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九尾の孫 【勇の章】 (3)  作者: 猫屋大吉
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治癒

治療に専念

むつ市役所脇野沢庁舎前の駐車場に緊急設置されたテントに蔵王丸が横たわっている。

診察台には乗らない大きさなのでそのまま床に寝せている。

無くなった片腕の断裂面から真新しい肉芽が出て来ていた。

外科医2名と妖仙の弦泊それに看護師5名が居た。

当然、外科医師は、人間である。

弦泊は、空狐に頼まれやって昨日やって来た。

昨日は、海上自衛隊大湊基地に居て、大事を聞きヘリに同乗して来た。その際に同行させた3人の弟子を湯野川温泉の本部に行く様に言い付けた。

「これで安心じゃ、儂は薬を用意するで傷口だけこれを掛けておいてくれ」と言うとサッサとテントを出て行ってしまった。

「妖怪なんて本当に居たんだな」

「あぁ、それに今の仙人とか言っていたぞ」

「うーん、其れにしてもこの治癒力は、凄いな。トカゲのしっぽみたいに再生してる」

「再生スピードも半端じゃない」

医師2人は、腕組しながら見守っている。

「この方ってまさか、天狗?」

「だよね、私も絵本か何かで見た覚えがあるよ」

「襲われませんよね、いきなり神隠しとか」ビクビクしながら看護師が作業している。



特殊突撃部隊と鵬辰乗った高機2台は、武器の補充と調達、それに体制の立て直しを計る為に海上自衛隊大湊へ向かっていた。



一方、家ノ辺を飛び立ったヘリUH-60J、5機は、湯野川温泉、本部へ向かった。

到着してすぐに手術が始められた。

本部の医療班に運ばれた白隙、槃蔵、特殊突撃部隊員は、妖仙の弦泊の弟子3人に其々、治療されていた。

特殊突撃部隊員に付いている医師が

「右手をどうする」と隊員に聞いている。

「無くなった物は仕方無いでしょ」

「いや、妖の手に変えればお前さんのイメージ通りの手になるが、義手でも良いし、どっちにするかね」と又、怪しい事を言う。

「妖の手? 何処に有ります?」

「なぁに俺達の先生のコレクションにある」

「デメリットは?」

「お前さんが死んだら返して呉たら良い。但し、お前さんのイメージで変形するから精々気をつけろってところだ」

「解った。其れ取り寄せてくれ」

その医者が空間に手を掛け右側に開く動作をした。

「待っておれ、直ぐに取ってくる」と言って空間の中に消える。5分もしないで空間からその医師が赤黒い3本指の手を持って戻って来た。

「そ、それ3本しか指がないじゃないか」

「これか、これゃぁ鬼の手だよ。妖だったらこんな上物は、使わねぇ。お前さん胤景いんけいの部下だろ、珍しいじゃねか、あいつが普通の人間を使うなんてのわ」

言いながら何かをその腕に塗っている。

縫っている部分からミミズの様な物が出て蠢いている。

隊員は、その光景を見てぎょっとし、顔色を変えながら

「まぁ良い。俺も男だ。さっさと遣ってくれ」と反対側を向いた。

「一寸、辛抱しな」と言い、隊員の口にタオルを押し込んだ。

「舌を噛まねぇ様にな、用心だよ、用心。さぁ、遣るぞ」

医者が切れた手首に鬼の手を押し当てた。

鬼の手からミミズの様な物が出て、絡み付き隊員の腕とむにゅむにゅと同化して行く。

3本あった指が、5本に変わり、人間の手の様になってくっついて行く。

「ぐぁ、ぐぁぎゃぎゃが」と隊員が呻く、叫ぶ。

四肢が突っ張る。

口から泡を噴いて気絶した。

医師は、顔色一つ変えずに口に詰めたタオルを抜き取り、

「ほぅ、大した奴だな。もう、馴染んでるか」

隣の医師を見て「こっちは、終わったぞ。手伝おうか」

と言いながら隣のベットへ移動して行った、

隣には槃蔵が寝て居た。骨は取り除かれていた。

担当の医師が、茶碗や湯飲みを砕いて其処に何やら怪しげな黄色の粉を入れている。

しゅーじゅーじゅわーと言う音と異様な臭いが立ち込める。

「出来た。これでこいつは、完治だ」

言い傷口に手を突っ込んでその怪しい薬を塗り込んで行く。

山盛りに塗り込んだ後、腹周りに晒を巻いて行く。

その隣の入り口近くに寝て居る白隙は、更に悲惨な状況だった。

担当医師が色々な薬品を試して毒素の種類を見極めようとするが、見つからない。

担当医師が治療を終えた残りの2人の医師に状態を説明する。

「とにかくこの患者、妖気が全く足りない。今は、冷凍状態で鎮静しているが、解凍し始めると一気に毒素に侵されて消えて無くなってこの毒素を持った相手に同化してしまう」

「胤景に妖気を集める様に言うしかないな」

「よし、私が説得しに行こう」テントを飛び出して行った。

テントから戻った医師は、胤景、白雲、凍次郎、優介、優子を連れて戻って来た。

「この姫様がこの3人から少しづつ妖気を引き出して患者に移し替えるそうだ」

戻って来た医師は、疑心暗鬼に他の2人の医師に言うと

「そんな事出来たら俺達、要らねーんじゃねーか」完全に疑っている。

「おい、お前ら一寸どいてろ」凍次郎が言い、場所を空けさせる。

「姫、御願いします」胤景が言う。

「上手く出来るか・・・とにかく遣ってみます」優子が言い、歌を歌い始める。

「あたしらのも使いな、姫」と魏嬢と白愁牙も現れる。

歌を歌いながらゆっくりと頷く。

感情が籠って行く。

胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙が額から汗を流し、はぁはぁと息が荒くなった。

優子の体の周りを白く輝く靄が掛かった。

優子が白隙の胸に手を置く。

白隙の顔色が、土色からどんどん明るい色に変わる。

同時に靄が消えて行く。

優子が手をどけて一歩後ろに移動すると医師が一人割り込み、白隙を見ると、

「信じられん、妖気が十分になっている」と驚愕の表情で言い、

「でもまだ、毒素が全然減っていない」と言う。

「優子、歌え」優介が言い、優子の手をにぎり、優子の片手を白隙に置き、自身の手を白隙に置いた。

丁度3人で輪を作った形にする。

「イメージを、毒素を追い出すイメージを持て」優介が言う。

優子は、頷いてから歌い始める。

医師3人は、その光景をじっと見つめる。

胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙たちは、呼吸が収まって来たがそのままテントの床に座ったままだ。

床に座ったまま見ている。

優介の体中から黒い靄が出て白い光に覆われ消えて行く。

歌が終わり、優子は、優介を見ると顔や首に血管が浮き出て黒い靄が出続けていた。

「まだ、手を離すな」優介が優子に言う。

黒い靄が出なくなり、優介が座り込む。

優子が手を放す。

医師が一人割り込んで白隙を診て

「毒素が消えている。後は安静にしてれば勝手に治る」声を震わせて言った。

「どうやったんだ」医師の一人が優介に問いかけると

「優子が白隙の毒素を押し出し俺の中へ入れた。俺は、そいつと浄化しただけだ」

と言うと胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、優子に軽く握り親指を立てた右手を突き出し、

「優子、やったな」嬉しそうに笑った。

「それが中司家の力の一部なのか」医師の一人が呟く。

「いや、これが俺達の」凍次郎が言い掛けると

「兄貴だ」胤景、白雲、凍次郎、魏嬢、白愁牙、優子が一斉に言って笑った。

医師達も「全員、助かって良かった」とほほ笑んだ

ベットの上の3人が、看護師は、全員、魏嬢の手の物でそのにベットごと奥に運ばれて行く。




弦泊がテントを潜り、帰って来た。

手に碗を持ち、何やら磨り潰しながら鼻歌を歌っている。

医師が、「それ、何ですか」と聞くが、

「秘薬じゃ、仙人以外は、門外不出での。すまないね」

と言われてしまった。

よっこらしょっと言いながら蔵王丸の横に腰かけ、

碗に手を突っ込みその内容物を千切れた腕の根本にべったりと塗りつける。

医師達と看護師達も蔵王丸の傍で見ていた。

付根に出来ていた肉芽が、スルスルと伸び始めた。

伸びるのが止まると今度は、震えだした。

震えが暫く続くと震えながら膨張を始める。

丁度、腕の太さになった時に膨張がとまり、今度は、先端に肉芽が出来、しだいに赤ん坊の手のひらが出来上がった。

また手のひらが、震え、ぷっくりと膨れて来て片手と釣り合う大きさになり止まった。

「あと、3時間ってとこじゃの」と弦泊は、立ち上がり腰をとんとんと叩きながら出て行ってしまった。

「なんだ、あの薬は」医師の一人が言った。

「オカルト映画みたいに腕が出来た」

「やっぱり、怖いよ」看護師達は、控え室に戻って行く。

「しかし、あれで本当に動く手なのか」医師が言いながら控え室に頭を抱えながら向かう。



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