別れは突然に 1
読者の皆様、明けましておめでとうございます。
年内には投稿したかったのですが、出来ませんでした。
今年こそは完結まで持っていきたいと思ってますので、よろしくお願いいたします。
アースガルドに戻ってきた俺たちはジョセフさんの宿の前にいた。
中に入ると宿泊客であろう冒険者達が何人かテーブルで夕飯を食べていた。
「ん? おうコータローじゃねえか。暫くぶりだな。マクベルから戻ってきたのか?」
「やあジョセフさん、今さっき戻ったばかりだ。で、宿を取りたいんだけど空いてるか?」
「あー悪いな、ついさっきお前らの前に来た冒険者達で満杯になっちまったんだ。他を当たってくれないか?」
少し申し訳なさそうな顔でジョセフさんはそう言った。
「遅かったか…分かった。女将さんに宜しく言っておいてくれ」
そう言って宿を出て行く。
「さて…他の宿を探すか」
「日も暮れてますし、なるべく早く見つけなくては」
「そうだな」
既に日は沈み始め、夕日が空を赤く染めていた。
俺達は町中を歩き回ったのだが、何処の宿も満杯だったり、宿主の体長不良とかで休みだったりで結局宿は取れず、すっかり空は暗くなり途方に暮れていた。
「最悪だな。宿が取れないなんて運が悪いなぁ…」
「困りましたね」
「じゃあ今日は野宿するんですかー?」
「どうするんだマスター?」
「どうしたもんかな…」
どうするか考えてると、ぐぅ〜っと腹の虫が鳴りだしてしまった。
「……取り敢えず、飯でも食べに行こうか」
そう言うと皆は頷き、飲食店を探すために歩き出した時だった。
「はぁ! はぁ! ど、どいてくださいッ!!」
と声がして振り返ると、そこには両手に食糧の入ったカゴをぶら下げ、小さな袋を大事そうに抱かえてる癖っ毛の髪を一つに結った若い男性が必死の表情で何かから逃げるようにこちらに走って来ていた。
その男性の顔に俺は見覚えがあった。
「ローレンス?」
「コ、コータローさん!? よ、良かった! お願いです! 助けて下さい!!」
「落ち着け。一体どうしたんだ? 何かに追われてるのか?」
「実は…「いたぞ! こっちだ!!」 ひぃ!? 来た!?」
そう言って彼は咄嗟に俺たちの後ろへと隠れると、いかにもゴロツキですと言わんばかりの格好の男達が5人集まってきた。
「何だお前らは?」
「邪魔すんなよお前、俺たちはそいつに用があるんだ。死にたくなかったらどいてな!」
「アンタ一体何したんだ? どう見てもただ事じゃないぞ」
「僕は何もしてませんよ! ただこの人達に金と食料を渡せって脅されて逃げただけですよ!」
なるほど路上強盗みたいなもんか。
「おい! 何をコソコソ喋っていやがる!」
「まあ落ち着けよ、取り敢えず話し合って解決しよう。お互い痛いのは嫌だろ?」
「あぁ? 何言ってんだこいつ? いや待て、よく見るとそこの女どもは皆上玉じゃねえか! 予定変更だ。おいニイちゃん、そこの女どもを俺たちに渡してくれるならそいつは見逃してやってもいいぜ? へっへっへ…」
「止めとけよ、後悔するぞ」
「後悔すんのはお前の方だ!」
そう言って男達は襲いかかって来た。
「助かりました。本当にありがとうございます!」
と、深く頭を下げながらローレンスは感謝を述べた。
「どういたしまして。ナインもよくやった」
そう言ってナインの頭を撫でる。
あの後俺とナインでゴロツキ達を撃退し、騒ぎを聞いて駆けつけてきた兵士達に後を託した。
恨めしそうにこっちを見ながら連れて行かれるゴロツキ達は自業自得としか思えなかった。
「本当にありがとうございます。もうダメかと思ってました...」
「運よく逃げた先に俺たちがいて良かったな」
「お兄さん、誰ですこの人?」
「ん? ああ、彼はローレンス・フォード。ちょっと前に庭の草むしりをして欲しいとギルドに依頼してた人だ」
「ふ〜ん…」
ウィルはさほど興味なさそうな返事をした。
「この恩は忘れません。是非お礼をさせてください」
そう言ってローレンスは小さな袋からお金を取り出して差し出してきた。
「礼なんていいよ、そんなつもりで助けたわけじゃないんだ」
「ですがそれでは僕の気持ちが収まりません…」
「んーじゃあ今晩泊めてくれないか? 実は宿が取れなかったんだよ」
「それなら是非僕の家へ来てください」
「あの〜私達まだ夕飯を食べてないんですけど、ついでに何か食べさせてくれません?」
と、ウィルが言った。
「勿論喜んで提供しますよ。では行きましょう」
「良いのか? 無理しなくて良いんだぞ?」
「大丈夫ですよ。空き部屋がいくつかあるんで」
「そうか。ならお言葉に甘えさせて貰うよ。皆もいいよな?」
そう言うとアンジェ達は頷いた。
ローレンスの案内で彼の家まで来た俺たち。
前に来た時より庭の手入れはされていて、初めて見る形の花が何種類も花壇に植えられていた。
前来た時も立派な家だと思ってたが、よく見ると彼の家は1人で住むには少し大きいのではないかと思うくらいの大きさの家だ。
「この家には一人で住んでるのか?」
「はい、この家は元々僕の叔父が使っていたんですが僕に譲ってくれたんですよ。だから家具や部屋とかはそのままにしてます」
「へーその叔父さんは今は?」
「3ヶ月前に病で亡くなりましてね。ある日、遺言状と相続金と家の権利書が僕の手元に届いてこっちへ越してきたんです。元々地元を離れるつもりだったのでちょうど良かったです」
「そうだったのか。なんか悪いな」
「大丈夫ですよ。1泊くらいどうってことないです。さ、どうぞ中に入ってください」
「じゃあ…お邪魔します」
家の中に入って玄関を通った先にある部屋には暖炉があり、中央にテーブルがあってそれ以外にも人が生活するには十分な家具が置かれていた。
「どうぞ空いてる席に座って寛いでてください。すぐ食事の用意をしますので。無論、そちらの奴隷の人も」
そう言ってローレンスは台所へと向かった。
彼が調理をしてる間、俺たちは今後の事を話すことにした。
「とりあえず明日からは暫くギルドで依頼を受けて、時々遠い街や国に護衛依頼で向かうって感じでいいか」
魔王軍のことがちょっと気になるが、そこは勇者たちに任せておいて、俺たちは俺たちで動こう。
ウィルに頼めば状況を調べてもらう事は出来るだろう。
「まーいいんじゃないですか? 私も色んなところに行って見たいですしねー」
ウィルがそう言うと皆頷いた。
それからちょっと時間が経つと、ローレンスがトレーを持ってやってきた。
「お待たせしました。簡単なものですが、どうぞ召し上がってください」
そう言って彼はテーブルの上にスープとパン、サラダを人数分置いていく。
「おー、美味しそうだな。いただきます」
そう言って、スプーンを手に持ち、スープを飲んでみる。
シチューのような味で美味しい。パンにつければ最高だろう。
「う〜んとても美味しいですねー。もっと食べたくなってしまいますよー」
「そう言ってくれると作った甲斐があります。お代わりもありますんで遠慮なさらずに食べてください」
「はいはーい、じゃあお願いしますねー」
と、ウィルはあっという間にスープを完食して皿をローレンスに差し出す。
「は、早いですね…すぐ持ってきますね」
少し驚きながらローレンスは台所へと向かった。
それから彼も食事に加わり、談笑しながら時間を費やした。
「コータローさんはどこかの貴族なんですか? そちらのアンジェさんはどう見てもメイドのようですけど...」
「あーアンジェとはちょっと前に色々あって一緒にいるだけであって俺自身は貴族じゃないんだ。主従関係は結んでるけどな」
「ふむ、どうやら何か訳ありのようですね。これ以上は聞かないでおきます」
「そうしてくれると助かる。あ、そういや俺たちはどこで寝ればいいんだ?」
「おっとそうでした。部屋に案内しますね」
そう言ってローレンスが立ち上がり、俺たちは彼の後に続いた。
「女性の方はこちらの部屋を使ってください。男性はその隣の部屋をどうぞ。ベッドとかは一通り揃えてあります。何か足りないものがあったら言ってください」
「ありがとう。恩にきるよ」
「ふふ、では僕は一足お先に寝ますね。お休みなさい」
そう言って微笑みながらローレンスは自室へと向かった。
俺たちも与えられた部屋に入るとタンスやテーブルに化粧台などの家具が置かれていた。
「中々良い部屋ですね」
「ああ。叔父さんが何をしてたかは知らないけど、見る限り普段は来客用の部屋に使われてたんだろ」
部屋の端っこには引き出し付きのエンドテーブルが左右のベッドに挟まれるような感じで置かれていた。
テーブルに荷物を置き、寝間着に着替えると、すっかり慣れてしまった手つきで防具の点検をする。
「じゃあコータローさん。ボクはもう寝ますね。お休みなさい」
「あぁお休み…よし終わりっと」
作業を終えてベッドに横になる。
そう言えば体を洗ってなかったな。まぁ1日くらいなら我慢出来るからいいか。
などと思ってるウチに睡魔が襲ってきて俺は目を閉じた。
翌朝
「本当に助かった。ありがとう」
「いいんですよ。困ったときはお互い様ですから」
俺たちは荷物をまとめてローレンスの家の前に立っていた。
「そうだ、これで足りるかどうかわからんけど、取っといてくれ」
俺はポケットから幾らばかのお金をローレンスに差し出した。
「いやお金なんていりませんよ!?」
「宿代じゃない。飯代だ。ウチの仲間がちょっとばかし食べ過ぎたみたいだからな。誰とは言わないけど」
と、ジト目でウィルを見るが彼女は何食わぬ顔といった感じで髪をいじっている。
「はぁ…でも……分かりました。有り難くもらいますね」
と諦めた感じでローレンスはお金を受け取った。
「じゃあ俺たちはこれで」
「あの…もしまた宿が取れなくて困ったらいつでも来ていいですからね」
若干寂しさを感じさせながら彼はそう言った。
やはりこれくらいの家に1人で住むのは寂しいのだろうか。
「宿が取れなかったらな。…じゃあな、頑張れよ」
そう言ってローレンスに見送られながら家を跡にした。
「これからどうします?」
「まずは荷物を置きに宿を取ろう。また満杯であちこち探し回るのはうんざりだからな」
「そうでございますね。ではジョセフさんの宿へ向かいますか?」
「.....いや、今回は違う宿に行ってみよう。多分だけど行ったところでまだ満杯な気がする」
「あのー、先ずは一度行ってみません? ダメだったら探す時間はまだありますし、最悪またローレンスさんの家にお邪魔しましょうよー」
「…じゃあとりあえず一度行ってみよう」
そう言って俺たちはジョセフさんの宿へ向かった。
結論から言うと案の定満杯のままだったので、別の宿を探しに街中を歩き回った。
そして見つけたのが国の南側にある『宿屋 ランドルフの憩い場』という名の二階建ての宿だった。
「なんか見るからにボロいな」
「ここにするんですか?」
「もう探し回るのは面倒だしな。取り敢えず入るか」
そう言って中に入る。
「らっしゃい。何用かな?」
中に入るとカウンターにいたちょっと肥えた体型で白い髭を蓄えた老人が話しかけてきた。
「3泊ほど泊まりたいんだけど、空いてます?」
「泊まりか。3食飯付きでいいなら一泊1200エルトだ」
「随分安いな」
「まぁこんなボロ宿だからな。昔はかなり繁盛してたんだがね、今じゃもう他の所に客を取られちまって、暇で暇でしょうがない。しかし飯の味は保証するぞい」
と、ため息交じりに宿主のお爺さんは言った。
「そうなのか。んじゃ男2の女3で二部屋借りたい」
「あいよ、んじゃ案内するよ」
料金を払って、のっしのっしと歩く爺さんの後を追う。
部屋の前で止まり、扉を開けると最低限の家具が置かれた殺風景な部屋だった。
「この部屋を使っとくれ、女性はその隣だ。飯が出来たら声掛けるからな。ほら、鍵だ」
「どうも。ところでランドルフってのは爺さんの名前なのか?」
「ああそうだ。この宿を建てる時に名前を決めるのを忘れててな、仕方ないからワシの名前を付けたんじゃよ。ワシも昔はお前さんみたいな冒険者だったんだが、膝に酷い怪我をしてな。引退して稼いで来た金で夢だったこの宿を建てたのじゃよ」
そう言って、どこか悲しげで思い出に浸るようにそう言った。
「おっと、すまんな。何か必要な物があれば用意するから遠慮なく言っとれ。んじゃごゆっくり」
そう言って爺さんは降りてった。
「お兄さん、荷物置いたらどうします?」
「俺は用があって、冒険者ギルドに行ってくる。その後は色々寄るところがあるかな」
「じゃあ今日は依頼受けないってことですね?」
「そうなるかな」
「じゃあ私も付いて行きますねー」
「分かった。アレンやアンジェはどうする?」
「僕も付いて行っていいですか?」
「私は寄りたい所ががあるのですが宜しいでしょうか?」
「分かった。そしたら夕方にはここに戻ってこよう」
「気を付けて行ってらっしゃいませ」
「アンジェもな。んじゃ行こうか」
そう言って荷物だけ置いて、爺さんに鍵を預けてアンジェと別れた。
そしてギルドに着き、中に入ると冒険者達が受注してたり、素材の買い取りをしてたり、テーブルで酒を手に笑い話をしてたりと賑やかだった。
何人かがこっちを見たが、興味を無くしたのか直ぐに視線を戻した。
「お兄さん、私たちはちょっとあそこでお茶でも飲んでますねー」
ウィルが指差しながら言ったのはあの喫茶店みたいな感じのテーブルが並んでるところだ。
あそこは一体なんなのだろうか? マクベルの冒険者ギルドにはなかったが。
「あそこは女性の冒険者さんやまだ若い子達がよく使ってるんですよー。お酒が嫌いな人や飲めない人達のためにあるような場所ですかねぇ」
俺の疑問を察したのか、ウィルがそう答えてくれた。
言われてみれば確かに、魔術師らしき格好をした男性や女性の冒険者が何人か優雅に紅茶を飲んだり、クッキーらしきものを美味しそうに食べているのが見える。
そして丁度、ギルドの男性職員がトレイを手に女性が座っているテーブルに紅茶らしき飲み物を置いた。
なるほど、野蛮で酒好きな冒険者と場所を分けてるのか。
「じゃあ用が済んだら声かけてくださいねー」
「分かった」
そう言ってウィル達と別れると受付カウンターのところへ行った。
「すいません」
「はーい。あ、コータローさんじゃないですか、暫く振りですね。いつ戻って来たんです?」
受付に対応してくれたのはアンナだった。まぁギルドに入った時、大きなあくびをして眠そうにしてたのが目に入ったので来たわけだが。
「よう久しぶり。アースガルドには昨日戻って来たんだ。ところで大分疲れた顔してるじゃないか。さっきも大きなあくびしてたし、ちゃんと眠れてるのか?」
彼女の顔を観察すると、瞳の光が無く死んだ魚の眼にみたいになっており、うっすらと隈が出ている。
まるでブラック企業に勤めて、夜遅くまで残業で疲れ果てたOLみたいだ。
「よくぞ聞いてくれました! もう聞いてくださいよ、他の受付嬢の人達が結婚して退職したり、長期休暇や家の関係で故郷に帰ったり、新人さんも男性冒険者達のセクハラに耐えられず相次いで辞めたりと色々重なったりして、私今日で29連勤なんですよ!? このままじゃ死んじゃいます!」
溜まっていたものを吐き出すかのようにアンナは言った。
「マジか…そりゃキツいな。まだ続くのか?」
「いいえ、今日と明日頑張れば漸く休めますよ」
と、ため息交じりにアンナは言った。
「それは良かった」
「ところであちらのウィルさん達といる女性は誰ですか?」
「あーアイツはマクベルで買った、奴隷のナインだ」
ナインが奴隷と分かった瞬間、アンナの顔が少し険しくなった。
「奴隷なんですか。まぁコータローさんも男の人ですしねぇ。仕方ないですよねぇ?」
「念の為に言っておくけど、アイツは戦闘用として買っただけであって、別に変な目的で買った訳じゃないからな? そこは神に誓って言おう」
これは本当だ。もしそのつもりで買っているならとっくにやっている。
「ふ〜ん…まぁそこまで言うならそう言うことにしておきましょう。それで? 依頼の受注ですか?」
「いや、今日はちょっと君に渡したい物があって来たんだ」
「え? 渡したい物って?」
アンナがそう言うと俺はカバンから縦長の小さな箱を取り出し、彼女に差し出した。
「これはネックレスですか?」
箱を受け取り、開封したアンナの手には革の丸紐の先に空色に鈍く光る石が結び付けられたネックレスだった。
「マクベルに行った時、なんとなく土産に良いかなと思って市場で買ったんだ。大した物じゃないから気に入らなかったら売るなり、捨てるなり好きにしてくれ」
「とんでもないですよ! 綺麗ですし、気に入ったので大事にしますね!」
そう言ってアンナはネックレスを身に付けた。
「どうです? 似合います?」
「ああ。似合うよ」
「ふふ、ありがとうございます。これで今日明日って頑張れます!」
と元気に言う彼女の目には光が戻っていた。
「まぁ、あまり無理しないようにね。じゃあまたな」
「はい! ありがとうございました!」
アンナの元を離れ、ウィル達がいるテーブルへ向かった。
ウィル達がいるテーブルの近くに行くと、ウィル達はクッキーらしきお菓子を頬張り、紅茶を飲んでいた。
「あ、お兄さん漸く戻ってきましたね」
「待たせて悪いな。俺も食べていいか?」
「あ、どうぞ。アンナさんに何渡してたんです?」
「ん、ちょっとしたお土産だよ」
「そうですか。喜んでくれたみたいで良かったですね」
「ああそうだな。美味いなコレ」
手に取ったお菓子を食べてみると、しっとりとした食感に甘過ぎないくらいの甘味とほのかにバターのような味だ。
今思うとアクセサリーよりこういったお菓子の方が良かったかもしれない。
次に機会があったらお菓子系にしよう。
「お兄さん。私にはないんですかー?」
「いやいやいや、一緒に市場に行ったのに何故お前の分まで買わなきゃいけないんだよ…」
「ふふ、冗談ですよー。それよりも他にも行くところがあるんですかー?」
「ああ、この後はアイザックさんの店に行くつもりだ」
「あ、サラさんにもお土産渡して好感度上げるんですねー。分かります」
「お前は何を言っているんだよ…渡すのは否定しないがそんなつもりで渡す訳じゃないっての」
日本に居た頃もよく知人にはお土産を渡してはいたので、その癖みたいなものだ。
「んじゃ、そろそろ行こうか」
そう言って立ち上がろうとした際に、
「失礼、貴方がこのパーティーのリーダーですか?」
と、声を掛けられたので振り返ると、そこには二人の男女がいた。
男性は濃紺色の魔術師風の服装にポーチやら薬瓶が詰められたベルトを肩や腰回りに付けている他、二つの肩掛けカバンを交差するように掛けていた。
女性は手持ち盾と腰に提げている剣から見て、剣士と思われる彼女は腕と脚と胸元辺りに防具をつけていて、赤と白と金の刺繍がされた太ももまでのスカートの服装をしており、露出している部分はピッチリとした黒いインナーで覆っている。
「ああ、そうだけど…えっと、お二人はどちら様で?」
「申し遅れました。私の名はエズリルと言います」
知性的な顔付きで、やや明るい感じの青い髪を後ろで軽く結った男はそう名乗り、
「妹のシルファです。以後お見知り置きを」
凛とした顔つきに腰まで届く朱色の髪をポニーテールにした女性はそう名乗った。
テンプレ的な女騎士と言ったところだろうか。
「あ、これはご丁寧に。コータロー・アサヒナです。それで俺達に何のご用で?」
「はい。実は弟を引き取りに来ました」
「弟?」
「はい。アレンは…私達の弟なのです」
「なん…だと…?」
2人が言った言葉に俺は驚きを隠せないでいた。




