判決
広間へ向かう足取りは、ただただ重い。逃げだしても好転しないのは重々承知していても、あの場に立つと分かっていると、足も気分も重くなる。部屋を出る間際に口にした紅茶がすでに恋しい。
シオンがしおれていると、ローズから叱咤が跳んできた。
「これから再びフルゴラ様の前へ出るのですよ。しゃんとなさい」
「ちょっと眠くて……」
「あなた、見かけによらず図太いですわね……」
シオンは目を擦る。彼女の隣ではアーネスもあくびをかみ殺していた。
「こう言う時ばかりは、僕も傾玉の体が羨ましいよ……」
「俺たちはベッドも食器棚も要らねぇしな」
「おかげで室内の最大限、有効利用が可能です」
「必要な大荷物と言えば、ご主人サマくらいなもんか」
「それは傾玉流の冗談なのか……?」
見えないクルスタとジェドネフの会話に、アーネスは困惑する。
その声にふと、思い出し、シオンは見えないクルスタを探す。
「そう言えば、またお茶を淹れてくれてありがとうございました、クルスタ」
「私はシオン様にお淹れした覚えはありませんが」
「あれ? じゃあ、アーネスさん……?」
「ん? 僕も違うよ」
「アーネスは1人じゃロクに茶も淹れられねぇよ」
「シオンが真に受けたらどうしてくれるんだ、ジェドネフ」
意地悪く笑うジェドネフにアーネスが憤慨する。彼の笑い声はそそくさとその場を離れていった。
首を傾げるシオンに、ローズが胸を張る。
「協会の使用人でしょう。こちらの集会場に控えている使用人はみな、リブラ、シュティアの魔術師に仕えている優秀な者たちの中から、さらに選抜された者たち。あなたのような素性の知れない者であっても、気をきかせてくれるのです」
「そうですか……」
シオンは相づちで流した。
両扉が開き、ローズはシオンの背を見送る。
「雑談は終わりです。自身が潔白であるのなら、きちんと弁明なさるのですね」
「ローズさんは?」
「私はあと数年先にフルゴラ様のお隣に座るのですわ」
「そうなんですか?」
「ローズが座るって言うなら座るんじゃないか……?」
背後からの誇らしげな宣言に、アーネスはげんなりと答えた。
「冗談はさておき、君の立場は未だ宜しくない。気を引き締めて行こう」
「はい」
アーネスの後ろに続き、シオンは狭い階段を下りる。
視線が降り注ぐのはやはり落ち着かない。友好的でないなら、なおさらだ。背後で扉が閉ざされる。
シオンは再び審問の場に立った。フルゴラが昨夜と同じく正面へと腰を下ろす。
その間。シオンはようやく異変に気付いた。瞼が重く、足に力が入らない。
「本当に大丈夫か、嬢ちゃん」
ジェドネフの声も妙に遠い。
眠い。猛烈に眠い。
首を横へ振るのもやっとだった。目を開いても、焦点が合わずに視界がぼやけてしまう。
「やっぱり……ねむ、すぎて……」
襲ってきた睡魔に抗えず、シオンの意識は暗闇へ滑落した。




