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第二話

 レアちゃんの城の回りは、自然豊かなジャングルだった。

 っていうか、人がいる形跡が微塵も見当たらないんだけどどういうことなのかな!?


「城自体が廃墟になっていたからな。長らく誰も寄り付かぬまま年月を経たのだろう。安心しろ。しばらくすれば人間の街が見えてくるはずだ」


 ちなみに今はレアちゃんに身体の支配権を一時的に渡している。

 だってジャングル歩き難いんだもの。

 モンスターがいるっていうし、同じ身体でも俺が勝てるかどうか分からないからな。

 ところでレアちゃん。


「ん? 何だ?」


 さっきからもう三時間近く歩いてると思うんだけど、しばらくって後どれくらい?


「そうだな。このまま不眠不休で歩き続けて、何事も無ければ三日ほどだ」


 それしばらくって言わなくない!? 長過ぎるよ!


「何を言っている。たったの三日ではないか」


 たったじゃないよね! どう考えても三日もの間違いだよね!

 ていうか不眠不休で三日三晩歩き続けるとか馬鹿なの? 死ぬの?


「戯け。我の身体は睡眠も休養も必要とせぬ。定期的に食事と睡眠を取らねば死んでしまう人間とは訳が違うのだ」


 レアちゃんの精神構造はブラック会社に務める社畜も真っ青なブラックに染まっておられました……。

 まあ、一人で城を守ってきたんだし、そりゃこうなるわな。


「いや、むしろ城には殆ど居なかったぞ。積極的に人間共の国を潰して回っていた」


 内容がバイオレンス過ぎる……。ていうかレアちゃんアグレッシブですね。

 街に留まっていてもラスボスの方からやってくるとかクソゲーじゃないか。


「潰せば潰すほど、強い人間が私に挑んできたからな。特に我を未来に飛ばした英雄四人組は、素晴らしかった。圧倒的な実力差があると分かっているにも関わらず決死の覚悟で我に挑み、不利な状況に追い込まれながら、生命力全てを魔力に変換し時間魔法を使い我を未来に飛ばすという型破りな手で勝利してみせたのだ。魔法の代償で既に死んでいるのが、残念でならぬ」


 楽しそうに語るレアちゃんから伝わってくる感情は、悦楽と悔恨、そして期待。

 って、期待?

 何に期待してるの?

 疑問を抱いた俺の感情は、同一人物なのでしっかりレアちゃんにも伝わっている。

 にやりと、レアちゃんは唇を笑みの形に歪めた。


「それはもちろん、この時代で我と人間共の間で繰り広げられるであろう、血で血を洗う闘争よ」


 あ、ちなみに自衛以外での人間に対する手出しは基本禁止ね。

 手出ししようとしたら全力で止めるから。


「何だと! 貴様、我の楽しみを奪う気か!」


 当たり前だろ。ちなみに街を見つけたら、レアちゃんは何をするつもりだったのかな。


「それはもちろん、街を破壊し、住まう人間共を皆殺し、悲鳴と血によって我の復活を知らしめるに決まっている」


 はい禁止ー。そんな危ないことは俺のレアちゃんにはさせられません。

 レアちゃんは今から正義の味方に転職です。


『は?』


 唖然とするレアちゃんから、俺は身体の支配権を奪い取った。



■ □ ■



『何故だ我は大魔王だぞ前世といえどこのような人間にこうもあっさりと身体を明け渡すなど何たる恥辱何たる屈辱有り得ぬ今すぐ我の肉体を返せそして死ね』


「……食事中くらい黙れんのか貴様」


 果樹に生っていたのを捥いだ咀嚼中の果物を何とか飲み下し、俺はレアちゃんに苦情を漏らす。

 ちなみに味、形、色全てオレンジにそっくりだった。

 ていうかこれもうオレンジだろ。

 俺がレアちゃんの身体を完全に掌握してから、レアちゃんは再びいじけモードに入ってしまっている。

 具体的には、レアちゃんの呪詛が止まらない。

 地味に辛い嫌がらせである。凄い気が散る。

 しかもこんな有様でもきっちり俺の言動補正してるよ!

 やっぱり俺とレアちゃんは同一人物だけあって、性格的に似ている部分があるようだ。

 常に話していないと死ぬ呪いでも受けてるのかと思うくらい、やたらと喋り捲るところとか。

 特に大魔王をしていただけあってレアちゃんはぼっち生活を満喫していたらしく、彼女の独り言は独り言検定があれば間違いなく一級を取っているレベルに達している。


『ならばさっさと肉体の支配権を我に返せその身体は我の身体だもしや貴様我の身体で良からぬことでも考えているのではあるまいな我はまだ処女だぞ我の身体は大切にしろ傷物にしたら殺す』


 レアちゃんあなた何言ってるんですか。ていうか今一体何歳なんだ。処女って。

 物凄い羞恥心が沸き起こってきて、顔中が熱くなった。

 どうやらまたレアちゃんの感情が盛り上がっているらしい。

 そろそろ機嫌直してよ。これからどうするか決めないと。俺が悪かったからさ。


『……ふん。最初からそう殊勝な態度を取っておれば良いのだ。さあ、我に身体の支配権を渡せ』


 あ、それとこれとは話が別ね。


『何だと!?』


 だって街壊しに行かれても困るし。


『ワ、ワレハ、ソンナコト、シナイ』


 信じられる気配が微塵もしないんだけど。

 嘘つくの下手過ぎない?


『仕方なかろう。嘘など今までつく必要自体がそもそも無かったのだ。今のが初めてだぞ』


 意外だ。騙まし討ちとかしたことないの?


『それは我の美学に反する。圧倒的な力で真正面から捻じ伏せてこそ大魔王よ』


 レアちゃんを通じて、俺の心にまで喜悦の感情が流れてくる。

 傲慢さすら感じられる強烈な自信と、実力に裏打ちされた強者の余裕。

 きっとそもそも騙し討ちなんて必要なかったんだろうなぁ。


『分かっておるではないか』


 自然と笑みが零れていた。レアちゃんの方から伝わってきた楽しそうな感情に引き摺られたのだ。

 歩き続けながら周りを見回す。

 景色はジャングルだ。

 三日掛かるって言っていたから、しばらくは歩き詰めだな。

 そして特筆することもなく、街に着く……なんてことはなく、モンスターに遭遇した。

 真っ黒い毛皮で三つ首の馬鹿でかい狼とばったり遭遇してしまったのだ。

 ただし、そいつは即座に寝転がって腹を出して服従のポーズを取り出したのだが。


「くうーん」


 ……何これ?


『ケルベロスだ。前世ではフィクションだったが、今生の世界では普通にモンスターとして存在する。昔我も一匹ペットとして飼っていたな。中々可愛いぞ』


 俺とレアちゃんは前世の俺と今生の俺というだけで同一人物だから、当然記憶も両方共有している。

 当然、レアちゃんも現代知識を持っているのだ。

 二重人格というか、並列思考というか、やっぱり妙な感じがする。

 まあその分一人でも退屈はしないで済んでるんだけど。

 ただ主人格は前世である俺の方らしく、レアちゃんの意識を押し込めたり逆に浮かび上がらせたりは俺の方に権限がある。

 それがレアちゃんには不満なようだ。まあ当たり前だな。

 後、地味に厄介なのが俺が体をコントロールしていても、レアちゃんの抵抗が微妙に機能しているみたいで言動が勝手にレアちゃん仕様に変更される。

 例えば、こっちに腹向けて寝転がってるケルベロスをもふもふしたいから、行動に移すとどうなるか。


『おーもふもふかわいいでちゅねー。ええのか? ここがええのんか?』


 わしわしと毛皮をもふりながら笑顔でケルベロスを撫で回す。

 これが俺の理想。

 引っ込んでる状態で意識だけならこれができる。

 でも。


「さあ駄犬よ我の靴を舐めろ。服従を誓うのだ」


 実際は俺が外にいようが中にいようが身体が取る行動はサディスティックな笑みを浮かべて片足突き出す女王様になる。

 レアちゃんは絶対こっちだろうし、そもそも俺の言動がレアちゃんの意思でこっちに補正されてるからな。

 現実は非情だ。

 ケルベロスはすっかり怯えて尻尾を股の間に挟んでしまい、三つ首で必死に俺の靴を舐めている。

 もふりたいのに! もふもふしたいのに! 可愛がりたいのに! 違う、そうじゃない!

 悔しがる俺の感情が向こうにも流れ込んでいるのか、レアちゃんからは歓喜と嗜虐の感情がお返しとばかりに流れてくる。


『ふはははははこの我がそのようなことを許すと思うか! 甘いぞ前世の我よ! この調子で身体の支配権も奪い取ってくれるわ!』


 それは駄目です。


『ちっ』


 大魔王が舌打ちとかするなよ。


『身体の支配権を我の意思で取り戻せず、できることが貴様の言動を僅かに補正する程度では、やさぐれたくもなるわ。大魔王ともあろう我が、何とも堕ちたものよ』


 仕方ない。よし、このケルベロスの名前を決めよう。

 決して湿っぽくなったレアちゃんの雰囲気に居心地が悪くなって話題を変えたわけじゃないぞ。


「名をくれてやる。貴様は今日からポチと名乗るが良い」


『……もう少し、マシな名は思いつかんのか。ケルベロスだぞ? 地獄の番犬だぞ?』


「犬ならポチだ。我がそう決めた」


『言動を補正してある分無駄に腹が立つな貴様……!』


 自分でやってるんだろ! 文句言うなよ!

 いつの間にかお座りの体勢を取っているケルベロスに告げる。


「ゆくぞ、ポチ。我について来い」


 俺が歩き出すと、ケルベロスは尻尾を振り振り追いかけてきて俺の横に並んだ。

 そのまま三つ首を傾げて俺を見上げてくる。

 まあ、首が三つあっても、でかくても、懐いてくれる犬は可愛いよな。

 可愛いと思えるのは、レアちゃんの身体のスペックがとんでもなく高いせいもあるけど。

 ケルベロスに勢い余って飛びつかれてもびくともしないし、爪が肌に当たっても「キンッ」とか音立てて弾くからな。どうなってんの。


『単に我が強過ぎるだけだ。弱者は我の前に立つ資格なし。ただ蹂躙されるのみ。そういうことだ』


 レアちゃんが言っているのは、いわば、ゲームで言うステータス差があり過ぎて全部の攻撃が無効化されるようなものだ。


『その認識で合っているぞ。しかし、ゲームか。我の前世には中々興味深い娯楽があるのだな』


 共有している俺の記憶を見てるのか、レアちゃんがもの凄い勢いで物欲に塗れていくのを感じる。

 あー、俺まで何かゲームしたくなってきたじゃないか。でもこの世界にあるわけないしなぁ。


『よし、我のステータスを作るぞ。少し身体を貸せ』


 何かレアちゃんが妙なことを言い出した。


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