美人メイド登場
「い、一体何が起こったというのだ!? 誰か説明せよ!」
暫く唖然としていた王様がして問いただす。
「わ、分かりませんが。おそらくコウイチ様と同じく、水晶がこの方の魔力に耐えきれなかったのではないかと……」
「なんということだ、勇者コウイチや宮廷魔術師オリヴィエでさえ半分に割れた程度なのに……そなたはそれ以上の魔力を持っているというのか…」
俺はそのオリヴィエとかいう人や平野より遥かに魔力が多いってことか。てか、その人も十分凄いな。あと平野も。
「もう一度聞く。そなたは本当に勇者ではないのか? 水晶の見間違いではないかの?」
「俺は嘘を言ってませんよ王様。この人が証人です。そうですな?」
「え、ええ、この方の属性は火・水・風・土の4つでございます王様。嘘は申しておりません」
目の前のおっさんが証言する。すると王様は諦めたのかため息を吐いて
「そうか、なら仕方ないのう。そなたには後で、聞きたい事があるのでここに残ってもらうがよろしいかの?」
王様の問いに俺は首を縦に振った。それを見て王様は満足げに頷いた。
「さて勇者達よ、今のそなた達では魔王には勝てぬ。なので明日から魔王と戦う為の力を身に付けて貰う。幸い、魔王軍は今のところ落ち着いておるのでな。また動き出す前に少しでも強くなってもらいたい」
確かに平和ボケした日本人にいきなり剣を持たせて魔王倒してこいとか無理に決まってる。
Lv1の状態でLv99のラスボスと戦って勝つくらいの無理ゲーと同じだもん。
「分かりました王様。この世界の人達のためにも明日から頑張ります。みんなもそれでいいよな?」
平野が風間達に向かって聞き出す。
「当たり前だろ。俺達幼なじみじゃねえか」
「そうよ、私たちいつだって一緒だったじゃない」
「この世界の方々が私達を必要としているのです。それを知らない振りなど私には出来ません」
と、風間達の言葉に王様は満足そうに頷いた。
「うむ、素晴らしく美しき友情だな。さて、今日はもうお疲れだろう。明日に備えてゆっくりと休みなさい」
王様がそう言うと、数人のメイドさんが仲良し4人組を連れて玉座の間から出て行った。
俺は残るように言われたのでその場に立ったままだ。ていうかあの4人、俺の事は眼中にないって感じたったな。まあ、知らない人だし、あまり関わりたくないのかもしれんがな。
「さて、残ってもらってすまないな」
「いえいえ、とんでもない」
今、この場には俺と王様と王妃、そして数人の臣下達と近衛兵と1人のメイドだけだ。それ以外の人は出て行った。
「そうか、その前にそなたには誠に申し訳ない事をしてしまったな。本来なら元の世界に送り返すべきなのだが、残念ながらその方法がない。どうか許してくれ」
そう言って王様は頭を下げた。
「謝らなくていいですよ王様。俺は別に召喚に巻き込まれた事に関してはこれっぽっちの恨みもありません。それに異世界には憧れを持っていたもんでしてね、それについては感謝してるんですよ」
これはホントだ。ネットでファンタジー小説やラノベを呼んでた時、何度か行ってみたいと思っていた。
だから平野達にはほんのちょっぴり感謝している。
「そうか、そう言ってもらえると助かる。ではそなたのこれからの事についてだが、そなたはどうする気かね?」
「とりあえず勇者達と同じく戦う為の技術と魔法、生きる為の知識を身に付けた後、ギルドに登録して冒険者になってこの世界を旅しようかと思ってますが、この世界には冒険者ギルドとかあるんですか?」
もしギルドが無かったらどうしよう? 適当に職を探してのんびり暮らそうかな?
「うむ、あるぞ。この国にも支部がある。しかし冒険者か…こちらとしては魔術師か騎士として王家に仕えるか、勇者達と協力して魔王を倒してほしいのだが…ダメかのう?」
この城に仕える、か…別にそれでもいいんだが俺だって男だ、ファンタジーな世界での冒険には憧れている。冒険者ギルドがなかったら話は別だが。
だが平野達と協力して魔王を倒すのだけは却下だ。悪い感じしかしないし、そもそも光属性の魔法が使えないんだから、協力するにしても限度があるかもしれない。
それに死ぬリスクが高い。悪いが俺は死ぬのだけは真っ平ごめんだ。
この人達には申し訳ないが、俺は俺の好きにさせて貰う。
「誠に残念ですが王様、俺は自由気ままに生きたいのです」
「……そうか、そなたがそう決めたならこれ以上の無理強いは出来ぬな」
王様はなんとなく予想していたのか思ったほど残念そうに見えなかった。
あれ、てっきり要求を呑まないと不敬罪とかで捕えるぞとか言うと思ってたんだが? 内心、ビクビクしてたのが無駄だった。
「お力になれず申し訳ありません」
「いや良い。さて、そなたも明日に備えてゆっくり休みなさい。部屋は用意してある」
「お気遣いありがとうございます」
俺はそう言って近くにいたメイドさんと一緒に玉座の間を出て行った。
「こちらがアサヒナ様のお部屋になります」
メイドさんに案内された部屋は思ってたより豪華だった。
中世ヨーロッパにありそうなキングサイズのベットに、美しい光を放つシャンデリア、床一面に敷かれた赤い絨毯、その他高級そうな家具が設置されている。まるで高級ホテルのVIPルームみたいだ。
「おおー…」
と思わず口に出した。
「いかがでしょうか?」
「ああ、素晴らしいよ」
「気に入って頂けたようで何よりでございます」
「そういや、あの4人はどの部屋にいるんだ?」
「勇者樣方の部屋ですか? それならばこの部屋を出て直ぐ右の部屋にございます。尚、その部屋には女性、その奥の部屋に男性の勇者樣方が御座います」
「そうか、分かった。ところでメイドさんの名前はなんていうんだ? もしよかったら教えてくれないか?」
俺はメイドさんに名前を聞いた。
「私ですか? 申し遅れました。この度、アサヒナ様の身の回りの世話をさせていただく事になりました、アンジェリーナと申します。以後お見知りおきを」
アンジェリーナと名乗ったメイドは微笑みながら完璧なお辞儀をした。
髪の色は金色で肩にかかるくらいのふんわりとした感じのボブで、もみあげ? の部分の髪だけ長く胸の辺りまで垂らしており、瞳の色が俺から見て左が紅、右が蒼のオッドアイだ。
年は20代前半くらいだろうか? 俺より1、2歳年下に見えてクールな印象を感じさせる顔つきで、スラリとした手足に出るところは出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいるわがままボディーの超俺好みの体系の女性だ。あの大きさだと…Gだな。
ちなみに彼女が着ているメイド服は、正統派のロングタイプで、カチューシャタイプの白いヘッドドレスに、ネイビー色のワンピースに白のエプロン、白色の手袋をしている。
スカートの丈は膝よりちょっと下くらいで、臑くらいまである茶色いブーツを履き、その僅かな間にはストッキングかガーターかは分からないが、黒い布が見える。
また、腰には銀色のチェーンがぶら下げられてて、ポケットの中まで続いてる。ポケットの中に何があるのか今は興味ないので気にしない。どうせ懐中時計かなんかだろ。
兎に角、俺はこういう正統派のメイド服が好きだ。アキバとかにあるメイド喫茶のやつは認めん、あんなのは客をおびき出すためのただのコスプレだ。ミニスカとかふざけるな。
「そうか、よろしくアンジェリーナ。俺の事は既に知ってるかもしれないが改めて自己紹介しとこう、朝比奈 幸太郎だ。俺の事は幸太郎と呼んでくれ」
「ではコータロー様と御呼びさせて頂きます。あと、私の事はアンジェとお呼び下さい。その方が呼びやすいと思いますので」
そう言ってアンジェは微笑んだ。その美貌に一体何人の男が心を引き寄せられただろうか。
「わかった。じゃあアンジェ、早速で悪いが腹が減ったから何か食い物を持って来てくれないか?」
「畏まりました。すぐにお持ちいたしますので少々お待ちくださいませ」
そう言ってアンジェは部屋を出て行った。いいねえ、俺ああいうメイドが欲しかったんだよ。
「さて、アンジェが戻ってくるまで何をしようか…あ、そうだ荷物の確認でもするか」
俺は今まで肩に掛けていたコヨーテ色のミリタリーなデザインのベルトにポーチが左右についたフィールドバッグをテーブルの上に置いて、中身を取り出した。
財布、スマホ(機種はアッ◯ルが作ったアレ)、タブレット端末(こちらもアッ◯ルが作った奴)、イヤホン、充電器、手帳、ライター、タバコ、携帯灰皿、タオルにパンツが数枚、そして市販の紺色のジャージ。
俺は普段出かける時以外は基本ジャージで過ごす。
荷物がかさ張るし、実家に帰ってもジャージで過ごすつもりだったからな。
兎に角、鞄の中の物は全て無事だった。でも携帯とタブレットは電波が圏外で、ネットも繋がらないが時間は何故か日本時間のままで、充電のアイコンの表示が%から何故か∞と無限大の記号になっていた。
充電が減らないのは嬉しいが、通話もネットもアプリも出来ないんじゃ只の時計と変わらないじゃん…
深くため息を吐いた後、手帳をフィールドジャケットの胸ポケット、タバコを反対側の胸ポケットに、ライターと携帯灰皿をポケットに入れた。
携帯とタブレットは鞄の中に入れておいた。腕時計してるし、無くしたくないからそれ以外の物と一緒に鞄に戻しておいた。
やることはやってしまったので、アンジェが戻ってくるまでタバコでも吸おうとしたが辞めた。
もう2度と手に入らないかもしれない、だからどうしても吸いたくなった時にだけ吸おう。
この世界に葉巻とかがあれば話は別だが…
そう決めてタバコをポケットに仕舞った時、「コンコン」とノックの音が鳴った。
「お、アンジェが戻って来たかな?」
ドアを開けるとトレーを持ったアンジェが立っていた。
「失礼します、夕食を持って参りましたコータロー様」
「ああ、待ってたよ。ていうかもうそんな時間か」
腕時計を見ると既に19時を過ぎていた。道理で腹が減った訳だ。
「はい、勇者樣方も御夕食を取っておられます」
「そうか。あ、料理はそこに置いてくれ」
「はい」
テーブルの方を指差すとアンジェはテーブルのとこまでトレーを運んでいく。
「あ、いけね、片付けてなかった」
テーブルの上に荷物があったことに気付きソファーの上に放り投げた後、アンジェが礼を言ってトレーを置いた。
トレーの上には何の肉か分からないステーキに、こんがり焼けたパン、シャキッとしてるサラダ、暖かそうな湯気を放つスープにワインボトルとグラスが置かれていた。
いかにも高級レストランとかに出てきそうな感じの料理だ。
椅子に座るとアンジェがワインボトルを開けてグラスに注ぎ込んだ後、ボトルと白い布を持ってテーブルの横に立った。まるで貴族になったような気分だ。こんな体験は滅多に出来ないだろう。
「美味そうだな。いただきます」
手を合わせて両手にナイフとフォークを持つ。
「コータロー様? いただきますというのはどういうことですか?」
アンジェが首を傾げながら聞いてきた。
「ああ、いただきますというのは俺の世界で食事の時に言う言葉で、食材である生き物や植物の動物の命を絶ち調理し、食べる者の血肉となることに感謝を示す言葉なんだ。そして食事を終えた後には「ごちそうさま」と言うのさ」
「そうなのですか、いい言葉でございますね」
アンジェは感心した様子で頷く。この世界にはそれがないんだな。
まあ何はともあれ今度こそ、頂きます。
「ごちそうさま。とても美味しかったよアンジェ」
「これくらい、メイドとして当然の事でございます。では私は食器を片付けて参りますが他に何かご用件はございますか?」
「いや、もうないな。サンキュー、アンジェ」
「いえいえ、それが私の役目ですので。では失礼いたします」
そう言ってアンジェは空いた皿とボトルとグラスをトレーに乗せて部屋を出てった。
「これ以上する事もないから、今日はもう寝るとしますかね。着替えは…面倒くさいから今日はこのままでいいや」
そう言ってジャケットを脱いでベッドに横になろうとした時、再び「コンコンッ」とノック音が響いた。
「なんだよ、今から寝るとこだったのによ……はい、どうぞー」
俺がそう言うとドアが開き、入ってきたのは仲良し4人組だった。
最初のヒロイン候補の登場です。
感想、アドバイスお待ちしております。