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第十一話

 大魔王レア復活。

 その一報を齎したのは、ユキカシティの兵士の報告が切欠だった。

 ユキカシティが大魔王レアの支配下に入る前に伝令として出発した彼は、三日三晩不眠不休で馬を走らせ、ユキカシティの最寄の街テヌールシティに大魔王レア復活を告げ、王都ズマゴリアへの連絡を頼んだ。

 しかしテヌールシティの領主はまず報告の真偽性に疑問を抱き、まず裏を取ろうとした。つまり、ユキカシティの内情を探ろうと密偵を放ったのである。


「というわけで、忍び込んだ密偵を捕獲したよ。褒めてくれる?」


 ニコニコと微笑みながら、ユキカちゃんが俺の前に縄でぐるぐる巻きにした男を放り出す。

 確かに見たことのない顔だ。といっても、そもそも今このユキカシティ改めレアシティには住人が俺とミリーちゃん、ユキカちゃん、エリンちゃん、ミリーちゃんの母親の五人しかいない。

 どうしてかって?

 そりゃもちろん、ユキカちゃんとエリンちゃんがMINAGOROSIDA♪ しちゃったからだよ!

 神々に裏切られて天使にされたことと、不倶戴天の敵だった大魔王レアの配下になったことで色々精神的に追い詰められていたユキカちゃんとエリンちゃんは、街の人たちに迫害されたことで完全にプッツンしてしまい、ミリーちゃんの母親を除いて街の人たちを皆殺しにしてしまった。

 もちろん俺は止めようとした。

 しかし大魔王レアの我侭ボディは本当に我侭で、自分が襲われるまでは走ることも跳ぶことも絶対に許さず、俺にできることといえば悠々と歩くだけ。

 そんな遅い速度では当然地を走り、羽で飛ぶ二人を止めるどころか追いつくことすらできず、頼みの綱の【魔神の鉄槌】も大魔王レアの手先であることを受け入れてしまったユキカちゃんとエリンちゃんが俺に敵意を抱くはずもなく、また街の人たちも明確な脅威として迫ってくるユキカちゃんとエリンちゃんから逃げ回るのに必死で、俺に全く敵意を向けてくれなかった。

 まさか、こんな形で無力感に打ちひしがれることになるとは思いもしなかったよ。

 でも起こってしまったことはもう変えようがないから仕方ないと割り切り、俺は内政に努めることにした。このユキカシティ改めレアシティを、良い街にしようと考えたのだ。

 ……ちょっとユキカちゃんとエリンちゃんが暴れた影響で、街のほとんどが廃墟になってるけど。


「良くやった。褒めて遣わそう」


 超絶上から目線だけどな!


「えへへ。レアに褒められちゃった」


 それでもユキカちゃんは嬉しそうにはにかむ。

 問題は、この密偵の男をどう扱うかだ。

 レアちゃん更生計画を胸に抱いてる俺としては、殺すのは論外だ。殺したら確実にレアちゃんの評判が悪化する。


『今更だと思うがな』


 俺の思考に対し、即座にレアちゃん本人の突っ込みが入った。

 くそ、口惜しいがレアちゃんの言葉には同意せざるを得ない。

 元々の悪評が高すぎて、今更密偵一人の生き死に程度では全く変わる気がしない。

 密偵も覚悟しているようで、ガタガタ恐怖で震えながらも命乞いをしようとはしない。

 でも、生きて帰らなければ情報を持ち帰ることはできないはず。

 諦めてしまったのだろうか?

 曲解されるのを承知で、尋ねてみることにした。


「無様に命乞いをしてでも、役目を果たそうとは思わぬのか?」


 よ、よし! 顔は思いっきり嘲笑になってる感覚があるけど、思っていたほど台詞までは曲解されなかった!

 これならいけるかもしれない!


「ふ、ふふ」


 恐怖に震えていたはずの密偵の男が、不意に笑い出した。


「役目なら果たしているさ、今この瞬間も、俺の目を通じてこの場の光景をテヌールシティの魔法使い殿が見ておられる! すぐに討伐軍が送り込まれるぞ! 二百年前の亡霊など、大魔王といえども我ら人間の敵ではない!」


 ぱーどぅん?

 え? マジで?

 ……やばくね?

 何がやばいって、ちょっとレアちゃんが見せてくれたこの身体のステータスを思い出して欲しい。

 確かこんな感じだったはずだ。



【名前】

レア


【能力値】(一般人の最低値は1、英雄の最低値は100)

レベル:100

最大体力:∞/∞(測定不能)

マナ循環力:∞/∞(測定不能)

筋力:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)

器用:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)

敏捷:100(+10000)(単独行動自さらに+15000)(非戦闘時は30で固定)

魔力:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)

精神:100000(+10000)(単独行動自さらに+15000)

運:1(+10000)(単独行動自+さらに15000)


【種族】

魔神族


【クラス】

大魔王


【スキル】

『威圧』『睥睨』『嘲笑』『強者の余裕』『重圧』『逃走妨害』『支配者』『慈悲』『絶対者の孤高』『オートリザレクション』


【ユニークスキル】

『魔神』『世界の終わりまであと○○日』



 この中には、見られたことでカウンターで相手を魅了するスキルがあったはずだ。


『スキルというか、この身体から溢れ出る魔力と我が身に纏うカリスマによる現象だ。私を見た者は皆必ず一度は魅了される。効果自体はただしばらく目が離せなくなるものから我の信奉者と化すまで様々だがな』


 レアちゃんはもう俺の危惧することが完全に分かっているようで、クツクツと笑いながら説明をしてくれた。

 もう一度言う。

 やばくね?



■ □ ■



 速報です。

 テヌールシティから魔法使いがやって来ました。

 鷲鼻が特徴的な眼光鋭い魔法使いは、老いによる衰えを見せない真っ直ぐな立ち姿と、長い顎鬚が似合う老人でした。

 でも言動がおかしいです。


「どうかワシを大魔王レアたんのお爺さまにしてくだされ♪」


 え、何この人。

 レアシティの前からテレポートで此処まで飛んできたと思ったら、いきなり俺の胸に頭を埋めてクンカクンカした後この発言ですよ。

 俺が抱いた凄腕の老魔法使いという印象が一瞬でただのスケベジジイに変わりました。詐欺だ。

 この人って、この前あの密偵の男が言っていたテヌールの魔法使いで間違いないんだよな。

 行動が突飛過ぎて自信がない。確認が必要だ。


「……エリン、あの密偵を牢屋から連れて来い。ユキカはこの老人を叩きのめせ。死なせなければ加減は問わん」


「わ、分かりましたわ!」


 突然現れた老人の奇行に唖然としていたエリンが、慌てて駆け出していく。


「あはは。面白いお爺さんだね。……ぶっ殺す」


「ホッホッホ。踏み込みが足りんのう」


 朗らかな笑顔を浮かべながら殺意を漲らせ斬り掛かるユキカの剣を、老人はテレポートであっさり回避する。

 どこかの某ロボットゲームに出てきて切り払いするザコキャラみたいなことを言うなこの人。


『何だこのジジイは』


 いきなり自分の胸に顔を埋められたレアちゃんは老人へゴミを見る冷めた目を向けている。

 同感だが、話の流れ的にレアちゃんの魅了にやられた被害者のような気がする。


「連れて来ましたわ」


 エリンちゃんが密偵の男を伴って戻ってきてくれた。


「ま、魔法使い殿……」


「ムヒョヒョヒョヒョ。レアたんの乳サイコー。ビーチク見せてくれてもよいのだぞ」


 駄目だこの老人、言動が完全にエロジジイになっていやがる。

 明らかにショックを受けた顔で、密偵の男が絶句している。


「ま、魔法使い殿! 大魔王ですぞ!」


「関係ないのう。わしゃ美女が好きでな」


「だから、大魔王ですよ、大魔王! 大魔王レア! あなたは美女なら何でもいいんですか!?」


「当たり前じゃ。見るがよいあのたわわに実った果実を。吸い付きたくなるじゃろ?」


「なりません!」


「何じゃお主その歳で枯れておるのか」


「あなたという人は、どうして昔からそう美女に対して見境が無いのですか!? 俺たちの身にもなってくださいよ!」


 密偵の男が涙目で吼えている。

 この性格は元からかよ!

 碌な人員いねーなこの世界の人類!


『これは、我の魅了が効いておらぬな。前世の我よ、騙されるな。奴の感情はずっとフラットなまま動いておらぬぞ』


 レアちゃんから俺に注意を促す意思が伝わってくる。

 え。つまりどういうこと?


『いたって奴の意識は正常だということだ』


 正常でこれとか救えねーな!

 呆れる俺の耳に、「キンッ」という硬質な音が響いた。

 見れば、ミリーちゃんが笑顔で老魔法使いに小便をぶっ掛けている。

 何やってんの!?


「可愛い女の子の黄金水とかご褒美じゃわい!」


「こんな時に何言ってるんですかアンタ!?」


 よほど吃驚したのか密偵の男が老魔法使いに飛び掛らんばかりに叫んでいる。

 本当に何なんだこの状況。

 再び「キンっ」という音がした。

 あーもう、またミリーちゃんが放尿したのかな?


「ふむ。不意を討つことはできても、防御を抜くことはワシでも無理か。……ワシがあと五十年若ければのう。これならどうじゃ」


 何時の間にか老魔法使いが目の前に居て、杖を突きつけて何やら魔法を唱え、俺は炎に包まれている。

 ……えええええええええええええ!?

 一瞬慌てたものの、幸い「キンッ」という音がして炎はすぐに掻き消えた。


「これも効かぬとはのう。今のワシにはどうにもできんの。撤退じゃ」


 突然の行動に誰も反応できないでいると、老魔法使いは密偵の男を引っ掴んでさっさとテレポートで逃げようとする。

 っておい! このままだと逃がしちゃうよ!?


『ユキカとエリンを使え。彼女たちならすぐに動けば間に合う』


 あの場の中で、冷静だったのは老魔法使いとレアちゃんだけのようだった。

 レアちゃんは流石だ。こんな時でもちゃんと的確な助言をくれる。

 よし、今度こそちゃんと伝わりますように!


「奴らを逃がすな!」


 いやったあ! 今度こそ完璧! 変な翻訳もされてない! 曲解もなし!

 表情も嘲笑じゃなくて、真剣で凛々しいレアちゃんの真面目顔だ!

 これは貰った。


「あらっ?」


 何故か唐突にエリンちゃんが服を脱ぎ捨て全裸になった。

 どうしてそうなるのっ!?


「ムヒョッ!?」


「今だ!」


 思わずといった様子でテレポートを中断した老魔法使いに、すかさずユキカちゃんが飛び掛かり取り押さえる。


「うわああ魔法使い殿の悪い癖が!」


「み、見ないでえええええええ!」


 慌てて老魔法使いを助けようとした密偵の男の前に泣きながら全裸のエリンちゃんが割って入り、ライトバインドで密偵の男を拘束した。

 二人が出した結果に、レアちゃんは大はしゃぎしている。


『さすがはユキカとエリンよ! 中々良い動きだ!』


 満足そうにしているところ悪いんだけど、今俺笑顔が怖いユキカちゃんと顔を真っ赤にして怒ってるエリンちゃんに詰め寄られてるんだよね。


「ねえ、ボクだけ裸になってないのは何でなのかな?」


「せ、責任取ってくださいまし!」


『うむ。何事もなく終わったな』


 終わってねーよ!


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