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召喚獣☆育成ファーム  作者: カノン
第Ⅱ章 初仕事は失敗?成功?
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Ⅲ 初仕事Ⅲ

「いくよ!」


「キュイィー!!」


心音の大声にグリフォンは彼女たちから離れるように坂を駆け下りる。

その間にふわふわとした翼を徐々に広げ、風を読む。そして、坂を降り切る間際、翼を一気に大きく広げ、グリフォンは空へと羽ばたいた。


「やったあー!!」


「おお…なかなかだな」


凛々しく、誇り高く堂々と飛ぶグリフォン。

その姿にファイは関心したような声を上げ、心音は練習時のことを思い出し、少し涙ぐむ。


(…私が、育てた命。初めて出会った、違う世界の動物。飛ぶ姿が、こんなにも綺麗だなんて…)


昨日のことだ。心音は疲れて寝てしまう前、ファイと一緒にグリフォンの飛ぶ練習を終わらせていた。

心音自身飛んだ事がないので、最初こそどう教えたらいいか分からなかったが、今までも何度かそういう獣に関わってきたというファイがアドバイスをくれたのだ。

そして少しの間だけなら、グリフォンは空を飛べるようになっていた。


太陽の光を浴び、グリフォンは心音との練習時よりも、高く高く上っていく。それは「グリフォン」という気高き空の獣の、本来の姿だと思わせる飛翔だった。


やがて一陣の風と共に、グリフォンが心音達の前に降り立った。


「クロムっ…どう、ですか?」


すり寄ってきたグリフォンの頭を撫でながら、心音は空を見上げたまま動かないクロムへと声を掛けた。


「うん…すごい。すごいよ、ココネ!」


心音の言葉に彼女を見つめたクロムの瞳が、まるで子供のように輝いていた。

それは心音の努力の成果と、初めてのお世話でここまで育てたことへの驚きと嬉しさが滲んでいた。


「…っ! ありがとうございます!!」


そんなクロムの表情に、心音は嬉しそうに頬を緩めた。

だが一人、クロムの嬉しそうな顔に嫉妬のような感情を抱く人物がいた。


「ふん、まだ飛んだだけじゃないか。これからだよ、忙しくなるのは!」


少し棘のあるファイの言葉に、心音は笑顔から一変、不安げにクロムを見た。


「大丈夫。…ファイが手伝ってくれるから」


「へ!? また、俺ですか!?」


「はい! よろしくね、ファイくん!」


「お前も、何勝手に話進めてるんだよ!!」


ファイの叫びに、心音とクロムが声を上げて笑った。


「そうだ。…ココネ、これを」


そう言うとクロムは心音の後ろに回り、彼女の髪を持ち上げた。

そして何かを首に掛け、持ち上げた髪をそのまま前へと垂らし、うなじあたりで何かの金具を留めた。


「これは…?」


掛けられた青い宝石を持ち、不思議そうに見つめる心音。

だが、クロムの行動を不思議そうに見ていたファイが驚きの声を上げた。


「それ…! 職業認定証ファスタル!? しかも、サファイヤ!?」


「ファスタル??」


首を傾げた心音を真似し、グリフォンも首を傾げクリクリとした大きな瞳をファイに向ける。


「あー…なんだ、その…ファスタルってのは、要するに働いて良いですよみたいなものの証明証みたいな物だ」


(みたいなって言うのが多いけど、つまり私が此処で働いても良いってことの証だよね!)


ファイの説明に一人納得していると、クロムが笑みを浮かべた。


「それはね、昨日シルバが“わざわざ”届けにきたんだよ」


「え、シルバが?」


シルバが届けに来たことが信じられないというように目を丸くする心音に、クロムはさらに笑みを深めた。


「うん。ついでに、心音の様子を見に来たけど、寝ていたからがっかりして帰っていったよ」


「え!? …そ、そうですか」


(それって…私を心配して? そうだったら、嬉しいな)


シルバの心遣いと、やっとファームで働くことを認められたように感じ、心音は職業認定証ファスタルに向かって微笑んだ。

そんな彼女の表情をクロムは微笑ましげに見つめ、ファイはというと複雑な表情で見つめていた。


「あ。じゃあ、もしかして…」


心音はベンチに置かれた青いマントを手に取る。

起きた時、自分に掛かっていたマントが誰の物か分からなかったのだ。


「これって…やっぱり?」


「そうだ。シルバのだ!」


何故か怒っているファイの返事に、心音はシルバに悪いことをしてしまったと、マントを胸に抱く。


「じゃあ、これ返さないと!」


「大丈夫だよ。シルバなら、そう遠くない日に“絶対”来るから」


「え、でも…」


クロムの言葉にどうしようと迷っていると、ファイがじれったいというように心音の腕を掴む。


「クロムさんが大丈夫って言ってんだから、大丈夫だっての! それより、グリフォンの世話をさっそくサボる気か? まだまだやることはあるんだからな!」


「あ、うん! 分かったから、そんなに引っ張らないで!」


強引に心音の腕を引き、ファイは草原を駆け下り、その後にグリフォンが続く。

クロムは心音に手渡されたマントを見つめると「今日も、良い天気になるな」と一人呟いたのだった。


―――「ハッ…ハックション!」


「シルバ隊長? 風邪ですか?」


「いや…」


(またクロムの奴が、ろくでもないことを言ってるんじゃないだろうな?)


クロムたちがシルバの話をしていたその頃。

巡回中だった仮面騎士団のシルバが「クシャミ」をしたことが、その後騎士団の中で「風邪を一度もひいたこともなく、何事にも動じない完璧なシルバ隊長が、クシャミを!?」と、噂になることはまた別の話である―――


 * *  * *


そして時間はあっという間に過ぎ、心音が世話を任されて数週間が経った。


「次は着地して!」


「ピイュー!!」


空に向かって叫んだ心音の声に反応するように、大きな影が心音の頭上を旋回しながら、だんだんと地面へと近づく。

そして心音の近くに急降下すると、地面すれすれで翼を広げ風の抵抗でフワッと浮き、地面に足をつける。


「すごい!着地もこれで大丈夫だね!!」


着地したグリフォンの元へ心音が駆け寄る。


「ピュイー!」


心音より数倍も大きくなった身体は逞しくなり、翼も羽根の枚数が増え大きくなっていた。生れたばかりの時、ふらふらとしていた足はがっしりとしてちゃんと体を支え、嘴も目も鋭くなり、もうすっかり大人のグリフォンへと成長していた。


「ま、及第点ってところだな」


ファイの相変わらずの厳しい言葉に、心音は少しムッとする。


「もう、いつもそうなんだから」


「はっ。俺は優しくするつもりはねぇって言っただろ」


ツンケンしたように意地悪く口角を上げたファイに、心音は小さくため息を吐く。


(こう言ってるけど…困ってたらちゃんと助けてくれるし、分からないことがあれば色々と教えてくれるし、優しいんだよね。もっと素直になればいいのに…)


ファイが年下だからだろうか、心音は弟を見守る姉のような気持ちでファイを見ていた。

それが少し態度に出てしまっているのか、ファイは余計にツンケンしていた。


(最初に会った時は怖かったけど…今はそんなことないし、もっと仲良くなりたいのに)


そう言葉にしたいと思いつつも心音がファイにそう伝えないのは、彼自身がそれを望んでいないように感じていたからだ。

昔の出来事から、心音は人をあまり信じることが出来なかった。しかしそれと同じように、相手がどう思っているのかなど、気持ちを読み取ることがいつの間にか身についていた。

それは仲良くなる相手に二度と裏切られたくないから。言葉や相手を“選ぶ”ためだと心音は思っている。


(ファイは私と同じ感じがする。ファイも……前に何か悲しいことがあったのかな?)


今は親友になった実優のおかげで、読み取ることをあまりせずに人とちゃんと向き合うことが出来ている。そう感じる心音は、ファイの反応が少し前の自分を見ているような気持ちだった。


「ねえ、ファイくん…」


「…ファイ……い」


「え?」


「ファイで良いって言ったんだよ! 一回で聞き取れっての!!」


聞き返した心音に怒ったようにそう吐き捨てると、ファイは背を向けた。

そのぷりぷりと怒った姿に、心音は呆然と立ち尽くしていたがすぐに笑みを浮かべる。


(…少しは、仲良くしてもいいって思ってくれてるのかな? 可愛いなっ!)


くすぐったいような気持ちになり、心音は益々笑みを深めた。


「何? 気持ち悪い笑み浮かべてないで、水やりしに行くぞ。」


「………。」


(前言撤回。…可愛くないっ!!)


年下だが、此処ファームでは先輩だということをすっかり忘れ、歩き出したファイに向かって心音は「生意気です!」と小さく叫んだのだった。




――――「え…明後日?」


昼食時、白いタイルで綺麗に統一されたキッチンで、心音はファイと共に見たこともない野菜や果物を調理していた。

しかし、クロムから静かに切り出された話に持っていた果物ナイフを落としそうになる。


「うん。受取人が、至急あの子を受け取りたいと言ってきた。だけどまだ育成期間は終わってないし、なによりあの子は肝心なことをまだ習っていないから、それで…」


「期限を延ばしてくれって頼んだら、明後日までだと言われたんですね?」


「うん。だから、ココネ。……ココネ?」


ファイとクロムの会話を静かに聞いていると思われた心音は、俯き顔しか見えなかった。

そんな彼女の心境が分かったのか、ファイが声を掛ける。


「いずれアイツとは別れる。そんなのは分かってたことだろう? しっかりしろ」


(分かってたよ……分かってたけど、明後日だなんて!)


耐えるようにギュッと握りしめられた心音の拳を見たクロムは、少し言いにくそうに口を開いた。


「ココネ。実は…飛ぶこと、走ること以外にも、あの子に教えなくちゃいけないことがあるんだ」


「それは…何ですか」


やっと顔を上げることが出来た心音とクロムの視線が絡み合う。

しかしクロムはその先が言えず黙り込む。見かねたファイが、言葉を引き継ぐように声を発した。


「魔法を教えることだよ」


「魔法を…教える?」


復唱した心音はそのまま固まる。

そんな彼女を見て、クロムは決心したように口を開いた。


「前にも言ったけど、此処は召喚獣を育成するところなんだ。

その子や他の…これから生まれてくる子たちは、いずれ他の世界に旅立つ。」


「っ…」


息を飲んだ心音に、クロムは続ける。


「召喚獣は…その大半が『戦いのための道具』として、扱われる。…忌々しいことだけど、それが現実だ。そして召喚獣ということは召喚する者がいる。そこは少なからず魔法を使う世界だ。だから…」


「…魔法を使えるようにならなくちゃ、いけない」


(そうじゃなくちゃ、あの子自身が危険な目に遭う…っ)


窓の外、元気よく駆けまわるグリフォンに目を留めた心音は唇を噛みしめる。


――この世界にも“魔法”が存在する。

そのことを忘れていたわけではなかった。けれど心音自身が使えるわけではない為、ファイやシルバ達が魔法を使っても、知らず現実逃避していた。

彼女は魔法とは無縁の世界で生きてきたのだから仕方ない。けれどファイとクロムに現実から目を反らすなと言われたようで、心音は強く拳を握りしめる。


(私にも分からないことを、あの子に教える? あの子が戦いで生きられるように? そんなのっ…!)


「ココネ」


ふと、クロムが心音の名を呼んだ。

そして心音の視線に気づき窓の外で鳴き声を上げるグリフォンに目を向けた。


「あの子も、自分にそんな力があることは分かっていない。だから…一緒に『魔法』について学んでくれたら、それでいいよ。それに全ての召喚獣が戦いのために求められるわけでは…」


「それでも! 戦いに向かわなくちゃいけない子もいるってことですよね? …あの子も、もしかしたら…っ!!」


「ココネ!!」


これ以上この場に居たくないと、心音は駆け出してしまう。

その背にクロムの声が掛けられるが、心音は止まることなく走り、家の外へと飛び出した。その後を追いかけるグリフォン。


「此処で働くってことは、それをちゃんと受け止めなくちゃいけないんだよ…」


そう零したファイの拳は何かに耐えるように握りしめられ、震えていた。




ここまで読んで下さり、ありがとうございます!


次回も是非、読んでみてください!

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