Dランク昇格試験とウィルの魔法 前編
大変長らくお待たせしました。今回は2話に分けて行きます。
俺達は楓を先に戻らせてから路地裏を出てギルドに戻ると勇者達の姿は無く、ギルドの中は何時もの感じに戻っていた。
勇者達はギルドマスターの部屋でマスターと何か話しているらしい。
そんな事よりも、平野達がここに来るとなると、ここに長居出来なくなってしまう。
彼奴らはウィルの正体を知ってるから顔見た瞬間、騒ぎになるな。
近い内に別の街へ移動しようかな。
でもなんだかんだでこの国気に入ってるから、離れたくないんだよね。
そんなことを思いながら掲示板の前に来た。
「今日は何受けようか?」
「これなんてどうです?」
ウィルが1枚の依頼書を指差しながらそう言った。
「何々、Eランク討伐依頼。目標はオーク3体の討伐か。報酬は2400エルト、そういやまだオークと戦ったことなかったな。丁度いいからこれにするか、アレンもいいか?」
「構いませんよ」
「決まりだな」
そう言って俺達はアンナの前に来た。
「おはようアンナちゃん」
「おはようございますコータローさん、ウィルさん、アレン君」
「さっきギルドに勇者達が来たらしいな」
「そうなんですよ! 勇者様達を生で見れるなんて思いもしませんでした!」
「それは良かったな。俺もチラッと見たけど、人気者だったなー」
「コウイチ様とユウガ様、カッコイイですよねぇ〜……でも私なんかじゃ見てくれもしないでしょうね」
「そうか? 俺はアンナちゃんは可愛いと思うけどなー」
「なんでそう思うんですかー?」
「だって私、ハルカ様みたいに可愛いくないし、カエデ様やウィルさんのようにむ、胸も大きくないですし…だから私じゃ釣り合いませんよ」
「なにも胸のデカさだけが全てじゃないだろ?」
「そうですよー。私から見てもアンナさんは可愛いと思いますよ? だからもっと自分に自信を持ってくださいな」
「ふふ、ありがとうございます。さてと、仕事しなきゃ。依頼書を見せてくれますか?」
そう言われて依頼書を見せて、受注手続きを済ませると俺達は南の森の奥へと向かった。
そんな訳で現在、俺達は森の奥深くを歩いている。
オークは大体この辺りで出るらしい。
この世界でのオークは赤紫っぽい体色に肥満体型で豚の顔をしており、ゴブリンと同じく性欲が盛んで、とてつもない怪力を持っている。
これも定番と言えば定番だな。
「オークが相手とはいえ、何が起こるか分からんから用心しないとな」
「大丈夫ですよぉ、いざという時は私の闇属性魔法で何とかしてあげますよー」
「待て、それは最後の手段だ。迂闊に使って俺たち以外の誰かに目撃されたらマズイから俺が許可するまでは使うなよ?」
「えー」
「えーじゃないっての。もし使ってるのを見られてみろ、確実に報告されてお前は捕まって殺されるだろうし、俺とアレンも魔族に加担してると思われて終わりだぞ」
「分かりましたよぉ。私の所為でお兄さんとアレン君に迷惑をかけたくないですからねー………それに何人か私達を見てる人達がいますしねぇ」
ウィルの言う通り、さっきから何人か陰から俺たちを見ている奴らがいる。
「居るのは分かってますよー。隠れてないで出てきたらどうです?」
ジト目でウィルがそう言うと、数十人のガラの悪そうな男達がゾロゾロと出てきた。
これはもしかしてファンタジー物には定番の盗賊イベントか?
「へっへっへ、バレちゃあしょうがねえな」
「あなた達は盗賊ですね? ボク達に何の用ですか?」
「どうせ命が惜しけりゃ装備と金、そして女を置いてけってことだろ」
「へへっ、分かってるじゃねえかニィちゃん、その通りだぜ。なら断ればどうなるかも分かってるだろ?」
男達のリーダらしき男がそう言うと周りの男達が次々と剣を抜いた。
「あー、俺達はオークを狩りに来たんだ。悪いが仕事の邪魔をしないでくれ」
「悪いが俺達もこれが仕事なんでな。運が悪かったと思うんだな。だが今なら大人しく言うこと聞いてくれりゃあ命だけは助けてやるぜ?」
「こんな魔物共がいる森で丸腰で帰れってのか? 勘弁してくれよ。それに、命だけは助けると言ってるけどどうせ、口封じとして殺すんだろ?」
「そんな事はしないぜ? 俺はこう見えて約束だけは守る男だ。だからさっさと装備と金、そしてそこの女共を置いてとっとと消えな」
「だが断る! こいつらは俺の大事な仲間だ。お前らなんかに渡すかよ!」
「フゥ…そうか、それは残念だ。馬鹿な奴だ、大人しく言うことを聞いてればいいものを…お前ら、このニィちゃんを始末しな。間違えてもガキと女は殺すなよ?」
「分かってますぜ兄貴、こんないい女殺せるかよ。こいつは俺達の奴隷にしてガキは物好きな貴族にでも高く売ってやりましょうや。きっとお頭も喜びますぜ」
手下の1人がそう言うと盗賊達は下衆みた笑みを浮かべながら徐々に近づいて来た。
こいつら以外にも仲間がいるようだ。
「ど、どうするんですかコータローさん!?」
「どうするも何も、流石にこの人数相手は無理だ…」
「大丈夫ですよぉ2人共。私がなんとかしますから」
「出来るのか?」
「死霊魔法を使えばこの人達を倒すことが出来ますよー。だから使わせてくださいよぉ? 今なら私達と盗賊さん達以外に見られる心配はないですよ?」
「そうは言っても……」
「何を迷ってるんです? この状況を見てくださいよー、これだけの人数を相手に戦って勝てるとでも思ってるんですか?」
「……止むを得ないか…分かったよ、今回は特別だ。その代わり出来るだけ早く終わらせてくれよ?」
「分かってますよぉ。じゃあパパッと終わらせますねー……
我、冥府の扉開く鍵を手にし者。
我が魔力を糧に汝達を死の鎖より解き放つ。
亡者達よ、幽世より出でて我が僕となり、汝達が望むままに魂を狩れ。
『生きる屍達の悪夢』 」
ウィルが魔法を唱えると、周囲の地面に無数の魔方陣が出現し、そこからヒトの形をした何かが出てきた。
ヒトの形をした何かはボロボロの服を着ており、露出してる肌は血が抜けたかのように灰色で所々腐ってて、骨や内臓が見えてるゲームや映画とかで見るゾンビみたいな奴、ていうかゾンビそのものだ。
「な、なんだこいつら!?」
「何処から湧きやがった!?」
「や、やめろ! 来るな! 来るんじゃねえ!! ギャァアアアアアッ!!!」
「うわぁあああああ! 助けてくれェええええええ!!」
ゾンビ達は盗賊達に一斉に襲い掛かり、盗賊達は武器で応戦するが数の多さにあっという間に囲まれて盗賊達を貪り始め、断末魔が森に響き渡った。
「アレン、お前は見るな…」
「うん、アレン君には見せられませんねぇ…」
ウィルがそう言うとアレンの両目を手で覆い隠し、アレンも自分の手で耳を塞いだ。
この光景をまだ幼いアレンに見せるには早すぎる。
そして盗賊達の断末魔が消え、ゾンビ達の呻き声や咀嚼音が周囲から聞こえる。
「もういいですよ皆さん。あるべき世界に帰ってくださいな」
ウィルがそう言うとゾンビ達は地面に沈んで行き、群がっていたところを見るとそこにはさっきまで人間だったモノ…肉塊や骨、内臓がそこら中に転がっており、血の海が広がっていてかなりR指定な状態になってた
「う……これはグロいな…」
魔物の死体には見慣れてるが、人間の死体は見慣れていない…いや、慣れてはいけないんだろう。
死体をこのままにするのもアレだし、血の匂いで魔物達が嗅ぎつけてくるかもしれないので、携帯スコップで穴を掘って埋めた。
「これが私の死霊魔法の1つ、『生きる屍達の悪夢』です。既に死んでる人達を召喚して一時的に操る事が出来るんですよー」
「あの大量のゾンビ達を操る事が出来るのか。死霊魔法が禁じられている理由が分かった気がする」
「今のが死霊魔法の代表的な魔法です。他にも幽霊を呼んで憑依させることも出来るんですよー。流石に死者を生き返らせるのは無理ですどねぇ」
「そうなんですか。ボクは見てないので分かりませんが、大量のゾンビを召喚をするということはかなり魔力を消費するんじゃ……」
「そうですねぇアレン君、久しぶりにあれだけ召喚したんで、正直言うともう立ってるのもしんどいです……」
そう言うとウィルはへなへなと座り込んでしまった。
「おい、大丈夫か?」
「アハハ…ちょっと動けないですねぇ…死霊魔法はかなり魔力を使うんで凄く疲れましたー…」
と、言うウィルの顔は笑っているが額には脂汗が浮かんでいる。
「そうか、しょうがない。ちょっと場所を変えて休憩しよう。ほら、おんぶしてやるから乗れ」
「わーい、ありがとうございます〜」
そう言って、ウィルは俺の背中に乗っかった。
「よいしょっと(こいつ、地味に重いな)」
「………」ギュッ
「グエッ!?」
いきなりウィルの腕が首に絡み付いて来たと思うと首を絞められた。
「女性に向かって重いとは一体どんな了見なんですかー?」
背中に柔らかくぷよぷよで極上な感触が伝わると同時に、首を圧迫される事による窒息感と鈍い痛みが同時に俺を襲う。
「ーーーーがっ、はっ?!」
「ねぇお兄さん、私って口に出しちゃうほど重い? ねぇねぇねぇ?」
「ウィ、ウィルさん!? 何やってるんですか!?」
「何って、お兄さんが私の事重いって言ったからちょっとお仕置きしてるだけ、デスよッ!」
そう言ってより一層ギュッと首に巻き付いてる腕を締め上げる。
というか声に出てたのかよ……
喉を潰されているせいで声にならない絶叫しか挙げれない俺。
幸福と不幸、天国と地獄が一遍に襲ってくるという、なんとも不思議な体験だった。
いや、幸福は一時しかないのに対して死ぬ危険が付きまとっている時点で理不尽な事だ。
sugar&kill (シュガー&キル)
これが俺の今の状態だった。
これ以上やると死ぬかと思ったのかググッ、と最後により一層強く締め付けると首に巻き付いてた腕を緩めたウィル。
「ゴホッ…死ぬかと思った…」
「お兄さんが悪いんですからね? アレン君はこんな大人になっちゃダメですよ?」
「き、肝に銘じておきます」
まあ確かに今のは俺が悪いよな。
反省しながら俺はウィルを背負って、アレンに先導させ森の中を歩き始めた。
暫く歩くと少し広い場所に辿り着いた。
「ここなら大丈夫かな」
そう言って近くの木にウィルを下ろした。
「ウィルさん、これをどうぞ」
アレンが鞄からポーションを取り出してウィルに渡した。
「ありがとうアレン君。頂きますねー」
差し出されたポーションを一気飲みして暫くするとゆっくりと目を閉じた。
どうやら眠ってしまったようだ。
「寝ちゃったみたいだな。アレンも休んでていいぞ」
「いいんですか?」
「ああ、今の所魔物の気配とか感じられないし、今の内に休んどけ」
「分かりました」
アレンはそう言うと、ウィルの隣に体育座りして顔を埋めた。
さてと、俺も少し休むか。だけどいつ魔物が襲ってくるか分からんから、気を引き締めないとな。
そう思いつつ、ウィルの隣に座り腕時計を見ると11時を廻っていた。
そして20分程休んでウィルは全快とまではいかないが、ある程度は戦えるようになったので再びオークを探しに再び歩き始めた。
そして他の魔物を倒しながら、森の中を歩くこと30分。
何かの気配を感じたのか急にウィルが
「ちょっと止まってください」
と言った。
「どうかしたのか?」
「ええ、近くに何かがいますね。それに足音も聞こえるんですよー」
「足音が? 」
そう言って耳を澄ませてみた。
すると僅かにずっしりとした重たい足音が聞こえてきた。
「多分オークがいるかもしれない。方向は分かるか?」
「あっちの方みたいですねぇ」
「行ってみましょう」
アレンがそう言ったので俺たちはそこへ向かった。
そこには赤紫だかなんだか分からない肌色をした豚顏で人型の生物が4体いた。
「いたぞ、あいつらがオークか」
「そうですねー」
俺たちは少し離れたところの茂みからオーク達の様子を見ていた。
「おそらく食料の調達をしていたんでしょう。これから巣に帰るみたいですね」
オーク達は2mは超えてるであろう身長に下半身にボロ布を腰に巻き付けただけで斧や槍、矢など武装していた。
そしてビッグファンゴという、大きなイノシシ型の魔物を数体捌いて革袋に詰め込んでいた。
「どうしますコータローさん」
「どうするも何も俺たちの依頼はオークの討伐だから倒すしかないだろ。ウィル、調子はどうだ?」
「大分魔力は回復したので戦えますよー」
「よし、じゃあ俺が魔法で先制攻撃するから援護頼む。あと誤射だけは勘弁な」
「分かってますよぉ」
「分かりました」
「じゃあやるぞ。『火炎矢」ッ!!」
俺は火属性の中級魔法、『火炎矢』を弓を持ったオークの一体に放った。
燃え盛る炎の矢は見事オークの顔に突き刺さり、「ブヒャッ」という鳴き声とともにオークは倒れた。
側にいたオークがいきなり死んだ仲間を見て俺たちを怒りに満ちた目で見ると叫んだ。
「ブヒィ!!」
すると他のオーク全員が俺たちの方を向き、襲い掛かってきた。
俺は剣を抜いてオーク達に向かって走っていくと後ろから火の玉と風の刃が飛んできてオーク達の動きを封じた。
ウィル達の放つ魔法はオーク達の肌を焼き、切り裂くが、図体がデカイだけあってそう簡単には倒れなかった。
ウィル達が足止めしている間に1体のオークに近付き腹を横に切り裂いた。
「ブヒィイイイイイイッ!!?」
斬られた腹を押さえるオークの胸を剣で突き刺した。
「ブ…ヒィ…」
胸を押さえて膝間付くオークの首を剣で切り飛ばした。
残るは2体、うち1体はウィル達を先に片付けようと魔法を食らいながらも突進していた。
「させるか! 『地縛』!!」
地面から土で作られた鎖が現れ、オークの四股に巻き付き動けなくさせた。
オークは鎖を引き千切ろうとしてるが『地縛』は魔力を込めるほど鎖の強度が増すので、いくら怪力を持つオークでもそう簡単には引き千切れなかった。
「っ、ちょっとキツイですね…ッ」
「無理はするなよアレン。ヤバそうだったら引くんだ」
「大丈夫です! ボクはまだやれます!」
「ならそいつは任せた。俺はコイツを倒す」
「はいはーい」
ウィルの返事が聞こえたのでもう片方のオークに集中する。
後ろからオークの悲鳴が聞こえるが気にしてる場合じゃないので無視した。
「(オークの攻撃は全て大振りだから躱せる。その隙に攻撃すれば大丈夫なはず)」
そう思うとオークが斧を振り下ろしてきたので横にステップして回避した。
重たい金属音と共に斧が叩き付けられ地面がちょっと抉れた。
「今だッ!!」
空振りした斧を持ち上げる前に足を斬りつけて膝をついた所を豚顏の眉間に剣を思いっきり突き刺した。
「ブ…ギャ…」
顔を蹴って剣を抜くとオークは後ろに倒れた。
そしてもう一度顔を突き刺しておく。念には念をだ。
「こっちは終わったがそっちも……終わったみたいだな」
ウィル達の方を見るとそこにはオークの手足と胴体、首がバラバラになって地面に転がっていた。
「おいおい、なんでこうなってるんだよ?」
「それはですねー、このオークが私を見て発情しておっきしてるのが気持ち悪かったので八つ裂きにしただけですよー」
と、ニッコリと笑いながら言うウィルの手にはあの禍々しいデザインの大鎌が握られていて、刃にはオークの血であろう緑色の液体が滴っていた。
「マジかよ、てかお前オークを達磨にして胴体真っ二つにして首チョンパとかエグ過ぎるだろ」
「敵に情けは無用ですよー」
「いやそうだけどさ……まぁいいや。取り敢えずその鎌は使うなとは言わないけど出来るだけ控えてくれよ。あと他人にも見られないようにな」
「はーい」
「そう言えばアレン、随分と落ち着いてるんだな」
「初めは驚きましたけど、ウィルさんが魔族だと思うと納得しちゃいました」
「そうかー。じゃあ討伐証明部位剥ぎ取って帰ろうか」
そう言って俺たちはオークの討伐証明部位である鼻を剥ぎ取った。
「よし終わったな。さあ帰ろう…ってアレン、何やってんの?」
アレンはオークの死体の股間辺りで何かしていた。
「何って、オークの睾丸を剥ぎ取ってるんですよ」
『へ?』
俺とウィルは同時にそう言った。
「ア、アレン、睾丸ってアレだよね? 金◯の事だよね?」
「な、なんでそんな物を剥ぎ取ってるんですかー?」
「知らないんですか? オークの睾丸は精力剤の材料になってそれなりに高い値段で買い取ってくれるんですよ」
「あ、そうなんだー。それは知らなかったな」
「オークはゴブリンより絶倫なので一部の人の間では人気なんですよ」
そう言いながら慣れた手つきで作業するアレン。
あいつも肝が据わってきたな。
ちなみにオーク達は戦闘中でもヤル気満々だった。ナニがとは言わない。
チラリとオークの股間を見てみるとデカくてグロテスクなアレが天を向いていた。
「ウィル、アレを見てどう思う?」
「すごく…大きいですねー…」
なんで死んでるのにまだおっきしてるんだよ…そう言えばオークは嗅覚が優れている所為か、雌のフェロモンとかそう言うのを嗅いで発情してるとか教官が言ってたっけな。
だから今回もウィルの女性の匂いとかを嗅いだんだろう。
「お待たせしました。さあ帰りましょう」
アレンがそう言って、俺たちは今度こそギルドへと戻った。
ちなみに盗賊達が使っていた武器は武具屋で買い取ってくれるかもしれないので一緒に持ち帰った。
オーク達が使ってた武器はそれなりに重量があって運ぶのがダルいので壊せる奴は壊して地中に埋めた。
次回はもう少し早く投稿出来るように努力します。




