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剣の訓練開始

鬼教官登場

翌朝。


時が経つのは早いものでこの世界に来てから今日で一週間が経とうとしている。


朝飯を食った後、アンジェの案内で騎士団の訓練所へ向かっていた。


「今日から騎士団で剣やその他の武器の扱いを学んでいくのかー」


「コータロー様は武器の扱いがおありですか?」


「いや、ないな。というのも俺が居た国では数百年前は所持してもよかったんだが、時代が変化するにつれて、武器の所持が禁止になる法律が出来たんだ」


「そうなのですか。コータロー様の世界は平和なのでございますね」


「そうでもないさ、俺の世界でも戦争は起こるし、政治関係や土地とかの領有権とかで対立している国だってあるからそれほど平和ってワケじゃないさ」


「コータロー様の世界でも争いがあるのですね…平和な世界は存在しないのでしょうか?」


「さあ? 1つくらいはあるんじゃないか?」


平和な世界が存在するか否か神のみぞ知るみたいな?


なんて思ってる内に訓練所へ着き、アンジェとはそこで別れた。




訓練所には既に勇者達が来てた。


彼らの目の前には褐色の肌で赤い短髪に同色の顎髭がもみあげと繋がってて、顔に斜めに大きな傷跡がある歴戦の戦士を思わせるおっさんがいた。年は40代前後だな。


「おーし全員揃ったな、俺はこの城の騎士団長を務めているバーンズだ」


とバーンズと名乗ったおっさんはそう言った。


「先ずは自己紹介してもらおうか。じゃあ先ずはお前から順に名乗っていけ」


「はい。俺はコウイチ・ヒラノと言います」


「俺はユウガ・カザマです」


「私はハルカ・ヤナギです」


「私はカエデ・アマシロと申します」


「俺はコウタロウ・アサヒナ。今日はよろしくお願いします団長」


「コウイチにユウガにハルカにカエデにコータローだな! お前らの事は国王様から聞いている。俺が1人前の剣士になれるように鍛えてやるぞ!」


『よろしくお願いします!』


勇者4人は綺麗にハモって言った。俺はタイミングを逃したのでお辞儀だけした。


「いい返事だ気に入った! さて、先ずは準備運動としてここを10周してもらおうか!」


『へっ!?』


「ファッ!?」


じゅ、10周!? 陸上競技場のトラックみたいな広さの訓練所を10周も走れと!?


俺に死ねと申すか団長!?


「さあ走れ!」


じょ、冗談じゃない…っ! 体力が持たないって!


「おい! 何ボサッと突っ立ってんだ! 彼奴らはとっくに走ってんぞ! お前もとっとと走れ!」


そう言われて団長にケツ蹴っ飛ばされたので渋々走り込む。


勇者4人は既に訓練所の周りを走っていた。


「(勘弁してくれよ団長さんよぉ…)」


そう思いながら俺は彼らに追いつこうと走る。




「(ああーもう嫌だ…帰って寝たいぃ〜…10周とかマジ無理〜)」


心の中で愚痴をこぼしながらも、なんやかんや走って今4周目なんだが、平野と風間は全くペースを落とさず俺の100m先くらい、柳は75mくらいの所をキープして走っている。


やっぱ若いもんは体力あるなぁ…ってお爺ちゃんか俺は。


俺もひょろひょろな体系なのが嫌なので、それなりに鍛えてたから体力は大丈夫だと思ってたのに、4周目の半分を過ぎた所でちょっと息苦しくなってきた。


「幸太郎さん、大丈夫ですか? 」


隣を走ってる楓嬢が心配そうな目で俺に言う。彼女もまだ体力に余裕があるようだ。


「大丈夫だ、問題ない…と言いたいところだけど正直キツイ…息が苦しくなってきた…」


このまま10周走りきれるか不安になって来た。


それでもなんとか気合いと根性で耐えて勇者4人の最後尾を走ってる楓嬢と並んで走ってる。


「もう少しペースを落とした方がいいんじゃ…」


「そこまでする程辛くなんかないよ、楓こそ俺の事は気にせずに先に行っていいんだぞ?」


「私にはこれくらいのペースがいいんです」


「…そうですかい」


そうそう、言い忘れたけど勇者4人は制服のままだが、走りやすいように男子はブレザーを脱いでズボンの裾を捲り、女子もブレザーを脱ぎ、ベストは着たままだが柳だけ、パンチラ防止の為か短パンみたいなのを履いている。


まあ女子は汗かくとブラウスが透けてブラが見えちゃうし、スカートも太ももの中盤辺りしかないから激しい動きするとちょっと見えちゃうかもな。


「無理はしないで下さい幸太郎さん。貴方は私たちと違って年齢が一回り違いますから、体力に差が出るのは仕方の無い事ですよ」


楓嬢の言う通り、輝かしい十代後半の若者と違って二十代後半の俺とはやはり体力に差が出るのは当然だ。


「それは分かってるさ…だけどさぁ…女子には負けたくないという、下らん男のプライドってのがあるのだよ…」


「幸太郎さん…」


「大人の意地って奴を見せてやる!」


そう言って俺は少しペースを上げて柳を追い越し、平野達の少し後ろまで追い付いた。


「ハァ、ハァ、ハァ…あとは…このままの状態を維持すれ…ば…っ!」


俺がそう言うと平野達がペースを上げたのか、それとも俺のペースが落ちたのか、彼らが遠のいて行き、柳にもあっさりと越されてしまった…ちくしょう…





それから俺はなんとか10周を走り抜いたがヤバイ…意識が朦朧としてフラフラする。


やっぱ体力落ちたのかな俺…ハァ…歳を取るってイヤね、もう…


俺がもうヘトヘトなのに対して勇者4人は全く汗をかいておらず、平然とした表情のままだ。


「(なんでそんな平然としてるんだ…バケモンかこいつら…)」


楓嬢は俺が心配なのか、最後まで俺のペースに合わせて隣を走ってた。


それがなんだか彼女に申し訳なくて自分が惨めに思えてくる。


「おらおらコータロー! これくらいでへばってんじゃねーぞ! 今からお前らには模擬戦をやってもらうがお前らは剣を扱った事があるか?」


「はい、俺は嗜む程度でした」


「俺もほんの少しだけスポーツで経験しました」


「私はないです」


「私もありません」


「右に同じ……」


俺に剣道とかの経験はない。小学校の頃にチャンバラごっこはしょっちゅうやってたけどね。


あの頃は楽しかったなぁ。


「そうか…クレア、ちょっとこっちに来い!」


団長は少し考える仕草をすると誰かの名前を呼んだ。おそらく名前からして女だろう。


すると俺の思った通り、1人の女騎士が他の騎士との模擬戦を止めてこっちに歩いて来ると団長の横に立った。


彼女は赤いショートヘアーで青い瞳に凛とした顔立ちでなんというか、軍人のような雰囲気を持つ女性だ。


年齢は19くらいで俺より大きいという事は無いが180超えてるんじゃね? ってくらいの長身で鎧を纏ってるからわからんが胸のサイズは普通だろう。


「バーンズ団長、何の御用でしょうか?」


と敬礼ながら女騎士は団長に問う。


「おう、来たかクレア。この2人は今回召喚された勇者のコウイチとユウガだ」


「よろしくお願いしますクレアさん」


「よろしくクレアさん」


平野と風間が軽く会釈する。


「コウイチにユウガだな。私の名はクレア・シュトラウスだ。よろしく頼む、私に敬語は使わなくていいぞ。敬語を使われるとこそばゆくなるんだ。あと、名前も呼び捨てでいい」


「そ、そうか。じゃあ改めてよろしくクレア」


「よろしく頼むぜクレア」


「ああ、こちらこそ」


そう言って3人共握手をする。


「クレア、突然で悪いがこの2人と模擬戦をしながら剣の指導をしてやってくれ」


「了解しました。ではついてこい、どれくらい実力があるのか見てやろう」


そう言ってクレアは2人を連れて何処かへ行った。俺と柳と楓嬢は団長の前に立たされたままだ。


ちなみに体力は全快とは行かなかったけどある程度は回復した。


「さて、お前ら3人は今年入った新人達と一緒に剣の使い方から学んでもらおうか。他の騎士の時間を取る訳にもいかんだろうしな」


確かに団長の言う通り剣の扱いも知らんぺーぺーなんかの為に態々、実力のある騎士を教官役にする訳にもいかんだろう。


だったら新入り達と一緒に学んだ方が手っ取り早いだろ。


そんな訳で俺達3人は新入り達がいる場所に向かった。





新入り達のいる場所に行ってみると、いかにも新入りですって顔の人達が20人位いて、模擬戦や案山子相手に剣を振ったり、素振りや筋トレをしていた。


そんで俺達が入ると彼らが一斉に俺達の方を見るもんだからちょっと気まずい。


まあそんな事を気にしてる暇はないし、適当な場所に立つ。柳と楓嬢は不安なのか俺の側から離れなかった。


それにしても若い奴ばっかだなー、俺と同世代の奴はいないのかな?


見た感じ新入り達を見ると10代の少年少女達ばかりで俺みたいな奴は1人もいない。


又、新入り達の大半が男で、女の子は3、4人しかいない。


新入り達が俺達、特に楓嬢と柳の方を見てヒソヒソと話している。


恐らく勇者がここに来るとは思っていなかったんだろ。


そう思ってると訓練所の扉が開き1人の男が入って来た。


新入り達は咄嗟に訓練を止めて整列し始めたので、俺達は一番後ろに立った。


「よお新入り共! 今日も厳しく指導してやる!」


『よろしくお願いします! 教官!』


と新入り達は一斉に教官と呼ばれた男に礼をした。何も知らない俺達は立ったままだ。


「よし、お前らはいつも通り訓練をしていろ! そこの3人、ちょっとこっちまで来い」


呼ばれたので教官の前まで行く。新入り達は既に解散して訓練を再開している。


「俺は新入り達の教育を担当してるアレックス・ジェイソンだ」


アレックスと名乗った男は30代の渋い印象の男だ。


「俺はコウタロウ・アサヒナです」


「私はハルカ・ヤナギです」


「私はカエデ・アマシロと申します」


「おう、よろしく。コータローと言ったな、見たところお前とは歳も近そうだから、俺に敬語は使わなくていいぞ。お嬢さん方も普通にタメ口でいい」


「ではお言葉に甘えてそうさせてもらう。あと念のために言っとくが俺はまだ25だ」


「なんだ思ったより若いな」


「おい、それは俺が30代のおっさんに見えたと言いたいのか? 俺はまだ25だぜコンチキショーが!」


「ハハハッ! スマンスマン! 悪気は無かったんだ許せ!」


と教官は笑いながら言う。随分フレンドリーな教官だな。


俺はあまり自分の顔を見た事が無いが、実年齢より老けて見えるのかね?


「大丈夫ですよ、幸太郎さんは十分若いですよ」


と、楓嬢は言った。


「ありがとうと言いたい所だが、さりげなく心を読まないで欲しいな楓ちゃん」


柳は笑いを堪えているようでプルプルと震えている。


「さて、お喋りはここまでにしよう。お前らの事はさっき団長から聞いた。なんでも今回召喚された勇者なんだってな」


と、教官は急に真面目な顔になって言ったのでこっちも真面目な顔になる。


「俺はちょっと違う、この2人は勇者だ」


「そうなのか? まあいい、勇者だろうが何だろうがここではそんなのは関係ない、新入り達と同じように鍛えてやる。だからさっさと自分の身は自分で守れるくらいに育ってくれよ。さて、早速訓練を始めるがお前ら剣を持ってないな。俺が持ってくるからちょっと待ってろ」


そう言われて俺達はその場で待機した。





暫くすると教官が3本の剣が入った鞘と剣帯を持って戻って来た。


「待たせたな、これが騎士団に入った際に支給される剣と剣帯だ」


そう言いながら俺達に剣と剣帯を渡してきたので早速装着した。


「よし、付け終わったな。では早速訓練に入るぞーーーーー」


こうして、俺達の剣の修行が始まった。





数時間後・・・・・・





「疲れ…た…」


そう言って俺はベッドに倒れ込む。


「お疲れ様ですコータロー様。夕食をお持ち致しましょうか?」


「そうしてくれ。腹ぺこだからいつもより多めで頼む…」


「畏まりました。直ぐにお持ち致します」


そう言ってアンジェは部屋を出て行った。


ヤバイ…今日は疲れた、マジで疲れた、俺の人生の中で1番疲れたかもしれない。


支給品の剣を貰った後、教官から剣の扱いを一通り教わって模擬戦する事になったんだが、俺には相手がいなかったので教官自ら相手をしてくれた。


そこまでは良かったんだよ。


そんでいざ、模擬戦となるとさ……





「なんだその腑抜けた剣の振りはっ!? その剣は貴様の腐れ◯◯じゃないんだぞっ! もっと気合を入れろっ!」


だの


「パパの◯◯がシーツのシミになり、ママの◯◯◯に残ったカスがお前だ!」


だの


「ハァ…ハァ…ハァ……」←俺が息切れしてる時


「何がハァハァハァだ! 喘いで誘っているの貴様!?」





と、どっかで聞いた事のある台詞を言うもんだから、俺はいつの間にかパ◯ス・ア◯ランドのMCRDに来てしまったのかと思ったよ…


あの教官、前世が某鬼軍曹だったんじゃね? って思うくらい罵声を浴びせられた。


兎に角、騎士団での剣術の訓練は初日からハードだった…教官も「中々根性あるじゃねえか! 気に入ったぞ!」と言ってたからな。


明日も教官は俺の模擬戦の相手をするんだろうな…そう思うとなんだか泣きたくなってきた。


だが、泣いていられない。あの新人達が弱音を吐かずに頑張ってるんだから俺も頑張らないと。


ホント、今日は疲れた。このまま寝てしまいたいが、直にアンジェが飯持ってくるし、風呂も入りたいし服も洗いたい。


そうそう、この世界の洗濯って洗剤入れるだけで自動で洗ってくれて瞬時に乾かしてくれる魔導具があるんだってさ。


なんでも歴代の勇者の1人が作ったんだってさ。凄いな歴代の勇者。


俺が今着てる服は俺が風呂に入ってる間にアンジェが洗濯してくれてるのさ。


ここまで来ると魔法って何でもありだなって思えちゃうよ。


「コータロー様、夕食をお持ち致しましたので開けて下さいますか?」


アンジェが戻って来たようだ。


「おー今開けるよ」


と、言ってドアを開けるといつもより大きめのトレーを持ったアンジェが入って来て、テーブルの上に置いた。


トレーの上にはいつもより量が多い料理が皿に盛られていて、肉料理なんかを見てると涎が出てくる。


「頂きます!」


俺は手を合わせて料理を食べ始める。


原ペコな所為か、いつもより美味かった。


空腹は最高の調味料とはよく言ったものだ。





夕食を済ませた俺は風呂に入り、アンジェに服とパンツを洗濯してもらった後、部屋に戻って明日に備えてさあ寝ようかと思ったが、剣の手入れをまだしてないことに思い出したので、現在剣の手入れをしている。


この剣に俺の命を預けてるんだから手入れを怠る訳にはいかない。


そうして暫く黙々と作業している時だった。


コンコン コンコン


「ん?」


と、窓を叩くような音が聞こえたので窓の方を見るとそこには……


女子高生が着る濃紺のブレザーの制服に黒いローブのフードだけを被った銀髪の少女、ウィルがいた。


「ファッ!?」


なんでまた来てんのォォォォォォォオオオッ!?


予想外の事に俺は驚愕した。


「ま、待て、きっと疲れてるんだ。だからアイツの幻覚を見るんだ…うん、そうだ。そうに違いない!」


そう言って、作業を辞めて寝ることにしてベッドに入った。


コンコン! コンコン!


さっきよりちょっと強めで窓をノックしている。


もう一度窓の方をみると、ウィルは何か言っていた。恐らく開けろと言ってるんだろう。


が、俺は見てない…何も見てないし、聞こえてもないぞ!


そう言いつつ、もう一度チラッと窓を見るとムスッとした表情のウィルが窓から遠ざかって、ライダーキックのような飛び蹴りをしてきたではありませんか!


「(コイツ!? 窓を蹴破る気だ…ッ!!)」


そんな事をされたら絶対に面倒な事になるので慌てて窓のカギを開けた。


が、時既に遅し。


「グホォッ!?」


窓を開けた直後に彼女のライダーキック? が鳩尾にクリーンヒットし、俺は派手に吹っ飛ばされた。


「が…うぅ…!」


苦しさと痛みが同時に伝わってきて、ゴロゴロと転がる。


鉄っぽい素材で出来てるブーツで鳩尾を蹴られた痛みって分かる? え、分からない?あらそう…兎に角、かなり痛いんですよ。


「イテテテ…死ぬかと思った…」


ようやく痛みが止んだ鳩尾を擦りながらよろよろと立ち上がる。


「お兄さんが悪いんですよぉ? 外は寒いのに窓を開けてくれなかったからです」


「この野郎…ッ!」


自分は悪く無いとはっきり言ってる魔物っ娘を睨み付ける。


が、逆に殺されそうなぐらいな眼光で睨み返されたので急いで止めた。


初めて会った時の優しそうな印象とは全然違う顔だった。魔族って怖いなー…


彼女の手に大鎌は握られておらず、青白い人魂? も周りに浮かんでいない。


「はぁ〜外は寒かったです〜」


と言ってウィルは俺に抱き付いてきた。


「ちょ!? い、いきなり抱き付くな!」


「えへへ~お兄さん暖かいですねー」


と、ニッコリと笑みを浮かべ、スリスリと俺の胸板に頬をすり寄せて、ギュッと強く抱き締め、彼女の豊満な肉体が押し付けられる。


「お兄さんいい匂いがしますねー、なんだか落ち着きますー」


「え…ホント?」


俺って多分ヤニの匂いしかしないと思ってたんだけど?


「ええ勿論、これが男の人の匂いなんですね〜」


「はいはい、わかったからいい加減離れてくれんかなウィルちゃんよ? 苦しいから」


そう言って彼女を引き離そうとする。


「あ〜ん、お兄さんのいじわる〜」


「いいから離れろよ!? 大体お前、一体何しに来たんだよ!? 用が無いなら帰れ!」


「そんなっ、酷いっ! 私と付き合って初めてを奪っておきながら別れようだなんて………私のことは遊びだったの!?」


と、ウィルは急にヒステリック顔になってそんな事を言い出した。


「お前急に何言ってんの!?」


「私の淡い乙女心を弄ぶだけ弄んで、飽きたらすぐにポイするなんて最低っ!! 変態っ!! 早漏れっ!!」


「誰が変態野郎だこのバカ! しかも早漏れじゃないし!? 大体、お前とは一度もニャンニャンしてないどころか付き合ってすらいないから!? 頼むから少し黙ってくれ!」


もうやだこいつ…何なの一体? 何でこんな奴が八大魔将軍とか言われてるの?


「もう、お前一体何しに来たんだよ…からかいに来たんなら帰ってくれよ、今回の事は黙っててやるからさぁ…」


そう言いながら額に手を当てて椅子に座り込む。こいつとの会話は疲れるわ…


「そうですねぇ、飽きたのでもう止めましょうか。今回は伝えたい事があって来ました」


と、ヒステリックな顔から急に元の表情に戻るウィル。


「伝えたい事? 話の内容によってはお前を捕えなきゃならないんだけど?」


「あら、SMプレイですかー? お兄さんならされてもいいですよー?」


「ああもう!なんでそうなるんだよ!? そういうことじゃないっての!」


ちっとも話が進まない…ていうかこの世界にもSMプレイがあるの?


「兎に角、いい加減伝えたい事があるなら教えてくれよ。 お前との会話は疲れるわ…」


「私はお兄さんと話せて楽しいんですけどねー。さてお兄さん、伝えたい事ですが悪いお知らせと物凄く悪いお知らせの2つがありますが、どちらから聞きたいですか?」


「どっちも聞きたくない。なんで両方悪いお知らせなんだよ、普通は良い方と悪い方じゃないの? 」


「残念ながらそうじゃないんですよー、じゃあ悪いお知らせから話しますねー」


「はいはい…もうどうにでもなれー…」


俺は溜め息まじりにそう言った。


「実はですねー、クレイフォスって国を知ってますかー?」


「クレイフォス? ああ、人間こそが神に選ばれた存在だと思ってる皇帝が治めてる軍事国家だろ? そこがどうかしたのか?」


「そうそう、そこの皇帝が治めてる国がですねー、勇者さん達が召喚されてからなにやら怪しい動きをしているんですよー」


「怪しい動き? 例えば?」


「んー詳しく知る事は出来ませんでしたけど確か、魔王軍を駆逐するための兵士を作る為に勇者さん達の体が必要と言ってましたねー、一体どういう事なんででしょうかねー?」


「彼奴らを使って魔王軍を倒す為の兵士を作る……なんとなく分かったかも」


「え? もう分かったんですか? 私に教えて下さいな」


「俺の推測だけどな。あの国は多分、勇者の体を使って勇者と同じ人間を複製というか人体錬成か? みたいな事をして勇者の軍団を作る。または交尾をさせて勇者の血を引いた子を量産しようとしてるのかも」


「おー成る程ー」


ウィルはパチパチと拍手をしている。拍手する程か?


「あくまで俺の予想だ。複製っていっても、この世界でそんな技術があるのか不明だし、子供を量産するにしてもそれには長い時間が必要だしな、結局答えは分からん。まあでも確かに悪い知らせではあるな」


赤の他人とは言え同じ日本人だからなー、嫌われてるけど。


楓嬢とも知り合いになっちゃったし、見て見ぬ振りってのはちょっとアレだな。明日、王様に話してみようかな。信じてくれるか分からんけど。





「取り敢えずクレイフォスが勇者達を利用しようと企んでるのは分かった。さて、あまり聞きたくないけど物凄く悪いお知らせを教えてくれ」


「凄く悪いお知らせはですねー、信じられないかもしれませんけど、魔国バルシオンは現在内戦が起こってます」


「はっ? 内戦だって? どういうことだ?」


「実はですねー、魔王様がこの世界を支配すると考えているのに対して、人間や亜人達との共存を考えている人達がいましてー、それで支配派と共存派の内戦が国内で起こってるんですよぉ」


「なるほど…でもなんか信じられないな。ていうかなんでそれが物凄く悪いお知らせになるんだ? 俺達からすれば魔王軍の戦力を減らせる良いお知らせだと思うんだが?」


「あ、そうですねー、お兄さん達から見れば良い知らせですねー間違えちゃいました。物凄く悪いお知らせというのは私達から見ればの事ですねー」


そう言うウィルの顔を見る。嘘は言ってないようだがイマイチ信憑性が湧かない。


しかし内戦か…もしこの話が本当なら支配派が勝てば戦力は減って、魔王もまだ完全に力を取り戻してないし、内戦で力を消費するだろうから倒しやすくなるかもしれない。


逆に共存派の連中が勝てば勇者達が戦いに行かずに済むし、魔王の脅威はなくなって人類は光を取り戻す。


俺としては後者の方がいいな。魔王なんか気にしないでこの世界でのんびりできるんだからな。


「なあ、その内戦が始まってから何日経ってるんだ?」


「んー? えーっとですねぇ、もう3日くらい経つんじゃないでしょうかねー?」


「なんだ最近じゃん。それでお前はどっちなんだ? 支配派か? それとも共存派か? まあ八大魔将軍様だから魔王側だと思うが」


「私ですかー? 私はですねー、どっちにも付いていませんよー。言わば傍観者的な立場ですねー、勿論四天王や他の魔将軍は魔王様側についてますけどね」


「そうなの? それはまた何でさ」


「この際だから言いますけど私は魔王様の配下なんかになったつもりは全くないんですよー、八大魔将軍という立場には居ますが、四天王や他の魔将軍からはあまり良い目で見られてないんですねー。見た目が人間だからか、他の魔人と比べて扱いが酷く、色々と嫌がらせをされてたんですよー」


「そうなのか?」


「yes、魔王様や他の魔人達は人間達や亜人達を嫌っているようですが、私は違いますよ? まあ最初は魔王様の言う通りにしてましたけど、暫くしてなんだかバカらしくなって、どうでもよくなってきたんですよー。だからバルシオンがどうなろうと私の知った事ではありませんし、私は私が自由に生きて行ければそれでいいんですよねー」


と、ウィルはそう言った。


「そうだったのか。しかし共存か、ホントにそんな事が出来るか?」


「さあ? 私には分かりませんねぇ」


「そっか…なあ、お前はそれでいいの?」


「あんなキモい外見の人達がどうなろうと私には関係ありません。魔王とかクソ食らえです」


ホントにコイツは魔族なのか? なんか段々普通の人間に見えてきたぞ?


「まあ、俺も魔王とか滅んで欲しいとは思ってるからいいんだけどさ。あと、女の子がクソ食らえとか下品な言葉を使っちゃいけません」


「ちなみにあの夜から私は魔王城には帰ってませんから魔王様…もう様付けする必要も無いですね。魔王は勇者がどんな人達か全く知らないです」


「ホントに見に来ただけだったんだな、ぶっちゃけ言うと嘘だと思ってた」


「あ、ヒドーい、私は嘘はつきませんし、約束もちゃんと守る女ですよぉ」


ムスッとした表情でそう言うウィル。


「わ、悪かったよ。じゃあこれまでの事を整理すると、お前は魔王の元にいるのが嫌になって、情報を持って俺の元に逃げて来たみたいな感じで見ても良いのか?」


「そんな感じですねー」


「そうか……じゃあお前は俺達の味方と見ても良いのか?」


「そうなりますねー、味方と言ってもお兄さん限定ですから」


「え? そりゃまたなんでだウィルちゃん?」


「だってお兄さんだけが普通に私とお話してくれるんですもの。だからお兄さんにだけ色んな事を教えて上げようと思ったんですよー、お兄さん以外の人は私を見るな否や『魔族だっ!』と言って襲いかかって来ましたからねぇ」


そう言うウィルの顔には寂しさが見える。


いや、あの時はまだ魔法を使えるどころか、剣術すら習ってなかったし、お前が変な結界を張ってた所為でどうしようもない状態だったんだけどね? これで何度目だろうか?


まあこいつと話して分かった事はこいつは今まで辛い日々を送ってきたという事だろうか。


「苦労したんだなお前も」


「でもこれからは自由です。だからお兄さん、私と本当の意味で友達になってくださいな」


そう言ってウィルは手を差し出して来た。握手してくれと意味だろうか?


なんかこの瞬間って俺が人間を裏切って魔族と手を組むような感じだな。なんか不安になってきた。


ま、なんかあったらその時になってから考えるか。


「…はぁ、分かったよ。俺がお前の友達第1号になってやろうじゃないか」


そう言いながら差し出された手を握った。


「ホントですか? 嬉しいです〜!」


そう言ってウィルは再び俺に抱きつき、俺は彼女の頭を撫でた。

個人的に教官のイメージCVは某蛇の声のあの人だと思ってます。

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