力の持ち主は、すれ違うだけで信奉者を生む。生まれながらの支配者というのも辛いものよ。この街を我が領域として支配するのならばともかく、その気が無いなら貴様もよく考えて行動するのだな』


 辛いとか絶対嘘だ。

 レアちゃんから伝わってくる感情、悦楽、快楽、嗜虐のオンパレードじゃねーか。

 高笑いしている姿がありありと頭に浮かんでくるわ。

 ていうか、このミリーって女の子、笑顔なのに顔が涙と鼻水だらけで怖いんだけど。


「そのような汚き顔、他人に見せようなどとよく思えたものだな。我には恐ろしくてとてもできぬわ」


 だから、口調いい加減にしろおおおおおおおおお!

 怖いってところしか合ってねえ!


「申し訳ありません! ミリーは大魔王様が恐ろし過ぎるので、下半身が緩々になったまま涙と鼻水が止まらないんです! あはははははははははは! お水じょばー! お水じょばー! あはははははははは!」


 大丈夫かこの子。目の焦点が合っていないし、そもそも瞳孔が開いていていかにも危険な状態に見える。

 本当に大丈夫なのかこれ。


『ふむ。言動がいい感じに壊れているところを見ると、今この間も我の魔力の影響を受け現在進行形でガンガン精神が削られて鍛えられておるな。これなら正気に返るのもそう遅くはなかろう。さらにおかしくなるかも分からんが』


 た、退避ー! 総員退避ー! これ以上 この子を発狂させちゃいけない!

 俺はガン逃げを決め込むが、大魔王の歩みしか出ない俺が動かすレアちゃんの身体では逃げ切れるはずもなく。


「あははははははは! 大魔王様お待ちくださーい! ミリーは地獄の底までお供いたしまーす! そーれジャーンプ! そしてポーズ! かーらーのー! 放尿!」


 スタイリッシュに失禁してんじゃねーよ!

 一瞬ちょっと格好いいかもとか血迷っちまったじゃねーかよ!

 あんたの膀胱どうなってんだ!

 ていうか追っかけてくんなああああああああ!



■ □ ■



 あわやレアちゃんの身体が小便塗れになるところだったが、この身体「キンッ」とか音立てて小便まで弾きやがった。


『当然だ。放尿はいわば闇属性の状態異常攻撃。闇属性の完全耐性を持っている我には効かぬ』


 放尿が闇属性攻撃だったとか初耳だよ!


「ごめんなさーい。今は力を溜めている最中なのでしばらくは大丈夫でーす。ミリーは力を溜めている……!」


 何の力だよ!

 ミリーは全ての小便(魔力)を開放した!

 ミリーのスタイリッシュ(マ○ンテ)放尿! とかやるつもりか。


『前世の我よ。マ○ンテは魔法だから力溜めで効果は上がらんぞ』


 レアちゃんも大真面目に突っ込んでボケに乗らないで!


『それよりも、今後の指針はどうするのだ。遅くとも十日後には天使どもがやってくるのだぞ?』


 天使が来るとか本当聞いてない。どうするかね。正直怖いよ。


「そうだな。天使が来るなど、恐ろしきことよ。恐ろしさのあまりうっかり手が滑って消し飛ばしてしまうやもしれんが、しかたなかろう?」


 レアちゃんの身体は、相変わらず俺の怖いという意思を「饅頭怖い」みたいな意味で曲解してくる。あるいは盛大な前振り。

 泣けてくるよ。

 ていうか何か凄いスピードで飛んできた。


「背神者よ! 覚悟! ぐぇっ!」


「大魔王レア! 神の名において貴様を滅する! ごはっ!」


 飛んできた二体の物体Xはそのまま仲良く【魔神の鉄槌】にぶっ飛ばされて着地することなくお星様になった。

 内心唖然として、しかし見た目は悠然と、俺は物体Xが飛んでいった空を見上げる。

 何だ今の。出落ちか。


『天使だな』


 ……色んな意味で早くね?

 即堕ち二コマってレベルじゃねーぞ。


『いや、奴らはしぶとい。まだ終わりではない。油断するな』


 レアちゃんの指摘通り、物凄いスピードで天使たちが戻ってきた。

 これは、レアちゃんの身体をもってしても、動かすのが俺じゃさすがに苦戦するか?


「不意打ちとは卑怯な……! 断罪する! ぎゃぅっ!」


「おのれ、下等なムシけら如きが! ぐぁっ!」


 戻ってきた物体Xはまた【魔神の鉄槌】に吹っ飛ばされてお星様になった。

 また戻ってきた天子二人は何だか既にボロボロになっている。

 敵意に反応して自動発動する【魔神の鉄槌】が超強い。

 ……俺、いらなくね?

 戻ってきた天使たちは怒りで顔を真っ赤にしていた。

 着ていた古代ローマ人みたいな襞が多い一枚布の服も穴だらけだ。

 でもなんか、よく見たらこの天使たち、一人は普通に西洋顔なのに、もう一人の方は妙に日本人顔をしている気がする。

 どっちも金髪だし、気のせいかな。


「背神者め、抵抗するか……!」


「これほどの屈辱を我ら天使に味わわせるとは……! 許せぬ!」


 あのー。何もしていないんですけど。

 勝手にやってきて勝手にやられて勝手に激怒するのやめてくれませんか。

 ここは丁重にお引取り願おう。

 礼儀正しく頼めば何とかなる。

 ここは、空気の読める俺が人肌脱いで解決しちゃうぞ☆


「生きて帰りたくば跪け、命乞いをしろ。無様に豚のように鳴き、我に忠誠を誓うのならば、此度の無礼は不問に処す。礼儀正しいであろう?」


 ですよねー。

 うん。知ってた。

 レアちゃん補正が有効な以上、ウルトラ上から目線+嘲笑+ドSな態度で説得の成功率はゼロパーセントです。


「貴様ーっ! ごふっ」


「我らを愚弄するか! ぎゃんっ!」


「おのれおのれおのれ! これほど下界の者どもに無礼をはたらかぐひっ」


「大魔王め正々堂々私たちとたたかベぶっ!」


「せめてセリフくらい最後まで言わばっ!」


「こうなったら一撃だけでも入れびっ!?」


 結局、超スピードで舞い戻ってきてはまた超スピードで吹っ飛んでいくことを延々繰り返し、天使たちは体力を使い果たしてお星様になったまま戻ってこなくなった。

 天使ってバカなのか。


『む。もう力尽きたか。軟弱な』


 いや、そういう問題じゃないでしょーよ。敵ながら可哀想過ぎだろアレ。俺結局立ってただけで終わったぞ。

 そもそも天使たちも、地面にすら降りてないじゃん。


『では、追撃するか。飛んでいった方角は見ていたな? 身体を我に少しだけ貸せ』


 もうレアちゃんには貸さない。


『まあそう言うな。今回は大人しくしている。暴れる理由もない』


 思いの外、レアちゃんの声は真摯だった。

 ……信じるからね。

 ところでどうやって追いかけるの。歩いたって絶対間に合わないでしょ。

 身体のコントロールを預けると、レアちゃんはおもむろにミリーちゃんを小脇に抱え込んだ。

 あ。ミリーちゃんがうれしょんした。


「跳べば良い」


 は?

 レアちゃんの真意を問う間もなく、何かが爆発したような物凄い音がして、急激に視界が移動する。

 ただ地面を軽く蹴ったようにしか見えないのに、レアちゃんは天使たちが飛んでいったのとほぼ同じ軌道を描いて跳躍している。


「あはー! 空中遊泳怖いなー! おしっこ漏れるー!」


 あの、ミリーちゃんがハイライトの消えた目でケタケタ笑いながらスプリンクラーみたいに尿の雨を降らしてるんですが。


「構わぬ」


 全くレアちゃんは気にしていない。

 ミリーちゃんのおしっこもレアちゃんには降りかからずに、「キンッ」て音を立てて全部謎の蒸発を遂げてるからね……。

 まるで訳が分からないよ!


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