この世界について王女様直々教えてくれるそうです
16/6/14 金額の設定に銀板を追加しました。
16/9/4 脱字修正、金額の設定に銅板の部分が抜けてましたので追加しました。
翌朝、目を覚ますと知らない天井、ではなく自室のシャンデリアだった。
「…朝ですかい…」
眠い目を擦って腕時計を見るとまだ7時前だった。
「まだ7時前か。もう少し寝よう…」
そう言って、2度寝しようと毛布を被ろうとしたら「コンコン」っとドアがノックされた。
「コータロー様、起きていますか?」
ドア越しにアンジェの声が聞こえる。
「起きてるぞ」
そう言うとドアが開き、アンジェが入って来た。
「おはようございますコータロー様」
お辞儀をしながらそう言う彼女の顔を見て一気に眠気が吹き飛んだ。
それだけアンジェは美しいのだ。ホントはエルフなんじゃね? って思うくらい。
そんな女性が俺のメイド、元の世界でもこんな最高な事はないだろう。
「おはようアンジェ。今日も綺麗だな」
「ありがとうございます」
「ところでアンジェ、まだ7時前じゃないか、もう少し寝かせてくれよ」
「誠に申し訳ありませんが、今日は9時からこの世界の常識について王女様から教わる事になっています」
「マジか、それじゃあ仕方ないな…ん? 王女様から教わるのか? 普通は専門家の人とかが教えるんじゃないのか?」
「はい。本来ならその筈だったのですが、なんでも王女様自らご志願なさったようでして……」
「成る程…」
王女様自らって絶対、平野か風間とお近づきになるのを狙ってるじゃん。
あの姫さん、イケメンボーイズを見てた時かなり顔を赤く染めてたからな、どっちかにホの字なんだろう。
俺はギャルゲーやラノベとかの主人公みたいな鈍感野郎ではないので恋愛感情とかには普通だ。
「コータロー様、朝食の用意が出来ていますのでどうぞお召し上がりくださいませ」
いつの間に用意したのかテーブルの上には既にトレーが置かれていた。
「ああ、済まない」
ベッドから降りて靴を履き、窓の外を見ると雨が降っていた。
「今日は雨か。これじゃあ外を出歩けないな」
「そうでございますね。今は雨が多い時期ですから…」
アンジェは窓の外を見ながら言った。気のせいだろうか、その時の顔が悲しそうに見えた。
朝食を食い終わった俺はアンジェの案内で城内にある図書館に来たわけだが、まだ誰も来ていなかった。
「あいつらまだ来てないみたいだな」
「そのようでございますね。少々、来るのが早かったかもしれません」
そう言いながらアンジェはエプロンのポケットから、アンティークなデザインの懐中時計を取り出して竜頭を押して彫金された蓋を開け、文字盤を見た。
エプロンに付いてるチェーンはあの懐中時計のだったようだ。
俺もごついデザインのデジタル腕時計を見ると、まだ8時をちょっと過ぎたところだった。
「まだ結構時間があるな、本でも読んで時間潰したいところだが、この世界の文字が読めないんだよなぁ…」
そう、俺達はまだこの世界の文字を読んだり書いたりする事が出来ないのだ。
それなのに俺達の言葉が通じるのはあの魔法陣に翻訳の魔法が加えられているからであるらしいとのこと。
だったらついでに文字も書けるような魔法も加えておいてくれればよかったのに。
「ではチェスなどいかがでしょう?」
アンジェはチェスのボードを取り出して俺に見せた。一体どっから取り出したのか非常に気になるがこの際気にしないでおこう。気にしたら負けだ。
「この世界にもチェスがあったんだ」
「はい。歴代の勇者の1人が作り、流行させたとの話です。名前は存じませんが」
「成る程。じゃあそれで時間潰そう。こう見えて俺、チェスは結構得意なんだ」
母方の祖父の趣味がチェスだったので、幼かった頃は何度も祖父と遊んでいた。
だから腕はそれなりに自信はあるつもりだ。
「そうですか、それは面白くなりそうですね。私、結構お強いですよ? 今まで一度も負けた事がありませんから」
「マジか、なら俺がその無敗伝説を破ってみせる!」
「望むところでございます」
「じゃあ白と黒、どっちを選ぶかジャンケンで決めようじゃないか」
「わかりました」
「じゃあいくぞ。最初はグー、ジャンケンポンッ!」
俺はグーを出し、アンジェはチョキを出したので俺の勝ちだ。
「俺の勝ちだな、俺は黒を選ぶぜ」
「では、白は私が貰います」
こうして俺とアンジェの聖戦が始まった。
「これでチェックメイトだ!」
俺のビショップとルークのダブルチェックでアンジェのキングを追い込み、ナイトでチェックメイトを取って俺の勝ちだ。
「よっしゃ! ついに勝ったぜ!」
俺はガッツポーズをする。
「あら、負けてしまいましたか。これで同点でございますね」
キングの駒を横に倒して、負けを認めたアンジェの顔には悔しさなんてなかった。
「そうだな。ていうかお前強過ぎ、俺が戦ってきた奴の中で一番だ」
彼女は強かった。祖父以外の人達と何度か戦ってきたが彼女はその中で一番だった。
上には上がいると改めて思い知らされた。アンジェの腕なら大会に出ればいい所まで行けるんじゃないか? 分からんけど。
「とんでもございません。私などコータロー様に比べればまだまだでございます。まさかクイーンをわざと討ち取らせた時は驚かされました」
そう、俺は何回かわざとクイーンを討ち取らせてアンジェを動揺させ、冷静な判断をさせないようにしたのだ。
俺のクイーンサクリファイスに見事に嵌まってくれたおかげで、滅多に見れないアンジェの動揺した顔を見れた。
それをこっそりとスマホで写真撮って保管したのは内緒だ。
「それにしても、お前に勝つ事が出来て良かった」
「私は良くないのですが…まぁ、いつかは負けると思っていましたので、悔しさなんかありませんが」
「何はともあれ、俺はアンジェの無敗伝説を破る事が出来ただけで満足なのさ」
俺とアンジェの試合は激しい一進一退の攻防で、3回やって勝ちが1回、引き分けが1回、負けが1回といい感じの試合だった。
「流石にチェスも飽きてきたな。ていうか勇者達遅くないか? もうとっくに9時を過ぎてるぞ?」
時計を見ると時刻は既に9時を過ぎていた。
「確かに遅いですね。もう来てもいい筈なのですが……」
アンジェがそう言うと図書館の扉が開いて勇者4人組と姫さんが入ってきた。
「遅かったじゃないか、何やってたんだ? こっちは1時間近くも待たされてたんだが?」
「朝食が長引いてましたの」
と、なんか感情のこもってない喋り方で姫さんがそう言った。
「それでは勇者樣方、お好きな席にお座りください」と明るい声で姫さんがそう言うと、平野は何か言いたげな顔、風間は不機嫌そうな顔で睨んで、柳はあかんべーをして並んで座った。楓嬢はニッコリと笑みを浮かべながらお辞儀をして柳の隣に座った。
「それではコウイチ様、ユウガ様、ハルカ様、カエデ様、そしてコータロー、これからこの世界について詳しく説明いたしますわ」
何故か俺だけ呼び捨てにされた。まあ、勇者じゃない俺なんて平民みたいな感じに思われてるんだろう。
「よろしくお願いしますフィロル王女」
「私の事はフィロルでいいですよコウイチ様」
「わかった、今日はよろしく頼むよフィロル」
「はいっ!」
と元気に姫さんは返事する。
あ、こいつ平野にホの字だな。だって、平野の顔見てうっとりしてんだもん。
そして柳がスゲエ顔で睨んでるもんだから彼女も平野が好きなのが嫌でも分かる。
こいつ絶対、学校で女子にモテモテだったろ、そして風間も結構モテたに違いない。
昨日、何人かのメイドが見とれてたからな。イケメンとかマジ滅べばいいのに。
「(アンジェも平野達に好意を持ってるのかな?)」
そう思ってチラリと横目で側に立っていたアンジェの顔を見ると、彼女は軽蔑、嘲笑、呆れとかの負の感情が籠ったような冷たい目で平野達を見ていた。
「コータロー様、どうかなさいましたか?」
俺の視線に気付いたアンジェがそう聞いてくる。
「い、いやなんでもない」
「そうでございますか……」
慌てて視線を元に戻す。
初めて見た時から思ったがアンジェって全然スキがないんだよな、普通に立ってるのに気の緩みが一切見当たらず、いつ何が起きてもいいような感じだ。
気配の消し方といい、立ち方といい、なんか特殊な訓練か武術でもやってたんだろうか?
「それでは皆様、これより講義を始めます」
姫さんがそう言うと俺はジャケットの胸ポケットから手帳を取り出してメモを取る準備をした。
まず最初にちょっとしか説明されなかった国について教えてもらった。
ここ、アースガルド皇国は代々勇者を召喚してきた国で、魔王が復活した時にはこの国の第一王女が巫女として、勇者を召喚してきたらしい。
今回の召喚は500年ぶりで平野達は24代目になるらしい。
魔王が復活したのが4年前なのになんで今頃召喚したかというと、召喚魔法は膨大な魔力を必要とする為、まだ幼かった姫さんにはこの城の魔術師と神官の協力を得ても、負担が大きすぎると判断したからであるとのこと。
まあ異世界から勇者となる奴を召喚するくらいなんだから、当然消費コストも馬鹿にならないよな。
あとは貴族制度と奴隷制度があることだな。
で、次に大都市ヘルメリア。
そこはまあ、国というより都市と呼ぶのがふさわしい。ヘルメリアは元々は小さな都市だったが長い年月を経て発展させて行き、やがて独立宣言して領土を得て国として分類されるようになった。
あと、商業だけではなく、生産も豊かで各国と貿易をしている。アースガルドもその1つだ。
そして都市だから国王が存在せず、代わりに一番高い地位を持った貴族の5人が上層部として色々管理しているらしい。
次に軍事国家クレイフォス。
この国は皇帝とかいう奴が治めており、世界で一番領土が広く、兵力もこの国の数倍はあると言われていて、自分たち人間こそ神に選ばれた存在であり、化け物である魔物や魔族、亜人は滅ぶべき存在だと皇帝は思っていて、その為に戦力を広げようと近辺の村や街、小国を襲って支配下に置いているらしい。
そして貴族第一主義で貧富の差が激しく、王族や貴族等の身分の高い奴が贅沢三昧なのに対して平民は扱いが酷く、重税のせいで貧しい暮らしをしているという。
一番関わりたくない国だな。
次にエルフ達が住む国、エルフェンは前に王様が言ってた通り、森の奥深くにある小国だ。
そんで人間とか魔族を寄せ付けないように森全体が特殊な結界で覆われており、その中に国があるのだが、エルフだけが持つ特殊な道具を持っていなければ国に入ることが出来ないらしい。
あと、極稀に森から出ているエルフを冒険者とか密猟者が捕まえて奴隷にしているらしい。
この国に関しては情報が少ないのでこれくらいしか説明されなかった。
機会があれば一度行ってみたいものだ。無理だろうけど。
最後に魔族達が住む国、バルシオンについて説明してもらったが、魔王城があって城下町みたいな街があるとしか説明されなかった。
次にこの世界の金に関して教わった。
この世界の金の単位はエルトといい、1エルト=1円という感じになっている。
黄銅貨、銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、金板、白金貨、白金板を硬貨として扱っており、各硬貨の価値はそれぞれ
黄銅貨は1エルト。
銅貨は10エルト。
銅板は50エルト。
銀貨は100エルト。
銀板は1000エルト。
金貨は1万エルト。
金板は10万エルト。
白金貨は100万エルト。
白金板は1000万エルト分の価値があるそうだ。
そして黄銅貨だけ真ん中に穴が空いており、5円玉みたいな感じだ。
あと、○○何枚で○○1枚分となる法則が使われている。
「なあ、今って魔物の影響で物価が高かったりするのか?」
俺は講義の妨げにならないように小声でアンジェに聞いてみた。
「はい。農村が襲われたり、行商人が魔物や盗賊に襲われるのが多いため、行商人が減少傾向にあることが主な原因です」
「なるほど…」
俺はそう言うと再び講義に集中した。
その後は距離や重さとかの単位について教わった。
この世界での距離や高さ等の長さの単位はメートルで重さはグラム、トンと呼び、他にもセンチやキログラムとか元の世界で使われてる単位の名前がそのまま使われている。
単なる偶然か、翻訳魔法で俺達に分かりやすいように翻訳されてるのかは不明だがおそらく後者だろ。
でもそれだと通貨も翻訳されても良いと思うが、まぁ、どうでもいいや。
夕方には教わる事は全て教わり、明日からはこの世界の文字書き、魔法、剣術やその他の武器の扱い方を教わる予定だ。
「あ〜疲れた〜」
部屋に戻った俺はベッドにダイブした。ずっとメモってたので手帳にはびっしりと文字が書かれていた。
スマホでメモしても良かったんだが過去に一度、原因が分からないがスマホに入ってるデータ全部が消えてしまったという事が起こり、それ以来はずっと手帳とかに大事な事を記入している。
「お疲れさまですコータロー様。明日はこの世界での文字書きについて、引き続き王女様から教わります」
「文字かー、覚えるのが大変そうだ」
「この世界の文字を覚えるのはそれ程難しくはありません。コータロー様ならば直ぐに覚えられるでしょう。私も協力しますので頑張りましょう」
「そうか。頼りにしてるぞアンジェ」
「お任せ下さい」
無表情のままだがどこか嬉しそうな感じでアンジェは返事をした。
その後は飯食って風呂入ってアンジェと軽く談笑した後、寝た。
ちなみにこの世界での風呂は貴族や王族しか入れず、平民やその他は水浴びだけらしい。
驚いたのは風呂入ってる時にアンジェがまるで襲って下さいと言わんばかりに全裸で入ってきて、「コータロー様。お背中をお流しします」と言った時は非常に焦ったが、なんとか俺の理性と自立型ガンランスは耐えた。
ナニが? そこは察してくれ。
ヘタレとか言った奴はなんとでも言え。
巻き込まれ異世界系の小説での王女様って大抵、モテ男な親友とかに惚れますよね。




