嚮後(きょうご)
最終話になります。
338号線を高機動車、高機6台が南下している。
乗員達の顔には、笑顔が張り付き、其々の車両で話が弾んでいる。
次のコーナーを曲がればむつ市役所脇野沢庁舎が見えて来る。
田ノ頭で338号線を右方向の道に入ると正面左手にむつ市役所脇野沢庁舎が見えた。
林の中を抜け、左に曲がりむつ市役所脇野沢庁舎駐車場に車を乗り入れて行く。
双発輸送ヘリCH-47Jが2機待機していた。
優介達23人が高機から降り、CH-47Jに向かう。
テント類は、全て積載されていた。
CH-47Jに乗って来た他の隊員達が、優介達の乗って来た高機に乗り込み338号線へと出て行く。
現場指揮官が、胤景に湯野川温泉基地の撤収が完了し、全員が大湊基地へ帰還している事を告げる。
胤景が、報告を兼ね大湊航空隊基地に行き、全員と合流の後、大湊地方総監部に出頭すると答えた。
胤景は、優介の方を向き、「兄貴、御足労ですが、私と一緒に総監部に出向いて貰えませんか」と聞くので優介は「事後処理が必要だからな、良いよ」と答えた。
CH-47J2機に其々が、別れて乗り込んだ。
優介達の乗った機には、すでに妖仙の弦泊、外科医2名とそれに看護師5名が乗船していた。
胤景を先頭に、蔵王丸、白雲、魏嬢、優介、優子、凍次郎が、乗り込む。
看護師の1人が、九尾様だっと騒ぎ、白雲、凍次郎の周りに集まった。
優介が「九尾は、モテるよな」と笑いながら優子に言うと、
「だってねー、妖の中で一番恐れられてる2人だもんね」笑いながら言う。
凍次郎が「姫、勘弁して下さいよ」と言うと弦泊が走り寄り、「主が優介殿、でこちらが優子殿であられるか、儂は、天日殿より依頼された妖仙の弦泊と言う者、天日殿がべた褒めされておられましたぞ」と優介、優子に言った。優介は「いや、あの方は、大げさで、困ります」と笑いながら返答する。
優子の前に看護師が2人来て、「貴女が【姫様】ですか」と聞くと優子は「ただのあだ名ですよ」と答えると胤景、蔵王丸、白雲、魏嬢、凍次郎の5名が口を揃えて
「あだ名等では御座いません、立派な我らの姫君です」
「迷彩服を着た姫が何処にいますか」優子が立ち上がる。
「だから我ら妖一族の姫君なのです。戦得ぬ姫等我らには無用、戦えて尚、我らへの気遣いがある御方、その心が無ければ我らは、認めぬ。優子様、貴女は紛れも無く我らの姫君です」と魏嬢が言った。
余りにきっぱりと言われ優子は「はぁ~、姫ねぇ、解りましたでも其れ以上に友ですよ」と言った。
(妖狐一族、土蜘蛛、大蛇に天狗の姫かぁ~)とウンザリした顔を上げ、座り直した。
「あの、御聞きの通りです」優子は看護師達に小さく告げた。
揺れる機内で優子は、優介の手を両手で優しく挟み、目を瞑った。
父が死に、色々な人達と会い、優介を探し出し、優介に惹かれていった今年の冬、優介がその生涯を通して守り続けて来た妖達との信頼関係、神様達との出会い、そして生まれた妖達との気持ちの交流、彼らは、本当に純粋だった。彼らの社会を少し見ただけであったが其処には人間社会以上の厳しさがあった。その厳しさ故の愛情、信頼に対する深さもあった。日本古来より伝統として培われた【結び】と言う言葉の深さ、そして其れを凌駕する【絆】に昇華させた優介。今にして思えば其れこそが世界有数の自然と対話して来た民族、日本人としての在り方なのかも知れない。それらが結実してこの戦いの中で私の中に【勇気】が生まれたのだろう。この旅は、優介と歩んだ旅だった。優介が思い出させて呉れた。優介が大切にして来たこの思いを此れから私も大切にして行きたい。そう思うと嬉しくて涙がこぼれた。その涙は、優子の頬を伝い、顎から優子の手の甲に落ち、指の隙間から優介の手へ染み込んでいった。
「ありがとう、優介」優子が優介に聞こえる程度の小さな声で言った。
初夏の日差しが優しく機内を照らしていた。
読んで頂き、ありがとうございました。また、外伝なんかも考え中です。