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九尾の孫 【勇の章】 (3)  作者: 猫屋大吉
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索敵

トラブルが発生しておりました。カラスが電信柱の光ファイバーの上で餌を啄み、切られてしまいました。NTTさんが、寒い中、夜まで掛かって復旧して頂きました。

蔵王丸の前に質素な衣を纏った修行僧の成りをした僧が居る。

蔵王丸は、その人物の前で土下座し、額を地面に張り付けながら少し体を震わせていた。

修行僧の成りをした僧が地蔵菩薩だ。

「その様な禍が、人の世に現れると言うのか」地蔵菩薩が言い、

「嘆かわしい事よ」慈愛に満ち、しかし強烈な意志を湛えた相貌で蔵王丸を見ながら続ける。

「人が其れを阻止する為にお前達と力を合わせ戦っておるのじゃな、お前達のその思いを聞いて断る道理も無い、よかろう、探せ、その憑代が見つかったら持って参るが良い、私が、慈悲を持って冥土へ届けよう」

「この様な身分の物の願いを聞き届け頂き、有難き幸せに御座います」

「その人間が好きか」

「はい」はっきりと即答した。

「お前達に好かれる人間、一度、見てみたいものよ」

「我々妖も愛されております。友と呼んで頂きました」

「ふむ、良い。行くが良い」

「はっ」短く返事をし、また、額を地面に擦りつけ礼をすると立ち上がって再度礼をし、掻き消えた。

「良し、散って探せ。お前達の感知能力を最大にして岩、木、草、残らず当たれ。行け」

蔵王丸は、10人の隊員に言い、索敵を開始した。


恐山は、そのカルデラ形状で宇曽利湖うそりこを中心とした外輪山の総称となっている。

宇曽利湖の水質は、良く知られている。PH3.5前後の酸性水で湖底からは、硫化水素が噴出し、湖水に溶解する事によって強酸性が促進されている。

湖の場所により酸性濃度に落差があり、強い場所では、酸性度はpH4〜6程度にまでなっている所もある。

湖から最も近い外輪山は、鶏頭山で湖面に面している。

蔵王丸は、太鼓橋から鶏頭山をまずは、探索する事にした。

探す相手は、生物体であれば全く動く事の無い物。

憑代、分身としか解っていない。

霊場寺院内は、妖し物達は、普通、入れない。

玉賽破で有ろうと決して入る事が出来ない。

隊員は、2人一組で開始した。

太鼓橋の表裏、総門前、駐車場、塀や堀を飛び越え五智如来前を通り極楽浜へ

血の池地獄前に差し掛かる。

血の池前で経を唱えている修行僧がいる。

横眼で見ながら鶏頭山へ向かう。

徹底的に調べる。

石ころから岩の下、堀の中、塀の端、潰さに見て回る。

ない、居ない・・・・・焦りが募って来る。

(優介さんの推理に間違いは無い筈、理論として成り立っている。俺達は優介さんを信じる)

蔵王丸は、独り言を言う。

横で聞いて居た隊員の一人が、「間違い無く、居てますよ、私達は、蔵王丸様を信じています。其れと同じぐらいに優介様を信じています」と言った。

蔵王丸は、隊員の背中を軽く叩き、「そうだな、もう一度折り返して探してみよう」と言った。

太鼓橋へ向かって探索を再度 開始する。

血の池地獄前に差し掛かる。

血の池前で経を唱えている修行僧がいる。

(何かな、妙に気に成る)独り言を言いながら蔵王丸が近づいて行く。

修行僧の正面に立つ。

動じない、経を唱え続けている。

「失礼」と言い、蔵王丸が編み笠を取る。

顔が無い。修行僧には、顔が無かった。

つぎの瞬間、修行僧が錫杖を持った手を蔵王丸にまっすぐに突き出す。

蔵王丸が吹っ飛んだ。考えられない。

170cmそこそこしか無い修行僧が、身長210cm、260kgの蔵王丸を片手で突き飛ばしたのだ。

蔵王丸が叫ぶ。「こいつだ。見つけた。気をつけろ」

修行僧の周りを取り囲む。

目も鼻も口も無い顔を持つ修行僧が、短く「ハッ」っと叫ぶ。

取り囲んだ10名の隊員達が其々、後ろに吹っ飛んだ。

蔵王丸が、唇を噛む。その血を飲み込む。

蔵王丸の体が膨れ上がった

蔵王丸の顔が、変貌して行く、目が細長く切れ長になり吊り上る。

その奥にある目が赤く燃える。

顔色が赤みを帯びて行く。

鼻が少し前へ伸びる。

動きも変わる。走るから滑る へ変わった。

背中から真っ黒な羽を纏った翼が出来ていた。

正に天狗その物だ。

天狗となった蔵王丸が胸の前で印を結び、何かを唱えた。

周りの空間が歪んで行く。

真っ暗な空間が蔵王丸と隊員達、修行僧を包んだ。

隊員達の背中にも真っ黒な羽を纏った翼が生える。

蔵王丸が「行くぞ、これでも食らいな」人刺指と中指をまっすぐ伸ばし軽く握った左手を目の前で水平にし、素早く左に広げる。

修行僧の周りに旋風が渦巻いた。

旋風の内部に稲妻が無数に発生した。

風が異常な吹き方をする。

風の吹く空間が四角い箱の様に変形して行く。

箱の中でグェっと言う声、音が聞こえた。

胸骨が潰れたような声と音だ。

左手を水平にしたまま 目の前に戻す、人刺指と中指をまっすぐ伸ばし軽く握った右手を上に上げ顔の前にゆっくりと降ろす。

顔の前で左手の人刺指と中指、右手の人刺指と中指が交差した。

「云!」短く叫んだ。

箱が8つに割れてバラバラに転がる。

両手をまっすぐ前に伸ばし、手のひらを前に向け両手を其々水平にした。

空間が元に戻って行く。

修行僧の居た場所には、8つの半透明な箱が転がっていた。

蔵王丸、隊員達の姿が戻って 隊員達が箱に走り寄り、箱を其々が布に包む。

手際が良い。慣れているのであろう。

「さぁ、地蔵菩薩様に礼を言いに行こう」蔵王丸が言い、地蔵菩薩の元へ走る。

(優介さん、流石です。推理、完璧でした)蔵王丸が心の中で呟いた。


地蔵菩薩の前で蔵王丸が跪き、その後ろに隊員10名と狐2匹が並んで土下座している。

「かような物が御りましたので御約束通り捉えて参りました。索敵の場を与えて頂けた事、御礼申し上げます」蔵王丸が地に額をつけたまま言う。

「この様な物が、居たか。わかった。約束通り、坊が慈悲を持って冥土へ届けよう」

「よろしく御願い申し上げます。では、我々は、彼の地へ赴きますので之にて失礼致します」

「息災でな、御人にもよろしく言っておいて下され」地蔵菩薩が言うと

「解りました。では、これにて失礼致します」

蔵王丸以下隊員10名、狐2匹の姿が消えた。


CH-47J、双発の運搬ヘリの傍に蔵王丸以下、隊員10名、狐2匹が出現した。

蔵王丸は、狐に言い、「憑代確保、処理は、地蔵様に任せた」と葉書きを書き転送させ、ヘリに乗り込み発進させた。




縫道石山の山頂で玉賽破の耳から血が噴き出した。

「くそ、見破った奴がいる」玉賽破が呻き、

「それにあの煙、誰かが気付きやがった。おい、正体を探れ」と横の悪狐に言った。

悪狐は、海岸の方を見ながら 「仏ケ浦でも戦闘らしき騒ぎになって居ます」と答える。

「もう、此処に居ても意味が無い、妖気遠隔吸収のシステムを壊された。天ケ森にはがしゃどくろがいるから手こずるはずだ、仏ケ浦にいくぞ」

玉賽破は、空を駆ける。悪狐が地を蹴って追いかける。

「あのしっぽ、どうなってるんだ」と悪狐が呟く。

仏ケ浦の上空に到達する。

下を見ると自分と同じ妖狐が、自分の誘いに応じた妖し達を惨殺している。

玉賽破の目が血走る。

「このやろう、そうか敵は、妖狐かよ」と言うと仏ケ浦に降下して行く。




総合指揮を執っている胤景いんけいの元に葉書きが届いた。

(憑代確保、処理は、地蔵様に任せた)と表題に書いてある。

胤景は、良し、と呟きながらその後の文章を読んで、

「兄貴、白雲さん、白禅さん、魏嬢ぎじょうさん、玉賽破の憑代を捕らえ地蔵菩薩様が冥土への搬送を約束して頂けたそうです」と言うと

「まずいな、思ったよりも早かった。玉賽破は、どっちに行くと思う」白雲が答える。

「どうだろうか、天ケ森、仏ケ浦のどっちに本隊かがわかりません」胤景が言う。

魏嬢が、「そんなの簡単じゃない。恐山の憑代を確保し、天ケ森を攻めているのは、玉賽破も もう知っているわ。それに仏ケ浦でも戦闘になっている事もね。どっちが戦闘範囲が広いと思う。そう、縫道石山から見て規模が大きいのは、天ケ森側。玉賽破自身、敵が何者か解らない状態で規模の大きい戦闘地に行く筈無いわ。必然、選ぶのは、仏ケ浦」と言った。

鐸閃たくせんに葉書きを入れろ。北渡は、戦闘中の筈だ。玉賽破がそっちに行く。一旦、仏ケ浦を中心に取り囲めっと書いて呉れ」優介が、椅子から立ち上がって言うと

「優介様、鐸閃から葉書きです。玉賽破が仏ケ浦上空から降下中、との事です。

「まっずいな。北渡は、優等生過ぎる。おい、白雲、俺は、先にいくぞ」

「一寸、待ってくれ。ここは、蔵王丸さんに行って貰います」胤景が言う

「なぜ、胤景?」白禅が聞くと

「現地には、北渡さん、鐸閃さんが居る。妖狐と土蜘蛛。ここへ蔵王丸を持って天狗。どんな力を奴が持っているのか洗い出しに掛かろうかと思います。手の内が解ってからの方が有利な布陣を引く事が出来ます」胤景が答える。

「そ、それじゃ、彼らが危険過ぎる」優介が言う。

「彼らならこの作戦の意味、解って呉れますよ」胤景が答えた。



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