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マクベル滞在3

お待たせしました。今回は戦闘はやや多めになっております。

翌日。俺とナインとウィルとアレンは討伐依頼でマクベルから北西にある森の中を歩いていた。


理由はナインの服ともう少しいい装備を買う為の資金を調達するためだ。あと俺の財布が少し寒くなったので温めるため。


ウィルは暇つぶし、アレンはランクアップの為の依頼を進めるがてら薬剤の素材を採集しに。


ナインの冒険者登録とパーティーの加入は既に済ませてある。


奴隷は物扱いなのに冒険者登録出来るのもどうかと思うがそう言うものなのだろう。


で、依頼の内容はオーク5体の討伐である。


今思うと討伐依頼なんて暫くぶりな気がする。その所為か、初心に返ったつもりで俺は森を歩いていた。


それにナインの戦闘力にも興味がある。一体どんな戦い方をするのだろうか。


「ウィル、オークの気配は感じないか?」


「今の所は感じませんねー。もう少し奥まで行けばいるんじゃないですか?」


「そうか。ところでナイン、防具とか着けないで大丈夫なのか?」


ナインの今の格好は服屋で貰った在庫処分品の服一式と鉄製のガントレットとククリナイフだけだ。


「大丈夫だ、問題ない。というより防具着けると動きづらいからこのままがいい」


「そうか。まあ、死なないように気をつけろよ?」


ナインはコクリと頷き、再び前を見る。


暫く進むと、周囲から獣の唸り声が聞こえて来た。


「ッ!? 何か来るぞ!」


剣を抜きながらそう言うと、10匹くらいのホーンウルフが茂みから出て来て俺達を囲んだ。


「ホーンウルフか」


「面倒くさいですねー。とっとと片付けちゃいましょうか」


「来るぞ!」


ホーンウルフの1匹がナインに目掛けて襲い掛かった。


「……」


ナインは微動だにせず、片手で狼の首根っこを掴むと13歳の少女とは思えない力でへし折った。


「マジかよ…」


息絶えた狼を投げ捨てると、気迫に押されたのか狼達は少し怖気付いたが今度は俺に襲い掛かって来た。


「今度は俺かよ!」


俺は落ち着いて襲い掛かって来た狼の動きを読んですれ違ったところを剣を一振りし、狼の首を飛ばす。


アレンとウィルの方を見ると2人は互いにカバーし合うように魔法を放ってホーンウルフを仕留めていった。


ナインの方を見ると丁度ホーンウルフの1匹がナインに襲い掛かるが彼女は正面から向かい合って右ストレートを狼の顔面にぶち込んだ。


ガントレットの拳をまともに喰らい、凹んじゃいけない形に頭部が凹んだ狼はそのまま地面に倒れると、やがて痙攣して動かなくなる。


そして直ぐさま別の狼がナインの後ろから襲い掛かろうとした。


「ナイン! 後ろだ!」


俺がそう言うとナインは直ぐに振り向いて、迫って来た狼の角を掴んでそのまま地面に叩き付け、角を折ってそれを狼の眉間に思いっきり突き刺した。


当然狼は白目を剥いて絶命した。


「凄いな…あ、やべ」


隙をついた狼が迫って来たので咄嗟に魔法を放とうとすると、何処からか火の玉と風の刃が飛んで来て狼を仕留めた。


「大丈夫ですかコータローさん?」


「よそ見してる場合じゃないですよー?」


「ああ、すまん。助かった」


「ん、気をつけてくださいねー」


そう言ってウィル達は狼達を倒す事に専念する。


懲りずに俺に襲い掛かって来た狼の顎を蹴り上げて仰け反った所を剣を横に振って首を斬った。


「今ので最後か?」


「みたいですねー」


周りを見ると狼の死体しかなかった。誰も怪我してないようなので無事に殲滅出来たようだ。


「なんとか終わったかー」


「いやーナインさんの戦い方凄かったですねー」


ナインは終始格闘で狼達を仕留めていた。


「これくらい朝飯前だ。今まで森でずっと魔物達を相手に戦って来たからな…」


と、そう言うナインはどこか遠い目をしていた。きっと母親が死んでからはずっとそうやって生きて来たんだろう。


「そうなんですか? かっこ良かったですよー?」


「奴隷になる前はずっとそうしてきたのか?」


「ああ。森で毎日毎日生きる為に戦ってきた。その所為か、気が付けば体は成長してたし力だって…」


ナインは急にガントレットを外して地面に転がっていた石を掴むとグッと握る。


すると石は粉々に砕け散った。


「こんなに強くなっていた…」


パラパラと落ちる石の欠片を見つめながらどこか悲しそうにそう言った。


「凄いな…」


「とってもパワーあるんですねー」


「素手で石を砕くって凄い事ですよ」


「……そうなのか?」


「そうですよー。もっと誇っていいんですよー?」


「……そうか」


ほんの少し、ナインの表情が緩んだと思ったらすぐに元の無愛想な表情に戻っていた。


「そしてある日、どこで聞いたのか男達3人がやってきてアタシを捕まえようとした。勿論抵抗したけど隙をつかれて気が付けば檻の中、だったというわけさ……」


「ふと思ったんだけど、そんなパワーがあるなら商館を逃げる事だって出来たんじゃないのか?」


「…それはそうだがなんというか、あそこにいた頃は殴られたりしたがそれには慣れてるし、毎日美味い飯が食えた。あの女には時々ムチで叩かれた事があったけどなんだかんだ優しくしてくれたから、それほど悪い生活じゃなかったから逃げる気になれなかった」


「成る程な」


「それに逃げた所で待ってるのは元の生活だし、もうそんな生活には嫌気がさしてたからな」


「そうかー。色々大変だったなお前も」


「コータローさん。早いとこ証明部位を剥ぎ取ってここを去りましょう。血の臭いで他の魔物が来るかもしれませんから」


「そうだな。まだ目的は終わってないしな。日が暮れる前には戻らなきゃならんし」


ホーンウルフの証明部位を剥ぎ取り終えるとオークを探しに再び歩を進めた。





「止まれ」


不意にナインがそう言いだした。


「どうしたナイン?」


「しっ……何か聞こえる…」


ナインは目を閉じて地面に耳を当てている。


「オークか?」


「分からない。でもこの先になにかいる…複数いるようだ」


「分かった。オーク以外の魔物かもしれないから用心しよう」


俺は剣を抜き、空いた手でいつでも魔法を放てるようにしながら森の奥へと向かった。


「大分奥まで来たな…」


「そろそろオークがいてもいいと思うんですけどねー」


「その内出てくるだろ」


と、そう言ったその時だった。




「いやぁあああああああっ!!!!」




何処からか、女性の悲鳴が聞こえた。


「悲鳴!?」


「あっちから聞こえたぞマスター」


「行ってみましょう!」


アレンがそう言って俺達は悲鳴が聞こえた方向へと駆け出した。


そこには数匹のオークがフードマントを羽織った少女を取り囲んでいた。


少女の隣には革鎧を着た少年が頭から血を流してぐったりと木に凭れ掛かっていた。


「エド! しっかりしてエド!!」


少女がエドという少年の体を必死に揺すっていた。


「…う…ぅ……」


血だらけだが辛うじて意識はあるようだ。


そんな彼女にオーク達は近付き、凭れ掛かっていた少年の頭を掴むとゴミのようにその辺に放り投げた。


「エド! ひっ!? いやあ! 離して!!」


そしてがっしりと少女の四股を掴み、身に纏っていた革の防具や衣服を引きちぎってあられもない姿にする。


「いやぁあああ!!」


がっしりと四肢を掴むその太い腕を振りほどくことを少女が出来るわけもなく、それを分かっているからなのか人間の男の物よりも太く長く、そしておぞましいモノを晒して下卑た笑みを浮かべるオーク達。


このままでは少女は周囲を取り囲むオークたちに汚されて、オーク達の子供を孕むだけの存在になるだろう。


「ひ!? いやぁ…だれか……誰か助けて……」


絶望に身を焦がし、涙を流す目から生気の光が失われて行く。


「アイツ等…」


「どうするんだマスター?」


「どうするもなにも、見捨てるわけにも行かないだろ。俺とお前で奴らを相手にしている間にウィルとアレンは魔法で援護しつつあの2人を安全な場所へ頼む。いいな?」


「分かった」


「分かりました!」


「はいはーい。じゃあ私があの女の子を掴んでるオークを魔法で仕留めますねー」


「頼んだ」


「じゃあ行きますねー。凍てつく氷の槍よ、我が魔力を糧に敵を貫け『氷槍(アイスジャベリン)』」


詠唱を唱えたウィルの手から氷の槍が放たれ、それは少女を拘束してるオークの後頭部に突き刺さり、貫通した眉間から飛び散った血と髄液が少女の裸体にかかる。


白目を剥いて崩れたオークから解放された少女は何が起こったのか分からず茫然としている。


「行くぞナイン!」


そう言ってナインと共に飛び出すと後ろを向いていたオークの背中を斬りつける。


「ブヒィイイイッ!」


オークは振り向きざまに拳を振り下ろすが後ろにステップして軽く躱す。


「うおりゃっ!!」


剣を縦に振ってオークの腕を斬る。


「ブヒ!? グゥゥ…ブヒィ!!」


斬られた腕を抑えると直ぐにもう片方の腕で殴りかかって来たところを躱し、そのまま腹に剣を突き刺す。


「せいやぁあああ!!」


突き刺した剣をそのまま横に振り、オークの腹を一文字に斬り裂いた。


パックリと裂けた腹からは臓器が丸見えだった。


「うっ…」


それを見て一瞬吐きそうになるが無理やり堪えて、腹部を抑え込んで膝を付くオークの脳天に剣を突き刺した。


オークは白目を向いて舌をだらしなく垂らして絶命した。


「まずは1匹…ウィル達は?」


ふとウィル達を見ると既に離れた場所から魔法を放っていた。


側には少女と血だらけで木にもたれかかる少年がいた。どうやら無事に確保したようだ。


「ブヒィッ!」


と、よそ見してる間に別のオークが斧を振り下ろして来たのを躱すが、なんとオークはそのまま斧を横に薙ぎ払ってきた。


「ちょっ、マジか…ッ!」


慌ててしゃがんで回避し、そのまま前転して心臓のあたりを突き刺す。


「これでも喰らえ!」


そう言って何度も胸を剣で刺す。


そしてとどめとしてオークの首を斬った。


「ふぅ…」


「マスター!後ろだ!」


「しまっ!? グハッ!!」


振り向いたとたんに目にしたのは丸太くらいの大きさの分厚い腕だった。


「マスター!?」


咄嗟に後ろに体を動かそうとするが間に合わず、パンチを食らって衝撃が走り、浮遊感を感じた。


「ガハッ! ゲホッ! うぅ…」


そのまま木に叩き付けられたようで、頭を強く打ったのか意識が朦朧とし、呼吸も苦しい。


「コータローさん!」


「うぅ…ゴホッ…」


グニャリとする視界の中、ドスン、ドスンとオークが近づいてくるのが分かった。


手には斧を持っており、トドメをさすつもりだろう。


「くそ…立て…立つんだ……!」


必死に立とうとするが体が動かせない。


そして俺の目の前で止まったオークが斧を振りかざした時だった。


「そうはさせるか」


ナインがオークの頭に飛び付いたと思ったら、ククリナイフを抜き右目に突き刺した。


「ブヒャアアアアアッ!!??」


「うるさい」


突然の痛みに断末魔を上げるオークの頭を掴み、首を曲げてはいけない方向に力づくで曲げた。


首をへし折られて生きているわけも無く、右目に大量の出血を噴き出しながらオークは後ろに倒れた。


「大丈夫かマスター?」


ナインがククリナイフの血を払いながらそう聞いてくる。


「ああ…助かったナイン。他のオークは?」


「もう片付けた。周囲にもいない」


ピッと親指を立てて肩の後ろで指差しながらナインは言った。


「立てるかマスター?」


「立てない事は無いがまだ体が痛い…」


そう言うとナインは俺に近付き、俺の体を触ったり、押したりした。


「えらい吹っ飛ばされましたねー」


「骨や内蔵に異常はなさそうだから少し休めば大丈夫だ。防具と咄嗟に後ろに動いたのが良かったんだろう」


「そうか。だけど休んでる暇はあまりないから剥ぎ取りして森を出よう…ウィル、あの2人は?」


「ちゃんと言われた通りにしましたよー。ただ、男の子の方が危ない状態ですねー」


「生きてはいるんだな」


「辛うじてですけどねー。取り敢えず『治療水』をかけて出血は止まりましたけど、なんか骨も折れてるっぽいので一刻も早くちゃんとした手当てをした方がいいと思いますよ」


「分かった、なら早くここを去ろう。よっこらせっと…」


少し休んだからか、ある程度体の感覚が戻ったのでよろよろと立ち上がる。


「コータローさん、剥ぎ取りは終わりました」


いつの間にかアレンとナインがオークの証明部位を剥ぎ取ってくれたようだ。


「済まんなアレン、ナイン」


「マスター、これが落ちてたぞ」


ナインが見せたのは木製のクロスボウだった。


「そいつは多分、あの少女のだろうな」


「少年が使ってた剣も見つけたんだが、オークにやられたのか折れてた」


「そうか」


そう言って俺はオークに犯されそうになった少女に近付いた。


「大丈夫か?」


「……はい」


フードマントで体を包み、虚ろな目で体育座りをしている少女はポツリと呟く。


未だ恐怖が残ってるのか、ガチガチと震えている彼女は両手で自らの体を抱きしめていた。


「これを見つけたんだが、お前のか?」


ナインが拾ったクロスボウを見せると少女は首を縦に振ったので渡した。


「ここに長居は無用だ、街へ戻ろう。俺たちも一緒に行くから。ナイン、そいつを運んでくれ」


「分かった」


そう言うとナインはぐったりしていた少年をそっと持ち上げてお姫様抱っこする。


そしてウィルがローブを少女に羽織らせた。


「ありがとう……」


と、少女は言うとゆっくりと立ち上がった。


「いいえー」


「じゃあ、行こう」


俺たちは森を出るためにその場を去った。


少女の話によると、2人はEランクの冒険者のようで、ホーンウルフの討伐に森に来ていたが運悪くオークの集団に遭遇してしまい、抵抗したが返り討ちにあって今にあたるということだ。


そして絶体絶命の時に俺たちが来て少女は深く感謝していた。




その後俺たちは何事も無くマクベルの門の前に辿り着いた。


「お、戻ってきたのか。お疲れさん…っておい!? どうしたんだそいつ!?」


門の警護をしてる衛兵が傷だらけの少年を見て近寄ってきた。


「森でオークに襲われていた。助けたが重傷を負ってる。医者の所に連れて行きたいから早く中に入れてくれ!」


「今開けるから少し待て。それに医者なら俺たちの兵舎にもいるからそこで診てもらったほうが早い」


「分かった。あと、この子に何か着る物を与えてくれないか?」


「…事後なのか?」


「いやそうなる前に助けた」


「そうか。分かった、用意させよう」


ホッとした様子で衛兵はそう言った。


「ありがとう」


「気にするな。これも仕事だからな」


そして門が開き、兵舎の中に入り衛兵に医者のところまで案内してもらった。


「この部屋に医者が居ます。モリス先生、いらっしゃいますか?」


衛兵がノックをすると、中から「入りなさい」と言われたので中に入った。


部屋の中に居たのは、ボサボサの天然パーマーに無精髭を生やした白衣を着た40代前半くらいの男性だった。


「何の用かな?」


「重傷者ですモリス先生。診て上げて下さい」


「分かった。そこへ寝かせなさい」


そう言ってナインがベッドの上に少年を寝かせた。


「後は任せて君は職務に戻りなさい」


「では失礼します」


そう言って衛兵が出て行くと同時に部屋の扉が閉められた。


「さて、見た所君たちは冒険者のようだが魔物にでも襲われたのかね?」


少年が着ている防具や服を脱がせながらモリスという医者は聞いてきた。


「ええ、俺達は依頼で森でオークを探している中、悲鳴が聞こえたんで行ってみるとこの2人がオークに襲われていた所を助けたんですよ」


「ふむ……腕の骨が折れて肋骨もヒビが入ってるね。内蔵は……うん、大丈夫かな。あとは出血が酷かったようだけど傷口がないとなると『治療水』でもかけたのかな?」


「そうですよー」


「そうかい。命に別状はないから一ヶ月程安静にしていればまた動けるようになるだろう」


「本当ですか! よかったぁ……」


「じゃあ俺たちはもう行くよ」


「あ、はい! 本当にありがとうございました! あとこれも……」


少女は羽織っていたウィルのローブを返してきた。


「ん、どういたしましてー」


ウィルは返してもらったローブをいつものように羽織った。


少女に見送られながら部屋を出ると、丁度少女の換えの服を持って来た衛兵とすれ違い、兵舎を出た。


「あー…今日は疲れたな」


「ホーンウルフの集団を倒したと思えば次はオークの集団でしたからね…」


「依頼の報告して何か美味しいものでも食べに行きましょうよー。アンジェさんも誘って」


「んーそうするか」


そう言って俺たちはギルドへと向かった。



今回が今年最後の投稿になります。では読者の皆様、良いお年を。来年もよろしくお願いします。

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