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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅱ章 初仕事は失敗?成功?
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Ⅴ 初仕事 Ⅴ

その頃クロムとファイは、飛び出したきり戻らない心音を心配し、ファーム内を駆け回っていた。

いくら外よりはファーム内の方が安全と言えど、心音は此処へ来てまだ日が浅い。

そんな中、奥の入り組む場所にでも入ったらと、クロムには少し焦りが見えていた。


(ココネ…いったい何処に!)


「クロムさん…。ん?」


その時、クロムを心配そうに見つめたいたファイが、何かを見つけ空を見上げた。

すると大きな影と人影が降下していることに気付く。


「クロムさん!あそこ!」


ファイの指す方向へ、ハッとして目を向けるクロム。その正体に気付くとホッとしたように息を吐いた。


「あっちは、第四エリアだね。…いくよ、ファイ」


「はい!」


クロムの言葉に大きく返事をしたファイは、グリフォンの大きな影が第四エリアの花畑の方へ降下していくのを見つめる。そして駆け出すクロムの後を追いかけた───


「…し、死ぬかと思った」


グリフォンの背から滑り落ちるようにして花畑に足を着けた心音は、そのまま座り込んだ。

そこへ後からやってきたシルバは着地すると、呆れたように心音を見下ろした。


「大袈裟だな」


「もう! シルバのばか!」


(あんなに怖いなんて…もっと早く言ってよ!)


ぷくっと頬を膨らませた心音に、シルバは耐えられないというように吹き出した。


「人の顔見て笑うとか、失礼だよ!」


「ふっ、すまない。…ただ」


「ただ?」


首を傾げ聞き返した心音に、シルバが何か言いかけた時。


「ココネー!」


「あ…クロム! ファイ!」


自分を呼ぶ声が聞こえ、心音はシルバから其方へ目を向ける。

シルバはというと、邪魔されたことに少しムッとした表情を浮かべると、遠くのクロム達に視線を移した。


そんな二人の視線を受けながら、クロムとファイは心音のいる場所まで駆け寄り、彼女の隣にいるシルバの姿を見ると驚いた表情を浮かべた。


「あれ。シルバ、来てたの?」


「ああ、用があったんだが…また出直す」


クロムの質問にそう答えると、シルバは心音へと視線を移した。


「自分の意志は、ちゃんと伝えろよ」


「あ…」


じゃあな。と背を向け、軽く手を上げると、シルバは何かの呪文を唱え、一瞬にして姿を消した。

その光景に目を丸くしている心音に、クロムは詰め寄ると両肩に手を置いた。

そして視線を合わせるようにしゃがむと、心配そうに彼女の瞳を見つめた。


「心配した。どこも怪我してない?」


「はい…。ご心配おかけして…すみませんでした」


ペコッと頭を下げる心音にクロムはやっと安心したように笑った。

だが、クロムの後ろに控えていたファイは怒ったように声を荒げる。


「すみませんでしたじゃないだろ!! そいつとの別れは決まってたんだ。今更、逃げ出して…クロムさんに心配かけさせんなよ!」


「…ごめん、なさい」


ファイの言葉に言い返すことが出来ず、心音はしゅんと俯いた。

それは心配をかけてしまった事への反省と罪悪感。そして…少しの嬉しさがあった。


(自分を探してくれる人たちがいるって…温かい…)


昔、裏切られた時の傷からか、人を信じられなかった心音。

けれど此処にきて、実優と共にいた時よりも、凍りついていた心は溶け始めていた。

だからなのか。こんな時に不謹慎だと思いつつも、心音は自然と笑みが浮かんでしまう。


「ファイは、ああ言ってるけど…ココネのこと凄く心配していたんだよ」


「はい…」


クロムに覗き込まれ、心音は頷く。

そんな彼女の表情が優しく笑っているように見え、クロムは首を傾げた。


「ココネ…なんで、笑ってるの?」


「なっ!? お前、俺の話を真面目に聞いてなかったのか!?」


「ち、違うよ! そうじゃなくて…」


どう伝えようか悩む心音だったが、素直に自分の想いを言ってみようと思い、ゆっくりと話し出した。


「ファイの言ったこと、ちゃんと伝わったよ。心配かけて、ごめんなさい。それから、逃げ出した事も謝ります。

でも、この子のお世話は私がやるって言ったから! だから……最後までこの子のお世話をやらせて下さい! もう、逃げたりしません! お願いしますっ!」


シルバに背を押されるように、心音はハッキリとクロムとファイに告げた。そして深々と頭を下げる。

その近くでは心音の真似をしグリフォンも頭を下げていた。


「「………。」」


その様子にクロムとファイは拍子抜けしたような表情を浮かべた。

だが、やがてその表情は一緒に働く仲間を見るような、優しげな笑みに変わる。


「うん、グリフォンの世話は心音の仕事だよ。最初から変える気はない。

でも、逃げたくなったり、困ったことがあったら…いつでも僕を頼ってくれると嬉しいな」


「クロム…」


「ふん。誰だって、初めから上手くできる奴なんかいないんだよ! …だから、手伝ってやるって言っただろ。

別れが辛いのは、俺も知ってるから…その…独りで抱え込むんじゃなくて、俺達に言えよな」


「ファイ…」


包み込むように優しげな眼差しを向けるクロム。恥ずかしそうに頬を染めながらも自分を気遣ってくれるファイ。

そんな二人の温かい言葉に、心音は熱くなる目頭に構うことなく微笑んだ。


「ありがとうっ…ございます!」


その笑顔にクロムとファイは安心したように見つめ合うと微笑を浮かべた。


「じゃあ家に戻っ…じゃない。…帰ろう」


スッと手を差し出すクロム。


「はいっ!」


その手を迷うことなく握った心音に、隣からはファイの抗議の声が上がった。


「あぁ! ず、ずるいぞ!」


「じゃあ、これでいい?」


「え…っ!?」


クロムとは繋いでいない方の手で、心音はファイの手をぎゅっと握った。

その行動に驚き固まるファイを引きずるようにして、クロムと心音は歩き出した。


(俺はクロムさんと手を繋ぐことがずるいって言ったんだけど…。

……手、意外に柔らかいんだな。…って、何考えてるんだよ、俺っ!?)


我に返ったファイは顔を赤くしながら、二人の隣に並びそんな事を考えていた。


背の高さの違う三つの影が、夕方のオレンジ色の光に映し出される。


「もう、夕方ですね」


(いつの間にか、こんなにも時間が経ってたんだ…。)


ぼんやりと背後から照らすオレンジ色の光を見て呟いた心音に、クロムが答える。


「そうだね。帰ったら、昼ご飯じゃなくて夜ご飯だね」


「誰かさんが、走って行っちまったから、食べ損ねましたもんね」


クロムに返事をするように、ファイはニヤリと意地悪な笑みを心音に向けた。


「うっ…すみませんね! 私だってお腹空いたわよ!」


「逆ギレかよ!」


「ふ、はははっ。じゃあ今日はたくさん作ろうか」


「ピュイー!」


言い争う心音とファイに笑い声を上げたクロム。そんな三人の横を並ぶようにして歩くグリフォンは「自分の分もー!」と鳴いた。


──親子や兄弟ではない三人。けれど数週間前に出会ったばかりの彼らの間には、既に家族のような「絆」が存在したのだった。


 * *  * *


見知らぬ食材が、クロムの手によって鮮やかな料理へと変身するのを横で見ていた心音は驚きと歓喜の声を上げる。それを受け、クロムではなくファイが自慢気に胸を反らす。


(ファイが作ってる訳じゃないのに…ふふっ)


それを見て笑みを浮かべる心音を横目で見ていたクロムは、最後の料理を完成させた。


──全体的に白を基調とした室内に、木で出来た長方形のテーブル。

そこには色とりどりの料理が並べられ、心音達はそれぞれの席に着いた。


「いただきます!」


心音が手を合わせそう言うと、向かい側に座るファイが呆れたように息を吐いた。


「毎回食事の時に言うけど、それってお前の世界では当たり前なのか?」


「ん? そう…だね。小さい頃からの習慣みたいなものだから。なんか、こう言わなくちゃ、みたいな感覚はあるね」


微笑を浮かべ、側のパンに手を伸ばした心音に、クロムは興味深けに尋ねた。


「それは…何か意味があるの?」


「意味ですか? それはですね、食べ物に感謝して頂くという感じで…。

肉や魚は生き物の命を奪って頂いているものだから、それを忘れず、感謝して食べなさい。…って意味だったと思います」


心音の言葉に、クロムとファイは目の前の料理を見つめた。

そして心音がしたように手を合わせる。


「「いただきます」」


そして二人揃って、そう言ったのだった。


「命に感謝する。…ココネの世界は、とても良いところだね」


ニコッと微笑みかけるクロムに、心音は嬉しそうにパンを頬張った。


──そうして談笑しながら食事は進み、片付けまで終えると、クロムは心音に「召喚獣」について話し出した。


「まず、此処が召喚獣育成ファームだということは教えたよね。けど、こういうファームは此処以外にもあるんだ。」


「え、そうなんですか!?」


(てっきり此処だけなんだと…)


驚きの声を上げる心音の前にファイがカップを置く。

そしてクロムと自分の分のカップも置くと、クロムの隣に座った。


「まあ、魔法の無い世界から来たお前は知らなくて当然かもな。

このファスティアス国ではこのファーム・クロムだけだ。けれど他国では幾つもこういう仕事がある」


「へぇ…!」


(他のファームかぁ…見てみたいかも!)


キラキラと瞳を輝かせ、好奇心を隠すことのない心音に、話が逸れるのを回避しようとクロムが口を開く。


「そんな中でも、僕のファームは“変わっている”って言われているんだ」


「変わっているって?」


苦笑するクロムに心音が首を傾げていると、ファイが不気味な笑い声を上げた。


「フッフッフ…違うぞ、ココネ!!」


「な、何が…?」


(ファイがなんか気持ち悪いよ! イケメンが台無しだよ!)


心の中でツッコミを入れつつ、心音はファイの言葉を待つ。


「クロムさんのファームは変わっているんじゃない! 他のファームが真似できないほど凄いだけだ!」


「ファイ、落ち着いて」


クロムが制すも、ファイは興奮したように声を大きくする。


「落ち着けませんよ! いいか、よーく聞けよ! クロムさんのファームはな『ファイブマジックソウル』なんだぞ!」


「…ファイブマジックソウル?」

 

ファイの言葉に、心音は単純に「五つの魔法の魂」…的なことを思い浮かべていた。

しかしそれは、クロムによって覆される。


「えっとね、正確には“五法魂魔育成(ごほうこんまいくせい)”と言うんだけど…」


「いや、長いし言いにくいからファイブマジックソウルで良いじゃないですか!」


「と、まあこんな感じにファイが勝手に名前を付けたんだけど。五法魂魔育成っていうのはね…」


さらりとファイの発言を交わすクロムに感心しつつ、心音は彼の話に耳を澄ませた。


──五法魂魔育成。

それは召喚獣を育てるファームの中でも、数えるほどしか存在しない珍しいファームの事を言う。

正確にはそのファームでの育て方にある。


この世界の召喚獣には、それぞれ持って生まれてくる「魔力」が存在する。

それは獣自身の体力や精神と同じ様に、魔法を使うための糧として利用できる力だ。


だが一つ変わっているのは、その“魔力”とは別に、生まれ持つ「才能」のようなものがファームで産まれる召喚獣にはあり、それには大きく「五つの種類」があることだった。


何ものにも負けない速さを宿す「(クイック)

どんな傷でも癒してしまう「(ヒール)

固く破れない結界や壁すら破壊してしまう強さに秀でた「(アタック)

どんなに強い力でも破れない結界を張り、自らも強固な守りで護る「(ディフェンド)

そしてその全てを身に宿す「(オール)」。


その全ての獣を育てるファームの育成を、五法魂魔育成という。


普通ファームでは、五種類のうちの一つだけを選び、育てて売る。それが基本だった。

またはグリフォンやドラゴン、珍しい召喚獣だけを確定して育てるファームもある。

どのファームも大変なことに変わりはないが、五つの別の種類の召喚獣を育てることはファームをやる者からは尊敬に値するのだ。


──「と、まあ…こんな感じかな」


(つまりファイの言うとおり、変わっているんじゃなくて凄いんだ!!)


クロムの凄さを知った心音は、尊敬の眼差しでクロムを見つめた。

その視線に気恥ずかしそうに頭を掻いたクロムは、思い出したかのように何かの書物を机の上に置いた。


「と、とりあえず…これは僕とファイがまとめたマニュアル本みたいな物なんだ。

此処にさっき言った五つの力について書いてあるから」


「あ、はい。……ん?」


クロムに差し出された本の表紙を見て、心音は首を傾げて固まってしまう。


「どうかした?」


「あの……読めません」


「え?」


「は?」


今度はクロムとファイが目を見開いて固まる。

心音はもう一度本の表紙を見つめる。

そこには英語のように見えて、何か違う文字が並び、心音には読めるものではなかった。


(そう、だよ。居心地がよくて、忘れてたけど……此処は異世界なんだから)


心音は知らず本を握る手に力を込めていた。

それを見ていたファイが、ひょいっと本を心音から奪いページを捲り始めた。


「読めないんなら、俺が読めばいいだろ。…ちゃんと、聞いとけよ」


「!…うんっ」


何気ないファイの気遣いに胸を温かくさせた心音は、カップへと手を伸ばした。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


誤字脱字などございましたら、お知らせ頂けると幸いです。

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