マクベル滞在2 中編
連続投稿です。
応接間に戻ってきた俺とマチルダさんはソファーに座って紅茶を飲んでいた。
あの奴隷の身支度するのにちょっとばかり時間がかかるらしい。
「ところでコータローさんはあの子を買ってどうするんです? 性欲の捌け口にでもするんですか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべてマチルダはそう聞いてきた。
「ブッ! いきなり何言ってんだアンタは? そんなつもりは全くないよ。単純に戦力として扱っていくつもりだ……」
紅茶を少し吹き出しながらも否定する。
これは本当の事だ、性奴隷にする為にアイツを買った訳ではない。
俺とウィルとアレンの3人のうち、今の所俺だけ前衛だからもう1人いてもいいんじゃないかと思っている。
マクベルに来た時、アッシュと別れる際に言われた事が気になってた。
アンジェとウィル、そしてアレンは俺を絶対に裏切らないのか。
正直言うとアイツ等は大丈夫だと思う。裏切る理由が今の所見当たらないし一々疑ってたりしたらキリがないし、面倒くさいのは俺はごめんだ。
もし裏切るならとっくにやってるだろうしな。だから俺はアイツ等を信じる。
まぁその時が来たなら俺が馬鹿だったってことだ。
だから見ず知らずの冒険者と組むのはちょっと不安だから戦闘奴隷を買ってしまったのだ。
「まぁ、用途などどうでもいいのですがね。買ったからには大事に扱ってくれないと困ります。折角教育した商品を簡単に壊されてはたまりませんのでね」
「勿論。奴隷にだって心がある。適度に飴と鞭を与えて接して行くつもりだ」
「奴隷は一般的には物として扱われますが、私は物として扱うだけではなく、愛を持って接する事が大事だと思ってます。コータローさんの扱い次第であの子は身も心も忠誠を尽くすでしょう」
何処か嬉しそうに笑みを浮かべてマチルダさんは言った。
どうやらこの人は少々ズレているところがあるが割と良心的のようだ。奴隷達は暗い顔をしてはいたが、子供から老人まで皆健康状態は良さそうに見えたしな。
俺としてはちょっと反抗するくらいが丁度いいんだがな。完全に服従するのってなんかつまらないんだよな、言いなりロボットじゃあるまいしね。
「ところで何故そんなことを?」
「…ウチの常連なんですが、女の奴隷を多く買っていってはすぐ壊してしまいましてね、お陰で商品の調達が間に合わない事が多々あるんですよ」
「それは大変だ」
「おまけに市場に出す予定だった奴隷は兎も角、仕入れたばかりで教育もしてない奴隷を無理矢理買い占めてしまうので少々手を焼いてるんですよ」
「成る程ねぇ」
「こちらとしては色んなお客様に商品を提供したいので独占されると困るのですよ。新しい奴隷を仕入れるのにもお金がかかりますのでね」
「なら断ればいいじゃないか」
「それが出来たらとっくの昔にしてますよ…」
フゥ、と溜め息まじりにマチルダさんはそう言った。どうやらそのお得意様は貴族かなんかのようだ。だから強く言えないんだろうきっと。
「お嬢様、用意が出来ました」
「そう、では行きましょう」
そう言って俺とマチルダさんは応接間を出て、執事の案内で薄暗い正方形の殺風景な部屋に来た。
部屋の中央には台が置いてあり、その上に燭台やらナイフ、小皿と壷が置いてあった。
「ここで奴隷契約をします。今奴隷を連れてくるので少々お待ちを」
そう言われたので暫く待つと、ガチャリとドアが開き2人の男性とあの混血の少女が鎖のついた首輪をはめられて1人の男に引っ張られながら入ってきた。
少女は鉄製の手枷と鉄球のついた足枷が付けられていて、よく見ると顔や腕に殴られたような後があり、足も何処か悪くしたのか引きずって歩いている。
「お連れしました。檻から出そうとしたら激しく暴れだしたので止むを得ず力づくで拘束をしました」
そう言う男達の手には木製の棍棒が握られている。
恐らく少女の怪我はアレの所為だろう。
「そう……奴隷を此処へ」
「はい…。おい、さっさと歩け」
「ぐっ…!」
怪我が痛むのか、無理矢理引っ張られて苦しいのか苦痛に顔を歪めながら少女はフラフラした足取りで歩き、俺の前に立った。
その目は未だ敵意剥き出しで怒りと憎しみが籠っていた。成る程、どうやら相当人間が嫌いらしいな。
「一応、奴隷としての教育は一通り済ませてありますが…如何せん反抗的な態度はそのままでして…」
「まあその辺は気にしてない。こっちでなんとかするさ」
「そうですか。では奴隷契約の儀式を始めます」
マチルダさんがそう言うと、男の1人が壷を持ち小皿にドロリと赤黒い何かの液体を移した。
「その液体は?」
「奴隷契約の刻印を刻む為の液体です。そしてこの液体にコータローさんの血を混ぜて、飲ませるのですよ」
「あー飼い主の命令の混濁が起こらないようにするのか」
「その通りです。さ、このナイフを使って血を垂らして下さい」
差し出されたナイフを手に取り、ピッと指を軽く切った。
「っ…」
傷口から血が流れたので、液体の上に血を何滴か垂らすと液体が不気味な色になり怪しく光り出した。
「あとはこれを奴隷に飲ませるだけです……さぁ、飲みなさい」
マチルダさんが小皿を少女の口に持って行くが、当然のように口を硬く閉ざして拒絶する。
「仕方ないわね…口を開かせて」
そう言うと男達が少女を膝立ちにさせ、手で無理矢理口を開かせた。
「〜〜〜〜ッ!!」
相変わらず抵抗するがそれも虚しく、小皿の液体が少女の口の中へと流れて行く。
「ッ…ゴボ……カハッ!……」
「よし、飲んだわね。もういいわ、離して」
少女は解放されると激しく咳き込み踞った。
「これで終わったのか?」
「取り敢えずは。あとは奴隷の刻印が刻まれれば契約は完了です。ご覧下さい」
「ゲホッ! ゴホッ! …うっ……ぐっ…ぁ、ああああああああああああッ!!!!」
マチルダさんがそう言うと、先程まで踞っていた少女がいきなり胸の辺りを押さえ込んで苦しみながら断末魔を上げ、やがてバタリと動かなくなった。
「お、おい、どうしたんだ? 死んだのか?」
「いいえ気絶しただけです。刻印を刻む時にかなりの激痛が走るようなので…もう刻印は刻まれたでしょう、確認してみて下さい」
そう言われて、男達が光の無い目でぐったりしている少女を無理矢理起こして立ち上がらせて、着ているボロを引き剥がすと心臓の辺りに怪しく発光する刻印が刻まれていた。
「デカいな……じゃなくて、これで契約は終わったのか?」
「ええ、これでこの子はコータローさんの奴隷となりました。奴隷は飼い主の命令には絶対服従。少しでも命令を拒否したり飼い主に害のある行動を取ろうとすると、刻印の呪いが働き激痛や苦痛を与えます。それでも従わない場合は最悪命を奪います」
なるほど、寝込みを襲われたりする心配はなさそうだ。
「以上で手続きは終わりました。では料金の方を」
「ああ。これでいいか?」
「……確かに。手枷と足枷を外してあげて」
料金を支払い、少女の手足が自由になった。
「さ、行くぞ。歩けるか?」
首輪に付いた鎖を掴んで問い掛ける。
「…………ッ」
やはり足のどこかが痛むのか、顔を歪めながらもノロノロと歩き始める。後で治療してやるか。
「お買い上げありがとうございました」
「こっちこそありがとう」
「そうそう、一週間後に奴隷市場が開かれますので、宜しければそちらも是非来てみてください」
「分かった、気が向いたら行ってみる」
「貴方とは良い関係が築きそうですね。またのお越しをお待ちしていますよ」
妖しく頬笑みながら彼女はそう言った。
「良い買い物が出来た。じゃあな」
そう言って俺と少女は館を出た。
「さて、お前には大金を払ったんだ。その分しっかり働いてもらうぞ」
「……分かった」
「なんか気に入らねえなその眼…まぁいい、やることさえやってくれれば俺は特に何も言わない。働いた分、ちゃんと給金はだす」
「………フン」
返事はするが、まだ目は反抗的だった。まぁ、これくらいなら気にしないことにした。
「ところでお前名前はあるのか?」
「……」
少女は黙ったままだが、それは俺の命令を拒否した事になる。
「ぐっ!?」
刻印の呪いが働いたのか、少女は胸を押さえ込んだ。
「ほら、名前くらいあんだろ? 黙ったままだと苦しくなる一方だぞ?」
「うぅ……ナ、ナイン…」
「え、お前名前ないのか? 参ったな」
「ち、違う!! アタシの名前はナインだ…ッ!!」
ナインと名乗った少女は呪いから解放されたのか、呼吸を整えながらそう言った。
「あぁ、ナインって言うのか。スマンスマン、俺はお前の飼い主となったコータロー・アサヒナだ。よろしくな」
「……チッ…うぐっ!? ぐっ…よろしくお願いします…ご主人様…」
再び胸を押さえながら引き攣ったような笑みでナインは言った。
「よく言えました。じゃあ早速お前の為に必要な物を買いに行くか」
「はい……」
「その前に怪我とか治さんとな。見てるだけで痛々しいわ」
そう言って俺は無詠唱で『治療水』をナインに掛けた。
すると殴られたような後や、切り傷等がみるみる治っていった。
「これは …ありがとうございますご主人様…」
「気にするな」
「ご主人様は魔術師だったんだな…ッ…ですね…」
「まあな。それと俺に敬語は使わなくていいぞ?」
「……いいのか?」
「ああ。お前もその方が楽だろ?」
「分かった。そうさせてもらう…マスター」
何処か嬉しそうにナインは言った。
「マスターか、まあ悪くないな。じゃ、行くぞナイン。先ずはお前の服を買いに行く」
ナインがコクリと頷き、俺達は服屋へと足を運んだ。
「さて、服を買いに行くとは言ったけど…俺この街に来たばかりだから場所を知らなかった」
「そうか…」
「ん? どうした? さっきより元気が無いぞ?」
「別に…なにも…」
「嘘だな。どうしたんだ……って…ああそういうことか」
周りと見ると住人達は皆、ナインを見てはヒソヒソと何かを言っていた。
恐らく混血であるナインの事を悪く言ってるようだ、それで耳や尻尾がシュン…っとなってるんだろう。
「ナイン、周りが何を言おうと気にするな。もっと誇れよ」
「…どうせマスターもアイツ等と同じなんだろ…」
「いいや全然、寧ろ好きな方だぞ?」
「…は?」
「いやさ、猫耳と尻尾の生えた女の子って可愛いと思わん?」
「何を言ってるんだ…嘘はやめてくれ。アタシは人間でもなければ獣人でもない忌み嫌われる存在。変な同情するなよ、反吐が出る」
「あっそ、言っておくが俺は遥か遠い田舎から来たから周りの奴らとは考え方が違う。だからお前の事は嫌ってはいない。寧ろ可愛いと思ってるくらいだ」
「可愛いって……」
「ま、信じるかどうかはお前の自由だ」
気を取り直して住人にオススメの服屋を聞いてみる事にした。
「ここでお前の服を買ってみるか」
俺達は住民に教えてもらった服屋の前に立っている。
入り口の左側にラートバッツ装具店と書かれた看板が飾られていた。この店の名前のようだ。
中に入ろうと扉を開けるとカランカランとベルの音が鳴りだした。
「いらっしゃいませ、ラートバッツ装具店へようこそ。本日はどのようなご用件で?」
店の奥からスラッとした体系で物静かな感じの初老の女性が出て来た。
「こいつに着せる服を買いたいんですけど?」
「そちらの…奴隷はもしや混血では?」
「ええ、ココ族と人間の混血です。それが何か?」
「ああいえ、深い意味はありません。ただ混血が珍しかったものでして…どうぞご自由に」
そう言われたのでナインに選ばせてみる。
それから暫く立ち…
「どうだ? 良いのはあったか?」
ナインに聞いてみると彼女は首を横に振った。どうやら好みのが無かったようだ。
「もしよろしければ仕立てる事もできますけど…」
「じゃあそうしてもらうか?」
と言うとナインは首を縦に振った。
「ではどういう感じのがいいですか?」
「……動きやすくて肌にくっつくような感じがいい」
「ふむ。露出とか多い方がいいですか?」
「どっちでも構わない。あと、色は黒にして欲しい」
「成る程…ちなみに戦闘はしますか?」
「戦闘はする。主に格闘だ」
「分かりました。ではサイズを測りますのでこちらへ。さらに要望があれば言ってください」
そう言ってナインと店主の女性は奥へと消えて行った。どうやら全ての人が混血に対して偏見とかを持っている訳ではないようだ。
その間暇なので、適当に店内を見てみる。
するとショーケースのマネキンに掛けられているマントが目に付いた。
そのマントは内側は赤く外側が黒色で、何の生地かは分からないが材質は良さそうで、鈍い光沢を放っている。
先端にはちょっとばかり豪華さを表す為か、金の糸で模様が刺繍されていた。
豪華過ぎず、地味過ぎず、俺好みのデザインのマントだ。
このマントには不思議な魅力でもあるのか、気になってしまう。
「あーこれは中々いいかもしれない。長旅用にでも買っておこうかな」
「ごめんなさい。それは売り物ではないの」
ナインと共に奥から出てきた店主が申し訳なさそうにそう言った。
「あ、そうなんですか?」
「そのマントは去年病で亡くなった夫が最後に仕立てたマントなの。だから思い出としてそばに置いておきたいのよ」
「じゃあ仕方ないですね」
「ごめんなさいね……さて、待たせてしまったわね。要望が所々複雑ではありますが仕立ててみますので一週間後にまた来てください」
「一週間…分かりました。行くぞナイン」
「待って」
店を出ようとしたら、呼び止められた。
「混血とはいえ女の子ですもの、一週間もその格好では可哀想だわ。在庫処分の服を差し上げますから着ていきなさい」
「あ、いいんですか?」
「構わないわ。古くなって丁度処分しようと思っていたの」
そう言って店主は店の奥から灰色のチュニックとズボンを持ってきた。
「粗悪品でサイズが合うか分からないけど、そんなボロを着てるよりはマシだと思うの」
確かに。ボロの下には何も着てないから、下半身が見えちゃうんだよな。
「じゃあありがたく貰います」
処分品の服をナインに渡して更衣室で着替えさせる。
なんか小汚いな、宿に戻ったら洗ってやるか。
「サイズはどうだ?」
「ちょっとデカイ。そして尻尾が…」
「今はそれで我慢しろ。じゃ、行くぞナイン」
「またのお越しをお待ちしています」
店主に見送られながら俺たちは店を出た。
「参ったな。一週間か……」
「何か問題でもあるのか?」
「いや、特に問題は無いんだけど3日後にはアースガルドに戻ろうかと思ってたんだまぁいいや」
「マスターはアースガルドから来たのか?」
「ああ、マクベルには護衛依頼で来たんだ。で、マクベルにいる間は休暇中な訳だが宿が4日分しか取ってないから延長せざるを得ないなぁ」
「そうなのか」
「時と場合によっては依頼を受けなきゃならんかもしれないな。ま、それはどうでもいいとして飯でも食いに行くか」
ナインが頷き俺たちは昼食を食べに向かった。
「ここにするか」
街の中央からちょっと離れた所にある飲食店に俺たちはいた。
「人が一杯だ…」
「人間が嫌いなのか?」
「ああ嫌いだ。虫唾が走る」
「相当人間が嫌いなようだが、慣れるしかないな。俺の奴隷である以上、嫌でもこういうとこに来る事になるんだからな」
「……チッ」
小さく舌打ちするナインを無視して空いてる席に座ると周りの客が驚いたような顔をしてはヒソヒソ話しをする。
「ご注文は何になさいますか?」
若干嫌そうな顔をしながら店員さんが聞いてくる。
「俺はこの店で一番安いのを。お前はどうする?」
「何でもいい…」
「じゃあ同じのをもう一つ」
「畏まりました。合わせて1850エルトになります」
お金を渡して釣りを貰うと店員さんは奥へと消えて行った。
「あーなんか疲れたなぁ。飯食ったらお前の武器も買わんとな」
「…なぁマスター」
「なんだ?」
「なんでアタシを買ったんだ? 戦闘奴隷が欲しいなら他にいただろ? 何故アタシを選んだ?」
「何故ってお前が気に入ったんだよ」
「だからそれの意味が分からないんだよ!
「おい落ち着けよ。周りが見てるだろうが」
「ッ!? ……っ」
「面倒くさいから宿に戻ったら全て話すから今は理由を聞くな」
「っ…分かった…」
刻印の呪いが発動するのかと思ったのか、素直に従った。
一番安いからか、あんまり味がしない質素な感じの昼食を終えた俺達はナインの武器を買う為にセルゲイさんの店に再びやってきた。
「こんちわセルゲイさん」
「やあコータローさん、さっき来たばかりなのにまた来てくれるとは嬉しいですね。今度はなんですか?」
「実はコイツの武器を買いたくて」
そう言って俺は後ろに隠れていたナインを前に出した。
「そちらの女性は?」
「先程、戦闘奴隷として買ったばかりのナインです」
「その耳と尻尾、もしやココ族と人間の混血なのでは?」
「ええ、そうです。で、これくらいの予算でコイツに使えそうな武器を売って欲しいんですがあります?」
俺は銀板7枚をセルゲイさんに見せながら言った。
「ふーむ…その、ナインさんはどんな武器を使いたいのですか?」
「主に格闘みたいです」
「となるとガントレットですね。こちらはどうでしょう?」
セルゲイさんが見せたのは全体が鉄で作られたガントレットだった。
「試しに付けてみたらどうだ?」
そう言うとナインは頷いて、ガントレットを受け取り慣れた手付きで装着すると両手を何度も開いて閉じたりした。
「その予算で出せるのはこれだけですね…」
「…これでいい」
「本当にそれでいいのか? もう少し良いのでもいいんだぞ?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そうか…じゃあこれください」
「分かりました」
会計を済ませ、このまま帰っても暇なのでセルゲイさんの店で時間を潰す事にした。
ナインは今武器や防具を適当に見て回っている。
そこでふと気付いた。アースガルドもだったが、マクベルに着てから獣人が歩いてるとこは見た事がないな。
「セルゲイさん。マクベルには獣人は住んでるんですか?」
「住んではいませんねぇ。マクベルやアースガルドは人間種至上主義という訳でもありませんが、もしかしたら彼等にとっては住み辛いのかもしれませんね」
「成る程」
奴隷商館にいた獣人達はどっかから引っ張ってきたんだろう。
考えても意味などないので気にしない事にした。
「マスター」
「ん? どうした?」
「…これも欲しいんだが…」
ナインが見せてきたのは大きめのククリナイフだった。
「それでしたら差し上げますよ。ついでに剣帯もオマケしましょう」
「いいんですか?」
「彼女を買って財布が寒いのでしょう?」
「うっ…まぁ、そうですね。じゃあお言葉に甘えて」
これは凄くありがたい。財布はすっからかんという訳ではないけれど、もうこれ以上の出費となるとホントに依頼を受けなきゃならない。
ガントレットを両手に、ダガーを納めた剣帯を腰の後ろに着けたナインの格好はちょっと不格好だが服が出来るまではそれで我慢してもらおう。
「じゃ、そろそろ帰ろうナイン」
ナインが頷き、セルゲイさんに見送られながら店を出て、宿に戻った。
「ここが俺達の宿だ」
「結構遠いんだな」
「着いた時にはここしか取れなかったんだよ」
宿の中に入ると、ナイスミドルの男性がカウンターにいた。
「おかえりなさい。おや、新しいお客さん…ッ!?」
ナインを見た途端、男性は目を見開き後ずさりした。
「こいつは今日買った俺の奴隷です。何か問題でも?」
「い、いえ、問題はありません…」
明らかに怯えた表情をしている男性はどうやらナインが怖いようだ。
混血ってそんなに恐ろしいもんなのか? 俺には全く理解出来ない。
「この宿に被害が及ぶようなことはしないんで安心して下さい」
「な、ならいいのですが…」
「夕食は5人分作ってほしいのと宿の滞在期間を1週間に伸ばしてください」
「わ、わかりました…」
追加料金を払って自室に戻って荷物を下ろし、アンジェ達を呼びに行ったが2人はまだ帰ってなかったようなのでアレンの部屋に行く事にした。
「アレン? 俺だけどいるか?」
ノックしてみたが反応がないのでドアノブを回すと鍵は開いていたので中に入った。
「アレン?」
部屋の中にアレンはいた。が、机に突っ伏してる所を見ると眠っているようだ。
顔の下には植物の絵が描かれた本が開かれており、読んでる最中に眠ってしまったんだろう。
起こすのもなんだか可哀想なのでベッドにあった毛布を掛けてやる事にした。
「ナイン、こいつはアレンと言って冒険者仲間だ」
「こんな子供が?」
「ああ。色々あって俺達と一緒に冒険者稼業をしてる」
「そうなのか…」
「今は寝かせておいてやろう。後2人いるんだがまだ帰って来てないようだから戻るぞ」
「分かった」
自室に戻ってソファーに横になって靴を脱いだ。
「あ〜歩き疲れたな。あいつらが帰ってくるまで一眠りするからお前も自由にしてていいぞ」
そう言うとナインが頷いたので夢の世界へと意識を手放した。
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