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第三話

 共有しているレアちゃんの身体の視界に、ずらずらと数字が列挙されていく。


『何これ。ゲームのステータス画面?』


 その様はまるで、オンラインゲームでステータス画面やアイテム画面のウインドウを開いたようだった。

 もちろんこの世界がゲームの世界なのではなく、レアちゃんが有り余る魔力を使って視覚情報を操って遊んでいるだけだ。

 実際にゲームのウインドウがあるわけではない。


「お前の記憶に残っていたものを参考にした。大魔王たるもの、この程度のお遊びがなくてはな」


 表示されているステータスを見て、レアちゃんは上機嫌に哄笑している。

 それもそのはず、レアちゃんが設定したステータスはチート過ぎた。



【名前】

レア


【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)

レベル:100

最大体力:∞/∞(測定不能)

マナ循環力:∞/∞(測定不能)

筋力:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)

器用:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)

敏捷:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)(非戦闘時は30で固定)

魔力:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)

精神:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)

運:1(+10000)(単独行動自+さらに15000)


【種族】

魔神族


【クラス】

大魔王


【スキル】

『威圧』『睥睨』『嘲笑』『強者の余裕』『重圧』『逃走妨害』『支配者』『慈悲』『絶対者の孤高』『オートリザレクション』


【ユニークスキル】

『魔神』『世界の終わりまであと○○日』



 視界の約右半分を占領する半透明な板状のボードに、ずらずらと文字と数字が羅列されている。


『えーと、これ、何? さすがに盛りすぎじゃない?』


「ふふふ、前世の我でも分かるように、我の強さを数字で可視化した。特別に今まで我が戦った人間の最低値も簡単な比較対象としてつけておいた。感謝しろ。崇めても良い」


 ……え、レアちゃんって本当にこれくらい強いの?

 ちょっとびっくりして、ステータス画面の数字をまじまじと見つめる。

 レアちゃんのステータスは、魔力と精神が高い後衛特化のステータスのようだ。やたら運が低いのが気になるけど。

 ただ、何か補正値がおかしい。凄くおかしい。


「数値は我にしてはかなり控えめに設定しておいた。我は奥ゆかしい淑女なのでな。我の前世ではゲームのような世界に転生する作り話が流行っていたのだろう? どうだ、流行に便乗してやったぞ。感想を言え」


 感想も何も、突っ込みどころが多過ぎるんだが。

 具体的にいうと、奥ゆかしいとか淑女とか。


「黙れ」


 あっはいごめんなさい。


「まあよい。疑問があれば申してみよ。特別に我が説明してやろうぞ」


 いや、まず第一に必要ないでしょ、ステータスなんて。


「何!?」


 驚愕の表情を浮かべたレアちゃんは、その拍子に手をついていた大木の幹を片手で圧し折った。

 ナチュラルに自然破壊しないでください。


『ゲームならともかく、現実にゲームの設定持ち込んだらただの痛い人だよ。いくらレアちゃんが強いからって、こんな中二病なスキル満載のステータス捏造しちゃ駄目』


 俺の記憶を共有しているせいか、レアちゃんは若干中二病に走り始めているようだ。

 まあレアちゃんの場合、ただ単純に中二病とも言い切れないかもだけど。

 ……実は大魔王って名乗ってるだけの一般人でした、とかないよね?


「いや、別に捏造ではないのだが」


 レアちゃんは忠犬よろしく側をついて歩くケルベロスを手で示す。


「例えばこのポチだ。……くそ、大魔王のペットがポチなどと、気が抜けるな。今からでも改名しないか?」


 自分で話振っといて自分で話の腰を折らないでください。

 いいから続きを早く。

 思考を読んだレアちゃんは、ため息をついて説明を続行する。


「ケルベロスは獰猛な本能と高い知能を持ち、本来なら人に懐かぬ強暴なモンスターだ。それはお前とて、我の記憶を共有しているのだから知っているな?」


 まあ、見るからに強そうだしね。今は首が三つあるだけのワンころと化してるけど。


「我が常時発している魔力の圧力を感じ取ったからだな。我の身体からは常に我の力の一端が漏れて出ていて、見えないオーラとなって辺りを漂っている。それが威圧感や全方位への重圧となって他者に圧し掛かるのだ。だからケルベロスも、会うなり我に尻尾を振った」


 っていうことは、人間もオレたちに会うなり平服するっていうこと?

 だったらレアちゃんに反抗する人間なんて出なくない?

 俺の疑問にレアちゃんが回答をくれた。


「そこまで顕著に影響が出るのはモンスターに限られる。奴らは本能に忠実だ。力の差を感じ取れば自ずと我に従うが、比べて人間共は本能に流されやすい生き物でありながら、理性で本能を抑える術を知っている。そう単純にはいかぬよ。せいぜい我の視界内に入ることに恐怖心を抱き、群れねば恐慌状態に陥るのと、我の側に居るだけで身体が重くなり、目を合わせれば恐怖のあまり声が出なくなる程度だ」


 いや、それ十分大事だから。この身体で街に入るだけで大騒ぎになるじゃん。


「だからどうした。我をこの時代に飛ばしたのは人間たちだぞ? 当然いつの時代に現れるかも把握して戦力を整え待ち構えているに決まっているではないか。そうでなくとも我の存在などすぐに知れ渡るだろうよ。そもそも我は隠れる気などない。騒ぎは必然といえよう」


 ところで、走らないので? いい加減ジャングルばかりで飽きたんだけど。


「大魔王は走らぬ。優雅に歩くのみ」


 レアちゃんはにやりと笑った。

 徹底してますねあなた。



■ □ ■



 それから人間の街がレアちゃんの視界に見えてくるまで、本当に三日かかった。

 大げさな表現じゃなかったんだな。

 悠々とレアちゃんは歩いていたから、急いだらもう少し短縮できたかもしれない。

 よし、ここからは俺が身体を動かそう。レアちゃんに任せてたら先制攻撃とかしそうだし。


「くっ……」


 レアちゃんは凄く悔しそうな顔をして、俺の中に引っ込んでいった。


「ふむ。やはり中で見ているより、実際に動かす方が気分は格別であるな」


 補正された口調で台無しだけどな!


『ふん。我の身体を使わせてやっているのだ。この程度の制約、不自由の内に入るものか。嫌なら身体の支配権を返せ』


 自分で身体を動かしている時は結構上機嫌だったけど、やっぱり俺が使い始めると途端にレアちゃんの機嫌が悪くなる。

 前世と今生に別れてるだけで本質的には同一人物なんだからいい加減諦めろよ。俺はもう慣れたぞ。


『ならば返せ! 何故街が見えた途端我から身体を取り上げるのだ!』


「それは貴様が野蛮過ぎるからだ。口を開けば破壊、殺人、闘争とそればかりではないか。優雅さは何処へ行ったのだ。貴様のようなバーサーカーにこの身体を任せてはおけぬ」


『き、貴様言うに事欠いて……!』


 落ち着け。自分で俺の言動補正しておいて切れるなよ。

 俺はただマイルドに「レアちゃんに任せてるとちょっとしたことで人殺したり街壊したりしそうだから危ない」って趣旨の発言をしたかっただけだ。

 さて、問題はこのレアちゃんの身体で無事に何事も起こらず街に入れるかなんだが。


『入ること自体は難しくなかろうよ。目立つだろうがな』


 やっぱりそうなるよなぁ。

 変装とかも駄目かね。


『大魔王として断固拒否する』


 拒否されちまったよ。そんなに嫌なのか、レアちゃん変装するの。


『そもそも何故我がこそこそ隠れなければならん。理由が無いだろう』


 いや、レアちゃんを倒そうと待ち構えられてるんじゃないの?

 懸念を伝えると、レアちゃんが意識だけでふっと笑った気がした。


『例えそうだとしても、全て鎧袖一触にするに決まっておろう』


「……それもそうか」


 自信を通り越して傲慢の域にまで達していると思うが、その自尊心の高さはある意味ではとてもレアちゃんらしい。

 不思議と納得してしまった俺は、結局そのまま街に入ることにした。


『ところで、前世の我よ。いいことを教えてやろう。我の目は特別製でな。目を凝らすと障害物を透過して全てを見通せるのだ』


「知っているとも。我の発する魔力が目を通して視界範囲内全てに拡散し、我の魔力を浴びた人間を恐怖させて気付かれることもな。貴様好みの展開にしたいのだろうが、その手には乗らぬ」


 何しろ俺だってレアちゃんの記憶は読めるからな!

 俺の場合は、前世ほどすぐには該当する記憶を探し出せないけど。

 レアちゃんは俺の逆で、自分の記憶はサクサク探せる代わりに、俺の記憶を読み取ろうとすると時間が掛かる。

 これは多分、同一人物でも人格の主体が違うからだろう。


『闘争は愉悦だ。愉しいぞ?』


「興味が無い」


『つれない奴め』


 ところで、この街って何て名前なんだ。


『今は知らんが、昔はルッタングという街だったはずだ。滅ぼすまでは、我に挑む者が立ち寄る最後の街だった』


「……行くか」


 いつまでも立ち止まっていても仕方ない。

 この身体じゃ忍び込むのも無理そうだしな。そもそも走れないし。


『戦いになれば走っても良いぞ? 優しいだろう?』


 そんなこと言っても戦いませんよ。


『何事も起きぬというのは無いと思うが。まあ良い。貴様の手並みを見てやるとしよう』


 それきり、レアちゃんの声は聞こえなくなった。どうやら完全に観客に徹することに決めたみたいだ。

 でも、戦いになったら嬉々としてまた口を出してくるんだろうな。

 俺の中でレアちゃんがにやにや笑っているから間違いない。

 とはいっても、大魔王の城の回りはジャングルで人は住んでいないから、こっちからの門には門番以外人が居ない。

 反対側の門はおそらく出入りする人で賑わっていることだろう。

 悠々と歩いて門に近付く。


「誰だ! 怪しい奴め! 名を名乗れ!」


 何故か門番の兵士二人に槍を交差されて道を塞がれ、兵士用の勝手口らしき小さな扉からわらわらと兵士のお代わりが出てきて囲まれた。

 いきなり何でこんなに警戒されてるんだよ。


『知れたこと。我の魔力に当てられて恐怖心を抱いているのだ。それを身を奮い立たせることで誤魔化している。可愛いことよ。どれ、目を誰か一人と合わせてやるといい。さらに面白くなる』


 レアちゃんが俺に早速サドっ気満載な意思を送ってくる。やらないからね。

 一番前の兵士が俺と目を合わせようとするので、全力で目を逸らす。

 兵士の額に青筋が浮かんだ。


「貴様、目も合わせようとせぬとはやはり疚しい理由で来たのだな! 俺はヒュリッツア男爵が三男、ピョートル! この場で斬り殺してくれるわ!」


 どうしていきなりそんな結論に至ったんだよ! ってか貴族かよ! 何で門番にこんなのが紛れてるんだよ! 貴族ならこっちが目を合わせてないんだからそれで納得しろよ!


『親の七光で門番兵長にでもなっているか、それとも中央から左遷されてきたか。どちらだろうな? 或いは両方やもしれんぞ?』


 物凄くレアちゃんが愉しそうだ。くそ、もしかしたらこうなることを知ってたのかもしれない。

 一番この身体の経験が身についているのはレアちゃんだもんな。予想はつくか。

 ピョートルとかいう貴族が腰に差したサーベルに手をかけようとした瞬間、彼は「ぶべらっ!?」という悲鳴と共に高々と宙を舞い、街を囲む外壁に当たって落ちた。

 沈黙が場を満たす。

 門を守る門番二人も、後から出てきた兵士たちも、皆唖然としている。

 彼らから見たら、突然自分たちの上司が自分から大ジャンプして壁に激突したように見えただろう。

 だが、俺とレアちゃんだけは、あのピョートルがサーベルに手をかけようとした一瞬の間に、何が起きたのかを見た。

 突然俺の眼前から放たれた巨大な白いレーザーが、ピョートルを吹き飛ばしてまた唐突に消えたのだ。

 ……何だ今の。


『ふ、ふふ』


 レアちゃんが怪しい含み笑いをしている。


『ふふふふふ』


 身体が動かせていたら、顔を押さえていそうな笑い方である。

 これは、来る。


『はははははっははは!』


 出た。悪役三段笑い。

 さすが大魔王張ってただけあって凄い様になってる。

 背が高くてグラマラスで人相が悪い美人がやると余計に似合ってるな。


『見たか隆景! これこそが我が編み出した全自動護身魔法! 感知した敵意に反応して自動的に無属性の砲撃魔法を展開し迎撃を行う我の十八番、【魔神の鉄槌】よ!』


 兵士の一人が慌てて倒れたピョートルとやらに駆け寄り、脈を図って悲鳴を上げた。


「しっ、死んでる……!」


 おい。


「ピョートル門番長が殺されたぞ! 下手人はあの女に違いない! 捕まえろ! 抵抗するなら殺せ!」


 勘弁してくれ。

 そうだ、謝れば許してくれるかもしれない。

 土下座だ。土下座しよう。

 だが俺の真摯に謝罪をするという必死な思いは裏切られた。

 俺が取る言動は、全てレアちゃんによって曲解され補正されるからだ。

 レアちゃんの身体は、俺の意思通りに謝罪を行った。

 謝罪は謝罪でも、御丁寧に腕を組み、顔いっぱいに嘲笑を浮かべた、大魔王レアとして相応しい謝罪の方を。


「ああ、済まぬ済まぬ。お主等があまりに羽虫の如く脆弱なのを忘れていた。手加減を間違えたわ。だが、一人くらい問題なかろう? この街には、まだまだ沢山の人間どもが、うようよといるのだからな」


 ああああああああああああああああ!!!!!

 違う、そうじゃねえええええええええええ!!!!!


『ははははははははは! バーカバーカ!』


 内心絶叫する俺に、兵士たち全員が一斉に敵意を向け、その瞬間連続して放たれた【魔神の鉄槌】により一人残らず問答無用でぶっ飛ばされていった。

 連射も可能とか有りかよ……。


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