ブレザーとローブ、そして大鎌
訓練所を出た俺は、昼飯の用意をしに行ったアンジェと別れて1人で部屋へと向かった。
この城の通路は大体覚えた。覚えたというより、スマホのビデオカメラ機能で部屋までの道を録画してその通りに通ったわけだが。
何はともあれ、無事に部屋に戻った俺はベッドの上に寝転ぶ。
魔法の練習をしたかったけど、あの3人の目線に耐えられずに逃げて来ちゃったからな…まあ、明日になったら思う存分練習出来るだろうから、今日は我慢。
そう決めた俺は暫し、部屋で寛いだ。
コンコン、
「コータロー様、昼食をお持ちしました」
ノックの音と共にアンジェの声が聞こえる。
「おーご苦労さん、入ってくれ」
そう言うとガチャリとドアが開き、トレーを持ったアンジェが入ってきた。
椅子に座ると、アンジェはトレーを目の前に置く。
昼飯の献立は色鮮やかなサラダ、野菜スープ、回鍋肉みたいな感じの炒め物にパンだ。
そろそろ米が食いたくなってきたがこの世界に米なんてない。
アンジェに聞いたら首を傾げられたからな、無い物ねだりは出来ないので我慢しよう。その内慣れるだろうし。
「いただきます」
手を合わせてフォークを持って料理を食べ始める。
何か嬉しい事でもあったのか、アンジェは笑みを浮かべたまま瞼を閉じて立っていた。
「ごちそうさん。今日も美味しかったぜアンジェ」
「恐れ入りますコータロー様」
満足そうに笑みを浮かべながら食器をトレーに乗せるアンジェ。
「では私は片付けて参ります」
アンジェがトレーを持って部屋を出て行った後、何もしないまま過ごすのも時間が勿体ないので、この世界の文字の勉強も兼ねて本を読むことにした。
「あ〜魔法の練習がしたい…子供の頃の夢だった魔法をぶっ放したいぃ〜」
なんて愚痴を言いながら俺は書物を読み始めた。。
数時間後・・・・・
「zzZ……zzZ……ん」
目を覚ますと開いたままの本を枕にして、テーブルにうつ伏せになっていた。
どうやらいつの間にか寝落ちしたようだ、幸いにも涎は垂れていなかったが寝違えたのか、首が痛い。
天井のシャンデリアには明かりが付けられ、窓の外を見ると日中降っていた雨がやんで暗闇に包まれており、見事な満月の光が闇を照らしていた。
欠伸をすると毛布が掛けられていた。アンジェが掛けてくれたのだろうか。
「お目覚めになられましたかコータロー様?」
アンジェの声がしたのでその方向を見ると、ベッドの側にある椅子に座って本を読んでいたアンジェがこちらを向いていた。
「おーアンジェ、今何時だ?」
「少々お待ちを…21時を少し廻ったところでございますコータロー様」
アンジェは懐中時計の文字盤を確認した後、ポケットに仕舞って言った。
21時か、確か読書を始めたのが15時頃だったから…最低でも2時間くらい寝てたんじゃないか?
「そうか…ふぁ〜あ、あー首がイテェー」
首をさすりながら立ち上がって背伸びをすると背骨がボキボキと鳴った。
「コータロー様、夕食をお食べになられますのならご用意致しますがどうなさいますか?」
立ち上がって本を閉じて椅子の上に置いたアンジェがそう聞いた。
「んー、腹減ってないからいいや」
「そうでございますか」
「ああ、食べたくなったらお願いするよ。ちょっと外の空気を吸ってくる」
「では外へご案内します」
「いいよ、道知ってるから1人で行くぜ」
「そう言われてもコータロー様になにかあったら事ですので…」
「大丈夫だって、すぐ戻るからアンジェはここで待っててくれ」
「…畏まりました。お気をつけて」
「分かった」
心配そうな顔で見送るアンジェを背に部屋を出た。
「確か中庭への道は、と…」
スマホを取り出して写真フォルダから中庭までのルートを撮ったビデオを見ながらその通りに歩き、途中でトイレに寄った後オリヴィエにも出会ったので、軽く魔法の事を教えて貰い無事に中庭まで辿り着いた。
中庭はフットサルのコートくらいの広さで四角い回廊に囲まれている。
辺りは暗いが、やや凸凹した濡れた石畳が月の光を反射していて、なんとか周りが見える感じだ。
中央の辺りまで歩き、くるりと回転しながら見渡すと、城内の各部屋にちらほら明かりが見える。
1回転したところで、ふと空を見上げると見事な満天の星空と月が視界に入った。
1つ1つが宝石のような輝きを放つ幻想的な星空の中に満月がぽっかりと浮かんでいる。
「おースゲー…」
あまりに見事な夜空に思わずそう呟いた。
こんなに綺麗な星空を見るのは久しぶりで、しばらく見入ってしまった。
異世界に来たからか、元の世界で見れた物が新しく見える。
「この世界も月は1つなんだな。太陽も1つなのかね? ま、朝になれば分かる事か、戻ろう」
そう言って自室に戻ろうとした時だった。
「こんばんはお兄さん、綺麗な夜空ですねー」
と、突然女性の声が聞こえた。
「ん? 誰だ?」
声の主を探しに周りを見渡すが誰もいない。となると…
「上か?」
と叫びながら上を見るとーーーーー
「あら、よく分かりましたねー。ていうかどこ見てるんですかお兄さん?」
ーーーーー白いパンティーが見えました。
「ちょっといつまで見てるんですか〜? お兄さんのエッチ」
女性にそう言われて我に返る。
「わ、悪い。それよりお前は何者だ? ただの人間じゃないな?」
「何を言ってるんですかー、私は普通の人間ですよぉ」
「普通の人間が宙に浮かんでる訳がないでしょうが。さては魔族か?」
風属性の魔法では? と思うかもしれないが、オリヴィエから風属性の魔法に物を浮かす魔法はあるが、空を飛ぶ魔法など存在してないみたいな事を聞いたので魔族と判断した。
「初めて出会った美少女にいきなり魔族って酷くないですかー? まあ、お兄さんの言う通り魔族なんですけどねー」
自らを魔族ということ認め、妙に語尾が間延びした口調で話す女性は宙に浮かんでおり、両手には死神が持ってるような禍々しいデザインの大鎌が握られている。
そして彼女の周りに鬼火のような青白い何かが纏わり付いていた。
「やっぱり魔族なのか、なら兵士を呼ばないと…おーい! 誰か来てくれ!」
と大声を出して兵士を呼んだ…のだが誰も来ず、シーンと静寂が響く。
「おい! 誰かいないのか!? ここに魔族がいるぞ!」
さっきよりも大きい声で叫んでみたが兵士は1人も来ない。
「な、なんで誰も来ないんだ…!?」
「いくら大声出しても無駄ですよぉ、何故ならこの庭にちょっと特殊な結界を張りましてー、声は勿論のこと音も伝わりませんし、結界の外からは私達が見えないようにもなってまーす♪」
クスクスと笑いながらそんな事を言う女性。
周りを見てみると、いつの間にか金色っぽい薄い膜みたいなのがドーム上に俺達を囲んでおり、地面には同色の魔法陣が刻まれていた。
あれ? これってつまり俺ピンチって事だよね? ヤバイよ、ヤバイよ!!
「お、お前の目的は何だ!? 俺をどうする気だ!?」
「そんな警戒しないでくださいよぉ、別に私にお兄さんをどうこうしようなんて気はありませんからー」
女性は笑みを浮かべながらそう言う。
「う、ウソだ! その手に持ってる大鎌で、口封じに俺を真っ二つにする気なんだろ!?」
「もー、そんなことしませんってばー」
「悪いが信用出来ないな! 殺す気が無いなら、その両手に持ってる物騒な物を仕舞ってからそう言ってくれよ! マジで怖いから!」
「それもそーですねー」と言って女性は指パッチンをすると手に持っていた大鎌が消えた。
そしてゆっくりと地面に降り立った。
「さあ、これで私は丸腰ですよお兄さん。なんなら服の中も調べますかー?」
ニヤニヤしながらそう言う女性の目から敵意は感じれない。どうやら嘘はついていないようだ。
そう決めた俺はほんの少しだけ警戒を解く。
「…いや、いいよ。とりあえずお前に敵意がない事は分かった、それで魔族がなんでここにいるんだ? 勇者でも暗殺しにでも来たのか?」
「それは秘密ですよぉ」
教える気はないという事か、女性はニヤニヤと笑う。
「……。じゃあどうしたら教えてくれるんだお嬢さん?」
「んーそうですねぇ…お兄さんが警戒を解いてくれたら教えてあげようかなー?」
「そうすれば教えてくれるのか? 解いた瞬間に体が真っ二つにされるってことはない?」
「だからそんなことしないって言ってるじゃないですかー」
呆れた感じでそう言う女性。フードを被ってるから表情は分からないが何となくジト目でそう言っている気がする。
取り敢えずこのままじゃ話が進まないので体が真っ二つにされない事を祈りつつ、警戒を解いていつものように片足に体重をかけて立つ姿勢になる。
「で、結局お前は何しに来たんだ? 勇者の暗殺か?」
「暗殺だなんてそんな物騒な事をしに来たわけじゃないですよー、ただ異世界から勇者達が召喚されたと風の噂で聞いたんで、どんな人達か見に来たわけですよぉ」
「あっそ、じゃあ俺に何の用だ? 勇者を見に来ただけならすぐ帰ればいいじゃないか」
ていうかこんな簡単に魔族に忍び込まれて城の警備は何やってるの?
「兵士さん達ならちょっとの間眠ってもらってますよー」
俺の心を読んだかのようにそう言う魔族の女性。
「なんてこったい…ていうかさり気なく心を読むなよ!?」
「顔に出てましたよー?」
「え、ウソ?」
「ええ、勿論。話を戻しましょうか、ホントはさっさと帰るつもりだったんですけどねー、偶々お兄さんを見つけたので興味が湧いたんですよー」
「興味が湧いた…か…」
どうやら厄介な奴に目を付けられたようだ。
「ところでお兄さんは見た事無い服装をしてますけどもしかして勇者ですか?」
「…それを知ってどうする? まだ力が蓄えられていない内にここで殺っちゃいますか?」
「いやだなぁお兄さん、さっきから言ってるように私はお兄さんに敵意はありませんし、仮に勇者だったとしてもそんなことしませんよぉ。先程言った通り、私はただ勇者達がどんな人達か見に来ただけですってー」
「見に来ただけ…ねぇ…で、勇者達がどんな奴らかもう見たのかね?」
「ええ勿論。今はまだ弱いですが鍛えたら私じゃ勝てないでしょうねー。あと、1人だけ面白い人が居ましたよー? 黒くて長い髪の人なんですけどー私が見ている事に気付きましたからねー」
黒くて長い髪…楓嬢のことか?
「楓はお前の視線に気付いたのか…あ、やべ」
うっかり名前を言ってしまった。マズい、あまりコイツに勇者の情報を言わないつもりだったのに。
「カエデさんっていうんですかあの女の人。なんだか仲良くなれそうな気がしますねー、ところでいい加減私の質問に答えて下さいよお兄さん」
「答えてやってもいいが、俺の事は魔王とか他の奴には教えないと約束するなら教えてやってもいい。出来ないなら答えない。敵に俺の事をベラベラと話されたら嫌だからな」
「んー、そう来ますかー……ちょっと待って下さいねー」
女性は暫し考える仕草をすると指パッチンをした。
すると女の目の前に1枚の紙と羽ペンが現れ、彼女は羽ペンを手に取り、宙に浮いた紙になにやら書き込み、大鎌を出して刃先で指を切って、紙の上に血を一滴垂らすと、紙が強く光り出して直ぐに納まった。
「これで良し、っと。お兄さん、コレを受け取って下さい」
とそう言って紙にフゥっと息をかけると紙が俺の方へと飛んで来た。
飛んで来た紙を掴んでみると色は黒く、赤い文字で文面が書かれていて、一番下の記入欄に名前らしき文字が書かれているが、そこだけなんか筆記体や草書みたいに崩れた感じで書かれていて読めない。
取り敢えず紙に書いてある文章を読んでみると
「なになに?
『私は魔王や他の魔人達、それ以外の人達にお兄さんの事を一切話さない事、
その他の方法を用いてお兄さんの情報を伝えない事を誓います』だと? 何だこりゃ?」
「それは契約書類と言って、私たち魔族の間では決闘の時とかに使われる契約書です。それに約束事を書いて本人の血を垂らすと契約が成り立ちましてー、書かれた契約に背くとその人の命を奪っちゃうんですよー」
「なっ!? お前そんなことだけのために俺に命を差し出すのか!? もっと自分の命を大切にしなさい!」
「だってーお兄さんと私はまだ敵同士ですし、こうでもしないとお兄さん教えてくれないじゃないですかー」
確かにそうだ。俺とこの女性は敵同士、本来なら今頃戦ってる筈なのだ。でもこいつには敵意がないどころか命まで差し出してる。
一体何故そこまでして俺の事を知りたがるというのか。
「分かったよ。お前が命を差し出してまでするのなら、こっちもそれに答えてやらないとな。俺も異世界から召喚されたんだが、幸か不幸か勇者達の召喚に巻き込まれた唯の一般人であって、勇者じゃないんだ」
「へーそうなんですかー、分かりました。教えてくれてありがとうございますお兄さん」
女性はそう言うとにっこりと微笑んだ。
今更だが、彼女は袖口と襟元とフードに金の装飾が施された黒いローブを袖を通さず、フードだけを被り襟元を留めて羽織っている。
身長は見た感じ165cmくらいでフードを被っているのと、外が暗い所為で顔は分からない。
年齢は声からして十代後半辺りだろうか?
長さは不明だが毛先が若干赤みがかった銀髪が顔の横から胸の辺りまで伸びている。
ここまではいいんだが、問題は彼女が着ている服にある。
「なあ? 俺からも1つ聞いても良いか?」
「なんですかー? 私のスリーサイズでも知りたいんですかー? お兄さんなら教えてあげても良いですよー?」
「そう言う事じゃない、お前のスリーサイズはまた別の機会に教えてくれ」
嘘です、ホントは今すぐ知りたいです。
「俺が聞きたいのはお前が今着てる服についてだ」
そう、女性が着ている服は俺がいた世界で女子高生が着る制服だったのだ。
濃紺色のブレザーに同色のミニスカート、白いブラウスに赤いネクタイ。そして黒いオーバーニーソックスみたいなのと膝まで金属で覆われてるブーツ? を履いている。
サイズはEくらいだろうか? 胸もブレザーの上から分かるほど豊かでスカートとソックスらしき布のムチムチした絶対領域がなんともたまらん。
「私の服がどうかしましたー?」
「ああ、お前が着てる服は俺がいた世界で着られている服なんだよ。お前、その服を何処で手に入れたんだ?」
「あーこの服制服って言うんですかー、これはですねぇ、気が付いたら着てたんですよー」
「気が付いたら着てた? どういう事だ? 誰かから貰ったりどっかで拾ったりしたんじゃないのか?」
「うーん、私自分の事は覚えていないんですよー、目が覚めたら魔王城の中に居て、魔王様に配下になれって言われたところしか覚えてないんですよー」
「……そっか、何も覚えてないのか」
もしかしたらこいつは神隠しの類にあって、異世界に来ちゃったのかもしれない。それでなんか記憶を失っちゃったみたいな感じだろうか?
小説ではそういうパターンも少なくないからな。
或いは事故かなんかで死んだ瞬間に魔王に召喚されたとか?
まあ、コイツが異世界トリップだろうが転生者だろうが俺には関係のない事だ。
「あ、そう言えばまだ名乗ってませんでしたねー。私、魔王八大魔将軍の1人、ネクロマンサーのウィルと言いますーよろしくお兄さん」
そう言って女性はフードを取り、彼女の素顔がはっきりと見えた。
腰まであるだろう、毛先がほんの少し赤みがかった、銀色のナチュラルな感じのロングヘアー。
見た目は18歳くらいで肌は雪のように白く、ぱっちりとした目にアメジストの瞳、どこか子供っぽさを感じさせる印象の顔立ちの女の子だ。
「……は?」
ウィルと名乗った少女の言葉に俺は空いた口が塞がらなかった。
「は、八大魔将軍だと!?」
八大魔将軍というのは魔王四天王の次に強い下の地位にいる魔族で、所謂中間管理職みたいな感じだ。
四天王はそれぞれ2人の魔将軍を部下に持つ。
どれほど凄いのかは分からないが、役職名からして戦闘力は高いかもしれない。
そんな奴が今目の前に居るんだぜ!? 幾らなんでも登場が早過ぎるだろ!? こういう奴って大抵、物語の中盤辺りから出てくるものじゃないの!?
どうする!? どうするよ俺!? このままコイツを自由にさせておいていいのか? やっぱり倒すか?
だが俺1人では倒せないどころか、武器を持ってないし、魔法も全然練習してないから使えないし、兵士達は気絶してるっぽいし、変な結界の所為で呼んでも来ないし、仮に呼べたとしてもその間にきっと逃げるに違いない。
いや待てよ? こんな結界張ってるならオリヴィエとか気付くハズ…来るのを祈るか。
「お兄さん? こっちが名乗ったのだからお兄さんも名前教えて下さいよー」
「……え? なに? なんか言った?」
「だからー、お兄さんも名前教えてって言ってるじゃないですかー」
ウィルがジト目でそう言ってくる。
「あ、ああ、名前ね。俺は朝比奈 幸太郎。幸太郎が名で朝比奈が家名だ」
「へー、コータローっていうんですかー 、変な名前ですねー」
ウィルと名乗った少女は俺の名前を聞いてクスクスと笑い出した。失礼な奴だな、おい。
「しかしお前みたいな女の子が八大魔将軍とはねぇ…なんか信じられないな」
「じゃあ戦ってみますー? 私は構いませんよー?」
そう言いながらウィルは大鎌を出した。
俺には分かる…きっとこいつには勝てない。下手すれば逆に殺されるのが本能で感じる。
ていうかこの子、さっきネクロマンサーとか言ってたから絶対殺した後、俺をアンデッドにして下僕にするでしょ。
死霊使いは死者や霊を用いた術、ネクロマンシーという黒魔術を使う者のことで死体をアンデッドやスケルトンに変えて操る姿が知られている。ということはあの周りに浮いてる鬼火みたいなのは人魂か?
「…いや、止めとく。俺じゃお前には勝てないだろうから」
勝てないどころか、武器も持ってないし魔法も使えないのにどうやって戦えと?
「そうですかー懸命な判断だと思いますよー。あと私が八大魔将軍と言われてる理由は特にないんですよー、なんか襲いかかって来た敵さんを八つ裂きにしてたらいつの間にかそう呼ばれてただけで、大した事はしてないんですよぉ。あ、でも他の魔族は私の事を『虐殺のウィル』とか呼んでますねー」
「なにそれこわい」
虐殺とかなんて物騒な二つ名だ…そんな奴が居るくらいなんだから他の奴もかなりヤバい奴に違いない…
「それにしても何で私の事をそう呼ぶんですかねー? 恥ずかしいからやめて欲しいです」
「…多分、敵を八つ裂きにしてるのがそう呼ばれる主な原因だと俺は思うぞ?」
何故だろうか、「キャハハハ!」と笑いながら大鎌で敵を八つ裂きにしてる姿が想像出来るぞ…?
「?」
ウィルは頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げている。
「さて、俺はそろそろ部屋に戻りたいんだが、この変な結界を解いてくれないか?」
「えーもっとお話しましょうよぉ〜」
「悪いが大事なメイドさんが俺の事を心配してるかもしれないんでね、それにもう時間も時間だし明日も色々やる事があって寝たいんだ」
「そーですか、じゃあ仕方ありませんねぇ」
ウィルが少し残念そうに言うと、彼女は指パッチンをした。
パチィーン…と、やたら良い音が中庭に響き渡ると俺とウィルを囲んでいた結界が消えて行く。
「お前はどうするんだ?」
「そーですねぇ、色々収穫はありましたしお兄さんとはお友達になれましたしねー、このまま帰りますよー」
「お前と友達になった覚えはないんけどな。まあ、お前となら仲良くやっていけそうな気がしないわけでもない、かもよ?」
こいつとなら別に仲良くなってもいいかもしれない。可愛いし、おっぱいデカイし、むちむちの絶対領域超好みだし。
「そう言ってくれると嬉しいですー。じゃあお兄さん、今度会う時には敵同士じゃない形でお会いしたいですねー」
「あ、ああ、そうだな、そうならない事を祈るぜ。あと今日あった事は悪いが報告させて貰うぞ?」
「構いませんよー。でも出来れば私の事は伏せて貰いたいな〜」
「……。一応、考えておく。あと約束はちゃんと守ってくれよ?」
「大丈夫ですよお兄さん、私はこう見えて約束は守る女ですし、破ったら死んじゃいますからね」
そう言ってウィルはニコッと笑って手を振りながら宙に浮かんで何処かへ飛んでった。
「ハァー…何だったんだ一体」
ウィルが飛んで消えた後、俺はその場に座り込んだ。
アイツとは絶対に戦いたくないな、なんて言うか、心の奥にもう一つの人格が潜んでそうで、普段は穏やか感じだが戦闘になったり、キレたら残虐で凶暴でサディスティックな性格になりそうで怖い。
なにせ虐殺と呼ばれてるくらいだ、八つ裂きにするだけじゃ済まないかも。
そんな奴と一方的に友達にされたんだがどうすればいいと思う?
誰か教えてくれよ偉い人。
「……戻るか。アンジェが心配してるだろうし、報告は…明日の朝に言えばいいか」
そう呟いた俺は立ち上がって部屋に戻る事にした。
「ただいまー」
「おかえりなさいませコータロ様、戻ってくるのが遅かったので心配致しました」
部屋に戻るとアンジェが出迎えてくれた。
時刻はもう22時半過ぎ。ウィルとは一時間近くも話してたみたいだ。
「ああ、ちょっとオリヴィエや面白い奴に出会って与太話してた」
「そうでしたか、何はともあれコータロー様が無事でなによりでございます」
「そうか。俺は風呂入ってくる」
「畏まりました。では浴場へお連れします」
「ああ」
カバンから偶々入ってた替えのパンツを持ってアンジェに案内されながら浴場へと向かった。
「うぃ〜」
浴場の湯船に浸かっておっさんみたいな声を出す。
「(魔族と知り合いになったと聞いたら大騒ぎだろうなぁ…最悪反逆罪となって牢屋へ入れられるかもしれない…)」
でもそれは俺がそう言わなければいい話、報告はちゃんとするけど俺が勇者じゃないからか、この城の人間はどうも俺を邪魔者扱いしてる気がするから、話しても信じてくれなさそうなんだよね。
「取り敢えず今はとっとと強くならんとな…やれやれ、この先どうなることやら…」
そう言って暫く湯船に浸かった後、頭を洗ってると
「コータロー様、お背中をお流ししてもよろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
俺がそう言うとアンジェが相変わらず裸で浴場に入って来た。
この世界のメイドって背中流す場合タオルとか巻かずにするもんなのかね?
そう思いながら湯船から出てアンジェに背中を向けて座る。
「では失礼致します」
そう言ってアンジェは石鹸を手に泡を作って俺の体に塗っていく。
さて、今日はどこまで耐えられるかな。
「コータロー様、我慢しなくてもいいのですよ?」
アンジェが泡を塗りながら俺の背中に密着して、 彼女の豊満な胸が押し当てられ耳元で囁かれる。
確かにアンジェの言う通り我慢する必要なんてないんだよな、別に禁欲してるわけでもないし。
でも心の何処かでアンジェを汚したくないという気持ちがあってさ、踏み止まっちゃうんだよな。
まあでも我慢した所為か、俺の股間に住み着いてる魔物、リヴァイアサンが荒れに荒れて今か今かと出陣を待ちわびてるんだよね。
正直言ってもうハッスルしたい。
だからさ、
「済まんアンジェ、もう我慢の限界だ」
そう言ってアンジェを押し倒す。
「コータロー様……どうぞ、アンジェの体をご堪能下さいませ…」
と、アンジェは妖艶に微笑んで目を閉じてそう言った。
3人目のヒロイン候補登場です。
八大魔将軍と四天王って似た感じの役職ですかね?




