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魔王退治なんて真っ平御免

主人公、大人のくせに情けないかもしれません。

「どうぞー」


俺がそう言うと入ってきたのはあの仲良し勇者4人組だった。


「失礼します。えっと、朝比奈さんでいいんですよね?」


金髪のイケメン、平野がそう聞いてくる。


「ああ、そうだ。それで? 俺になんか用か?」


「はい、色々あって朝比奈さんとは話が出来なかったんで、この機会にでもしようかと思って」


「そうか、俺は構わん。とりあえず適当なところに座ってくれ」


俺がそう言うと平野と風間はベッドへ、柳と天城は1人用ソファーに座った。俺はテーブルの近くにある椅子に座った。





「じゃあまず自己紹介から。俺は平野 光一、年は16。聖ポルナレフ学園の高校1年です」


おい待て、なんだその某奇妙な冒険臭のする学園は? そんな学園が近所にあったのか。


「今度は俺っすね。俺は風間 勇牙、年は16で光一とはガキの頃からの親友でクラスメイトっす」


そうか、ていうかガキの頃って言っても今でもガキじゃないか。体は大きいがまだ子供なんだぞ。


「次は私ね。柳 春香。光一とは幼なじみでクラスメイトよ」


ずいぶんと短い自己紹介だこと。


「私は天城 楓と申します。光一さん達と同じく聖ポルナレフ学園の一年生です。以後お見知りおきを」


英才教育でも受けてるのか、丁寧な口調で天城は名乗った。


天城……やっぱどっかで聞いたな。どこだっけ? あー思い出せん、喉まで出かかってるのが気持ち悪い!


こうなったら本人に聞いてみるのが一番だな。


「なあお嬢さん。さっき天城と名乗ったけど、ご両親が政治家とか会社の社長だったりするか?」


「はい、父が天城グループの代表取締役を勤めていますが…父の知り合いの方でしょうか?」


天城グループ? あ、思い出した! 天城グループって各業界でトップに入る国内シェアNo.1の企業じゃないか!


ということはこのお嬢さんはそのご令嬢なのか。


「いや、俺はお父上とは知り合いじゃないんだ。ただ、天城って苗字がどこかで聞いた気がして思い出せなかったから聞いてみたんだが、まさかあの天城グループとは…そうかそうか、スッキリした、どうもありがとう」


「いえいえ」


「さて、俺の自己紹介がまだだったな。俺は朝比奈 幸太郎、年は25歳で趣味はネトゲとラノベで、この世界に来る前はしがない普通のフリーターだった。以上」


ちなみにバイト先の殆んどは天城グループと繋がってる。


その為か給料は結構良かったんだよね。


「自己紹介も終えたし、改めてよろしく朝比奈さん。共に魔王を倒して、この世界を平和にしましょう!」


「……は?」


え、なに? なんか俺も一緒に魔王倒すみたいな事になってるんですけど?


「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんで俺まで一緒に魔王を倒す事になってるんだよ。悪いが俺はお前達とは別行動だ」


「え?」


「なに驚いてるんだ? そもそも、勇者として召喚されたのはお前達であって、俺はただ巻き込まれただけ。だからこの世界で何しようが俺の勝手じゃないか。なのに何故俺まで付き合わなきゃならないんだ? 俺は勇者じゃないんだ、悪いが魔王退治は4人でやってくれ」


「なっ……」


俺が予想外の事を言ったからか、平野は寝耳に水といった様子だ。


おそらく困っている人がいるのに何もしないのはおかしいとか思ってるんだろう。


大抵こういう奴って相手の気持ちを知りもしないで自分の主張を押し付けてくるのが多い。俺が高校生の頃もこんな感じの奴がいたな。


「おいアンタ! この世界の人達が困ってるんだぞ! 助けてあげようって思わないのか!?」


と、風間が怒鳴る。


「思わないな。俺には戦う理由も無いし、興味もない。だからこの世界の人がどうなろうと俺の知ったこっちゃないね」


「ちょっとアンタ! なんてこと言うのよ! 第一巻き込まれたのはアンタがあの場にいたからじゃない!! それにアンタ大人なんだから自ら率先して魔王倒そうとは思わないの!?」


平野に続いて柳も怒鳴る。


「そう吠えるなよ小娘、誰だっていきなり黒い穴が出現して吸い込まれる予想なんか出来るか? 第一、俺はお前達とは何の繋がりもない赤の他人、魔王退治に赤の他人を巻き込まないでくれ」


「っ!? けど! 困ってる人がいたら助けるのは人として当然じゃないか!」


「お前達にとってはそうだろう、だが俺はそうは思わない。それに、お前達はこの世界を救うと言ってたが本気で全ての人を助けられると思ってるのか? 最悪、人と人の戦争になる事だってあるんだぞ? 分かってるのか?」


「確かに全ての人々を救えるかは分かりません、それでも俺達はこの世界を救ってみせる!! それが勇者である俺達の使命だからだ!!」


平野は真剣な顔で言った。その目には年齢に似合わない決意の光が灯っている、そんな風に見えた。


「……話にならん。人を納得させたいならもっと筋の通ったことを言え」


「そんな…」


俺の言葉に平野はガックリと項垂れた。






「テメエッ!!」


俺の言葉に堪忍袋の緒が切れたのか風間が俺の胸ぐらを掴んで怒鳴った。


「さっきから黙って聞いてれば、好き勝手言いやがって! アンタ俺達より強いんだろ!? だったら少しくらい力を貸せよっ!!」


「黙れ、一々吠えるなよ小僧。お前といい、平野といい、自分の偽善を他人に押し付けるな。押し付けられる方はいい迷惑だ」


「なっ! 偽善だと!?」


「ああ偽善だ偽善、他人が不幸だから見過ごせない? 下らん、実に下らん、漫画の主人公にでもなったつもりか? 甘過ぎて反吐が出るぜ」


『……』


平野達はわなわなと肩を震わせながら黙り込んでしまった。


「それに考えてみろ。ここは異世界、ゲームとは違って現実で常に命の危険があるし、死んだらそれっきり、コンティニューなんてないんだぜ? 魔王倒す前に死ぬかもしれないんだ。悪いが俺はそんな事で死にたくはない、死ぬのだけは真っ平御免だ。だから魔王退治に行く気はない」


「…だからって、人を救えるだけの力を持っているのに、自分のためにだけしか使わないなんて間違ってると思います!」


こいつ、どんだけ正義感が強いんだよ全く…これが所謂主人公体質という奴か?


「間違ってる? そんな事誰が決めた? 自分の為に力を使って何が悪い? 全ての人間が正義のヒーローみたいに他人の為に力を使うとでも思ってるのか? 残念だが俺は他人の為に力を使うつもりはない」


「なんてこと言うのよこの人でなし!」


「人でなしで結構、だって死にたくねえもん」


「ふざけるなよこの腰抜け!」


そう風間が怒鳴る。


「だから吠えるなって、逆に聞くがなんでこの世界の人達を救おうとする?」


「なんでって、それは俺達が勇者だからだ!」


「勇者だからなんだ? 勝手に呼び出して人生台無しにした人達の為になんでそこまで頑張ろうとする? 俺には分からないなー、何故見ず知らずの他人の為に己の命を掛けなきゃなんない? 誰か教えてくれよ勇者以外の理由でさぁ?」


『……』


俺の言葉に4人は黙り込んだ。


「だんまりか、それならそれでもいいや、俺も知る気はないしな…ところでいつまで掴んでるつもりだ? 好い加減に離せ」


俺がそう言うと風間は憎たらしい表情のまま渋々と手を離して後ろに下がった。


「もう話す事はない、とっとと出て行ってくれ」


「待って下さい朝比奈さん! お願いです、俺達に力を貸して下さい!」


平野はそう言って土下座をする。


「…悪いが俺はお前達と協力することは出来ない。許せ」


申し訳なさそうに言って頭を下げる。自分勝手過ぎると思うが、死ぬのだけは嫌なんだ。


「そんな…」


「テメエ…人がこうして土下座までしてんのにまだ協力しねえのかよ!」


「そうよ! なんでそんなに非協力的なのよ!」


「だから言ってるだろ、俺は死にたくないんだよ! 勇者であるお前達と違って、ただ魔力が多くて4つの属性が使える以外は普通の人間なんだ! ただでさえ、異世界召喚というのに巻き込まれてるのにこれ以上、俺を巻き込むな! それにお前等は世界を救うって決めたんだろ!? だったら他人に頼らずお前等だけで救ってみせろ!!」


俺がそう言うと柳と風間は黙る。


俺は自分の為に力を使い、この世界を生きて行く。そう決めたんだ。


そんな俺の気持ちを悟ったのか、今まで黙っていた天城が俺の前に立った。


「もう止めましょう皆さん。朝比奈さんの言っている事は理になってます。彼の気持ちも考えてあげてください」


さすが天城家のご令嬢。話の分かるお嬢さんのようだ。


「でもよ楓、こいつが俺達に協力すれば戦力は上がるんだぜ? 戦力は1人でも多い方がいいだろ」


「確かにそうかもしれません。ですが彼は関節的とはいえ、私たちの所為で巻き込まれてしまった言わば被害者。それなのにとやかく言う権利が私たちにはありません。だからこれ以上、彼を巻き込む訳にはいかないと私は思います」


天城の言ってることが正論だからか3人は何も言わずに部屋を出て行った。


「ご迷惑をおかけしました朝比奈さん」


「気にしなくていい。ところで楓お嬢様は俺の考えに反対しないのか?」


「ええ、朝比奈さんの気持ちはよく分かります。正直言うと、私も本当は死ぬのが怖いです。けど、この世界が私を勇者として選んだ以上、やるしかないのです。あと、私のことは呼び捨てでいいですよ朝比奈さん」


……そうか、やっぱ彼女も怖いんだな。だって死ぬかもしれないんだ。だけど勇者として選ばれた以上、やらざるを得ない。


「流石は天城家のご令嬢だ。俺には到底出来っこないな」


「そんなことはありませんよ。天城家に生まれてなかったら私など、ただの女子高生となんら変わりはありません」


「それでもさ、楓は立派だよ。本来なら俺も協力するべきなんだろうけど、命が惜しいんだ。済まない…」


「謝らないで下さい朝比奈さん。貴方は間違ってなんかいません。寧ろ、謝るべきなのは私達の方です。私達の近くに居た所為で貴方をこんな事に巻き込んでしまったのですから…ごめんなさい…」


そう言って、楓嬢は頭を下げた。


「顔を上げてくれ楓、お前達の所為じゃないさ。まさか自分が異世界に召喚されるなんて思う訳がないんだ。偶々、召喚されたのが楓達だけであって、偶々近くに俺が居て巻き込まれた。それだけの事さ」


「でも…」


「いいから、俺はもう気にしちゃいない。だからそんな顔しなさんな、折角の美人が台無しだぞー」


楓嬢の頭を撫でながらそう言うと、彼女は申し訳なさそうな顔を辞め、微笑んだ。


「さて、戻ってくるのが遅いとあいつらがまた来るかもしれないから部屋に戻りな」


「はい。では朝比奈さん、また明日」


「ああ、俺の事は呼び捨てでいい」


「じゃあ幸太郎さん。お休みなさい」


「さんはいらないのに…まあいいか、お休み」


俺がそう言うと彼女はドアの前で立ち止まると振り返った。


「そうそう、1ついいこと教えて差し上げます」


「ん? なんだ?」


「私は貴方のような男の人が好きですよ」


「……それは人としてか? それとも異性としてかね?」


「ふふふ…それは秘密です」


と、イタズラっぽく片目を瞑り、唇に人差し指を当てて妖しく笑いながら出て行った。


その笑みと仕草に思わず見とれてしまった。中々面白いお嬢さんだ。





楓嬢が去った後、俺はドアの方を見ながら


「いつまでもそこに立ってないで入ったらどうだアンジェ?」


と、言った。するとドアがそっと開いてアンジェが入ってきた。


「さっきの会話、最初から最後まで盗み聞きしてただろ?」


俺の問いにアンジェはコクリと首を縦に振った。


俺があいつらと会話している間、アンジェがずっとドアの前に立っていた。上手く気配を消していたようだが俺には気配がタダ漏れだ。あの4人は気付いてなかったようだが。


色んなバイトをやってると、視線や気配には敏感になってしまうのだ。


「そうか。お前は俺の話聞いてどう思った? 幻滅しただろ?」


「滅相もございません」


アンジェは首を振りながら言った。


「コータロー様がどんなお考えをなされていようと私はあなた様にご奉仕するのみ。それがメイドとしての役目でございます。それに、死にたく無いと思うのは人として当然の事、恥じる事ではないと私は思っています」


と、アンジェは微笑みながら言った。


「そうか。この城の他の人間はどう思うかな?」


「おそらく、あまり良い目では見られないでしょう。ところでコータロー様、1つお聞きしていいでしょうか?」


「ん? なんだ?」


「何故、勇者様方と協力したくないのですか?」


「だから言ったろ、死にたく無いからさ」


「それは先程の会話でよく分かりました。ですがそれ以外にも理由があるのではないのですか?」


「……。成る程、そう思ったのか」


そう言って俺はベッドの方へ行くと靴を脱ぎ、ダイブして横になった。おぉ〜超フカフカだ。


「それが知りたいならこっち来て横になれよ。あ、一応言っとくが別に変な事をする訳じゃないから誤解しないでくれ」


「そうでございますか。では失礼します」


アンジェはベッドの方まで来るとブーツを脱いで、ゆっくりと横になり、俺と向き合う形になった。


なに? 夜のご奉仕でもさせるとでも思った? 残念でした、夜のご奉仕は当分先だ。機会があれば出来る時がくるんじゃないか? 分からんけど。


ちなみに俺は既に経験済みである…うん、だからなんだって感じだよな、スマン。





「さてアンジェ、お前の綺麗さに免じていい事を教えてやろう」


「ありがとうございます」


「いいか、こういう状況に立たされたとき、その選択権を持った人間には二つの道がある」


ピシッと2本、右手の人差し指と中指を立てた後、中指を畳み、一つだけ立たす。


「一つ目は《常識的に考えて、自ら地雷を踏みに行かず、命を大切にし、安全を確保する》」


「………」


「これはさっきあいつらにも言った事だが、まず普通で、絶対的な考えだ。当たり前だろ? 自ら死地に行こうなんて奴は自殺願望者でもない限り、いないさ。勇敢に戦場に飛び込んで行って、無事に悪を倒し、正義がなされる。そんなのは映画や物語の中だけの話。フィクションさ」


「成る程、映画がどういう物かは分かりませんが二つ目は?」


「二つ目はこれの真逆で《常識を投げ捨て、自ら地雷原に突っ込み、命を軽視し、正義感を得る》だ。おそらく漫画、こちらの世界でいう英雄譚の主人公や平野達のような勇者が代表的な例だろうな。他人が不幸だから、可哀想だから、ほっとけない、見過ごせない。実に下らないし妄想に甘すぎて反吐が出る。困ってる人を助けるのは人として当然? そう言う奴は人助けをした事によって、自分の正義感を満足させて優越感や偉大さを求めたり、感じたりしてる唯の自己満足な奴なのさ」


中指を立て、二本になった右手をふらふらと、呆れた風に力なく揺らす。


この世に絶対の正義なんかいない。


勇者なんか、正義のヒーローは存在することはない。いや、存在が許されないのだ。




俺が、この身で、この心で経験したのだ。




英雄(ヒーロー)なんて、いてはいけないのだと。





「だから俺は1つ目を選んだ。あいつらに付いて行けば死ぬ確率が高くなる。でも俺1人だったらその確率は少しは減るかもしれない。これで分かったろ?」


「ええ。ありがとうございました」


そう言って、アンジェはベッドから立ち上がろうとする。


「なあ、このまま一緒に寝てくれよ」


「私もそうしたいのは山々ですが明日の支度がありますので。申し訳ございません」


「あらら、それは残念だ。じゃあ次の機会が来るまでの楽しみとしようか」


俺がそう言うとアンジェはクスリと笑った。


「ではコータロー様、お休みなさいませ」


「ああ、お休み」


アンジェがお辞儀をして出て行った後、疲れていたのか俺は直ぐに眠りについた。

勇者の中で一番まともな楓嬢がヒロイン候補になりました。

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