TS娘は男の娘に恋をする
今日はゴールデンウィークの2日目。俺は部屋でのんびりとファッション雑誌を捲っていた。
「雪ー。葵くんが来てるわよー」
一回から母さんが呼ぶ声が聞こえる。
「はーい」
雑誌を閉じると部屋から出て、1階に降り玄関に向かう。
「お、おはよう。雪姉」
玄関には小さな丸顔で艶やかな黒髪のショートヘアに丸く大きな目に綺麗な瞳。小さく高めの鼻に小さな口をした見た目12〜13歳で気の弱そうな美少女が、白と黒のツートンカラーのワンピースを着て白の可愛らしいバッグを肩に斜め掛けにし白いミュールを履いて立っていた。
「葵くん。おはよう。私に何か用?」
俺は葵くんに微笑んで話しかける。
「えと。ボクと一緒にお出かけして欲しいの」
少し潤んだ瞳で上目遣いに俺を見上げてくる姿が堪らなく可愛い。
「良いけど。着替えるからリビングで待っててね?」
俺は微笑みながら葵くんの頭を優しく撫でて家に上げた。
さて。なぜ俺が人と話す時は一人称を私と言い、モノローグでは俺と言うのと見た目が美少女な葵をくん付けで呼ぶのかにはちゃんと理由がある。それは、俺こと草薙雪は前世が男だった記憶を持つ女子高生で今年で3年生だ。幼稚園に入る前までは一人称は俺だったのだが母親に矯正された。そして、葵くんこと山岡葵はかなり庇護欲をそそられる美少女なのだが、実はれっきとした男の子でしかも年齢は俺の2つ下の高校1年生で通っている高校も同じで幼馴染でもあり、俺の事を雪姉と呼び慕い甘えてくる。
つまり、葵くんいわゆる男の娘と言うやつで、女装は男物の服が壊滅的に似合わないのもあるが、葵くんの母親の趣味の部分が大きい。高校には女子制服で登校しており体育の着替えは男子生徒が更衣室でおこない、葵くんは誰もいなくなった教室で着替えている。最初の体育の着替えは男子生徒と一緒に更衣室でおこなったそうだが目のやり場に困った男子生徒がいた事と、葵くんの着替えをいやらしい目つきで見ていた男子生徒に葵くんが怯えたので別々に着替える様になった。そして、葵くんが女子制服での登校を認められている理由はただ単に葵くんが男子制服を着ていると男装にしか見えないばかりか、見た目が美少女なのでとても似合っておらず違和感しか感じなかった為である。まぁ。女子制服でも中学生の女の子が背伸びをして高校の制服を着ているようにしか見えないのだが。
俺が着替えを終えてリビングに入ると葵くんはソファーに座りオレンジジュースを満面の笑顔で美味しそうに飲んでいた。近くには俺の母さんが座り葵くんを優しい笑みで見ている。
「お待たせ。葵くん」
葵くんに声をかけると葵くんはさらに輝かんばかりの笑顔になり、てててと俺に駆け寄ると抱きついてきた。葵くんは高校1年生の男子にしては背が低く153cmしかなく、女子にしては167cmと高めの俺に抱きついても姉に甘える妹の様にしか見えず、俺と葵くんの肉親以外の第三者が見ても高校1年生男子が高校3年生女子。しかも、幼馴染に抱きついているとは夢にも思うまい。
前世が男でも女でも男に抱きつかれても嬉しくはない。それ以前に前世の記憶を持つ女子高生なんて俺だけだと思うが。しかし、葵くんは美少女な外見に言葉や態度から伝わる俺への好意があるので無碍に突き放すことはせずに優しく頭を撫でてあげる。そうすると葵くんは気持ちよさそうに目を細めてニコニコする。
「そうしてるのを見ると姉妹と言うより母娘ね」
母さんが苦笑まじりに言いながら、葵くんがオレンジジュースを飲み終えて空いたコップを片付ける。
「あ、あはは…。それでどこに行きたいの?」
苦笑して母さんを見送ると葵くんに目線を合わせて問いかける。
「特に行きたい場所は無いけど、雪姉と一緒にお出かけしたいって思ったの。だめ?」
葵くんは不安そうな目をして俺を見てくる。そんな目で見つめられたら断れないではないか。もっとも、葵くんのお願いを断る気など更々ない。
「だめじゃないよ。行こっか」
「うん!」
俺が笑顔で言うと葵くんも笑顔で大きく頷いた。
玄関で靴を履いて外に出ると俺は自然と葵くんの手を握り歩き始める。これは幼い頃からの習慣だった。この様子をみた当時の悪ガキが葵くんを揶揄い、腹を立てた俺はその悪ガキに軽くお灸を据えてやった。
「電車で隣街に行って駅前ビルで遊ぶ?」
歩幅のあまり広くない葵くんのペースに合わせゆっくり歩きながら葵くんに提案してみる。俺の住んでいる街の駅前よりも隣街の駅前の方が遊ぶ所が充実していて、駅前ビルとは1つのビルにボーリングやダーツとビリヤード。カラオケにネットカフェとゲームセンター。極め付けは貸し卓の雀荘まで入っている建物だ。しかも屋上はミニ遊園地みたいになっており子供向けの乗り物や小さな観覧車まであったりする。そこなら1日いても充分に暇は潰せるはずだ。
「うん!行きたい!」
葵くんがとてもいい笑顔で頷いたので行き場所は決定した。
駅から電車に乗り、数駅過ぎた所で目的の駅に着いたので電車から降りる。
「す、凄い人だね」
「そうだね。葵くんはぐれない様にしっかりと手を握っててね」
電車から降りて改札に向かうまでの通路は人でごった返して降り、あの有名なセリフを呟きそうになってしまった。こんなに人が多い中ではぐれてしまっては小さな葵くんを見つけるのは至難の技だ。それに美少女な外見の葵くんは変質者に誘拐されてしまい、あんなことやこんなことをされお嫁…では無くお婿に行けない体にされてしまう可能性もあるので俺が守る他ない。
「わ、わかったよ」
俺が葵くんを守り抜くと言う強い使命感とともに言った言葉は緊張感を含んで葵くんの耳に入ったのか葵くんがコクコクと頷くとぎゅっと俺の手を強く握りしめたのを確認した俺は葵くんの手を優しく握り返して目的地の駅前ビルに向け歩き出した。
駅前ビルに着いて先ず向かうのは屋上の1つ下にあるボーリング場だ。カウンターで手続きを済ませて靴を借りると靴を履き替え指定されたレーンに向かい目印用に自販機で買ったジュールを置くとボールを取りに向かう。
「これ位でいいかな」
俺が取ったの11ポンドのボールだ。
「雪姉。お待たせ」
葵くんはボールの色から察するに9ポンドのボールにした様だ。
「最初は私からだね」
俺はボールを持つと第狙いをつけ1投目を投じた。
「すごい!すごいよ!雪姉!ストライクだよ!」
俺は投じたボールは狙い通りの場所に転がり結果はストライク。それを見た葵くんは笑顔で手を叩き我が事の様に喜んでくれている。
「ふふ。ありがとう」
ニコニコ笑顔の葵くんの頭を微笑みながら撫でていると胸が少し高鳴っているのに気づく。この感覚は以前からも時々あった。それらは全て葵くんと一緒にいて葵くんが俺に屈託の無い笑顔を見せている時や、俺に甘えてくる時に見受けられた。この感覚は一体なんなのだろうか?前世では恋人ができないまま30歳になる前に世を去ったので経験のない胸の高鳴りだ。葵くん以外の男に笑いかけられても何1つ感情を動かされない。
「次はボクの番だね!」
気合を入れた葵くんはボールを持つと前に進みボールを投げる動作に入り、葵くんの手から離れたボールは無情にもミゾに落ちてガーターとなった。次に投げたボールは3本倒すだけにとどまる。
「うぅ…。雪姉みたいにストライク取れなかったよ」
葵くんはしょんぼりと肩を落としてドボドボと戻ってきた。
「ドンマイ。次は上手くできるよ」
俺が励ますと葵くんは力なく頷いた。
互いに何投か投げ終わり、俺は順調にスコアを伸ばしているが葵くんはストライクどころかスペアも取れずに今にも泣きそうだ。泣きそうな葵くんを見てると何とかしてあげたくなり、子供の時にやっていたおまじないをする事にした。
「葵くんおいで」
「うん…」
項垂れて椅子に座っている葵くんを呼び寄せ、葵くんが近くに来ると葵くんを少ししゃがませ、ちょうど良い高さになった所で俺は葵くんを抱きしめて俺の胸に葵くんの頭を押し当て優しく撫でる。
「大丈夫。次はストライク取れるよ。私が応援してるからね」
優しい声色でゆっくりと葵くんの耳元で囁く。これは子供の時にやっていた葵くんを元気付けおまじないで、これをされた葵くんはたちまち元気になった。自ら男を抱きしめてその顔を胸に押し当てるなど葵くん以外の男には絶対にやらない。葵くんは可愛くて良い匂いがするので特別だ。
「うん。頑張る!雪姉の心臓の音を聞いてると何だか落ち着くよ」
葵くんは笑顔で俺を見上げ言うとボールを持ち投げに行った。ボールを投げようとする葵くんを見ている俺の顔は真っ赤になっている事だろう。あのおまじないな葵くんが小学校1年生になって以来やってない。葵くんがそこまで落ち込む事が無くなったのもあるが、おまじないを始めた時は女の胸の中で泣けて癒してもらえるなんて男として幸せだろ?と始めたのに少し恥ずかしくなったからやらなくなった。では何故。恥ずかしさに耐えおまじないをしたかと言うと、泣きそうな葵くんを見ているのが辛かったし、俺は葵くんを泣かせる奴が何よりも許せないので、そんな下衆になりたくなかったからおまじないを敢行した次第だ。
葵くんが投じたボールはレーンの真ん中を転がると一番前のピンに当たり、そのまま転がりながら後ろのピンも倒した。そして、ボールに倒されたピンが他のピンも倒し見事ストライクとなった。
「やった!やったよ!雪姉!」
ストライクを取れたのがよほど嬉しいのか葵くんはその場で、ぴょんぴょんと飛び跳ねているが見ている俺は気が気じゃない。葵くんがジャンプする度にワンピースのスカート部が捲れ葵くんの穿いているゆるキャラのプリントされたショーツが見えている。
「よ、よかったね。ほら、葵くんおいで」
可愛いショーツを穿いているんだなと、どうでもいい事を考えるのをやめた俺は葵くんを手招きする。
「えへへ。ボク。ストライク取れたよ!」
嬉しそうにニコニコしている葵くんはこの世で一番可愛いと思う。そして、ニコニコしている葵くんを見ていると何故か胸の鼓動が高鳴る。
「おめでとう。凄いよ葵くん」
俺が葵くんの頭を撫でると葵くんはさらに笑顔になった。
ボーリングを楽しんだ俺たちはカラオケエリアに来ていた。俺1人ならゲームセンターエリアに向かい、メダルゲームやレースゲームで時間を潰すが今日は葵くんがいるのでお預けだ。俺がゲームに夢中になっている時に攫われそうなのと、葵くんはあまりゲームが得意では無いので2人でやろうにも勝負にならないからだ。
「それじゃ。歌おうか」
俺はタッチパネルで曲を検索する端末を取り検索を始める。
「雪姉の歌。楽しみ」
マイクを持ち立ち上がった俺を見上げて微笑む葵くん。そんな姿を見たら最高の歌を聴かせてあげようではないか。
曲を歌い終えて一息つく。
「雪姉の歌。凄く上手だね」
葵くんはニコニコ笑顔で手を叩いて俺の歌を賞賛してくれる。葵くんが喜んでくれて満足だ。
俺が歌ったのは今をときめく女性アイドルの歌でラブソングだったりする。
「ありがとう。次は葵くんの番だよ」
俺が言うと葵くんはマイクを握りしめて立ち上がりイントロが流れ始める。ゆっくりとしたメロディには聞き覚えがあり、前期深夜アニメのエンディングテーマだ。歌詞が表示され葵くんが歌い始める。ああ。やっぱり葵くんの歌声は綺麗で可愛いと思う。声変わりが何故かこなかった葵くんの声は子供時のように高いままだったりするが、心なしか子供時のよりも高くなっているように思え、普通に話す声も女の子かと思える程だ。そんな葵くんが声を1オクターブ上げて歌うのだからますます女の子の声に聞こえる。心が洗われるようなメロディと歌詞。そして、葵くんの綺麗で可愛らしい歌声。葵くんの歌を聴いたらどんなに心荒んだ人間でも癒されるのは間違いないと確信できる。それ程までに葵くんの歌は素晴らしいのだ。
歌い終えた葵くんが満ち足りた表情で戻ってくる。
「凄く良かったよ」
先ほど。葵くんが俺にしてくれたように俺も笑顔で手を叩いて葵くんの歌を賞賛する。
「えへへ。ありがとう。雪姉」
葵くんは恥ずかしそうに頬をかく。その姿も堪らなく可愛くて抱きしめたくなってしまう。
互いに何曲か歌うとカラオケをやめて屋上のミニ遊園地に向かう。ミニ遊園地には家族連れで溢れ、子供達の元気な声がしている。
「少し、休もうか」
「うん」
俺は空いているベンチを見つけ、葵くんと並んで座る。
「今日は楽しかったね。満足した?」
「うん!とても楽しかったよ!」
俺の問いかけに葵くんは満面の笑顔で頷く。
「でも。最後にあれに乗りたいな」
そう言って葵くんは小さな観覧車を指差す。観覧車の下には順番待ちの列ができているが、人数は多くなく直ぐに乗れると思われる。
「うん。良いよ。行こうか」
「あ。その前にお手洗い行ってくるね」
葵くんは立ち上がるとお手洗いに向かい小走りで走っていった。葵くんは多目的トイレがある場合はそちらを使うが、ない場合は女子トイレを使用する。昔。公園の男子トイレに入った時に変質者に悪戯されそうになった事がある。その時は別の人が入って来たために事なきを得たがもし人が入ってこなかったらと思うとゾッとする。入ってきた人は葵くんが変質者に無理やり男子トイレに連れ込まれたと思ったそうだと、後から葵くんの母親にきいた。それ以来。葵くんは出かけ先でトイレに入る時は多目的トイレか女子トイレを使用している。高校でも女子トイレを使用している。それは私を含めた女子生徒が、葵くんを男子トイレ行かせて男子生徒に襲われたらどうするんだ!?と言う事を学校側に伝えた為だ。男子生徒は猛反発したが女子生徒の勢いに負けた。葵くんは女子生徒からも男子生徒からも人気があり、皆の妹(?)的な存在だったりするが葵くんは誰にも渡さん。
ふと。俺は俺が葵くんに感じているこの想いは何なのか考えてみた。葵くんが他の女子生徒と話しているのを見るとヤキモキしてしまうのは幼馴染では片付けられないし、葵くんの行動や表情全てが愛おしく感じられ、それを穢す者は絶対に許さない自信がある。俺は自分の胸に手を当てる。葵くんの事を考えている時の心臓はいつもより早く脈打っているように感じ、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになる。
「ああ。私は葵くんの事が好きなんだ…。幼馴染としてではなく、1人の男の子として」
俺は前世で試しにやった乙女ゲームで、女主人公が今の俺と似たような気持ちになっていたと思い出した。
「葵くんは私をどう思ってるかわからないけど、告白をしてみよう」
俺は決意を固めると葵くんがトイレから戻ってくるのを待った。
葵くんがトイレに向かい数分が経つ。
「お待たせ!雪姉」
葵くんはトイレに行った時と同じ様に小走りで戻ってきた。
「そ、そんなに待ってないよ。それじゃ。観覧車に並ぼうか」
葵くんへの想いに気づき、告白すると決めたら恥ずかしさで葵くんの顔をまともに見れない。男だった時には恋愛経験など無く、告白した事もされた事もなかったので尚更だ。俺と葵くんは手を繋いで観覧車の列の最後尾に並んだ。
20分程で俺たちの番になり、俺と葵くんが観覧車に乗り込むと向かい合わせで座ると係員が扉を閉める。
「楽しみだね!雪姉」
俺の前にはニコニコ笑顔の最愛の葵くんがいる。
「う、うん。楽しみだね」
俺はしどろもどろになりながらも微笑んで頷く。
「どうしたの?雪姉。顔が真っ赤だよ?」
葵くんが心配そうに首を傾げて俺を見つめてくる。いけ!俺!今がチャンスだ!と自分で自分に発破をかけた俺は一度。深呼吸をして葵くんに目線を合わせた。
目の前には心配そうにこちらを見つめる葵くん。
「あ、あのね葵くん。驚かないできいてほしいんだ」
「う、うん」
ええい!やけに喉が乾く。葵くんは心配そうな顔からキョトンとした顔になり見つめてくる。
「え、えっとね。私。葵くんの事が好き…なんだ。幼馴染としてじゃなくて1人の男の子として葵くんが好きなんだ!」
言い終えた俺は葵くんを見つめる。
「ふぇっ!?で、でも、雪姉は前世。男の人だったんだよね!?ボクは男の子だよ?いいの?」
葵くんは顔を真っ赤にしてワタワタしている。葵くんの言葉からもわかる様に葵くんは俺の前世が男だったのを知っている。話したのは葵くんなら受け入れてくれそうだと根拠のない理由だ。他に知っているのは俺の両親と葵くんの両親だ。自分の両親には隠し事をするのが嫌だったので話し、葵くんの両親に話したのは幼馴染の両親にも隠し事をしたくなかったのもあるが、葵くんの両親がライトノベル作家とイラストレーター兼声優という理解してくれそうな職業だったから話した。余談だが、母親がライトノベル作家で父親が声優をしている。声優の父親は男の娘アイドル声優という新ジャンルの声優で、美少女の様な外見で可愛らしい声に抜群の演技力と歌唱力で人気があり、母親のライトノベルも何作品かはアニメ化されている売れっ子だったりする。親子3人が揃うと親子と言うよりは3姉妹に見えると言うのは余談の余談だ。
話を戻そう。葵くんは前世が男の俺が男である自分を1人の男の子として好きになったのが衝撃的だったのかまだワタワタしている。
「それでもだよ。それでも私は葵くんが1人の男の子として好きなんだ。この好きが男としての物か、女としての物かはわからないけど、私が葵くんの事を好きなのには変わりはないよ。やっぱり、いくら今が女でも前世が男はいや?」
言っておいてなんだが、最後の言葉は自分でも卑怯だと思う。案の定。葵くんの瞳はウルウルとしていて泣きそうだ。
「嫌じゃないよ!雪姉はいつもボクに優しくしてくれるし、守ってくれてるもん!そんな雪姉が嫌いな訳ないよ!ボクも雪姉が大好き!」
葵くんは大きな声で言い終えると俺に抱きついてきた。葵くんの言葉に今度は俺がワタワタする番だ。
「ほ、本当?そ、それはどっちとして?幼馴染?それとも女の子として?」
声が震えてしまう。
「多分。雪姉の事を女の子として好き…なんだと思う。今ははっきりとわからないけどきっとそう」
葵くんは涙で潤んだ瞳で微笑み俺を見上げてくる。そんな葵くんを見ている俺の視界も涙でぼやけている。
「ありがとう。嬉しいよ」
俺は葵くんをぎゅっと抱きしめる。服越しに葵くんの体温が感じられる。早鐘のように脈打っているのはどちらの心音かわからないが何故か安心できる。
「ボクも嬉しいよ」
俺を見上げてきた葵くんの視線と俺の視線が交差する。観覧車はもうそろそろで頂上にくる。葵くんが何かを期待する様にそっと目を閉じる。その意図を察した俺は顔をゆっくりと葵くんの顔に近づけ、互いの唇を重ね目を閉じた。