第四話
死屍累々の兵士たちが倒れた城門を、内心びびりまくりながら、でも見た目はレアちゃん補正によってあくまで堂々と、生き残りの兵士たちの視線を浴びながら通って中に入る。
どさくさに紛れて、城門を守っていた門番も【魔神の鉄槌】を喰らって外壁にめり込んでいた。
ただ職責を果たしているだけなのに門番も兵士も可哀想過ぎる。
『弱者の分際で我の歩く道を遮ろうなど、それだけで万死に値する。当然の結果よ』
先ほどから、俺の中でレアちゃんがクックックと笑い続けている。
街に入ってからも、レアちゃんはずっと上機嫌だった。
自分で身体を動かしていないとはいえ、望み通り戦いは起きたわけだし、慌てるオレの顔も拝めて、きっと溜飲が下がったんだろうな……。
やべーよやっぱりレアちゃんドSだよ。
でもそんなところも可愛い。
道行く人々が、俺が近付くと一様に身体を強張らせ、逃げようとして何かに妨害されたかのように足を止め、最終的には半狂乱になって顔や股間から色んな液体を撒き散らして逃げていく。エッチな意味ではなく、純粋に汚い意味で。
「……何故、あれほどまであやつらは醜く逃げ回るのだ?」
どうして皆逃げるのかなーという疑問を口に出したら、案の定レアちゃん補正が掛かって勝手にセリフを切り替えられた。
純粋な疑問だったのに、嘲笑混じりである。しかもどちらかといえば、嘲笑の方が大きい。苦笑いしたい心境の俺の顔も勝手に嗤っている。
嘲る方の笑顔だ。『笑顔』という繋がりだけでここまで曲解されるのは酷い。
『辛いであろう? 苦しいであろう? ならば身体を明け渡せ』
だが断る。
ここで諦めれば、それこそレアちゃんの思う壺だ。
俺はまだ、レアちゃん矯正の道を諦めていない。
『まあ、せいぜい頑張ることだな。貴様の手に余ることがあれば変わるが良い。今の我が機嫌が良いからな。助けてやろうぞ』
気付けば、俺の回りにいた人間はすっかり逃げ去っていて、俺ともう一人、街娘らしき少女がぽつんと立っているだけだった。
「あっ、あれっ? 皆、どこ!?」
慌てて回りを見回す少女の友人たちは、とっくにちょっと口に出すには憚られる状態になって逃走済みだ。
良かった、一人だけ残ってくれた。
「ほう、塵芥が一匹残っていたか」
だから違うそうじゃねえ!
「ひっ」
俺の視線を受けただけで少女は竦み上がり、上げかけた悲鳴が不自然に途切れると、逃げようとして身体の動きを止めた。
まただ。皆逃げようとしてるのに、まるで邪魔されたみたいに一度動きを止める。
そこからの展開も全く同じだ。
近付かれただけで恐怖して、逃げられないことを悟って混乱し、何度も逃げようとしては失敗を繰り返すうちに混乱は悪化して錯乱に変わり、最終的には発狂してわけの分からないことを叫び下半身を脱力させて涙や鼻水を流しながらしめやかに失禁四散する。
「なっ、なんで逃げられないのぉ……! 怖いよぉ……! 助けてママ……!」
しかも目の前の少女の場合、一人だけになってしまったせいか、追加で恐慌状態にまでなってしまったらしい。
動けるようになれば即座に逃げ出した他の人間たちとは違い、まだ自分が動けないと思い込み幼児退行を起こして幼い仕草で泣き叫んでいる。
罪悪感がすげえ。謝りたい。地面に額を擦り付ける勢いで謝罪したい。
俺の意思を汲んで、レアちゃんの身体は謝罪に動いた。
少女の震えが激しくなり、痙攣に近いほどになるのも構わず少女に近付くと、肩膝をつき、人差し指で少女の頤を持ち上げる。
あ、コレ絶対今の俺の顔レアちゃん補正で嗜虐の表情になってる。もう俺学んだ。
「心地良い悲鳴よ。しかし、この程度の恐怖しか与えられぬとは、済まぬな。貴様ももっと魂すら犯されるような恐怖を味わいたかったであろう?」
とうとう少女が白目を向いて泡を噴き出した。
やべぇ。どうすりゃいいんだ。この子を置いてすぐにこの場を離れるか。でも置いていくのは正直心配だ。それに見捨てて離れたところでまた同じ展開になる嫌な予感をひしひしと感じる。
『ククク……。やはり貴様、この肉体が回りに撒き散らす影響を理解し切れておらんな。良かろう。身体のコントロールを今だけでいいから寄越せ。貴様でも理解できるようにお前の好きなゲームになぞらえて教えてやろう。幸い教材も目の前にあることだしな』
とても優しい声音で、レアちゃんが交代を申し出てきた。
甘い甘い猫撫で声は気遣うのではなく、むしろ俺を馬鹿にしている。
悔しいが、仕方ない。
正直レアちゃんに頼るのは不安しかないが、今は対処法を知ることが先決だ。
頼むぞ。穏便に納めてくれよ。
『心得た。我は寛大だからな。此度は前世の我の意志に沿うこととしよう』
不安を振り切り、レアちゃんに身体のコントロールを明け渡す。
途端に視界の半分がステータスで埋まった。
レアちゃんではなく、目の前の少女のステータスだ。
間違いなくレアちゃんの仕業である。どうやらレアちゃんは自分だけでなく相手の状態を見抜く術にも長けているようだ。恐らく俺なんかには想像もつかないほど、洞察力が凄いのだろう。
それに、元々の身体の持ち主はレアちゃんなのだから、自分の身体の知識に詳しいのは当然だ。
半透明のウインドウの向こうでレアちゃんが少女に目を合わせるのを背景に、俺はレアちゃんがウインドウに書いてくれた少女のステータスを注視する。
【名前】
ミリー
【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)
レベル:1
体力:1/1
マナ循環力:1/1
筋力:1
器用:1
敏捷:1
魔力:1
精神:1
運:-10000
【種族】
人間
【クラス】
なし
【スキル】
なし
ステータスを見ていたら、ウインドウ外にもシステムメッセージという文字が表示されているのに気がつく。
俺が気付いたのをレアちゃんが察したのか、意識したとたんに文章がずらずらと流れ始めた。
本当にゲームみたいだなー。
それも、オンラインゲーム。
レアちゃんも結構お茶目なところがあるし、きっと自分でも遊んでみたいんだろうな。
でもさすがにレアちゃんも向こうの世界にはいけないだろうから、自分で雰囲気を味わってるんだきっと。
じゃあ、読んでみよう。
「かかったな阿呆が!」
ん?
【システムメッセージ】
大魔王レアに見られたためミリーが『恐怖』状態になりました
大魔王レアに接近されたためミリーが『鈍化』状態になりました
大魔王レアを見たためミリーが『魅了』状態になりました
『魅了』が解除されない限りミリーは自分の意思で大魔王レアから目を離すことができません
単独状態で大魔王レアに見られたためミリーが『恐慌』状態になりました
大魔王と目を合わせたためミリーが『沈黙』状態になりました
ミリーは逃走を試みました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
ミリーは逃走を試みました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
ミリーは逃走を試みました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
条件を満たし『逃走妨害』により状態異常『混乱』が付与されました
ミリーは混乱しています……
ミリーは逃走を試みました
『混乱』により逃走が妨害されました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
ミリーは逃走を試みました
『混乱』により逃走が妨害されました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
ミリーは逃走を試みました
『混乱』により逃走が妨害されました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
条件を満たし『逃走妨害』により状態異常『混乱』が『錯乱』に悪化しました
ミリーは錯乱しています……
ミリーは逃走を試みました
『錯乱』により逃走が妨害されました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
ミリーは逃走を試みました
『錯乱』により逃走が妨害されました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
ミリーは逃走を試みました
『錯乱』により逃走が妨害されました
『魅了』により逃走が妨害されました
ミリーの逃走が失敗しました
条件を満たし『逃走妨害』により状態異常『錯乱』が『発狂』に悪化しました
ミリーは発狂しました
ミリーは【魅了】によってこれ以上逃げることができません
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
極度のストレスによりミリーの精神が上昇しました
ミリーに与えられたストレスが許容値を超えました
これ以上継続してストレスを与え続けると精神が崩壊する危険性があります
ミリーは極限状態により状態異常『恐怖』に対する耐性を獲得しました
ミリーは『恐怖』影響下でも行動できるようになりました
『恐怖』自体を無視することはできません
ミリーは『闇属性特殊攻撃Lv1』を獲得しました
闇属性特殊攻撃が使用可能になります
ミリーは『バーサーカー』を獲得しました
常にミリーは状態異常『発狂』状態になります。
このスキルによって付加される『発狂』は状態異常耐性を無効化します
大魔王レアに対する友好度が最低値に達しました
大魔王レアが『支配者』の条件を満たしました
大魔王レアがミリーに『狂信』を付与しました
ミリーは既存の信仰を破棄しました。
ミリーは新たに大魔王レアを信仰しました
神々が激怒しました
神々がミリーに『神罰』を下しました
大魔王レアが『魔神の鉄槌』で神々の『神罰』を迎撃し、神々に深刻な被害を与えました
神々が大魔王レアの復活を悟りました
ミリーは神々に追っ手を差し向けられました
これより十日以内に天使が来襲します
大魔王レアは神々に追っ手を差し向けられました
これより十日以内に天使が来襲します
ミリーは精神の安定を保つため大魔王レアに服従しました
ミリーが仲間になりました
現在の忠誠度は100です
ん?
んん?
……!?